ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『太陽にほえろ!』#713―2

2019-01-24 12:00:22 | 刑事ドラマ'80年代









 
緊急捜査の結果、実際に老夫婦が行方不明で、ダイナマイトの盗難届けも出ており、脅迫電話はただのイタズラじゃないことが決定的になります。そして拉致に使われた車の目撃証言から、磯部(田中浩二)という青年に容疑が絞られます。

彼はスプーン曲げの特技を持っており、かつての超能力ブームでマスコミに取り上げられ、ちょっとした有名人になった経験が忘れられず、今、時の人となった西谷 愛(工藤夕貴)への強い嫉妬心から、どうやら犯行に及んだらしい。

そこまで判明しても、老夫婦が監禁されてる場所だけは全く見当がつかず、時限爆弾が爆発する翌朝9時までに救出するには、犯人の言う通り愛の超能力に頼るしか無いのかも知れません。

ところが! またしても愛が自殺未遂をやらかします。マンションの屋上から飛び降りようとしたんだけど、今度は心臓に痛みを覚えて倒れちゃう。

駆けつけたドック(神田正輝)は、やがて嘘みたいに痛みが治まった愛の様子を見て、ようやく超能力の正体に気づきます。

「薬を飲んだんだ……」

薬を飲んだのは愛じゃなくて、拉致された老夫婦の奥さん。心臓病を患っており、恐らく発作が出てすぐに薬を飲んで、痛みが治まった。

たぶん愛の超能力は、ある特殊な状況の時だけ発揮される。その特殊な状況とは、彼女が自殺しようとした時。車に跳ねられた少年のテレパシーを受信した時もそうでした。

愛は恐らく、死のうとした時にSOSを無意識に発信し、それが他の誰かのSOSと呼応し、その人の見た光景や痛みを共有する。今回は拉致された老人のSOSを図らずもキャッチしたワケです。

「違うわ……違う! 違う! みんな違う! 私はそんな超能力少女なんかじゃない! 優等生でもない! スポーツ万能選手でもない! みんな違うのよ!」

愛はようやく、ずっと奥底に秘めてきた本音を、ドックとブルース(又野誠治)に吐露します。

「だから死にたくなるのか。キミはそんなのになりたくない。だけどいつの間にか、そういうレッテルだらけになっちゃって……それがイヤなんだ。そうだろ?」

ただの平凡な高校生のくせに、無理をして優等生でいようとする自分自身がイヤでイヤで仕方がない、と言って泣きじゃくる愛に、ドックが優しく語りかけます。

「要するに、頑張り屋なんじゃないか。それは決して悪いことじゃない。恥ずかしいことでも何でもないよ」

両親が離婚して、周りから同情されるのがツラくて、愛は勉強やスポーツを人一倍頑張って来た。その結果、優等生でスポーツ万能な子と見られるようになったけど、それは決して本当の自分じゃないと彼女は思ってる。

そのギャップに苦しんでた時に、今度は「超能力少女」なんていうレッテルまで貼られ、世間の注目を浴びてしまい、いよいよアイデンティティーが崩壊しちゃった。何もかもブルースのせいですw

「普通の女の子がそうであっちゃ、どうしていけないの? エスパーや優等生は特殊な人間だから、つまらない普通の女の子であっちゃならないって、そんな決まりがどこにあるの? 誰が決めたの? そう思ってるのは、キミだけだ」

ドックは捜査のことも忘れて、ただ彼女に生きてて欲しい一心で、懸命に語りかけます。

「思いきって、自分さらけ出して生きてみろよ。その立派なレッテルと、キミ自身とのギャップってのは、キミが思ってるほど大きくない筈だ」

ドックの説得を理解したのか、ようやく愛は落ち着きます。駆けつけた母親(田村奈巳)に彼女を託し、再び捜査に戻ろうとするドック&ブルースに、愛が重要な手掛かりを伝えます。

「刑事さん! 菊の花が、見えたんです」

愛が心臓に痛みを覚えた時、つまり拉致された老人のSOSをキャッチした時に、菊の花を上から見下ろしたような光景が頭に浮かんだ。恐らく、そういう場所に夫婦が監禁されてる。爆破予告の9時まで、もうあと数時間しかありません。

「警部! 俺たち、これに賭けてみようと思います!」

「よし、やってみろ!」

橘警部(渡 哲也)の許可を得て、ヘリコプターをチャーターしたドック&ブルースは、上空から菊の花(のように見えるもの)を必死に探します。そして……

「ドック、あれ!」

小学校の校庭に、黄色く塗ったタイヤをピラミッド状に積み上げた、巨大な遊具がある。そのすぐ横のウィークリーマンション上層階から小学校を見下ろせば、菊の花みたいに見える!

