人気面だけで言えば、’80年代後半から’90年代前半がハリソン・フォードの絶頂期でした。
特に『逃亡者』が公開された1993年あたりは日本のCMにも引っ張りだこで、携帯電話のCMでは上司から「ハリソン君」と呼ばれる日本のサラリーマンを演じ、話題になりました。
その人気に翳りが見え始めたのは、オードリー・ヘップバーンの名作をリメイクした『サブリナ』(’95)と、ブラッド・ピットと共演した『デビル』(’96)という2本の話題作が続けて(興行的に)パッとしなかった’90年代半ばだったように思います。
この2本は、内容的にもちょっとバランスが良くなかった印象があります。それらの作品を観て私が感じたのは、ハリソンがあまりに大物スターになり過ぎた事による弊害です。
『サブリナ』のオリジナル版は、オードリーにハンフリー・ボガードとウィリアム・ホールデンという豪華3大スター競演が魅力のラブコメディでした。
それがリメイク版の場合、ハリソン以外はジュリア・オーモンドとグレッグ・キニアという、実力はあるけど知名度と華が無いキャストになっちゃった。これじゃ『サブリナ』をリメイクする意味がありません。
製作陣は、まず最初にハリソンの出演を確保したそうです。ここからは私の憶測ですが、ハリソンのギャラが高額になり過ぎてしまった為に、同等のスターをキャスティングするのは無理だったのかも知れません。
で、そうなると「ハリソン・フォード主演作」として売らねばならず、ストーリーもハリソンが中心になるよう変えて行かざるを得ない。その結果、本来のバランスとは違った『サブリナ』になっちゃったんでしょう。
『デビル』はブラピが以前から温めてた企画で、彼が共演相手にハリソンを熱望し、それが実現したというのに2人の不仲説が流れちゃいました。その原因は、ハリソンの要望に合わせて脚本が大幅に書き変えられ、ブラピがヘソを曲げたから……というもっぱらの噂です。
再びここから私の憶測ですが、大御所ハリソンの要望を優先する製作陣が、ブラピの意見を聞かないまま勝手に脚本を直してしまったんじゃないでしょうか。ブラピが本当に怒ったんだとしたら、理由はそれしか考えられません。
ハリソンは決して、ワガママを言って現場を混乱させるような人じゃありません。マニア気質の私ですから、ハリソンに関するあらゆる記事を読んで来ましたけど、そのテの悪評はほとんど皆無でした。
だから多分、周りがハリソンに気を遣い過ぎて余計な手を回した結果、作品のバランスを崩してしまったんじゃないかと私は推察します。大御所になり過ぎたがゆえの弊害です。
唯一、ハリソンの強権ぶりが話題になったのは、『エアフォース・ワン』の公開時期が『タイタニック』と被る事になった際、ハリソンがパラマウントの社長に電話して「You、公開時期をズラしちゃいなよ!」って提言した時だけw
別に上から目線で命令したワケじゃなくて、関係者の1人として至極まっとうな提案をしただけと思うんだけど、マスコミは「大統領並みのパワーだ!」ってw、面白おかしく報じてました。
そう、あの当時のハリソンは確かに、ハリウッド映画界で「大統領並みのパワー」を持つ存在でした。だからってワケじゃないでしょうけど、1997年に公開された『エアフォース・ワン』でハリソンはついに、米国大統領を演じる事になります。
本作はアメリカでメガヒットを記録し、結果的にハリソン・フォード絶頂期の最後を飾る作品となりました。行くとこまで行っちゃったんですよね。大方のファンは、これでお腹いっぱいになっちゃったのかも知れません。
大統領専用の飛行機「エアフォース・ワン」がロシア系のテロ集団にハイジャックされ、ハリソン扮するジェームズ・マーシャル大統領が自ら上空で『ダイ・ハード』しちゃうという、究極のアメリカン・エンターテイメント。
テロリストのリーダーにゲイリー・オールドマン、副大統領にグレン・クローズが扮するほか、ウェンディ・クルーソン、リーゼル・マシューズ、ウィリアム・H・メイシー、ユルゲン・プロホノフら豪華キャストが揃い、これならバランスはバッチリです。
誠実で正義感に溢れ、家族をこよなく愛する理想的な大統領像は、まさにファンがハリソンに求めるヒーロー像そのもの。対するゲイリー・オールドマンもアクの強い悪役は十八番中の十八番ですから、これは100%ファンサービス、究極のアイドル映画と言えるんじゃないでしょうか。
それもその筈、監督のウォルフガング・ペーターゼンは『Uボート』『ネバーエンディング・ストーリー』等で知られるドイツ人監督なんだけど、大のハリウッド映画ファン、そしてハリウッドスターのファンでもあるんですね。
それでクリント・イーストウッドがアメリカ大統領を護衛する『ザ・シークレット・サービス』やダスティン・ホフマン主演『アウトブレイク』の監督を引き受け、今回またも大統領モノって事で断りたかったのに、ハリソン・フォード主演と聞いてやらないワケに行かなくなっちゃった。
だから「ファンが見たいハリソン・フォード」を人一倍よく解ってらっしゃる。ゲイリー・オールドマンに関しても然りで、ドイツ人監督だからこそ、こんなにもストレートなスター映画かつ「アメリカ万歳!」な映画を、てらう事なく創れたんじゃないでしょうか。
そして更に、3人目のハリウッドスター=グレン・クローズ扮する女性副大統領がまた、めちゃくちゃカッコイイんですよね。『危険な情事』でマイケル・ダグラスをとことん追い詰めるストーカー女を演じた、あの女優さんです。
あまりの「アメリカ万歳!」ぶりに拒否反応を示す方もおられましょうが、そんな真面目に観る映画じゃありませんw これは根っからのハリウッド映画ファンによる究極のアイドル映画ですから、スターの魅力をとことん味わえばそれで良いのだと、私は思います。
そもそも、大統領がテロリスト達と殴り合うお話ですからねw だけど幾多ある『ダイ・ハード』の亜流アクション映画の中じゃ、間違いなくトップレベルの出来映えです。観て損は絶対にありません。
損したな~って残念な思いもありました。