ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『警視庁殺人課』#17

2022-02-07 21:00:04 | 刑事ドラマ'80年代

本エピソードは、第1話を撮られたメイン監督=中島貞夫さんが自ら脚本も手掛けられた入魂作。

中島貞夫さんと言えば’60年代から第一線で活躍され、85歳を越えてもなお、多部未華子さんがヒロインを演じた超パワフルなチャンバラ映画『多十郎殉愛記』(’19) を監督しちゃう等、和製クリント・イーストウッドとでも呼ぶべき筋金入りの映画人。

そんな中島監督だけに、本作もメッセージ色の濃い、パワフルで骨太なエピソードとなりました。



☆第17話『白昼の通り魔殺人事件・父を返せ!』

(1981.8.3.OA/脚本・監督=中島貞夫)

ある昼下がり、古谷(江角 英)という中年男が、まだ幼い一人息子=俊夫(加瀬悦孝)の眼の前で、いきなり出刃包丁でめった刺しにされ、即死。犯人はそのまま逃走します。

惨劇を目の当たりにした上、唯一の身寄りだったらしい父親を失ったショックで、俊夫はすっかり心を閉ざし、誰とも口を聞かなくなっちゃいます。

ミスター(菅原文太)からそんな報告を受け、今回はやけに出番の多い田丸刑事部長(鶴田浩二)が怒りを露わにします。

「狂ってるんだよ、世の中が。そういう世の中の狂いが、人間の抑制力を狂わせてしまってる。自分の欲望の為なら他人はどうでもいい、そんな人間ばかりが増えてるんだ」

そう嘆きたくなる事件が現在=2020年代も跡を絶たない現実を見ると、これが人間の本質なんだから仕方がないって、私なんぞはすぐ諦めの境地になっちゃいます。破滅です。

だけど世の中、そんなに捨てたもんでもない。身寄りの無い俊夫を「私が引き取ります!」と名乗りを上げる女性が現れました。俊夫が通う小学校の担任教師=野村美智子(山本ゆか里)です。



だけど学校のトップがそれを許可するとは思えず、田丸は「我々にそんな権限はありません」とやんわり断るのですが……

「それじゃ俊夫くんが施設に送られてしまいます! 私はイヤです! 私が引き取ります! 私に出来ることなら何でもします!!」

テコでも譲らない参っちんぐなミチコ先生は、強引に俊夫を自分のアパートに連れて帰るんだけど、そんなミチコ先生にも俊夫はなかなか心を開こうとしません。



一方、怨恨の線で捜査を進めてた殺人課の面々は、容疑者がまるで浮かんで来ないことから、これは動機なき殺人、つまり通り魔の犯行だろうと方針を切り替えます。

ミスターが再び刑事部長のオフィスを訪れ、田丸に報告します。今回に限ってやけにマメです。(たぶん中島監督が鶴田さんのファンなんでしょうw)

「あの残忍な殺し方は普通の人間じゃ出来ません。センパイの言う通り、狂ってるんですよ! 世の中も人間も!」



「通り魔だとしたら一刻も早く逮捕せねばならん。気の狂ったヤツを野放しには出来んだろう」

ちなみに、野放しに出来ない気の狂った通り魔を演じてるのは、言うまでもなくコイツですw ↓



血も涙もないガイキチ凶悪犯といえばこの人!の片桐竜次さん。ガラにもなく正義側についた『大激闘/マッドポリス’80』から解放され、まさに水を得た魚ですw



田丸による鶴の一声で、本件は極秘捜査から公開捜査へとシフト。ミチコ先生の献身でようやく心を開きつつある、俊夫の描いた似顔絵が役に立ちそうです。

ところが! そんな矢先に俊夫が何者かに誘拐されてしまい、久々にミスターのニューヨークかぶれが飛び出します。

「ガッデムッ!!」

もし誘拐したのが片桐竜次なら、俊夫が生きたまま戻って来ることは有り得ません。なぜなら片桐竜次だからです。



「私が間違ってました……私が甘かったんです。俊夫くんをこんな眼に遭わせたのは私です!」

そう言って泣き崩れるミチコ先生に、ミスターが言います。

「先生に責任は無い! 責任を取らなきゃならないとすれば、私です! 誠意って、何かね?」

ところがなんと! どういうワケか、俊夫がケロッと元気に帰って来た! 有り得ない! いたいけな子供を片桐竜次が惨殺しないなんて有り得ない!



「おばちゃん、いい人だったよ」

俊夫が言うには、連れ去ったのは片桐竜次とは正反対の、上品で知的な中年女性らしい!

殺人課の捜査により、俊夫を一時的に拉致したのは、吉野という鉄道会社副社長の妻(赤座美代子)であることが判明。もちろん、吉野夫人は犯行を否認します。



「部長、少々手荒な手を使わせてもらいますよ。俊夫くんの為です」

「五代、通り魔捜査に私情は無いだろうな?」

「大丈夫です!」



ミスターの指示により、ビショップ(中谷一郎)が吉野夫人を喫茶店に呼び出し、本当のことを言わなきゃ取調室に来てもらうと脅迫。夫人はやむなく「主人には内密で」という条件で真相を語ります。そう、すでに皆さんお察しの通りです。

「あの子は、私の子供なんです。私の産んだ子なんです」

やっぱり! 吉野夫人はかつて、殺された俊夫の父=古谷とチョメチョメな仲だった! しかし関係がこじれ、古谷が意地でも俊夫を手放さないもんで、夫人は泣く泣く身を引いたのでした。

