☆第30話『核爆発80秒前のロザリオ』
(1977.10.26.OA/脚本=長坂秀佳/監督=佐藤 肇)
いよいよ動き始めた重森(西田 健)は、服役中の「黒の義勇軍」リーダー=阿久津(本田博太郎)を1時間以内に釈放し、30万ドルの現金を持たせ、チャーターしたジェット機で国外逃亡させるまでをテレビで生中継しろと神代課長(二谷英明)に要求してきます。
実は重森も「黒の義勇軍」の一員であり、刈屋教授(山内 明)に利用されるフリをして逆に利用していた。
重森の目的は、父親に汚職の罪を被せ、家庭崩壊へと追い込んだ政治家への復讐。革命を唱えてた筈の恩師=刈屋教授が政府審議会のメンバー入りを受諾し、体制側についたことに失望してテロリスト化して行ったようです。
「東京は薄汚れた政治家どもの巣窟だ。ぶっ飛んだ方がいいんだよ。灰の中から初めて新しい政治が生まれるんだ」
「死の灰の中からいったい何が生まれると言うんだっ!?」
一見平凡な高校教師が原爆を造っちゃう『太陽を盗んだ男』の衝撃を経た今となっては、重森の生い立ちや犯行動機は「ありがち」に感じるんだけど、たぶん現実のテロリストはこういう人達なんだろうと思います。当然、話し合って何とか出来る相手じゃありません。
とにかく神代は重森の要求通りに動きます。が、釈放したテロリーダー・阿久津は以前から心臓を患っており、なんだか顔面蒼白でゾンビ状態。
こいつ大丈夫かいな?と思いながら空港へ護送してみたら、あろうことか道中で発作を起こし、あっという間に帰らぬ人に。
リーダー、死んじまっただ!
そんなアホな!
阿久津を演じた本田博太郎さんは登場時からゾンビメイクで、一言もセリフを発しないまま5分ほどで退場されましたw(まだ無名だった頃ですね)
神代は仕方なく、阿久津の急死を速報ニュースで報道させ、刈屋教授宅で重森からの連絡を待ちます。指定されたタイムリミットは既に過ぎており、なのに何も出来ない刑事たちは当然ながら焦燥します。
「待機してどうなるんです!? 今にも東京が吹っ飛んでしまうかって時に!? 時間はもうとっくに過ぎてるんですよ!?」
「時間は過ぎた! だから此処で待ってるんだ! ほかに何が出来るっ!? 阿久津は死んだ! テレビ中継は出来ん! 今の我々に出来るのは掛かって来るかも知れない重森の電話を待つ事だけだっ!!」
しかし、リーダーが死んじまった今となっては、もはや大義もへったくれもありません。重森は電報を使い、刈屋教授の娘で自分の恋人でもある美奈(新海百合子)を新宿公園に呼び出し、一緒に逃げようと迫ります。
そう、彼はもう既に核爆弾を新宿駅のコインロッカーに入れ、タイマーをセットしてしまったのでした。マジかっ!?
「さぁ行こう! 90分あれば充分に安全圏まで逃げられる!」
ロッカーの鍵を公園の噴水に放り捨てると、重森は美奈を連れて行こうとしますが、恋人の正体を知ってしまった美奈は拒否します。
「お願い、すぐに止めて! 重森さん、お願い!」
「時間が無いんだよっ! キミは僕と一緒に逃げるんだ!」
「いやっ!」
「馬鹿っ! 死んでもいいのか!?」
「死にたくないわ! でも、死にたくないのはあなたと私だけじゃないのよっ!!」
美奈は、いつも身につけてる十字架のロザリオを重森に見せます。
「これをくれたのはあなたよ? あなたは、お母様の形見のこれを私にくれた。キミには、お袋のような子供に優しい母親になって欲しいって……」
「…………」
「あの時のあなたが本当のあなたなのよ! 今のあなたは、自分で完成させた悪魔に取り憑かれてるだけなのよ!」
「…………」
「お願い、このロザリオを裏切らないで!」
「…………」
テロリストも人の子、そして重森は男です。好きな女の言葉や母親の面影には心が動いてしまう。女性には勝てないもんなのです。
けど、そこで犯人が諦めちゃったらドラマになりません。あと一歩のところでタイミング良く、全ての元凶とも言える刈屋教授が飛び込んで来ます。
「重森くん、アレは何処だっ!」
さらに神代が、最高潮に怒った時の大魔神みたいな顔で突進して来たもんだから、重森は全力で逃走!