間一髪、ドック&ブルースによって老夫婦は救出され、犯人も逮捕されます。愛の超能力が、見ず知らずの夫婦の生命を見事に救ったのでした。

後日、それを報告しに来たブルースに、愛は心からの笑顔を見せます。ドックに「自分をさらけ出してみろ」と言われて、急に気がラクになったと彼女は言います。

「結局、頑張ってた自分がホントの自分だってことが、やっと分かったの」

「うん。自分で自分を嫌ったって、意味が無いってこっちゃ」

ドックみたいな説得力は皆無だけどw、元気に生きていって欲しいというブルースの気持ちは、彼女に伝わったみたいです。

「澤村さんって怖そうに見えるけど、ホントは凄く優しい人なんですね!」

そう言って元気に学校へと駈けていく愛の後ろ姿に、ブルースはしみじみと呟きます。

「幸せになって欲しいよなあ……」

今回の結果を受けて、西谷愛を七曲署専属のアドバイザーとして迎えよう!なんて言って盛り上がる同僚たちを、ブルースは「彼女はもう、エスパーじゃないんだよ」と一蹴します。

「えっ、どういうこと?」

「つまり彼女は、もう絶対に自殺なんかしないって事だな」

「そうです、警部」

「良かったな、ブルース」

「いやぁ、今回は楽しかったです!」

じゃあ普段は楽しくないのかよ?っていう疑問も残しながらw、一件落着。やっぱり『太陽にほえろ!』は、希望のドラマなんですよね。こういう爽快な後味を残してくれる刑事ドラマが、現在はなかなか見られません。

今回、銃撃戦やカーチェイスなど派手な見せ場は一切なし。にも関わらず、2時間の長尺を全く退屈させずにラストまで引っ張るクオリティー。

特に、超能力という言わば非現実的なテーマを、「理想と現実とのギャップ」という思春期に誰もが味わう普遍的テーマと融合させることで、とても身近なものに感じさせた脚本が本当に素晴らしいと思います。

この『エスパー少女・愛』は本来、DJ刑事(西山浩司)の主演エピソードとして用意されてたんだそうです。ところが西山さんが体調を崩して入院する羽目になり、急遽ブルースが代役を務めたんだとか。

確かに、超能力を盲信しちゃう刑事としてはDJの方がキャラ的に自然だし、西山さんならまた違った面白さで笑わせてくれたと思うけど、ブルースだからこそ良かった部分も多々あるんですよね。

あの武骨な顔で愛=エスパー説を力説し、後輩のDJやマイコン(石原良純)に笑われちゃう描写はブルースだからこそ可笑しいし、女子高生との不器用な交流もブルースだからこそ心温まるものがありました。

DJが相手だと、ちょっと恋愛感情みたいなのも絡みそうで、それはそれで楽しいかも知れないけど、結果的にはブルース主役で良かったように私は思います。コミカルな役どころを自然にこなして見せた、又野誠治さんの演技もまた素晴らしい!

そして、エスパー少女=西谷愛を演じた工藤夕貴さん、当時15歳(!)。ヒラタオフィス所属、つまり多部未華子さんの大先輩にあたる女優さんです。

デビューは小堺一機さんのバラエティー番組で、最初に注目されたのは「お湯をかける少女」のキャッチフレーズが話題になった、即席ラーメンのCM。

そして石井聡互監督『逆噴射家族』や相米慎二監督『台風クラブ』等の映画で高い評価を受け、演技派の若手女優として広く認知された上での『太陽にほえろ!』ゲスト出演でした。

確かに本エピソードは、工藤さんの演技力に支えられてる部分も多々あり、通常レベルの若手ゲストだと陳腐な印象に終わった可能性もあります。特に、泣きじゃくりながら初めて本音を吐露するシーンの演技は圧巻でした。

ちょうどこの時期から工藤さんはハリウッドへの挑戦を始め、まさに今回の役柄さながらにコツコツ努力を続け、ついに'89年、ジム・ジャームッシュ監督の『ミステリー・トレイン』で永瀬正敏さんと一緒にアメリカ映画デビューを果たされます。

以降、『ヒマラヤ杉に降る雪』や『ピクチャーブライド』『ラッシュアワー3』等、ハリウッドを拠点に現在も活躍中。工藤さんにとって『太陽にほえろ!』は、日本における数少ないゲスト出演作にして、唯一の刑事ドラマだった筈。そういう意味でも、まさにスペシャルな作品です。
 

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『太陽にほえろ!』#713―1

2019-01-24 00:00:16 | 刑事ドラマ'80年代









 
当時すでに演技派のアイドル女優として注目されてた、工藤夕貴さんをゲストに迎えての『太陽にほえろ!』最後の2時間スペシャルです。

そして『太陽~』の長い歴史の中で、超常現象をネタにした唯一のエピソードでもあります。後期『太陽』=つまらないと決めてかかってる連中は嘲笑してるみたいだけど、私は傑作だと思うし、今でも大好きな作品です。

また、当時のアイドルだった宮田恭男、井丸ゆかり、田中浩二、そして七曲署署長=草薙幸二郎、本庁の偉い人=神山 繁etc…と、期首スペシャルだけあって脇を固めるゲスト陣も豪華です。


☆第713話『太陽にほえろ!スペシャル/エスパー少女・愛』

(1986.10.10.OA/脚本=古内一成&小川 英/監督=木下 亮)

ある夜、パトロール中のドック(神田正輝)&ブルース(又野誠治)が、建築中のビル屋上に佇む1人の少女を発見します。

自殺だと直感した2人が駆けつけると、なぜか少女はその場に倒れ、高熱にうなされてる。とりあえずドックらに病院へ搬送される途中、彼女はうわ言を呟きます。

「眩しい……光……」

「ネオン……21世紀の、ネオン……」

時を同じくして、小学生の男児が車にはねられ、運転してた若いカップル(宮田恭男&井丸ゆかり)に連れ去られたとの通報が七曲署に入ります。

少女を病院に送り届けたドック&ブルースも捜索に参加し、負傷した男児を座席に残したまま乗り捨てられた、轢き逃げの車を発見します。

その現場でブルースは、「21世紀」という大きな文字が光る、ネオンサインがあることに気づくのでした。

「テレパシー!?」

ブルースは、自殺未遂の少女=西谷 愛(工藤夕貴)が、事故に遭った男児の見た光景(眩しい光=車のヘッドライトと、21世紀のネオン)をテレパシーで受信したんじゃないか?と考えます。

