☆第6話『保健室のベッドで何があったか?!』
(1979.11.21.OA/脚本=鎌田敏夫/監督=土屋統吾郎)
ある日、あさひが丘学園で事件が起こります。イケメン体育教師で女子テニス部顧問の小寺先生(谷 隼人)が、生徒でテニス部員の白石こずえ(北村優子)と保健室のベッドでキスしてる現場を、よりによって小関先生(樹木希林)に目撃されちゃったのでした。
もちろん小関先生は面白半分で校長(宍戸 錠)と教頭(高城淳一)に報告し、弁明を求められた小寺先生は、体調を崩した白石の様子を見に行ったらいきなりキスされたと主張するのですが……
「ひどい! 先生ひどい! ひどい! 先生が保健室に来て、いきなり私を抱きしめてキスしたのに……そんな風に言うなんてひどい!」
当事者の白石がそう言って泣き崩れたもんだから、小寺先生は何も言えなくなっちゃいます。
いきさつを聞いて「許せない!」と憤慨する涼子先生(片平なぎさ)だけど、その姉であるしのぶ先生(金沢 碧)は「小寺先生がそんな事したって、まだ決まったワケじゃないでしょ?」とクールな反応。
「でもね、小寺先生は白石さんの言うことに何の反論も出来なかったのよ? そのまま認めたのよ?」
信頼してたからこそ怒りが収まらない涼子先生に、しのぶ先生はこう言います。
「反論出来なかったというよりも、反論しなかったのかも知れないわ」
あさひが丘学園は全国各地で問題を起こした生徒たちを集めた高校で、もちろん白石もその1人。彼女の場合は万引き癖がなかなか治らなかった、言わば前科があるワケです。
「生徒の方から先生にキスをしたなんて噂が学校中に広まってごらんなさい。白石さん、また何をするか分からないわ。それを心配して、小寺先生は罪を自分で一身に引き受けてるのかも知れないわ」
それで涼子先生はなるほど!と膝を叩くんだけど、実は小寺先生の本音は違ってました。白石の方からキスして来たのは事実なんだけど、こういうケースで男の側が何を言っても信じてもらえないのは明白で、反論したくても出来なかっただけ。
だからホントは何とか潔白を証明したいと思ってるんだけど、涼子先生に満面の笑顔でこう言われちゃいます。
「私、小寺先生を尊敬してます! 自分がスキャンダルの的になっても、生徒を救おうとなさってるんでしょ? 姉も、小寺先生を信じてるって言ってました!」
「えっ、しのぶ先生が?」
しのぶ先生に惚れちゃってる小寺先生としては、もう後戻り出来ません。
「僕はこれからも頑張ります! 小寺は生徒のために一生懸命頑張ってると、しのぶ先生にお伝え下さい!」
だけど、事情を知ったハンソク先生(宮内 淳)は怒りを露にし、同居人である野口先生(秋野太作)に不満をぶつけます。
「教師だから、自分がいくら傷ついても、生徒のことを思ってじっと耐える? オレはそういうのは嫌なんだよ。教師だからって何もそこまでする事ないだろうが!」
「オレもそう思うけど、自分から先生にキスしたなんて噂が広まったら、確かに白石もどうしていいか分からないだろうしなあ」
「どうしていいか分からなくても、自分でした事だろうが? 自分でした事は自分でケリをつけなきゃならないんだ!」
「生徒っていうのは、そんな立派な動物じゃないんだよ」
「先生だってそんな立派なもんじゃないよ!」
確かにそうだろうけど、教師が自分でそれを言っちゃダメでしょ?って事ばかり、この男は言うんですよねw
それだけならまだしも、白石を見つけたハンソク先生はあろうことか、他の生徒たちが見てる前で彼女を糾弾しちゃう。
「お前、平気なのか? 小寺先生に罪をひっ被せて、それで平気なのか? 嘘をついて、人を陥れて、よく平気でいられるな! オレはそういう人間が許せないんだっ!!」
