前略、ハイドン先生

没後200年を迎えたハイドン先生にお便りしています。
皆様からのお便り、コメントもお待ちしています。
(一服ざる)

NHK総合 『ここは今から倫理です。』

2021-01-25 22:52:47 | テレビ番組
私の高校時代、一年時の社会科には、日本史、世界史、地理のほかに
現代社会1・現代社会2という科目がありました。

現代社会1は
主に第二次世界大戦後から現在にかけての歴史や国政などを学ぶ授業だったと思います。

そして、現代社会2は「倫理」の授業でした。


当時は生徒数も多く
一クラスに40人以上、一学年に8~9クラスくらいあったと思います。
ですから、同じ教科でもクラスによって担当する先生が違うこともありました。

私のクラスの現代社会2を受け持った先生は、ちょっと変わった人でした。
(仮に「T先生」とします)

古代ギリシャの哲学者、ゼノンのパラドックスについて議論したり
「パパラギ」(はじめて文明を見た南海の酋長ツイアビの演説集)という
本の一節をテキストに使ってみたり
井上陽水や中島みゆきの歌(歌詞)について考えてみたり・・・


都会では 自殺する若者が増えている
今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけども問題は今日の雨 傘がない
行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ
君の町に行かなくちゃ 雨にぬれ
(井上陽水「傘がない」)


私 本当は目撃したんです 昨日電車の駅 階段で
ころがり落ちた子供と つきとばした女のうす笑い
私 驚いてしまって 助けもせず叫びもしなかった
ただ恐くて逃げました 私の敵は 私です
ファイト! 闘う君の唄を闘わない奴等が笑うだろう
ファイト! 冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ
(中島みゆき「ファイト」)


あの時(高校一年の時)
私よりも少しだけ早熟で大人だった同級生達は「青臭いことを」と
馬鹿にしていたのかもしれません。
私よりも少しだけ幼かった同級生達は「意味わかんない」と
退屈に感じていたのかもしれません。

でもあの時、こういう"世界"が強烈に心に突き刺さる人達もいました。
そしてそれは(大袈裟ではなく)生涯に渡ってその人に大きな影響を与え続けます。
正に"あの時"に出会ったからこそ。


1月16日からNHK総合で『ここは今から倫理です。』というドラマがスタートしました。
(雨瀬シオリさんの漫画が原作のようですが未読です)

主役の山田裕貴さんが演じる「高柳先生」に、あの時の「T先生」の姿が重なります。

あの時と同じように
このドラマ(漫画)の言葉が強烈に心に突き刺さる人達がいるのでしょう。
それらは決して多くはないかもしれませんが、必ず。


だから、物語の生徒達と同じように
16歳の時にT先生と出会い、あの授業が心に突き刺さった生徒は
30年以上経って中年になってもなお、このドラマを観て「高柳先生」の言葉に涙するのです。



刑事コロンボ 『殺しの序曲』

2021-01-09 15:28:15 | テレビ番組
NHK-BSで「刑事コロンボ」が毎週再放送されていますが
先日、コロンボシリーズで一番好きな作品『殺しの序曲』が放送されました。
(一番好きといっても全作品観ているわけではないですが)


(オリジナルは1977年放送・第40話)


人口上位2%の知能指数(I.Q.)を持つ者だけが入れる国際的なクラブ
「シグマ協会」の会合中に起きた殺人事件。

犯人の会計士は、自分の不正を暴こうとした共同経営者の友人を殺害。
メンバーと談笑中に殺人が行われたようなトリックを用意していますが、
その天才が考えた巧妙なアリバイ工作をコロンボが解いていきます。


日本語版の『殺しの序曲』というタイトルは
チャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」のレコードがトリックに使われ
作品中も頻繁に曲が流れるからですが、なかなか"粋"なタイトルですね。


物語に出てくる「シグマ協会」は、高I.Q.団体「メンサ」がモデルだと思いますが
犯人役を務めたセオドア・ビケル(バイケル)さんもメンサの会員だったようです。


彼は作中で「I.Q.が高いこと(天才)」故の苦悩(十字架)について吐露し
彼ら(シグマ協会会員たち)を「退屈でエキセントリックなだけだ」と評します。
しかし、そんな彼ら(天才たち)の中でも"自分が一番だ"というプライドが垣間見れます。