そう、西谷愛は超能力少女だった! ……なんてことを真顔で言い出すブルースを、マイコン(石原良純)やDJ(西山浩司)は「ダサい」と言って笑います。

ところが! 愛が熱でうなされた時、他に何が見えたか尋ねてみると、赤いエビみたいな物が揺れていたと言う。そして捕まった轢き逃げカップルの女の耳には、赤いサソリのイヤリングが揺れていた!

そのイヤリングをエビだと主張するブルースは、またもやマイコンに「ダサい」と笑われますが、いよいよ愛=エスパー少女であることを確信します。

その真偽はともかく、愛がなぜ自殺しようとしたのか、その原因がハッキリしません。優等生でスポーツ万能、性格も明るくてクラスの人気者なのに……

両親が2年前に離婚しており、現在は母親(田村奈巳)と二人暮らしなんだけど、父親とは現在も交流があり、離婚が原因とは思えないと母親は言う。

そんな折り、銀行強盗事件が発生します。逃走した三人組の犯人はそれぞれパーティーグッズの覆面をしており、まるで正体が掴めません。

愛=エスパー説に半信半疑だったドックは、実験を試みます。それは、犯人たちが捨てて行った3種類のマスクを、愛に見せて透視してもらうというもの。

愛は気乗りしないものの、ドック&ブルースの熱心さにほだされ、透視を試みます。結果、水の中を泳ぐ2匹の大きな金魚、丘の上に生えた5本のツクシ、そして歌舞伎の舞いみたいな和装の人物が、イメージとして浮かんだと言う。

それを手掛かりに捜査することを橘警部(渡 哲也)は許可しますが、どこから情報が漏れたのか「七曲署が捜査に超能力少女を起用!」という新聞記事が出てしまい、ちょっとした騒ぎになっちゃいます。

「この記事は、全くの事実無根であります」

記者会見でそう断言した橘警部を見て、ブルースは失望します。

「なんで……なんで事実を言わないんだ? やっぱり警部も超能力を信じてないのか」

こうなったら、意地でも愛の超能力で事件を解決してやる! 決意を新たにしたブルースに、朗報が舞い込みます。地下鉄の半蔵門駅と、つくし野駅、そして船堀駅にあるモザイク壁画が、愛の透視したイメージとそっくりであることを、さんざん超能力をバカにしてたDJが突き止めてくれたのです。

一気にテンションの上がったブルースはがぜん張り切りますが、それらの壁画が強盗犯グループとどう繋がるのか、いくら考えても答えが出ません。

一方、防犯カメラに映った犯人のタトゥーを手掛かりに捜査を進めてたトシさん(地井武男)&マミー(長谷直美)が、ついにその正体を突き止め、逮捕します。

結局、犯人グループと3つの駅との繋がりは、何もありませんでした。ブルースはまたもや凹みます。

その頃、愛はマスコミの心無い取材でプライバシーを侵害され、更に嫌がらせやイタズラ電話にも悩まされ、ストレスがピークに達しようとしてました。

橘警部がなぜ、記者会見で愛の超能力を全面否定したのか? その真意をようやく理解したブルースは、捜査よりも愛のメンタル面をフォローすべしと思い直し、再び自殺未遂の原因を探ります。

結果、3つの駅の壁画は、離婚前の親子3人が過ごした、楽しい想い出に繋がってることが判明。やっぱり、彼女は寂しかったのか?

「違うわ。そんなんで死にたくなったんじゃない! 違うのに! 違うのに!」

どうやらブルースのフォローは見当外れ&逆効果だったようで、愛はますます自分の殻に閉じ籠っていきます。

そしてまた、新たな事件が勃発! 老夫婦をある場所に監禁した、そこで翌朝9時に時限爆弾が爆発する、との脅迫電話が七曲署に入ったのです。

「あんたとこの超能力少女に居場所を突き止めてもらうんだな」

若い男っぽい犯人は、どうやら愛がマスコミに注目されるようになってから、嫌がらせやイタズラ電話を仕掛けてた輩と同一人物らしい。

なぜ犯人は、そこまで西谷愛にこだわるのか? そして愛の眠ったままの超能力は、果たして老夫婦を救うことが出来るのか? そもそも、彼女は本当にエスパー少女なのか?

