1990年10月にテレビ朝日系列の『日曜洋画劇場』枠で放映された、脚本=佐藤純彌/監督=深作欣二による単発スペシャルドラマ。
1980年代、サッカーのカズさんでもタモリさんでもない、三浦和義氏を巡る「ロス疑惑」報道で一躍注目されたロサンゼルス警察の日系三世=ジミー佐古田 元警部補をモデルにした、前年の単発ドラマ『ロス警察1989』の続編です。
今回、深作欣二監督の没後20年特集として「東映チャンネル」で放映され、レビューするにあたって詳細を調べるまで、私はてっきり本作が草刈正雄&竜雷太のコンビによる『ロス市警アジア特捜隊』の続編だと思い込んでました。
同じ題材から生まれた『ロス市警アジア特捜隊』は’84年に日本テレビ系列の『金曜ロードショー』枠で放映された単発スペシャルで、ゴリさんも出てるだけあってメインスタッフが『太陽にほえろ!』とかなり被ってました。
で、本作『ダブルパニック’90/ロス警察大捜査線』の主役=マイケル村上警部補を演じたのが、この人。テレビ初出演が『太陽にほえろ!』(ジーパン期) におけるチョイ役で、その姉妹作とも言える『俺たち〜』シリーズでスターになった、中村雅俊さん。
そして準主役が『太陽〜』の殿下こと、小野寺昭さん。
おまけに、小野寺さんの妻を演じてるのが『太陽〜』で殿下の妹役だった中田喜子さん!
ところが『太陽〜』も『俺たち〜』も東宝作品なのに対して、深作さんはバリバリの東映系監督。(そもそも東映チャンネルで放映されてるし)
制作は近藤照男プロダクションだから、これは『太陽〜』じゃなくて『キイハンター』『Gメン’75』の流れを受けた作品なんですよね。
思い返せば雅俊さんは後に『Gメン〜』の復活スペシャルで主役を張り、小野寺さんも『Gメン〜』の後継作『スーパーポリス』でレギュラー出演されてますから、単純に皆さん売れっ子だってこと。
それとヒロイン(雅俊さんの妻)役の藤真利子さんにせよ、『三つ首塔』からヒゲを剃ってますます近藤春菜に近づいた角野卓造さんにせよ、日本人キャスト全員が英語ペラペラですから、そういう条件をクリアして選ばれたのが、たまたまこのメンツだったって事でしょう。(本作はセリフの9割以上が英語で字幕スーパー入り)
ストーリーはできるだけ簡潔に書きます。雅俊さんのワイフである真利子さんが、マイカーで娘たちをスクールへ送る役目を、フレンドの喜子さんといつも1日交代でやってる。
で、その日は喜子さんの番だったけど風邪で体調を崩し、急きょ真利子さんが引き受けることに。その道中で、GUNを持ったヤングたちに拉致されてしまう。
喜子さんのハズバンドであるミスター小野寺は、’90年当時(つまり日本がバブル真っ只中だった頃の)アメリカで荒稼ぎしてた日本企業のBIGボス。
そう、犯人グループはミスター小野寺のワイフを狙ってたのに、間違えて雅俊さんのワイフを誘拐しちゃった。けど、いずれにせよ小野寺さんのドーターもトゥゲザーだから身代金はドマンドできます。わしゃルー大柴かっ!?
そこで雅俊さんの出番です。このドラマにおける「ロス市警アジア特捜隊」は、バブル景気で浮かれた日本人や日本企業のマネーを狙う犯罪の激増に対応すべく生まれた設定(現実には’70年代から存在してるそう)で、雅俊さん=マイケル村上(つまりジミー佐古田氏)はそのキャプテン。
ミスター小野寺はフレンドである雅俊さんに、あくまで個人的に相談する(警察沙汰にはしたくない)んだけど、犯人たちを制圧(つまり即射殺)しない限り被誘拐者が生きて戻る可能性は「100%あり得ない」と断言する雅俊さんは、特捜隊を率いてミッションを進めます。
まぁしかし、マネーは沢山あるに越したこと無いけど、儲ければ儲けるほどこうしてバッド・ガイズに狙われる。
すっかり没落しちゃった現在の日本からすりゃ輝かしい(私はただただ恥ずかしかったけど)、近いようですっかり遠くなった過去。金持ちは金持ちで大変だったことでしょう。私は常に安定のビンボーでほんと良かった!👍
なにせ敵は素人とは言え、当たり前にGUNを持ってるヤツらです。交渉だの説得だのと悠長なことはしてられない。それがロサンゼルスであり、市警察にはリッグス刑事(メル・ギブソン)みたいなリーサル・ウェポンもいるワケです。
余談ですが、犯人役にせよエキストラにせよ、さすが本場ハリウッドで調達された(つまりオーディションで役を勝ち取った)アクターたちは、無名でもみんな演技が上手い。日本に都落ちしてくるガイジン俳優たちとは明らかにレベルが違う。これは作品のクオリティーアップに大きく貢献してます。
さて、ただ誘拐犯グループと対決するだけのストーリーなら『ダブルパニック’90』ってタイトルが意味不明になっちゃう。ここからが本題です。
卓造さんが支店長を務めるバンクで身代金を用意し、さぁいよいよ取引(すなわち皆殺し)に向かおうとしたその時!
