これは名作です。主演の勝新太郎さんが自ら監督され、愛娘の奥村真粧美さん、そして愛妻の中村玉緒さんとのファミリー共演を果たされたメモリアルなエピソード。
さすがに気合いが入ってます。勝新さんはもしかしたら、このストーリーを撮るために『警視ーK』の仕事を引き受けられたのかも?って思うくらい。
一言で要約すれば「玉緒よ、真粧美はお前なんかより俺のことを愛してるんだぞ」っていうお話w この内容でゲスト出演を引き受けられた中村玉緒さんはホントに凄い!っていうのが私の感想ですw
☆第11話『その人は…ママ』
(1980.12.16.OA/脚本=勝 新太郎&高際和雄/監督=勝 新太郎)
「私が赤ちゃんの時に抱いててくれたおばさんがいるでしょ? 多分そのおばさんだと思うんだけど、会って、ご飯ご馳走になっちゃった」
キャンピングカーで一緒に暮らす愛娘=正美(奥村真粧美) からいきなりそんな話を聞かされ、今宿署のガッツ警視こと賀津(勝 新太郎)は大いに動揺し、 仕事が手につかなくなっちゃいます。
正美が会ったのはきっと、彼女がまだ物心つかない内に別れた女房の玉美(中村玉緒)に違いない。具体的には語られないけど、どうやら玉美は自由人すぎる賀津について行けず、家を出て資産家の男と再婚したらしく、それが今になって現れたのはきっと、正美を引き取るため。娘を溺愛する賀津だけにそりゃ気が気じゃありません。
そんな折り、新宿の安アパートでみよ子というホステスの絞殺死体が発見されます。捜査はトントン拍子に進み、屋台でおでん屋をやってる夫=堀井(緒形 拳)に容疑が絞られます。
堀井はどうやら、みよ子の浮気が原因で離婚調停中だったらしく、まだ幼い一人息子の親権も争っていた。そして、みよ子の浮気相手(小林稔侍)は資産家なのでした。
「どっちが悪いんだ?」
賀津からいきなりトンチンカンな質問を受け、主任の藤枝(北見治一)は戸惑います。
「そりゃあ、いずれにせよ殺した方が……」
「殺した方が悪いなんて法律は誰が決めたんだよ?」
「………え?」
そう、賀津は今の自分と似た境遇の堀井に、知らず知らず感情移入しているのでした。
一方、正美は何も知らずに……いや、たぶん相手が自分を産んだ人だと薄々は気づきながら、玉美と毎日のように会って食事やショッピングを楽しんでました。
「お父さんって、どんな人?」
他人を装う玉美に問われ、正美は無邪気に答えます。
「最高。ステキな人。もし結婚するんだったらパパみたいな人がいいな」
実の娘にこんなセリフを言わせちゃう勝新さんはやっぱり凄い!w こんなにこっ恥ずかしいことってなかなか無いですよw
しかも、愛娘と元嫁がそんなこっ恥ずかしい会話をしてる様子を、当の賀津がこっそり立ち聞きしてるというこっ恥ずかしさ。
もしかしたら玉美は、単に美味しい食事と可愛い洋服を娘に与えたかっただけかも知れないのに、必死な賀津は天に祈り、誓います。
「今日から、一生タバコは吸いま……いや、一年間だけタバコは吸いません!」
しかしその夜、ますます元嫁になついてる愛娘からディスコに呼び出された賀津は、そこで十数年ぶりに玉美と対面し、チークタイムに二人で踊らされる羽目になるのでした。
踊りながら、正美とは「偶然会っただけなの」と言う玉美の弁明を、賀津は信じません。
「もしも、そういう話をするんだったら、事件が終わってから3人で話し合おうじゃないか。やり方が汚いんだよ、お前は」
「……あの子、あなたを愛してるのね」
「俺は正美以上にもっと愛してる。俺は、正美のことを……お前には分からないだろう」
「私もあなたに負けないくらい、この17年間、愛して来ました」
「それはお前の勝手だよ! とにかくもう正美と会わないでくれ。これは命令だぞ!」
「……あなたって本当に、変わらないのね」
そりゃあ確かに言い方は横暴かも知れないけど、娘を物心つかない内から男手1つで育てて来た賀津の苦労を思えば、そんな風にしか言えない気持ちも理解できます。
2人を見捨てて金持ちとくっついた玉美がどう見ても悪役で、それを引き受けた中村玉緒さんも凄いし、実の奥さんにやらせちゃう勝新さんもやっぱり凄い! かえって絆の強さを感じますよね。
さて、そうこうしてる間にも捜査は進み、賀津は場末のラブホテルで、幼い息子を連れて潜伏していた堀井と対面することになります。
逃げようとする素振りもなく、堀井はあっさりと罪を認め、訥々と語り始めます。
「幸せって何かなって、時々思うんですよね」