(つづく)
 
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『太陽にほえろ!』#708

2019-01-23 12:00:04 | 刑事ドラマ'80年代









 
太宰 準=DJ刑事(西山浩司)の数少ない主演作。つまり橘警部(渡 哲也)が代理ボスを務めた時期の作品です。

山さん(露口 茂)が殉職し、ボス(石原裕次郎)が長期離脱してから、橘警部とDJが同時加入するまでの期間は本当に寂しかった。まるで違う番組を観てるようでした。

渡さんと裕次郎さんとじゃキャラが違うし、西山さんもかなり異色なんだけど、それでも頼りになるボスがいて、活きのいい新米刑事がいてくれると落ち着きます。ちゃんと『太陽にほえろ!』を観てる気分になれるんですよね。


☆第708話『撃て!愛を』(1986.8.29.OA/脚本=古内一成&小川 英/監督=高瀬昌弘)

タバコ屋の主人が改造拳銃で射殺され、いち早く現場に駆けつけたDJとトシさん(地井武男)が、挙動不審な男=前島(小野進也)に職務質問し、怪しいと睨んで連行します。

凶器の拳銃は所持していないものの、袖口に硝煙反応がある上、被害者と揉め事を起こした過去もあり、しかも顔がロッキー(木之元 亮)を殺した犯人そっくりなもんで、刑事たちは前島がやったに違いないと断定しますw

凶器の拳銃さえ見つかれば、恐らく前島の犯行を立証出来る。懸命に捜索する中、DJは緑地公園で風景画を描く画家の卵=祥子(斉藤慶子)と仲良くなります。

ところが2日後、同じ場所で再会した祥子の様子がおかしい。根拠は無いけれど、先日に会った祥子とは何かが違うと直感したDJに、橘警部は渋い声で「デカの勘ってのはそういうもんだ。気が済むまでやってみろ」とゲキを飛ばします。

折しも、一旦釈放し、泳がせていた前島が、緑地公園のある場所を掘り起こし始めたもんだから、ブルース(又野誠治)とマイコン(石原良純=笑)に再び取り押さえられます。

ところが、そこに隠してあったに違いない拳銃が、いくら探しても見つからない。その場所は、祥子が風景画を描いていた場所のすぐ近くなのでした。

この2日の間に、祥子が拳銃を見つけて持ち帰ったのだとすれば、全ての辻褄が合う。祥子は拳銃なんか知らないと言うんだけど、ベテランのトシさんから見ても彼女の供述には嘘がある。

たぶん間違いなく、前島の拳銃は祥子が持ってる。けれど何故、彼女が拳銃を隠し持つ必要があるのか?

捜査の結果、祥子が妻子ある画廊主の男=木村(柴田てる彦)と不倫関係にあることが判明します。しかも木村は、妻と離婚するつもりだの有名画家に祥子の絵を紹介するだのと、嘘八百を並べて3年間も彼女を弄んでいた!

怒りに駈られたDJは、祥子の目の前で木村を糾弾し、トシさんに叱られます。

「お前、彼女が拳銃を持ってることを忘れたのか!?」

恐らく祥子は、木村の嘘に薄々気づいていた。拳銃は、それを確信した時に使うつもりであり、DJのやったことは彼女の背中を押したも同然の行為。

「忘れた方がいいんじゃないですか? 悪い夢だと思って」

DJは何とか祥子を説得しようとしますが、女の恨みはそう簡単には消せません。

「夢と思うには、3年間は長過ぎました」

確かに、年頃の祥子にとってはあまりに重い3年であり、画家としてのプライドや将来まで踏みにじられた悔しさは、悪い夢で済まされるもんじゃありません。

深く反省し、落ち込むDJに、橘警部は渋い声でこう言います。

「気が済むまでやれと言った筈だ。今も、同じことしか言わん。ただし、後で後悔するようなことだけはするな。人間としても、デカとしてもだ」

再起したDJは必死に拳銃を探し回り、そしてある賭けに出ます。祥子の張り込みを1人で引き受け、あろうことか、わざと彼女を逃がしてしまう!

神社の軒先に埋めておいた拳銃を持ち出した祥子は、ついに木村を追い詰め、銃口を向けます。

木村は必死に謝罪するんだけど、祥子はひるみません。そこにDJが現れます。やはり『太陽にほえろ!』の伝統として、如何なる事情があろうとも復讐は阻止しなければならない!

……と思いきや、DJはこう叫ぶのでした。

「撃っちゃえ祥子さん! こんなヤツは死んだ方がいいんだ!」

「ききききき、君っ!?」

うろたえまくる木村に、祥子は拳銃のトリガーを引きます。ところが至近距離なのに、2発、3発と撃っても弾丸は命中しない。木村は腰を抜かし、ぶざまにへたり込みます。

「どうして……」

DJは、祥子が掘り起こすよりも先に神社で拳銃を発見し、弾丸をこっそり空砲と取り替えておいたのでした。

「なぜ、こんなこと……」

「オレ……僕は……」

遅れて駆けつけた橘警部が、渋い声で代弁します。

「太宰は、あなたに撃たせたかったんですよ。撃って、こんなことは終わりにさせたかったんです」

現実的には、いくら空砲とは言え撃たせた以上、DJも橘も始末書どころじゃ済まないでしょうけど、そんなリアリティーはどーでもいいんです。そもそも刑事が常に拳銃を携帯してる時点で嘘なんだから。

それより何より大事なのは、こんな時にどうすれば彼女の心を救済出来るのか? DJという男ならどんな方法を選択するのか?っていうこと。

現実に有り得るかどうかなんかに囚われてたら、「撃っちゃえ!」なんて台詞は絶対に書けません。

ここが、昭和の刑事ドラマと現在の刑事ドラマとの、最大の違いだと私は思います。どっちの方が面白くて、我々のハートに強く響いて来るか? 言うまでもありません。

まぁしかし、いくら昭和とは言えDJのやり方はメチャクチャですw 七曲署の歴代刑事の中でも、こんな事をやってのけられるのは恐らく、初代新人刑事のマカロニ(萩原健一)かボギー(世良公則)ぐらい。