コロンボがトリックを一つ一つ暴いていき、最後に犯人を追い詰める場面では
正にその"プライド"を利用して、彼から「自供」を導き出します。


この辺り、他の作品とは違った犯人との丁丁発止も、この作品が好きな所以であります。
(そして自分のトリックを見破ったコロンボに対する感嘆の言葉も)


ちなみに、物語途中に出てくる
秤を1回だけ使ってニセ金貨を見つけ出す問題とかも面白いですよ。

NHK・Eテレ 『浦沢直樹の漫勉 neo』

2020-11-21 11:51:00 | テレビ番組
NHK・Eテレで漫勉の新シリーズ『浦沢直樹の漫勉 neo』が10月からスタートしました。

これまで不定期に4シリーズ放送されていましたが、再放送などで知って観ていました。
今回は最初からリアルタイムで視聴しています。
今、一番楽しみにしている番組です。




『漫勉』は、漫画家の浦沢直樹さんが仕掛け人となり、
毎回一人の漫画家さんの制作風景を無人の定点カメラで数日間撮影し
後日、お二人でその映像を見ながら、漫画について語り合う番組です。

私はプロ・専門家の方同士が、その専門分野について話しているのを
見聞きするのがとても好きです。
勿論、話が"高度"になり過ぎて理解できない点が多い場合もありますが
プロならではの視点、拘り、共感し合う姿には、いつも感心させられます。


登場する漫画家さんは浦沢さんご自身が尊敬されている、
あるいは興味を持たれている方を選んでいるのだと思いますので
その方々の作品や特徴などにお詳しいのは当然かもしれませんが、
それ以外にも、漫画・漫画家に関する膨大な知識はさすがです。

それに加えて、浦沢さんは話が非常にうまい。
専門的なこと(漫画語)を、わかりやすく(日本語に)"翻訳"してくれるので。
他の人とは違う、その方のオリジナリティ、真似できない高度な技法、
一コマのカットに込められた意図など、一流のプロならではの視点で明らかにしてくれます。

ご自分よりもずっと若い漫画家さんに対しても
"尊敬できる同業者"として接する姿は観ていてとても気持ちがいいですね。


それにしても、現在の姿にまで「進化(深化)」した日本の漫画は
紛れもなく(日本画や浮世絵の延長線上にある)芸術の一分野であることを
認識させてくれます。


ところで、新シリーズスタートに際して
オープニングで流れる「漫勉のテーマ」も健在だったのでよかったです。

「まんべ~ん」と繰り返すだけなのですが
2回目の「まんべ~ん」のビミョーな音程が、もうたまらない。
頭から離れないです。


<追記>
2020年11月12日放送回、ゲスト漫画家は諸星大二郎さんでした。
多くの漫画家から尊敬を集め「漫画家の中の漫画家」と言われているそうです。
途中、浦沢さんが一番好きな作品だという「カオカオ様が通る」について
次のように語られていました。

僕これ、すっごく衝撃で「何これ!?」(と思ったんですよ)。
「何これ!?」って思うものを世に出すことって
本当に素晴らしいなと思うんですよね。

なんか、芸術の本質のような気がしました。

NHKスペシャル『藤井聡太二冠 新たな盤上の物語』

2020-10-10 23:01:02 | テレビ番組
「将棋の神様は、なぜこの少年を選んだのだろうか」

将棋の大会で負けて激しく泣きじゃくる8歳の少年の姿にこの言葉が重なります。


NHKスペシャル『藤井聡太二冠 新たな盤上の物語』を観ました。

史上最年少(14歳2か月)でプロ棋士となり、史上最年少(17歳11か月)で
初タイトル(棋聖)を獲得した藤井聡太さんのドキュメンタリーです。


将棋は駒の動かし方やルール、多少の専門用語を知っている程度で「指せる」とまでは言えませんし
解説などを聞いても、その意味や凄さは正直理解できません。

興味を持ち始めたのは、やはり羽生善治さん(永世七冠)が登場した頃からでしょうか。
トッププロの思考や将棋を極めようとする姿は、数学や物理学の難問と格闘する
天才数学者・物理学者のそれと似ています。

何がどう凄いのかはよくわからないが、途轍もなく"凄い"ということはわかる
という感じでしょうか。


前に「ドキュメンタリー番組はカッコいい」というエントリーでも触れましたが、
羽生善治さんが七冠を達成した時のドキュメンタリー番組にこんなナレーションがありました。

「誰もが皆、思っていた。チャンスはもう二度と廻っては来ないと。だが、将棋の神様はこの青年を愛していた」

それからおよそ30年。また一人、将棋の神様に愛された棋士が現れたのです。




将棋のトッププロ達の実力の差は"紙一重"だと言われます。
その中で勝ち続けるための"差"はどこにあるのか?