世の中の流れに乗っかれば、一般的に言う「幸せ」にはなれたのかも知れないけど、そこに自分の意思や目的はない。未来はない。堀井のそんな語らいを、賀津は黙って聞いてやるのでした。
「そんなに雄々しくはないんだけど、その流れに逆らって、生きてみたいなって……」
堀井は東京大学の出身でありながら、本当に好きなことをやらなきゃ生きる意味がないと思い立ち、おでん屋を始めた。妻のみよ子は、そんな彼の自由な生き方についていけず、金持ちの男とくっついてしまった。けど、堀井は浮気が許せなかったんじゃなくて、自分の作ったおでんをバカにされたことにカッとなり、気がつくと妻を……
そんないきさつを聞いて、賀津は必死で涙を堪えてる様子。東大を出ながら屋台でおでんを作ってた堀井と、警視というエリートでありながら所轄署でヒラ刑事たちと一緒に捜査する賀津。とても他人事に思えないどころか、賀津は明日の我が身を堀井に見たんでしょうw
可愛い息子を岐阜県にいる姉に預けたいと言う堀井に、賀津は言います。
「タクシーとか、ハウスっていうのかな、そういう所は手配書が配布してあるから……電車で逃げるような気は起こすなよ」
ハウスっていうのが何のことか分からないけどw、つまりこれは、電車にまで警察の手は回らないから、逃げるなら電車を使えよってことでしょう。賀津は殺人犯をわざと逃したワケです。
その夜、賀津は正美から「あの人、ママでしょ」と単刀直入に問われ、「そうだよ」と正直に答えます。
「私が生まれたからママと別れたの? 私のせい?」
「いや……そうじゃない。パパの歩く道と、ママの歩く道が、ちょっと合わなかっただけだよ」
「でも私、ラッキーだったな。もしパパとママが別れてからじゃ、私、生まれて来ないもんね」
「ママのところへ行きたいか?」
「……分かんない。急にそんなこと……神様に決めてもらう」
切ないですよね。娘の幸せを思えば、金持ちの家へ行かせてやるべきかも知れない。もっとママに甘えさせてやるべきかも知れない。
凹む賀津に追い討ちをかけるように、本庁の新城警視正(小池朝雄)が謹慎処分を言い渡します。息子を岐阜の姉に預けた後、ちゃんと自ら出頭して来た堀井が処分取り消しを訴えても、新城は「お前の自首と賀津は関係ないだろ」と聞く耳を持ちません。
刑事部屋で賀津と二人、出前のカレーライスを食べながら、堀井はまた訥々と語り始めます。
「こんな世の中に生まれて来たこと、不幸だなって思ってたけど……いや、生まれて来てよかったなって思うんです」
「…………」
「人の情けとか、世の中の情けとかって、歌謡曲とか映画とかで観たり聞いたりするんですけども……」
「…………」
「一生忘れません」
「…………」
ふだんは饒舌な賀津なのに、堀井の語らいにはいっさい口を挟まず、しんみりと聞き入っちゃう。ほんと他人とは思えないんでしょうねw
さて、エゴを捨てて自首した堀井を見習ったのか、賀津は正美を手放す決意を固めます。
「さみしくないの?」
「大丈夫だよ。お前の匂いが、この車の中にある間は」
「私の匂い、そんなに続くの?」
「ずっと続くさ」
運転手付きの高級車で迎えに来た玉美に、正美は言います。
「パパ、タバコやめたの。すごく吸ってたのに、やめたの」
「……忘れ物、ない?」
「……あっ、パパにコーヒー入れるの忘れちゃった」
「…………」
「明日、迎えに来てくれる?」
「いいわよ。……明日でも1年後でも、いつでも」
たぶん、やっぱり、正美はパパとの二人暮らしを選ぶんでしょう。
ね? 玉緒よ、真粧美はお前なんかより俺のことを愛してるんだぞ、っていうお話だったでしょう?w
それを照れもせず自ら演じちゃう勝新さんも、面白がって一緒に出ちゃう玉緒さんも真粧美さんもホントに凄い。まぁ真粧美さんはともかく、玉緒さんには少なからず葛藤があったと思うんだけど、さすがはプロの女優さん。これくらい出来なきゃ勝新太郎の妻は務まらないってことでしょう。
そんな親子3人の共演に加えて、緒形拳! 小林稔侍! 小池朝雄!という超豪華ゲスト陣。やっぱり、これは映画ですよ。だからこそ視聴率が取れなかったw
いやホントに、あくまでテレビの枠に収まってる方が数字は稼げるんです。だけどそんなことお構いなしにやりたいことやっちゃう勝新さんも、それを許した当時のテレビ業界もつくづく凄い。素晴らしい!
ハリソンさんの文章がまた良いです。レンタル屋にないか探しに行って来ます。
どのエピソードも型破りだし、きっと楽しんで頂けると思います。が、レンタルDVDは無いかも……