つまり、DJというキャラクターは異色に見えて、実は『太陽にほえろ!』原点回帰を担う存在だった。番組は本来、まだまだ続く予定だったんですよね。

ところで余談ですが、前回レビューした第703話『加奈子』も同じように若い女性の恋愛が描かれ、しかも悪い男に女性が騙されるパターンでした。脚本が同じ古内一成さんって事もあるでしょうけど、番組後期になってこういうエピソードが増えて来たのも事実。

『相棒』みたいな話だ、とも前回書きました。つまり『太陽にほえろ!』後期='80年代から、TVドラマがどちらかと言えば女性視聴者の目線に寄り添うようになり、現在まで続いてる。

それまでは逆に、男が女に騙される話の方が圧倒的に多かった。やっぱり1980年辺りを境に、日本人の価値観が大きく変わったんですよね。そんな気がしてなりません。

ゲストの斉藤慶子さんは、当時26歳。JAL沖縄キャンペーンガール出身でCM、グラビア、バラエティー番組でも活躍し、女優としても数々の映画やドラマに出演。特に私の記憶に残るのは、渡哲也さんと一緒にレギュラーを務められた刑事ドラマ『私鉄沿線97分署』で、同じ国際放映スタジオの撮影だし、今回のゲスト出演はその繋がり(たぶん97分署が終了してすぐ)かと思われます。
 
 

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『太陽にほえろ!』1986

2019-01-23 00:00:09 | 刑事ドラマ HISTORY









 
#706 ボス!任せてください

ボス=石原裕次郎の代役が務まるのは、名実共にこの方しかいないでしょう。大門団長改め、橘警部こと渡 哲也さんです。

『西部警察』シリーズ終了から2年経って、少し髪も伸びてマイルドに変化しつつも、前触れなく登場していきなりボスの椅子に座って、全く違和感を感じさせないのが凄い!

裕次郎さんと渡さんの関係を視聴者みんなが分かってるせいもあるけど、この時あらためて渡哲也という存在の凄さを思い知りました。山さん(露口 茂)同様、いわゆる1つの渡哲也(というジャンル)ですよ。

しかし、こうなると世間が『太陽』=石原プロ作品って思い込むのも、まぁ当たり前ですよねw だいたい、情報を扱うプロである筈のマスコミが、そう思い込んで記事を書いてたりしますからね。

なお、橘警部は捜査第一係長のあくまで「代理」って事で、メンバー達からは「ボス」じゃなく「警部」と呼ばれ、自らも部下の事を「西條(ドック)」「令子さん(マミー)」等、基本的にはニックネームを使わず名前で呼んでました。

そしてこの回は『太陽』最後の新人刑事=DJこと太宰 準(西山浩司)も同時加入します。ボスがいてもいなくても、この時期に登場する事は前から決まってたみたいですね。

DJは画期的な新人刑事でした。まず、背がとても小さい!w 松田優作さん以降『太陽』の新人刑事は身長180センチ以上が暗黙のルールになってましたから。おそらく160センチも無いであろう西山さんは、他の刑事達と並ぶとホント子供に見えちゃいます。

それと、お笑い畑からの抜擢も『太陽』では初めての事でした。西山さんは欽ちゃんファミリー、イモ欽トリオのワルオでしたからw

このキャスティングは’80年代のお笑いブームに沿って、TVドラマの内容もどんどん明るく軽いものになりつつある、時代の流れを受けたものと思われます。同じ年に『あぶない刑事』もスタートしてますからね。

つまり『太陽にほえろ!』はこれからも柔軟に変化しつつ、まだまだ続いて行く予定だったワケです。実際、DJ刑事はそれまでの『太陽』には無かった新風を巻き起こしてくれました。

生意気な態度や人なつっこさはマカロニ(萩原健一)やラガー(渡辺 徹)を彷彿させつつ、超すばしっこいアクロバティックな立ち回りは、14年間『太陽』が保ってきたリアリティを根底から破壊しかねないw、コントすれすれのアクションでした。

いつも新しい刺激を求めてた私にとって、そんなDJ刑事の登場は嬉しい出来事でした。新しい刺激と言えば、この回からオープニング曲もオール打ち込みによる「太陽にほえろ!メインテーマ’86」に変更されました。イントロを聴いても『太陽』のテーマだとは誰も気づかない位、大胆にアレンジされた曲です。

DJの登場もテーマ曲の変更も、保守的なファンには不評だったみたいだけど、私は逆にワクワクしたものです。これで「日没が近づいてる」なんて予感も吹っ飛びましたからね。


#707 いつか見た、青い空

打ち込みによる新しいテーマ曲が目白押しで、まるで新番組を観てるような感覚だった前回のぶり返しなのか、この回は長らく使われてなかった『太陽』初期のBGMがたくさん聴ける、やたら渋いエピソードでした。

内容的にも異色の渋さで、戦時中の貧困による「トウモロコシ泥棒」が現代の殺人事件へと繋がる、40年間の重みが描かれてます。主役がトシさん(地井武男)で、ゲストが山本耕一さんに井上昭文さん。何から何まで渋すぎますw