羽生さん自身のインタビュー記事や、羽生さんについて書かれた本などを読むと
勝敗とは別に「将棋」というものの本質を見極めようとしているように感じました。


七冠達成後、芥川賞作家・保坂和志さんが書かれた「羽生 21世紀の将棋」という本の中に
「コンピュータとの将棋」についてのインタビュー記事が転載されています。

当時(1995年)は、コンピュータ将棋は人間(プロ棋士)に歯が立ちませんでした。
その原因を羽生さんは「人間のレベルが低いから」と答えていました。
コンピュータといえども人間がプログラミングするものである。
その人間がまだ、将棋のことをよく理解できていないのだから・・・という意味です。


近年のAIの急速な進化に伴い、AIを搭載した将棋ソフトはすでに人間(プロ棋士)を凌駕しています。
(2017年、当時の名人・佐藤天彦九段が将棋ソフト<ponanza>に二連敗しました)
現在最強といわれるAI搭載の将棋プログラム「アルファゼロ」は
人間の考え方がいっさい入っていないAIだそうです。

「人間vs(人間がプログラミングした)コンピュータ」から
本当の意味で「人間vsコンピュータ(AI)」となった時代に現れた、将棋の神様に愛された青年。

インタビューなどを聞いていても、藤井さんはまだ自分が言いたいことを
上手く言葉にできていないように感じます。
(羽生さんは「将棋語」を「人間語(日本語)」に"翻訳"するのが上手でした)


ある"5つの条件"を満たすゲームには必勝法が存在するそうです。
(ツェルメロの定理と呼ばれています)
将棋もその条件を満たしているので(理論上)必勝法が存在します。

「この先、もしAIが将棋の必勝法を見つけてしまったら・・・」という問いかけに対して
羽生さんはこのように答えました。
「その時は、駒の動かし方を変えればいいんです」


今後、藤井さんが将棋について、そして"世界"について何を語るのか興味深いです。

NHK『フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿』

2020-07-08 20:31:45 | テレビ番組
NHK『フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿』という番組で
「強制終了 人工知能を予言した男」と題して
天才数学者、アラン・チューリングが取り上げられていました。


『フランケンシュタインの誘惑 科学史 闇の事件簿』

アラン・チューリングは第二次世界大戦中、
暗号解読部門の責任者としてナチス・ドイツの暗号機「エニグマ」の解読に携わりました。
ベネディクト・カンバーバッチ主演「イミテーション・ゲーム」として映画化もされましたね。


文系人間なので数学や物理学の方程式や数式は全然わからないのですが
不完全性定理やら複雑系やらの「入門書」を読むのは好きですので
「エニグマ」解読者、「チューリングマシン」提唱者として名前は以前から目にしていました。

ですが、「エニグマ」解読に係わっていたこと(解読に成功したこと)などが
終戦後も長らく超極秘(ULTRA SECRET)であったために、
チューリングの業績(というか才能)が正しく認知・評価されたのが
亡くなった後だったということは、この番組を観て初めて知りました。
(1954年に41歳で亡くなっています)


アラン・チューリング

波乱に満ちたチューリングの人生も興味深いのですが
実は最も驚いたのはチューリングの物語そのものではなく、番組最後に紹介された
「人工知能学会倫理委員会」が公布している「倫理指針」(2017年2月28日公開)でした。


「倫理指針」のうち、1~8は「安全性」や「社会に対する責任」など
科学者・開発者への倫理的要請で、どれも「人工知能学会会員は」の文言で始まります。
ですが、最後に次のような一文(指針9)が加えられています。


9  (人工知能への倫理遵守の要請)
人工知能が社会の構成員またはそれに準じるものとなるためには、
上(1~8)に定めた人工知能学会員と同等に倫理指針を遵守できなければならない。


私たち(人類)は、アイザック・アシモフが提唱した「ロボット工学三原則」を超えて
人工知能に「倫理」を要請するようになったのでしょうか。
もしくは、要請せざるを得ないほど人工知能の「進化」のスピードが速いのでしょうか。


「衝撃」を胸に、この後、妻と一緒にAmazonで「ターミネーター ニュー・フェイト」を観たのでした。


人工知能が社会の構成員となるためには倫理指針を遵守できなければならない