神代たちを振り切った重森は電車で逃げるべく、新宿駅に向かって走る! 走る! 走る! けど国鉄の駅周辺には緊急指令を受けた警官たちが此処彼処にいる!
国鉄を諦めて今度は小田急線に向かって走る! 走る! 走る! しかしそこには吉野刑事(誠 直也)がいた! 顔がいかつい! 怖い!
次は都営地下鉄に向かって走る! 走る! 走る! そこには禿げ散らかした船村(大滝秀治)がいた! まぶしい!
タクシー乗り場もバス乗り場も、どこへ行っても警官たちがウヨウヨしてる!
「じ、時間がないっ!! 爆発する……止めなきゃ……止めなきゃあっ!!」
止めるんかいっ!?
自ら命を落とす覚悟も無かったとは……
ともかく安全圏への脱出を諦めた重森は、自分が生き残るため新宿公園へトンボ返り。噴水に飛び込み、水を掻き分け必死にコインロッカーの鍵を探すその姿は、端から見ればオッサンがプールと間違えて水遊びしてるようにしか見えず、周りにいた子供たちの爆笑を誘いますw
なんとか鍵を見つけた重森は、ロッカーのある新宿駅へ再び猛ダッシュ! もちろん待ち構えてた刑事たちに取り押さえられます。
「よせよーっ! 離せよーっ! あと2分しか無いんだよおーっ!! うぎゃああああーっ!!」
半狂乱になった重森から神代が鍵をひったくり、ロッカーめがけて猛ダッシュ!
走る! 走る! 走る! 走る!
乳首! 乳首! 足の裏! 乳首!
神代が渾身のタックルで通行人たちを次々弾き飛ばし、コインロッカーに辿り着いて中身を見た時にはもう、核爆発10数秒前!
これ、どうやって止めるんや!? 分からん! けどやるっきゃない!! 南無三!!
神代が片っ端からコードを引き抜いた結果、タイマーは爆発3秒前に停止。
遅れて駆けつけた刈屋教授と二人、真っ白な灰となってへたり込む神代の横を、なにも知らない都民たちが平和ボケした顔で行き交うのでした。
ごくろうさん!
(おわり)
たぶんツッコミどころは満載なんでしょうけど、とにかく核爆弾を持ったガイキチ男が新宿の繁華街をウロウロ歩き回る、そのスリルだけで充分かと思います。
あり得ないだとか不謹慎だとか、そんなクレームはハナから承知の上でやってるんだから、言うだけ野暮ってもんです。とにかくあの『太陽を盗んだ男』よりも先にこれをやった、『特捜最前線』の勇気とアイデアの勝利です。素晴らしい!
『特捜最前線』を観たこと無くても、眼を血走らせながら激走する神代課長の姿(画像6枚目)には見覚えがある、と仰る方は多いんじゃないでしょうか? 近年(と言っても10年以上前かと思いますが)家庭教師だか英会話教室だかのテレビCMで、この映像が使われてたんですよね。
今にも東京が壊滅する!っていう状況下の顔を、夏休みは受講料がお得だ!(皆に知らせなきゃ!)みたいな宣伝文句に被せてる、そのミスマッチぶりが凄くて笑いましたw
それだけ画面から伝わる迫力、ほとばしるエネルギー量が凄いワケで、昨今のただ突っ立って謎解きするだけの省エネ刑事ドラマがCMのネタになろう筈がありません。
やっぱりテレビ番組は'70年代が最高に尖ってて面白い。つくづくそう思います。
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