1978年・新春1発目のエピソードは、七曲署捜査一係のマスコットガール=アッコ(木村理恵)の初主演作にして、当時頭角を表しつつあった柴田恭兵さんのゲスト出演作。この直後、恭兵さんは新番組『大追跡』で初レギュラーの座を獲得することになります。
☆第284話『正月の家』(1978.1.6.OA/脚本=小川 英&田波靖男&安斉あゆ子/監督=山本迪夫)
定食屋の店員=谷村哲夫(柴田恭兵)が、店長と口論になり包丁を手にしたところを、駆けつけた長さん(下川辰平)とロッキー(木之元 亮)に取り押さえられ、七曲署に連行されます。
哲夫が暴れた原因は、店の売上金が無くなったのを自分が盗んだと決めつけられたから。それは濡れ衣だと判ったものの、ふて腐れて口も聞かない哲夫が、彼の保証人である福祉協会の役員=田代(山本紀彦)がやって来た途端、従順な態度に豹変したのを見て、長さんは訝しく思います。
「私も随分ああいう連中とは付き合って来てるんですが、あんなにコロコロ態度が変わるのも珍しいです」
長さんは、いきさつをボス(石原裕次郎)に報告しながら、哲夫への不信感を露にします。しかも哲夫は、アッコ(木村理恵)の中学時代のクラスメイトだったから驚いた!
「私の経験から言っても、かなり危険なタイプです。そいつとアッコが友達だというのも気になって……」
哲夫はアッコと再会しても無愛想だったのに、アッコは彼のことを気にかけてる。もしかすると同窓生としての好意以上の感情を、アッコは抱いてるのかも知れません。
しかも、アッコは哲夫から、福祉協会が孤児たちのために開くパーティー「正月の家」に招待されました。長さんたちは心配し、ロッキーが付き添うことになったのですが……
警察の人間であるロッキーとアッコを温かく迎え、屈託無く話す孤児たちと接する内に、ロッキーは考え方を改めていきます。
周囲から偏見の眼で見られ、ついイジケてしまいがちな彼らも、根は普通に人懐っこい、ただ愛情に飢えた連中なのかも知れない。保証人の田代が現れた途端に哲夫が従順になったのも、ただ単に彼を本心から慕ってるからかも知れない。
なのに、肝心の哲夫はパーティーを欠席。定食屋で自分に眼をかけてくれてた常連客の青木に頼まれて、彼は臨時のアルバイトをしてたのでした。
ところが、工事現場の警備だと聞かされてたそのバイトが、実は金庫破りの見張り役だった! 優しくされると盲目的に相手を信じてしまう、哲夫の性質を青木は利用したのでした。
目撃者の証言によるモンタージュ写真が哲夫にソックリなのを知って、動揺したアッコは1人で哲夫に会いに行き、まだ何も知らなかった彼を逆上させ、逃がしてしまいます。
「私がバカだったんです。私、野崎さんたちがあんなに彼は危険だって言ったのに、昔の友達だからって1人で信じて……」
ボスたちに事情を説明し、涙を流して謝るアッコですが、一緒にいた福祉協会の田代が異論を挟みます。
「いや、それは間違いじゃない。哲夫は騙されて利用されて、見張りに立っただけです」
田代は、哲夫が正月の家に土産を買って帰りたくてバイトをしたことを知っていました。
「そんなことに利用されて気がつかないなんて、随分バカなヤツだと皆さんお思いになるかも知れません。でも、施設の子は皆そうなんです。誰かに親切にされると、信じられないくらい脆いんです。それだけ、世間の人の優しさに飢えてるんです」
田代の言葉には、我々視聴者に対する『太陽にほえろ!』スタッフ一同からのメッセージがこめられてます。
「哲夫が、騙されたり裏切られた時にひどくカッとなるのは、本当は信じたいからなんです。人を信じようとする気持ちが、人一倍強いからなんです。異常だと言って済ますのは簡単です。危険だと言って刑務所に放り込むのも簡単です。でも、あの子はどこもおかしくない。どこも異常じゃない。ただ、寂しいだけなんです」
