ハリソン君の素晴らしいブログZ

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『太陽にほえろ!』#427

2021-05-09 23:55:05 | 刑事ドラマ'80年代










 
充実の『太陽にほえろ!』'80年夏シーズンの中でも、私が一番泣かされたエピソードがこれ。『太陽~』全史の中でも屈指の名作だろうし、ボス(石原裕次郎)活躍編では#355『ボス』と並ぶ最高傑作じゃないかと思ってます。

ストーリーは至ってシンプルだし、派手さは無いし、似たようなエピソードは他の刑事ドラマでも山ほど創られてるけど、やっぱり石原裕次郎さんが主役、しかも全編ほぼ出ずっぱりの活躍を見せてくれる、その吸引力がハンパなくて約45分があっという間に感じちゃう! つくづくスーパースターですよね。

裕次郎さんが大動脈癌でダウンされる、あの悪夢に見舞われるのはもうちょい先(翌年の春)だけど、これほど出番が多い作品は『西部警察』も含めて今回が最後じゃないかと思います。そういう意味でも特別なエピソード。


☆第427話『小さな目撃者』(1980.10.10.OA/脚本=長野 洋/監督=山本迪夫)

団地の防犯講習会に招かれ、講演を終えたボスがその日の夕方、自宅マンションに帰る途中で迷子の幼い少女(山本亜季)と出逢います。

なぜか一言も口を聞かない少女だけど、どうやらボスのことを知ってるらしく、片時もボスから離れようとしません。

迷子の捜索願いは出されておらず、とりあえず警察病院で診察してもらったところ、どうやら彼女は何らかの精神的ショックで失語症になってるらしい。

身元が判らない以上どうすることも出来ず、仕方なくボスは少女を自宅に連れて帰るのでした。

そしたら子持ちの山さん(露口 茂)や長さん(下川辰平)、新婚のロッキー(木之元 亮)から矢継ぎ早に電話が掛かって来て、異口同音に言うんですよね。「しょせん独身のボスには無理だからウチで面倒見ますよ」ってw

翌日の捜査会議でも、山さんと長さんが「ウチで預かるよ」「いやウチが」と揉め始めて、スコッチ(沖 雅也)に「先に事件の話をしましょう」って注意されてショボンとしたりw、そうしてクールに振る舞ってるスコッチも実は密かに少女の新しい洋服を買ってたり等、刑事たちのふだん見られない人間臭さが細かく描写されてるのも、実に新鮮で楽しい!

で、そんなやり取りの中で、少女がボスのおしゃれなネクタイに執着してることが判ります。それはボスが例の講習会で締めてたネクタイで、団地のマダムたちに「奥様のお見立てですか?」なんて冷やかされた注目の一品。もしかしたら彼女は、母親に付き添ってあの講習会に来ていた?

それで講習会の会場に少女を連れて行き、その足取りを追うことで、ついに彼女が暮らす家が判明します。中を調べてみると、そこには置時計で頭を殴られたと見られる、少女の母親(下村節子)の他殺死体が……!

そう、その少女=真弓は、母親が殺される現場を目撃してしまい、あまりのショックで口が聞けなくなったのでした。

演じる山本亜季さんの一挙手一投足がとにかく可愛くて可憐で、しかもセリフが無いもんだから芝居臭さも感じなくて、すっかり感情移入させられた私はもう、この段階で号泣ですw

どうやら犯人はこの家に侵入した空き巣で、恐らく買い物から帰って来た真弓の母親と鉢合わせした、いわゆる居直り強盗。そいつが奥の部屋でお昼寝してた真弓の存在に気づかなったのは、不幸中のせめてもの幸いでした。

で、気丈にも真弓が自らの意志で描いた似顔絵から、そいつがヘルメットを被ってたことも判り、犯人像が徐々に見えてきます。

真弓の父親はタンカーの航海士で長期不在中であることも判り、これ以上事件に関わらせるワケにいかないと判断したボスは、断腸の思いで彼女を擁護施設に預けます。

ところが、それが裏目に出ちゃう。先走ったマスコミが事件を大々的に報じ、真弓の顔写真まで公開してしまった上、彼女が施設を脱走して行方不明に。もし犯人に見つかったら殺されるかも知れない!