#708 撃て! 愛を

不倫相手に騙され、絶望したOL(斉藤慶子)が、偶然見つけた拳銃で復讐しようとします。

どんな事情があろうとも復讐は阻止するのが『太陽にほえろ!』の伝統なんだけど、現代っ子のDJは「そんな奴、撃っちゃえ!」って、逆に彼女をそそのかしますw

そう言われると、かえって撃てなくなるもんかも知れません。そんなDJのキャラといい、復讐の動機が不倫の恋だったりと、時代の変化を実感させられるエピソードです。


#709 タイムリミット・午前6時

逮捕された銀行強盗犯の兄が子供を誘拐し、弟の釈放を要求して来ます。ところが、その取引現場で弟が事故死してしまう。

激怒した兄は子供の殺害を宣言。単身で行方を突き止めたドック(神田正輝)が、銃で武装した犯人一味に無謀な戦いを挑みます。

これが『西部警察』なら、グラサン姿の渡さんがスーパーマシンで駆けつけ、ショットガンで敵を皆殺しにして一件落着なんだけどw、『太陽』の場合はそう簡単には行きません。

拳銃だけに頼らず頭脳も駆使する、ドックのハードアクション・シリーズ。その集大成とも言える作品です。


#710 殺意との対決・橘警部

過去の事件の因縁により、橘警部が生命を狙われます。ストーリー自体は凡庸だった印象ですが、渡さんの『太陽』における唯一の主演作として貴重なエピソード。

『大都会』や『西部警察』で見せた寡黙でハードなイメージと、その他の番組で見せた温厚でソフトなイメージ。俳優・渡哲也のバリエーションはこの2種類しか無い感じだけどw、橘警部はその中間というか、両方のイメージが味わえるレアなキャラクターかも知れません。


#711 ジョーズ刑事の華麗な復活

山さんが殉職し、藤堂ボスが不在となった今、番組スタート時からのメンバーが遂に1人もいなくなっちゃった!

……いや、待てよ。マカロニ時代からずっと活躍してる、この人がいるじゃないか!(今はもう刑事じゃないけど)って事で、鮫やんこと鮫島勘五郎(藤岡琢也)が約5年ぶりに復活!

かつて藤堂ボスの部下だった橘警部にとっても、鮫やん(ボスと同期)は同僚の先輩刑事だったワケですね。とんでもない警察署があったもんですw

破天荒さでは引けを取らない七曲署のホープ=DJ刑事とコンビを組んで、鮫やんの大暴れが久々に炸裂する痛快作。コメディセンス抜群なお二人による丁々発止の掛け合いも大きな見所です。

鮫やんは『太陽』セミレギュラー陣の中でも私が一番好きなキャラクターで、演じる藤岡琢也さんもまた、この番組に呼ばれるのが待ち遠しいほどお気に入りだったそうです。


#713 エスパー少女・愛

本作が『太陽』最後の2時間スペシャルとなりました。実力派のアイドル女優として注目されてた工藤夕貴さんをゲストに、初めて超常現象ネタを扱った意欲作です。

とは言え、そこは『太陽』らしく荒唐無稽なSFもどきに陥る事なく、ささやかな超能力(テレパシー受信)が、思春期の女子にありがちな不安定さのメタファーとして描かれてるんですよね。あくまで人間ドラマであり、青春ドラマなんです。

工藤夕貴さんの思い切りの良い演技が素晴らしかったです。当時のアイドル女優さんの中でもずば抜けてると思います。

お陰で2時間があっと言う間の傑作エピソードになりました。主役のドック&ブルース(又野誠治)コンビ=自称ブルドックコンビのノリも快調で、素晴らしい!


#715 山さんからの伝言

死んだ山さんがかつて担当した事件に残された謎。スコッチ(沖 雅也)路線から山さん路線にシフトする兆候が見られてたデューク刑事(金田賢一)によって、その謎が解明されます。

ところが本件を最後に、デュークは海外研修に旅立っちゃう。最終回まで残り3話だと言うのに!w クール系の刑事は任期が短い伝統があるとは言え、なんとも中途半端なタイミングの降板でした。

実は賢一さんの舞台出演との兼ね合いがあったそうで、かくも七曲署への思い入れが浅い感じがまた、孤高のキャラを最後まで貫いたデュークらしいと言えば、らしいです。


#716 マイコン、疾走また疾走

このサブタイトルだけで笑いが取れるマイコン刑事(石原良純)は、やっぱり笑いの王様ですw まさにタイトル通り、元陸上選手の奥様に「お願いだからカメラの前で走らないで」と言わしめた、良純さんの華麗なる疾走がたっぷり堪能出来るエピソードです。

『太陽にほえろ! PART2』ではマイコンの主演作が創られなかった為、事実上これが最後のマイコン活躍編となりました。名残惜しいですw

いやホント、放映当時はガッカリさせられてばかりだったマイコンですが、今になって観直せば、他の番組も含めて似たようなキャラが見当たらない、唯一無二の貴重な存在かも知れません。ホント、こんな面白い刑事はどこにもいませんからw

これほどマイコン刑事を愛してる私も、たぶん貴重な存在だと思いますw


#718 そして又、ボスと共に (終)