これは福祉施設に限ったことじゃなく、我々のごく身近にいる人たち、いや、我々自身にも通じることかも知れません。
「そりゃあ施設の子は、みんな変わってます。社会常識の足りない子もいますし、うまく喋れない子もいます。でも刑事さん、親も家族もいない子に、いったい誰がそんなことを教えるんですか?」
人間は教科書通りにはいかない。肌で、親兄弟とのふれ合いで人生を学ぶんだと、田代は懸命に説きます。
「少しぐらい社会常識が足りないからって、あの子たちを、哲夫を、ヘンな眼で見るのだけはやめて下さい。危険な人間だと思い込むのだけは、やめて下さい。お願いします」
やがて強盗の実行犯として青木が手配され、刑事たちが逮捕に向かうと、ちょうど哲夫が青木と揉み合い、拳銃を奪って今にも撃とうとする状況にありました。
信じてた相手に裏切られ、ステバチになってる哲夫を、刑事たちが必死に説得します。
「哲夫! 俺たちは、お前が泥棒なんかするような人間じゃないと信じてるよ」
「信じる? 俺を? 刑事のあんた達が?」
刑事たちの本気の眼差しを見て、哲夫は素直に拳銃を下ろすのでした。もちろん青木やその黒幕は逮捕され、哲夫は罪に問われずに済みました。
七曲署における事情聴取を終えて帰宅する際、見送りに来たアッコに哲夫は言います。
「あの……赤い鉛筆だけど。あの時の」
中学時代、シャイな哲夫がアッコと口を聞いたのは、落ちていたらしい赤い鉛筆を「君のかい?」と彼女に尋ねた、そのたった1回だけでした。
「あれ、ホントは俺の鉛筆だったんだ。友達になりたかったんだ、キミと」
「…………」
「オレ……オレたちには、キミたち普通の家の子はいつも、なんか、違う世界の人間なんだ。だから、声をかけるのも勇気が要るんだ」
「そんな……」
「でも今は違うよ。また遊びに来て。刑事さんと一緒に」
「うん、きっと」
アッコが差し出した手を、一瞬だけ照れ臭そうに握った哲夫は、軽やかな足取りで去っていくのでした。演じる恭兵さんは、ステップを踏みそうになるのを必死に我慢してた事でしょうw
本エピソードは実在する福祉施設をモデルにしており、高視聴率を社会のために役立てたいという、チョー生真面目プロデューサー・岡田晋吉さんの真摯なメッセージがこめられてます。
多数派が、少数派の人を理解しようとせず、排除しがちな傾向は当時も現在も変わってないどころか、やり方はもっと陰湿になってるかも知れず、これは今こそ考え直すべきテーマじゃないかと思います。
刑事たちがそれを説くと説教臭くなっちゃうけど、ベテランの長さんが偏見から哲夫を疑い、福祉協会の人に説教されちゃう構図になってるのが良いですよね。そこに『太陽にほえろ!』の誠実さが表れてるような気がします。
当時、柴田恭兵さんは26歳。劇団「東京キッドブラザーズ」で注目され、前年に『大都会PART II』でテレビ初出演。それから『俺たちの朝』『太陽にほえろ!』とゲスト出演が続き、前述の通り同年『大追跡』で初レギュラー、翌年の『俺たちは天使だ!』で本格ブレイク、そして'86年の『あぶない刑事』と、日テレのアクションドラマで大きくなっていった俳優さんです。
木村理恵さんは当時20歳。TBS系列のドラマ『青春の門 第2部』で大胆な演技を披露し、女優としてステップアップしてる最中の初主演エピソードでした。篠山紀信さん撮影によるヌード写真も、この時期に発表されたものと思われます。
『太陽~』出演中にも『はぐれ刑事』『夜明けの刑事』『華麗なる刑事』等の刑事ドラマにゲスト出演、『太陽~』卒業後も『特捜最前線』で船村刑事(大滝秀治)の娘=香子役でセミレギュラー出演される等、まさに刑事ドラマのミューズと呼ぶべき女優さんです。
ムーミン
『太陽~』DVDの映像特典ではお目にかかりましたが、30年以上経っても変わらぬ清楚さ、可愛らしさで驚きました。