白石からキスを仕掛けた証拠は何も無いというのに、まったくこの男は…… こうしてハンソク先生の好感度はますます下がり、宮内淳さんの俳優生命も削られていくワケです。
ハンソクのせいで事件のことが学園中に知れ渡り、登校出来なくなった白石は寮にも戻らず行方不明になっちゃう。
しのぶ先生はハンソクの主張にも一理あるとした上で、いつものように冷静な一言を投げかけます。
「でも、生徒っていうのは脆いものなのよ。もし白石こずえが自殺でもしたら、一体どうなさるおつもりですか?」
「えっ…………」
それでさすがのハンソクも責任を感じたのか、涼子先生と一緒に白石の実家を訪ねることに。その道中で涼子先生は、白石が生真面目な父親とギクシャクした関係で、過去の万引きもその反発から起こしたものだとハンソクに説明します。
「それがどうしたんだよ?」
「生徒っていうのはそういうものなんです。家庭や社会の影響をそのまま受けてる。悪い事したからって、ただ叱ればいい、そんな簡単な問題じゃないんです。だから、教師っていう仕事は難しいんです」
「たとえ家庭がどうだろうと社会がどうだろうと、男だろうと女だろうと、自分でした事は自分で始末しなきゃしょうがないんだよ。簡単な事だよ」
やってる事はメチャクチャだけど、ハンソクの主張は決して間違ってない。他の教師たちが色んなことに忖度して口に出せないことを、いつもズバッとストレートに言っちゃう、そこがハンソク先生の魅力と言えば魅力。っていうかそこしか長所が見当たらないw
「あの子にもしもの事があったら、あなた方の責任ですよ? そういう約束でお預けしたんだから!」
「そうですよ、近頃の先生はご自分の事ばかり考えて、少しも生徒の事は見てくれようとしないんですから!」
そんな勝手なことを言う白石の両親にも、ハンソク先生はいっさい忖度しません。
「なに言ってんだよ、あんたら。白石こずえはあんたらの娘だろうが! 自分の娘だろうが! 何でもかんでも学校の責任にするなっ!!」
ハンソクの暴走を慌てて止める涼子先生だけど、こんな男を一緒に連れて来たあんたも悪いw
帰りの道中でもハンソク先生は、普通の教師が言えないことをバンバン言います。
「教師ってのはな、スーパーマンじゃないんだよ。何百人もいる生徒にいちいち責任が持てるか!」
「たとえ持てなくても、たとえ手に余っても、1人1人の生徒に、それぞれに、責任を持てなきゃいけないのよ! それが教師って仕事だし、だからこそやり甲斐があるんでしょ?」
涼子先生がおっしゃることも正論だけど、多くの先生はハンソクに同意したいんじゃないでしょうか? メチャクチャな男だけど、メチャクチャだからこそ言える台詞に真実がある……ような気がします。
それはともかく白石は行方不明のままで、涼子先生、しのぶ先生、野口先生、そして小寺先生や寮生仲間たちが町中を駆け回って懸命に探すのをよそに、ハンソクは「そんな簡単に死んだりするか」と自分だけ寮へ帰ってメシを食い、地に堕ちた好感度をさらに下げて自らを追い込みます。
ところが、ここで寮母の倉橋さん(結城美栄子)と雑談しながら、ハンソクは高校時代のある出来事を思い出すんですよね。好きだった女子に痴漢と間違われた悪友が行方不明になり、さんざん探して見つけたのが学校の屋上だった、つまり彼が死のうとしてたことを。
「つまんない事で、死ぬこと考えたりするんだよな、あの頃は……!!」
そこでハタと気づいたハンソク先生が、自分と違って大変な人気者だったボンボン刑事を彷彿させながら、学園の屋上まで全力疾走します。そう、白石はそこにいたのでした。
「白石、よせっ!!」
間一髪、飛び降りようとする白石を庇うようにして、ハンソクが身代わりに屋上から転落! 幸い、樹木がクッションになってハンソクは足首の骨折だけで済みました。これでいくらか好感度が挽回出来れば軽いもんですw