体調に回復の見込みが無いって事で、石原裕次郎さんがついに『太陽にほえろ!』降板を発表しちゃいました。

日テレとしては新しいボスを迎えて番組を継続する意向で、加山雄三さん等が候補に挙がってたほか、15周年にはなんとアフリカ・ロケまで予定されてたんだとか。

だけど、石原プロ側が番組の終了を強く要望したんだそうです。私は、それで正解だったと思ってます。加山雄三さんも悪くはないけど、やっぱり石原裕次郎の存在が無くなっちゃうと『太陽にほえろ!』は完全にカラーが変わっちゃう。

たとえ時々欠場する事があったにせよ、裕次郎ボスのオーラがいつも七曲署には存在してましたからね。だから渡哲也さんの代理ボスには違和感が無かった。渡さんの背中に裕次郎さんの魂が感じられますから。

かくして1986年11月14日(私の誕生日イブですw)、『太陽にほえろ!』は最終回を迎える事になりました。ブルースが、かつてやむなく射殺した凶悪犯の兄(遠藤憲一)に撃たれ、瀕死の重傷を負ったまま監禁されてしまいます。

もうこれ以上、部下を死なせたくない! その想いを胸に、ボスが帰って来ます。

犯人の妹を自ら取り調べたボスは監禁場所を聞き出し、橘警部らがブルースを救出。すんでのところで仲間を失わずに済んだ藤堂チームは、再びボスの指揮の下、一丸となって捜査に向かうのでした。

新人刑事があわや命を落とさんという危機を、ボス達が必死に救出する話は『太陽』じゃ定番とも言えるもので、私としては「14年以上続いた番組の最終回にしては淡白やなぁ」ってのが正直な感想でした。

ところが面白い事に、つい最近、何かの雑誌で「心に残る最終回ベスト10」みたいなアンケートを実施したところ、なんと第1位にこの『太陽』最終回が選ばれたんだそうです。これまで放映されて来た(記憶に新しい『家政婦のミタ』等も含む)全ての連続ドラマの中で1位ですよ?

それは恐らく、この最終回が結果的に裕次郎さんの遺作になっちゃった事実が、大きく影響してるものと思われます。裕次郎さんはこの翌年に亡くなられたんですよね。

それだけじゃなくて、ボスが犯人の妹を説得する7分強にも及ぶシーンが、全て裕次郎さんのアドリブだった!っていう裏話が色んなメディアで紹介された影響もあるんでしょう。

ボスの芝居がアドリブである事は、私も当時放映を観ててすぐに判りました。その場面だけはボス=藤堂俊介から離れて、ほとんど素の石原裕次郎になってましたからね。相手役の女優さんがまた、異常に緊張されてるのが伝わって来たしw

で、その時に裕次郎さんが実感をこめて語った内容が、命の尊さ、生きるという事の素晴らしさだったりするもんだから、今じゃ「裕次郎さんの遺言」みたいに解釈されてるワケです。

でも、裕次郎さんはただ『太陽にほえろ!』がずっと描いて来たテーマを最終回で総括されただけ……もっと言えば、ブルースの命を何としても救いたい!っていう、その場面におけるボスの心情を、普通に演技として表現されたに過ぎないのかも知れません。

それが翌年の死をきっかけに伝説化され、アンケートで1位になるほど世間に浸透しちゃうワケですから、やっぱり超大物、スーパースターたる所以ですよね。至急、国民栄誉賞を検討すべきですw

『太陽にほえろ!』の終焉は、裕次郎さんの病状悪化というアクシデントにより急きょ決まった為、現場は色々と大変だった事と思います。

気の毒なのは、颯爽と登場して僅か1クールで番組が終わっちゃった、DJ刑事=西山浩司さんですよね。スニーカーの山下真司さんが最も不遇な新人刑事って、前に書きましたけど、DJは不遇というより不運でした。

ただ、西山さんはこの後も『太陽にほえろ! PART2』『ジャングル』『NEWジャングル』と、4作品をまたいで刑事を演じる唯一の俳優になりますから、かえって美味しかったと言えるかも?

で、私自身はどんな心境で『太陽』の終焉を迎えたかと言えば、意外と冷静だったような気がします。

この当時の私は本格的に自主映画の製作を始め、私なりの『太陽にほえろ!』と言える刑事物に取り組んでる最中でしたから、ちょうど『太陽』依存から抜け出して自立しようとしてる時期でした。

だから『太陽』が終わって落ち込むという事も無かったし、むしろ自分が大人に脱皮する絶好の機会かも?って、私にしては珍しくw、前向きに捉えてました。

よもや、それから30年以上経ってもこうして熱く語っていようとは、夢にも思わなかったですよw ちっとも卒業出来てない! かなりショックですw

だけど、この連載の初回に書いた通り、生粋の『太陽』ファンにはこういう人が多いんです。それだけ凄い番組だったって事です。私のせいじゃありませんw

実際このブログでも、色んな記事が流れ去って行く中で、この『太陽』シリーズだけは常に閲覧数ベスト10に入ってる位、コンスタントに読まれてます。これは私も予想外でした。

CS放送はもちろん、地上波でも最近、地方ローカル局でマカロニ編、ジーパン編、テキサス編がゴールデンタイムに放映されてたりしますから、新たに興味を抱いて訪れてくれた読者さんも少なくないかも知れません。

だから、これからも『太陽にほえろ!』の記事はちょくちょく書いて行こうと思ってます。七曲署ヒストリーにはまだ続きがあるし、驚くべき事に私自身が、まだまだ語り足りてないw

そんなワケで、これからもよろしくお願いします!
 
