殉職編を除けば本作がボン(宮内 淳)最後の単独主演エピソードとなります。ストーリーはありがちなれど、ボン活躍編のエッセンスを全て凝縮させた「ボンならでは」の内容で、ヤクザ軍団相手の格闘やGUNアクション、全力疾走シーンも存分に見られるし、ファンにとっては珠玉の回と言えそうです。
☆第360話『ボンは泣かない』
(1979.6.22.OA/脚本=畑 嶺明/監督=竹林 進)
ある夜、暴力団「戸川興業」の事務所に忍び込んだ三人組の強盗が、3億円相当の宝石類を盗んで逃走します。捜査の結果、犯人の1人で盗んだ宝石を持ってた溝口という男(鶴岡 修)が、戸川興業近くのアパートに逃げ込んだことが判明。
ボンはそこの住人で建築会社の電話交換手を務める独身OL=千佳(紀 比呂子)の挙動に不審を感じ、マークします。
最初は協力を拒んでた千佳だけど、ボンの人懐っこさと誠実さにやがて心を開き、確かにあの事件の夜、溝口が部屋に押し入って一晩籠城し、口外したら殺すぞと拳銃で脅した上、早朝出ていったことを告白します。もちろん、一晩でどれほどエッチなことをされたかは、岡田プロデューサーに口止めされて言えません。
となると、発覚を恐れる溝口たち、あるいは宝石奪還を目論む戸川興業の連中が狙ってくる恐れがあり、ボンは千佳のボディーガードを務めることに。当然ながらいつものごとく、ボンは彼女に惹かれていきます。
「刑事さん。1日、何人位の人と話をします?」
「えっ? そうだな、だいたい20人位ですか」
「私はその10倍の人と話をします。○○建設でございます、お待ち下さい、ご用件をどうぞ、○○建設でございます……でも、誰一人、それが私だってこと知らないんです」
「…………」
真面目で控えめな性格の千佳には、恋人はおろか親しい同僚もいないらしく、そんな彼女の孤独にも守護本能をくすぐられずにいられない、根っから女好きのボンなのでしたw
おまけに徹夜で張り込み中、笑顔で手作りおにぎりを差し入れされた日にゃあ、ボンでなくともイチコロです。
だけど刑事ドラマで若手刑事が恋をすれば、相手は犯罪者かその関係者と相場は決まってます。おそらく刑事ドラマ史上、そういう眼に遭った回数が最も多いであろうボンなのに、ほんと懲りない人ですw(対抗できるのは『俺たちの勲章』の中村雅俊さんぐらい?)
どれだけ捜査しても溝口の足取りは、千佳の部屋へ押し入ったのを最後にプッツリ途絶えたまま。その上、宝石奪還を狙う戸川興業の幹部=倉田(木原正三郎)も千佳の部屋に向かったまま消息を絶ってしまった!
不審に思った山さん(露口 茂)らが千佳の身辺を調べてみると、長年の夢だったヨーロッパ旅行の為に彼女がお金を欲しがってたこと、そして見かけによらず時に大胆な行動をとる性質であること等が判明。
そう、彼女はあの夜、溝口のスキを見て背後から…… そして宝石を探しに部屋へ忍び込んだ倉田も同じように……!
やがて千佳の部屋の床下から2人の遺体が発見されます。リアルに考えればとんでもない腐臭ですぐバレそうなもんだけど、まぁそんな屁理屈はどーでもいいです。
ボンは愕然としながらも、溝口から奪った宝石と拳銃を隠し持って故郷の伊豆へと向かった彼女を追います。
千佳は、実家の隣に住む耳が不自由な少女と一緒にいました。その子にヨーロッパの人形をたくさん買ってあげるのも、彼女が叶えたかった望みの1つだったのです。
海岸まで追い詰められ、銃口を向ける千佳に、ボンは静かに語りかけます。
「キミには撃てないよ」
「撃てるわ! 私はもう2人も殺したのよ!」
「キミはいい人だ。優しい人なんだよ」
「撃てる、撃てるわ!」
「誰も知らなくたって、俺は知ってる。キミがどんな人か……俺だけは知ってるよ。さっき、あの女の子と遊んでる時のように……俺に、おにぎりを出してくれた時のように……キミは優しい人なんだ」
「…………」
「それがあの晩、溝口がキミの部屋に侵入した時から、キミの不幸が……宝石を見た時から……」
「…………」
千佳が一番求めてたのは、電話交換手としてじゃなく1人の女性として自分を見、こうして話をしてくれる相手だったのかも知れません。
「私……別な女になりたかったんです……それだけなんです……」
海岸線に沈んでいく夕日を、並んで見つめる2人の後ろ姿がとても切ないです。もう少し早く出逢っていれば……
「淋しすぎたんですよ。控えめで、優しくて、思いやりがあって……でもあの人には、あの交換室で、知らない人と言葉を交わす生活しか無かったんです」
取り調べを終え、顛末を報告するボンに、一言だけボス(石原裕次郎)が問いかけます。
「……ボン。お前、あの人が好きだったのか」
「……はい」
だけど今回、ボンは取り乱すことも怒りを爆発させることも、そして泣くことも無く、最後まで冷静に対処し、ほとんど1人で事件を解決させました。その成長ぶりこそが次回主演作、すなわち殉職エピソードへの布石になってるワケです。
まぁしかし、それにしても……
浅野真弓さん、桃井かおりさん、高林由紀子さん、麻丘めぐみさん、立枝歩さん、丘みつ子さん、純アリスさん、そして紀比呂子さん……
ボンがこれまで想いを寄せて来た女性(を演じた女優さん)たちの、そうそうたる顔ぶれを見るにつけ思うことは、宮内淳さんが自らDVD映像特典で仰られてた通り、見境なしかよ!?ってことですねw ほんと見事にタイプがバラバラですw
それはともかく、こういう失恋話がよく似合うというか、ちゃんと視聴者に共感させられるキャラクターとして、ボンは本当に貴重な存在だったとつくづく思います。
ベテラン刑事たちはもちろん、ロッキー(木之元 亮)や後任のスニーカー(山下真司)にはとうてい似合わないし、歴代新人刑事の中で対抗できるのは最初のマカロニ(萩原健一)ぐらいじゃないかと思います。
強いて言えばラガー(渡辺 徹)がその路線を受け継ぐワケだけど、あのキャラだから重みが無いし、そのくせ身体は重くなり過ぎてシリアスに受けとれないんですよね。
そういう点でも、ボンが抜けた穴はとてつもなくデカイ。我々はもうすぐ、それを思い知ることになります。
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