☆第426話『愛の終曲』(1980.10.3.OA/脚本=小川 英&尾西兼一/監督=高瀬昌弘)
ある夜、マンションの一室で殺人事件が起こります。現場の状況と目撃者の証言から、容疑はその部屋の住人である沖田(潮 哲也)にすぐ絞られます。
被害者の本間(松田茂樹)は、沖田と同居する妹=恭子(佳那晃子)の恋人で、彼女にプロポーズした矢先の惨劇。沖田は4年前にも恭子の恋人を鉄パイプで殴り殺しており、傷害致死罪の刑期を終えて出所したばかり。今回も妹への異常な執着による犯行と、まあ誰が見ても思うでしょう。
本間が殺された時、恭子も同じ部屋にいたんだけど、あまりのショックでその時の記憶を失ってる状態。
ただでさえ4年前に恋人を兄に殺され、その後で出逢った男たちも事件のことを知るとみんな逃げて行ったらしく、その中でただ一人逃げなかった本間が、また兄に殺されてしまった。そりゃ気が狂うほどのショックでしょう。
恭子のフォローを担当したスニーカー(山下真司)は、自分も妹と同居してるせいもあり、自然と彼女に肩入れしていきます。
「オレ、本間さんって人は、凄く立派だと思うんです。あんな兄貴がいる恭子さんを、それでも愛し抜こうとしたんだから」
一緒にマンションを張り込むゴリさん(竜 雷太)に、スニーカーは過去の恋愛話を勝手に告白し始めますw
かつて紀子(小林伊津子)という恋人がいたスニーカー。本当に好きで結婚も考えてたんだけれど……
「別れたのか?」
「……オレが逃げたんです。恭子さんから逃げた男たちと同じように、逃げたんですよ」
紀子の父親は他界しており、これから病弱な母親と、まだ高校生の弟の面倒まで見なくちゃいけない境遇。お見合い相手がそれを承知の上で求婚してくれたと紀子から聞いた時、スニーカーは何も言えませんでした。
「オレは逃げたんです。病気のお袋さんと、高校生の弟を抱え込む自信がない……ただそれだけの為に逃げたんですよ」
「…………」
このオレにそんな話を聞かされても……と内心困ってるに違いないゴリさんだけどw、構わずスニーカーは続けます。
「殺された本間さんは逃げなかった。オレ、素晴らしいと思うんです……あの二人を幸せにしてやりたかった!」
「あ……あい……愛っていうものは、その……本来そういうもんかも知れんなあ」
「は?」
「いや、それによって、幸せになる人もいれば、不幸せになる人もいる」
どうせ仕方なく、苦しまぎれにそう言ったに決まってるゴリさんだけどw、実はこの事件の本質を突いてたりします。
妹のことが心配で、ほどなくマンションに舞い戻った沖田は速攻で捕まり、あっさり罪を認めるんだけど、勿論そんな簡単に事件が解決したらドラマになりません。例によって山さん(露口 茂)が疑問を抱きます。
「4年前の時と違って、沖田の供述がハッキリしてる。いや、ハッキリし過ぎてる」
結婚話を聞かされ、逆上して殺したにしては、その時の状況を本人がよく憶えてるのが不自然ってワケです。
「沖田は何か嘘をついてるな」
もう皆さん察しがついてるでしょうからオチを先に書きますが、真犯人は恭子。4年前に彼女の恋人を殴り殺したのは確かに沖田だけど、そのせいで何人もの男に逃げられ、彼女は精神を病んでるのでした。
だけどスニーカーはどうやら彼女に惚れちゃったらしく、恋は盲目でなかなか気づきません。いや、恭子自身も本当に事件当夜の記憶を失っており、殺した自覚が無いワケです。
それで自殺未遂をやらかした恭子に、スニーカーはあの「泣き虫先生」の眼差しで、熱く語りかけます。
「約束して下さい。もう二度と死のうなんて考えない、そう約束して下さい。オレ、幸せになって欲しいんですよ」
「五代さん……」
「約束してくれますね?」
「はい」
新たな恋が芽生えた瞬間ですw 沖田の供述の裏付けや、引っ越し作業まで一緒にやってる内に、二人はどんどん距離を縮めちゃう。
やがて恭子の犯行を裏付ける証拠も見つかるんだけど、スニーカーは信じようとしません。
そもそも、本気で本間を愛してた恭子が、なぜ彼を殺さなきゃいけないのか? 藤堂チームの刑事たちは、本気で愛してたからこそ、また失ってしまうのが怖くてたまらなくなって、無意識に……と推理します。いくらなんでも、そんなヤツはおらんやろ~って私は思うけど、昭和の刑事ドラマじゃよくある話です。
その推理を踏まえた上で、スニーカーは恭子の部屋を訪れ、泣き虫先生の眼差しで彼女に言います。
「結婚して下さい」
恭子も涙目になってこう言いました。
「嬉しいです……嬉しいんです、私」
そして彼女はスニーカーの背後に回り、無意識に……
信じない……オレは信じない! 信じたくない!
そんなスニーカーの想いも虚しく、恭子は本間を殺した時と同じように、彫刻刀を背後から振り下ろそうとするんだけど、駆けつけたスコッチ(沖 雅也)とドック(神田正輝)に止められます。
「えっ?……私……」
「キミは病気なんだ。病気なんだよ」
連行されていく恭子の姿を、スニーカーはまともに見ることが出来ません。
「愛してます、五代さん……愛してます」
恭子の告白をもってこの愛は終わり、部屋にひとり残ったスニーカーは「しまった、先にチョメチョメしとけば良かった!」と密かに思うのでした。(憶測)
本当に好きだから、失いたくないから殺しちゃうっていう心理は、私にはまったく理解出来ないんだけど(だって、どのみち失っちゃうじゃん!)、極限まで精神を病んだらそんなことも起こり得る……のかも知れません。
この『太陽にほえろ!』でも、過去に殿下(小野寺 昭)やロッキー(木之元 亮)が似たようなケースに出くわしてますが、プロポーズにまで進展したのはスニーカーが初めてだったと思います。
それが本気だったのか、あるいは刑事として彼女を試すための詭弁だったのか、自分でもよく分からないとスニーカーはボス(石原裕次郎)に漏らすんだけど、そんなセリフ要らんやん、本気でしたでええやん!って、私なんかは思います。ホントどこまでも生真面目な番組ですよねw
兄の沖田がどれほど恭子に執着し、そのせいで彼女がどれほど酷い目に遭って来たか、それが台詞で語られるだけで具体的に描かれないのも、いまいちドラマに説得力が無い原因になってるんだけど、そんな暗くて悲惨なシーンを延々と見せられても気が滅入りますから、ライトタッチの青春ドラマ『太陽にほえろ!』としては妥当な処置だったと私は思います。
スニーカー=山下真司さんにロマンスが似合うのか?って問題もあるんだけど、少なくとも毛むくじゃらの先輩刑事よりは断然似合ってますw ちゃんと切なさが伝わって来たし、私はけっこうグッと来ました。
ゲストの佳那晃子さんは#390『黄色いボタン』に続いて二度目のご登場。プロフィールはその回のレビューに書いたと思うので今回は省略します。
前回(#425)の星野真弓さんといい、ゲストの女優さんに華があると作品のクオリティーもいくらか底上げされます。ホントこのシーズンは充実してました。
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