「この事を知ったら主人が苦しみます。今の私たちの生活が壊れます。壊したくないんです!」

古谷が殺されたとニュースで知って、心配のあまり俊夫を連れ去ったものの、どうする事も出来ずにまた手放した。勝手な話だけど、それが人間ってもんかも知れません。



とはいえ、俊夫の幸せを第一に考えれば、やるべき事は1つしかありません。今度は秀才(三田村邦彦)が吉野夫人を緑地公園へと連れて行き、ミスターとすっかり打ち解け、無邪気に笑う俊夫の姿を見せつけます。これが作戦の第2段階。

「あっ、おばちゃん!」



愛情(母性?)が理性を押しのけて爆発し、吉野夫人は無心で俊夫を抱きしめます。

「俊夫、許して! お母さんを許して! これから2人で暮らそう! お母さんと一緒に暮らそう!」

やれやれ、と胸を撫で下ろすミスターなのでした。あれ?『警視庁殺人課』ってこんな番組でしたっけ?w



もちろん、そんな人情紙風船なお話で終わっちゃう番組じゃありません。なにしろまだ、あの狂犬が街をさまよってるんです。

俊夫の描いた似顔絵がなかなかのクオリティーで、追い詰められた片桐竜次は逃げた女房の母親(東郷晴子)を拉致し、破れかぶれの復讐へと向かうのでした。

「思った通り犯人は狂った野獣だ。どんな事があっても新しい犠牲者を出してはいかん!」



いやあ〜、さすがは片桐竜次! 卑劣です。凶悪です。狂ってます!

「動くな! 動いたらババア刺し殺すぞっ!!」



年配者の女性という、最もひ弱な相手を人質に取り、しかも自分の義母をババア呼ばわり。これぞ凶悪犯の鑑! これぞ片桐竜次のあるべき姿!(『相棒』では抜け殻になっちゃってます)



だけど頭はあんまり良くない片桐竜次。元女房の部屋に先回りした、殺人課の刑事たちにあっさり取り押さえられちゃいます。

「すぐに終わるからな」



俊夫と同じようにロクデナシな父親を持ってしまった、竜次の幼い娘を奥の部屋へと避難させ、さあ、今回もミスターのお仕置きが始まります。

「立たせろ」

久々に愛銃マグナム44をホルスターから引き抜いたミスターは、その銃口を片桐竜次の右腕に向けます。俊夫から父親を奪った、狂った野獣の利き腕です。



「うぎゃあああぁぁぁーっ!!」

だけどテレビ局の偉いさんやスポンサーの顔がふとチラついたんでしょう、ミスターはマグナムをビショップに預け、替わりに警棒を全力で振り下ろすという、実にコスパの良いお仕置きで済ませるのでした。(あの角度でマグナムを撃てば天井も吹っ飛びますからw)

それでも、さっきの悲鳴からすると複雑骨折は免れず、たぶん二度と右腕は使えない事でしょう。射殺がダメならこれでどうだ!?っていう、クリエイターの意地ですよね。

自分が妻子に逃げられ、ムシャクシャしてる時に幸せそうな古谷親子を見て、ついカッとなって殺した。そんな片桐竜次の供述を聞かされ、田丸刑事部長がまた嘆きます。

「やりきれんな……」

まさに、そんな輩が現実の我が国でもどんどん増殖してます。捕まえても捕まえても、たとえ全員死刑にしたとしても、根絶することは出来やしません。だって、それが人間っていう生きものだから。破滅です。

だけどその一方で、後先も考えないで俊夫を引き取ろうとした、まいっちんぐなミチコ先生みたいな人もいる。

そして夫人を許し、血のつながらない俊夫を快く家族として迎えようと言ってくれた、吉野副社長みたいな人もいる。

それもまた、同じ人間なんですよね。決して捨てたもんじゃない。中島貞夫監督はきっと、そんな想いを込めて脚本を書き、演出されたんでしょう。最新作『多十郎殉愛記』とも相通じてるように私は感じました。



まいっちんぐミチコ先生に扮した山本ゆか里さんは、当時21か22歳ぐらい。東映芸能からアイドル歌手としてデビューされた方なので『がんばれ!!ロボコン』はじめ東映系の特撮ドラマやアクション、時代劇への出演が多く、言わば我々ワールドに近しい女優さん。

刑事ドラマは他に『刑事くん』『刑事犬カール』『新 七人の刑事』『鉄道公安官』『爆走!ドーベルマン刑事』『噂の刑事トミーとマツ』『非情のライセンス』『西部警察』『新 女捜査官』『ゴリラ/警視庁捜査第8班』『さすらい刑事旅情編 II 』等々、ゲスト出演多数。やっぱり東映系の作品が多いみたいです。


 


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1 コメント

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Unknown (適当谷損気)
2022-08-13 20:37:30
いつも思うんですけど、個人的に、文太氏にポルシェって似合ってないような…Pixivの友達だったら「文太兄貴にはやっぱトラックが一番!!」って言いそうw

山本ゆか里さん、最近配信で見ている「ベルサイユのトラック姐ちゃん」では、可憐な女子高生役です。
セーラー服姿がまた可愛いのなんの…
ちなみに、以前も少し触れましたが、「ベルトラ」では、後に大門団長射殺犯を演じた中村晃子さんとレギュラーで共演されています。
そして、どちらも石原プロドラマで、原田芳雄氏率いる犯罪組織の一員を演じたという共通点が…

乱文失礼いたしました。
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