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『誇りの報酬』最終回

2019-01-22 12:00:12 | 刑事ドラマ'80年代









 
☆第49話『さらば、いとしのデカたちよ』(終)

(1986.9.21.OA/脚本=長野 洋/監督=木下 亮)

最終回は、芹沢刑事(中村雅俊)が見た悪夢として「マシンガンで蜂の巣にされる芹沢&萩原(根津甚八)」の姿が映像化された以外は、特にスペシャルな要素もなく、ことさら熱い場面もなく、いつも通りにフワ~っと事件を解決して終わっちゃいました。これが'80年代なんですよね。

10年前の『俺たちの勲章』最終回では、刑事の仕事に絶望した五十嵐(中村雅俊)が辞職し、相棒の中野(松田優作)は左遷されるというほろ苦い挫折が描かれてました。

たったの10年で隔世の感がハンパないですよね。テレビドラマの作風がこれほど極端に変わった10年間って、他に無いんじゃないかと思います。

当初は『俺たちの勲章パート2』として企画された『誇りの報酬』だけど、シリーズ中盤で結城刑事(伊藤 蘭)が加入した頃にはもう『~勲章』の面影を全く感じないほど軽い内容になってました。捜査も銃撃戦も遊び感覚で、そこに緊迫感はカケラもありません。

そして最終回で描かれた銀行強盗は、金持ちのボンボンたちによるゲーム感覚の犯行でした。田沼課長(柳生 博)は「これが新人類ってヤツか、私には理解出来ない!」って驚き、嘆くんだけど、翌週からスタートする『あぶない刑事』に登場した犯罪者たちは、まさにそんな新人類のオンパレードでした。

だから『誇りの報酬』は『俺たちの勲章』の続編というより『あぶない刑事』の前身、あるいは雛形と呼んだ方がしっくり来ます。

決して『あぶない刑事』は突然変異的に生まれた斬新な作品じゃなくて、あくまで『誇りの報酬』からの流れを引き継いだ刑事ドラマ。そこにセントラルアーツの行き過ぎた遊び感覚と、舘ひろし&柴田恭兵の卓越したダンディズムが加わって、化学反応的に生まれた偶然の産物。言わばマグレの傑作なんですよねw

だから柳の下のドジョウを狙った類似番組はことごとくコケちゃった。マグレで生まれた面白さを「狙って」再現するのは、まず不可能ですから。

もし仮に『あぶない刑事』がコケてたら、日本のアクション系刑事ドラマの歴史はそこで終わってたかも知れないって、今回あらためて『誇りの報酬』を観直して私は思いました。なぜなら、正直言って『誇りの報酬』があまり面白くなかったから。

それはリアルタイムで観てる時も感じてました。なんか、中身が無いなあ、なんの後味も残らないよなあって。それは『誇りの報酬』だけじゃなく、当時のアクション系刑事ドラマ全般に感じてた事です。

作品の質が落ちたというよりも、刑事ドラマが年配層向けと若年層向けにハッキリ二分化されたせいかも知れません。『私鉄沿線97分署』や『はぐれ刑事純情派』等の流れと、『西部警察』『誇りの報酬』等の流れ。前者はより大人向けに、後者はより子供向けに内容がシフトし、当時ちょうどその中間にいた私には、どちらもマッチしなかった。

幅広い層に向けて創られた『太陽にほえろ!』が長い歴史に幕を閉じ、その後継番組『ジャングル』がヒットしなかったのも、そんな二分化の流れにそぐわなかったから、なのかも知れません。

長年『太陽にほえろ!』を観て育った私自身も、その流れには乗れなかった。だから、私よりもっと若い世代から観た『誇りの報酬』の印象は、また全然違うのかも知れません。もし『あぶない刑事』さえ現れなかったら、『誇りの報酬』はもっと伝説的に語り継がれる存在になっていたかも?

……とまぁ、やや辛口の総評になっちゃいましたが、本放映以来ずっと観る機会が無かった『誇りの報酬』をやっと観られたこと、若き日の雅俊さんや甚八さん、伊藤蘭さんのアクション、'80年代独特の空気を味わえたこと、そして刑事ドラマの歴史における本作の存在価値を再確認出来たことは、とても有意義でした。

そんな機会を与えて下さった「さかいこういち」さんに、あらためて深く感謝申し上げます。本当に有難うございました!

ちなみに私のお気に入りエピソードは、遠藤憲一さん扮するマッドなスナイパーと芹沢が対決する#03『賭けをするなら命がけ』と、阿藤快さん扮するマッドな連続殺人鬼と萩原が対決する#18『真昼の挑戦者』の2本。1対1のタイマン勝負物に弱いみたいです。

そして今回のセクシー画像は、最終回ゲストの井丸ゆかりさん、当時21歳。『3年B組貫八先生』の学級委員長役でデビュー後、あの素晴らしいボインぼよよ~ん!を活かしてグラビアアイドルとしてご活躍。

活動期間は短く、テレビの出演作は4本しかWikipediaに記載されてませんが、それはたぶんレギュラー番組に限定されてるから。

なのでそこには載ってないけど、ちょうど『誇りの報酬』最終回と同時期に『太陽にほえろ!スペシャル(#713 エスパー少女・愛)』にもゲスト出演されてます。(しかも『~報酬』レギュラーキャストの1人・宮田恭男さんとカップル役)
 
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