古希からの田舎暮らし

古希近くなってから都市近郊に小さな家を建てて移り住む。田舎にとけこんでゆく日々の暮らしぶりをお伝えします。

橋田寿賀子の「安楽死」は甘い。

2018年06月29日 04時10分11秒 | 古希からの田舎暮らし
『渡る世間は鬼ばかり』などテレビの脚本をいっぱい書いている橋田寿賀子さんは、大正14年生れでいま93歳です。彼女の去年書いた『安楽死で死なせて下さい』はよく読まれています。図書館で借りて読んでみました。
 夫は30年前に死に、子どもはいません。思い残すこともない。いつ死んでもいい。認知症になったり寝た切りになって醜態をさらす前に。 …… というようなことを書いています。引用してみます。

 
 ある程度の年齢になったら、深刻な病気でなくても、「もうそろそろ、おさらばさせてもらえませんか」と申し出る権利ができてもいいのではないか、と思います。もちろん自殺はダメですから、高齢者本人の意思をちゃんと確かめて、家族も親戚も納得して判を押したら、静かに安楽死できる。そういう制度が日本にあってもいいと思います。
 
 安楽死を認める法律を、日本でも作ってください。 …… いまは「安楽死したい」と口にしている人だって、そのときになったらどうするかわかりません。制度を使うかどうか選ぶ権利は一人ひとりにあるのだから、それでいいです。
 現実には、私が生きているうちに法律が施行されることはないでしょう。だからスイスへ行くつもりです。お手伝いさんには、「私が死にに行くときは、70万円もってついて来てね」と頼んであります。お骨を持って帰ってもらわないといけませんからね。
 ……  
 やるだけのことはやってきて、思い残すこともないから、私はいつ死んでも悔いはありません。あの世で会いたい人もいないし、死に対する恐怖も全然なくて、寝てるようなものだろうと思っています。
 安楽死させてくれるなら、いますぐ喜んで逝きますよ。と言いながら、ちょっとまだ勇気が出ない。死ぬのも面倒くさいというかね。

※ スイスでは安楽死が「自殺ほう助」という形で認められています。自殺ほう助団体の会員のみ。医師2人が診断、実施後は警察が現場を捜査する。会員登録すれば外国人も適用可能。
 次は宮下洋一の『安楽死を遂げるまで』(2017年12月・小学館)から引用します。

 
 テーブルの横には、小さなボトルがあった。これが自殺幇助に使われる致死薬である。ビデオカメラを高い位置に設置している。 …… 患者が死に至るまでの一部始終を録画することが義務付けられている。 …… 
 …… 点滴をスタンドにかけ、プライシック(女性医師)が老婦の左腕に針を差し込んだ。手首にストッパーを装着し、テープで固定した。
 これですべて用意は整った。これからドリス(安楽死する婦人)にいくつか質問するため、ストッパーの操作に気をつけるようプライシックが注意を促した。
 ……
「私はあなたに点滴の針を入れ、ストッパーのロールを手首に着けました。あなたがそのロールを開くことで、何が起こるか分かっていますか」
「はい、私は死ぬのです」
「ドリス、心の用意ができたら、いつ開けても構いませんよ」
 …… わずかに息を吸い込むと、自らの手でロールを開き、そっと目を閉じた。
 …… 午前9時34分、プライシックが聴診器で心拍数を測り、死亡を確認した。苦しまず、安らかに逝ったドリスの頭部を、彼女は幾度となく撫で、「あんたは、なんてすばらしい女性だったでしょう」と、老女の耳元で囁いていた。

 
 宮下洋一は多言語を自由に話し、広く取材してこの本を書いています。安楽死の現場も取材しています。読みながらドキドキします。「人間の安楽死」を追う彼の鋭さに、読むのを中断することも。前の本と次元がちがう。人間の/生きること/死ぬこと/の重さが、ズシッと胸にこたえます。

 
コメント
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