前略、ハイドン先生

没後200年を迎えたハイドン先生にお便りしています。
皆様からのお便り、コメントもお待ちしています。
(一服ざる)

テレビ東京 『美の巨人たち~松島図屏風~』

2012-05-20 21:44:50 | 美術関係
昨日のテレビ東京『美の巨人たち』で取り上げられたのは、
尾形光琳の『松島図屏風』でした。

日本にあれば間違いなく国宝になるべき作品ですが、
現在収蔵されているのはアメリカのボストン美術館。
琳派芸術が忘れ去られた明治時代に、
アーネスト・フェノロサによって海を渡りました。


いわゆる「光琳波」と呼ばれるS字に屈曲する図案化された模様が
金泥、銀泥、墨で空にまで描かれています。
波を上空から捉えたような視点と、岩を水平に捉えた視点が混在しています。
(番組ではセザンヌのキュビズムの先取りと評していました)




琳派の作品は結構観ている方ですが、この作品は初めて知りました。
『風神雷神図屏風』と同様、琳派の先達、俵屋宗達の同名の作品を参考に
描かれたそうです。
(但し『風神雷神図屏風』のような模写ではありませんが)


琳派の系譜は、江戸時代後期の酒井抱一の後、明治に入り途絶えたとされています。
番組では、海を渡った琳派の作品が与えた影響の一つとして、
クリムトの作品を紹介していました。


ところで先日、
三菱一号館美術館で「KATAGAMI Styke 世界が愛した日本のデザイン」
という展覧会を観てきました。

着物などの染色に使われた型紙のデザインは海を渡り、
西洋の美術工芸デザインに大きな影響を与えました。
そして、その型紙に描かれている波のデザインの多くは「光琳波」です。

確かに日本では琳派の系譜は途絶えたかもしれませんが、
その"デザインの核"は、すでに日常生活の中に深く根付いていると感じました。

『薔薇の名前』 (ジャン=ジャック・アノー監督)

2012-05-19 19:13:37 | 舞台・映画など
小説『薔薇の名前』は、1986年にジャン=ジャック・アノー監督によって
映画化されています。

見習修道士"アドソ"をクリスチャン・スレーターが、
師である"バスカヴィルのウィリアム"をショーン・コネリーが演じています。


小説が映画化されることは別に普通のことですが、
「原作」と「加工されたもの」(映画化、舞台化されたもの)は本来全くの別物です。
比較して"ああだ、こうだ"言うべきではないですし、
そもそも「原作」を超えることなんて不可能でしょうから。

どちらも同時に手に取ることができる状態にあれば、やはりまず「原作」に目を通します。
映像化されたものを観て、変な先入観を持たないように。


ですが今回、『薔薇の名前』は映画を先に観ました。結果それがよかったです。
建物(修道院)や特徴的な登場人物などがある程度イメージできたおかげで、
この物語はずっと読みやすくなったと思います。

もともと翻訳物は苦手で(名前が覚えられない、風景がイメージできない等々)、
その上、中世キリスト教世界ともなれば、普通に読んだらまず"玉砕"でした。


個人的には、原作のミステリー的な部分を強調したように感じました。
もっとも、記号的側面、「書物のための書物」といった側面は、
文字通り書物だからこそできるわけで、それを映像化するのは困難でしょうが。


それにしても、この映像!(映像美とはいいません)
建造物からセットから、登場人物達の"異様"な姿まで!
これだけでも観る価値、観た甲斐があります。

異端審問官ベルナール・ギー役のF・マーレー・エイブラハムは
『アマデウス』でサリエリを演じた方です。
原作とは違い、異端審問官ギーは最後に自身が"裁き"を受けますが、
これは映画的なカタルシスとなっています。


そんな中、"バスカヴィルのウィリアム"役のショーン・コネリーだけが
宗派の違いというだけでなく、どこか"現代の人"のような違和感を受けます。
でもその違和感も当然のこと、意図したことなのかもしれません。

修道僧として神に仕える身でありながら、彼(バスカヴィルのウィリアム)は
別の「神」、知識という名の神に仕えている・・・そう見えますので。