だけど責任を感じた白石はますます落ち込みます。
「私……どうすればいいんですか? どうすれば……」
そんな彼女に、涼子先生は言います。
「あなたに今出来ることは、学校へ来ることよ」
「…………」
「自分のしたことがどんなに恥ずかしくても、つらくても、胸を張って学校へ来ること」
「…………」
「自分のしたことは、自分で始末をつけるより仕方ないんだって、大西先生言ってたわよ。今のあなたが大西先生に出来ることは、学校へ来ることじゃないかな? 勇気を出して」
それでも踏ん切りがつかない白石を、今度は姉のしのぶ先生が励まします。
「私ね、高校の頃、死にたいくらい恥ずかしい目に遇ったことがあるの」
放送部に所属してたしのぶ先生は、部室でエッチな話をして盛り上がってたら放送スイッチが入ったままで、全校生徒にそれを聞かれてしまい、本気で死にたくなったと語ります。
「どうして私にそんなこと言うんですか?」
「誰にでも青春時代にはつらい事があるの。死にたいぐらいのつらい事が」
だけど大人になった今となっては笑い話だったりする。今回の件もきっとそうだと、しのぶ先生は言いたかったんでしょう。
翌朝、校舎に向かってまっすぐ歩く白石を見て、涼子&しのぶ姉妹は胸を撫で下ろし、小寺先生も久々に笑顔を見せます。だけど誰よりもホッとしたのはハンソク先生かも知れません。
ハンソク先生、小寺先生、野口先生が、丘の上から校舎を眺めながら呟きます。
「教師って仕事は、大変な仕事だよな……」
「ええ」
「そうだ。大変な仕事だ」
「でも、いい仕事だよ」
「ええ」
「うん」
今回の脚本を書かれたのは、第1話以来となる鎌田敏夫さん。たかがキスが学園を揺るがすスキャンダルに発展していく話の組み立て方といい、各キャラクターの活かし方といい、物事の多面的な捉え方といい、さすがは鎌田さん!と言うべき出来映えだったと思います。
なにより、畑嶺明さん(#02、#05の脚本を担当)が致命的なまでに貶めたハンソク先生の好感度を、今回ギリギリのところで挽回させた功績は大きいんじゃないでしょうか?
同じキャラクターでも書く人によって性格が微妙に違って来るもんで、鎌田さんはそのサジ加減を決して見誤らない。対して畑さんはたぶんコメディー志向が強すぎて、笑いを優先するあまりハンソク先生を馬鹿……というよりガキっぽく描きすぎた。それはハッキリ言って失敗だったんじゃないかと私は思います。
今回もハンソクは馬鹿だったけどw、後半の活躍でちゃんと挽回してくれました。畑さんが書かれた第2話もぎりぎりバランスが取れてたけど、前回レビューした第5話はちょっと酷かった。メチャクチャをやらせたらやらせた分だけ、ちゃんとした事もさせないとキャラが崩壊しちゃう。
もしかしたら演じた宮内淳さんにも責任はあるかも知れません。前作『ゆうひが丘の総理大臣』のソーリ=中村雅俊さんも同じくらいバカで破天荒なキャラだったけど、ハンソクみたいに嫌悪感を抱かせることは無かったように思います。そこは役者さんの持ち味だったり、演じ方次第なのかも?
宮内さんは『あさひが丘~』の後、フジテレビの『探偵同盟』でさらに無責任なオチャラケ男を演じ、芸能界からフェードアウトしていく事になっちゃいます。やっぱり俳優さんの生命は、演じるキャラクターと作品次第なんですよね。
PS. ちなみに画像で小寺先生の隣で懐中電灯を持っておられるのは『太陽にほえろ!』の吉野巡査ではなく、あさひが丘学園常駐の滑川ガードマン(横谷雄二)。制服姿もキャラクターもほぼ同一人物ですw
ホント、そうですよね。ゆうひが丘の総理大臣のほうが大好きでした。すみませんm(__)m