なんと、誘拐犯グループとはまったく関係ない武装グループが、よりによって今、卓造バンクのマネーを奪うため押し入ってきた!
Oh,タクゾー! ユーのフェイスはなんてBigなんだ!?
まぁしかし、取引の時刻までには、まだ余裕がある。大人しくさえしとけば、連中は金を奪ってすぐ逃走してれる。
と思いきや! 表で待ってたアジア特捜隊の若手刑事(高郎隆志)が事態に気づいて通報し、あっという間に卓造バンクは警官隊に包囲されちゃう!
オーマイガッ!? このまま強盗グループに籠城されたら誘拐グループとの取引に間に合わず、殿下の娘&雅俊の妻娘も皆殺しにされてしまう! まさにダブルパニック!!
ミスター小野寺が身代金50万ドルを差し出し、「このマネーはYouたちにくれてやるから、取引に行かせてくれ!」と交渉するも……
警官隊とTVクルーの目前で公開処刑されそうになり、妻の喜子さんが自分のおっぱいを揉みながら気を揉みます。(けど殿下は軽傷で済みました)
籠城が長引けば当然、こんなことも起こっちゃう!
Why,タクゾー!? 近藤春菜じゃねーよ!💨
一方、雅俊ワイフの真利子さんは、誘拐グループの紅一点(アナベル・スティーム)が主犯格と毎晩チョメチョメしてつくった子供を宿してることに気づき……
先輩マミーとして、彼に愛があるならYouにこんな事させるワケがないし、赤ちゃんの為にも良くない!と、アメリカ人には馴染みが薄い「胎教」という概念を持ち出して……
いわゆるストックホルム症候群みたいな絆を育み、それがダブルパニック収束につながる伏線となります。
誘拐グループを制圧する切札として身代金に仕掛けてたブービートラップが役に立ち、なんとか銀行強盗グループを制圧(すなわち全員射殺)した雅俊さんたちは……
真利子さんが残した手掛かりによって誘拐グループの潜伏する場所をつかみ、電話を借りにきた観光客を装って潜入し……(まだ携帯電話が今ほど普及してない時代です)
妊娠中の女子が土壇場で協力してくれたお陰もあり、見事こっちのバッド・ガイズも1人残らず射殺するのでした。ザッツ・アメリカ!
冒頭シーン(プロローグ)で雅俊さんの相棒刑事が殉職し、真利子さんが「こんな危険な仕事はもう辞めて!」と涙ながらに訴えるも、雅俊さんは「オレだけ逃げるワケにはいかない!」って、えらく深刻でウェッティな夫婦喧嘩が描かれて、やれやれ、これだからジャパニーズドラマはよう……って、辟易しそうになりました。
けど、誘拐事件が起きてからは一気呵成にダブルパニックへと連鎖し、クライマックスまでノンストップで突っ走るスピード感&ダイナミズムは、やっぱりさすがの深作欣二演出!(息子の健太はいったい何を学んだ!?)
だからこそ、夫婦の絆を取り戻していくような「ドラマ」が必要だったにせよ、あんなメソメソした場面は要らなかったと私は思う。『ダイ・ハード』(’88) みたいに「ちょっと倦怠期」程度の描き方で良かったのでは?(それじゃパクリになると考えた?)
娘を誘拐された主人公が他の事件にも巻き込まれちゃう展開は、むしろ『ダイ・ハード』よりTVシリーズ『24−TWENTY FOUR−』を彷彿させるけど、あれは2001年スタートだからこっちの方が10年も先を行ってます。
他にも元ネタがあるかも知れないけど、何にせよ凡庸な監督が撮ってたらこんなに面白くはならなかった筈。巨匠には巨匠たる理由がちゃんとあるんだと、あらためて認識した次第です。
セクシーショットはヒロインの藤真利子さん。刑事ドラマにはあまり出られてない印象だけど、実は今回みたいな2時間ドラマへの出演は数多く、ことに『火曜サスペンス劇場』では犯人役の最多記録をお持ちなんだそうですw