七曲署は広報車で市民に情報提供を呼び掛けるんだけど、それは真弓が今ひとりでいることを犯人に知らせてしまう危険な賭けでもある。

いても立ってもいられなくなったボスは、もしやと思って殺人現場となった真弓の家に駆けつけます。案の定、奥の部屋から恐る恐る出てきた真弓は、ボスを見た途端に抱きついて来るのでした。

「真弓ちゃん、泣いてごらん。思いっきり大きな声だして泣いてごらん」

こんなに怖くて、こんなに悲しい思いをしてるのに、真弓は声を出して泣くことも出来ないのです。

この犯人だけは絶対に許さん! 怒りに燃えるボスが、とりあえず真弓を署に連れて行こうと家を出たところに、情報を嗅ぎ付けた犯人が飛んで火に入る何とやらで、バイクでノコノコと現れます。

駆けつけたドック(神田正輝)に真弓を託し、ボスは自ら覆面パトカーをかっ飛ばしてバイクを追跡! 執念で河原まで追い詰め、西部署の団長が撃ちまくるショットガンより威力あるボスパンチ&ボスキックを1発ずつお見舞いし、みごと犯人を半殺しにするのでした。

こうして事件は解決したものの、真弓の家にお母さんは二度と帰って来ません。そして、真弓の声も未だに……

渡航先から飛んで帰って来た父親に抱きしめられても、まだ泣くことも出来ない真弓は果たして立ち直れるのか?

スコッチにプレゼントされた新しい洋服を着て、父親に連れて行かれる真弓を、署の玄関口でまたも断腸の思いで見送るボス。すると真弓が振り返り、走り寄ってボスを見上げ、懸命に失われた声を振り絞ります。

「………ボ………ス………」

「真弓ちゃん!?」

『奇跡の人』の「Water……」と並ぶ爆涙シーンです。これは「刑事さん」でも「おじさん」でもなければ「藤堂さん」でもない、ニックネームの「ボス」だからこそ、つまり『太陽にほえろ!』だからこそ泣けるんですよね。

「さよなら、ボス……」

「さよなら、真弓ちゃん……」

最後にやっと笑顔を見せ、手を振る真弓に、手を振り返すボスの眼がかすかに潤んでます。どうか、頼むから幸せになってくれ……そんな切なる願いが伝わって来ます。ホント、幸せになって欲しいです。

こうしてレビューしてもつくづくシンプルなお話で、名台詞と言えるようなセリフは特に無いのに、最後の「ボス」の一言だけで屈指の名作になっちゃった。思えば不思議な作品でもあります。

それも多分、やっぱりボスが主役だから、石原裕次郎さんが演じるからこそ、なんだと思います。少女の純粋さと裕次郎さんの「永遠の少年」っぽさが化学反応を起こして、感動を増幅させてる気がしてなりません。他の刑事ドラマで似たような話をやっても私は泣きませんでしたから。

裕次郎さんの芝居には「泣かせてやろう」なんて下心が微塵も感じられないし、山本亜季さんも勿論そう。だからこそ素直に泣ける。

もしかしたら現場にいたスタッフは皆さん「これ、ちゃんと視聴者に伝わるの?」って、不安に思いながら撮っておられたかも? それくらい、2人の空気感がどこまでも自然なワケです。

山さんや長さんも普段にも増して自然だし、あのMr.オーバーアクションのロッキー刑事ですら今回だけはやけに自然でしたw それを引き出した脚本や演出もまた素晴らしい!

シンプル・イズ・ベスト! それを証明した、まさに奇跡の逸品です。

 


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