前略、ハイドン先生

没後200年を迎えたハイドン先生にお便りしています。
皆様からのお便り、コメントもお待ちしています。
(一服ざる)

J.S.バッハ(ブゾーニ編曲) : ゴルトベルク変奏曲(塚谷水無子)

2018-07-28 17:36:35 | ゴルトベルク変奏曲
フェルッチョ・ブゾーニ編曲、バッハの『ゴルトベルク変奏曲』を聴きました。
演奏(ピアノ)は塚谷水無子さんです。





ブゾーニによるバッハ作品の編曲といえば「シャコンヌ」が有名です。
というより「シャコンヌ」位しかパッと思い浮かばない
という方が正確でしょうか。

恐らくコラール前奏曲などの小品は、いくつか耳にしているとは思いますが。


バッハの『ゴルトベルク変奏曲』は、ありきたりですが
グールドの演奏(新録音の方)で知りました。
もう30年位前でしょうか。

熱狂的なグールド・マニアという訳ではありませんが、大変好きな演奏で
クラシックCDの中では一番聴いている演奏かもしれません。


自分にとって、『ゴルトベルク変奏曲』に対して一つの転機が訪れたのは
ヴァイオリニスト、シトコヴェツキーによる
「ゴルトベルク変奏曲(弦楽三重奏版)」を聴いたことでした。

「グレン・グールドの思い出に」と添えられたこの編曲版は
確かグールドの没後何年かを記念したシンポジウムで
初披露されたと記憶しています。
グールドの新録音盤の解釈をかなり忠実に再現した演奏です。

「グールドのゴルトベルク変奏曲」の弦楽三重奏版、といった感じでしょうか。


でもこの演奏を聴いて、改めて『ゴルトベルク変奏曲』の素晴らしさを知り
またグールドの偉大さを再認識しました。





グールドの演奏がなければ、ここまで「ゴルトベルク変奏曲」が
メジャーな曲になっていなかったのでは、と思います。
この曲の、そしてバッハ作品の可能性を無限に広げたきっかけだと。


そして、シトコヴェツキー弦楽三重奏版は、図らずもグールド同様に
『ゴルトベルク変奏曲』の可能性を世に知らしめた名盤だと思っています。

その後も、シトコヴェツキーによる弦楽合奏版を始めとして
オルガン版、ギターデュオ版、金管五重奏版などなど
様々なアレンジによる「ゴルトベルク変奏曲」が存在しています。
どれも皆、「ゴルトベルク変奏曲の可能性」の表現です。
(好きでいろいろ買い集めています)



バッハの作品の多くは、没後長らく忘れ去られていたと言われています。
それらは演奏会で聴くものではなく、教会音楽あるいは練習曲だと
思われていたようです。

「バッハ復興」の一つは、メンデルスゾーンによる「マタイ受難曲」復活上演です。
1829年、バッハ没後、初めての上演でしたが、カットや楽器の改変などもありました。
ただそれは、その時代にあった「バッハ」を演奏することで、当時の人々に
バッハを理解してもらおうという意図だったようです。


そして、ブゾーニもまた、「バッハ復興」を目指した人でした。
それがバッハ作品のピアノ編曲であり、この『ゴルトベルク変奏曲』です。



私は長年クラシック音楽を聴いていますが、楽器も弾けず楽譜も読めません。
音楽理論を知っているわけでもないですし、自分の「耳」に自信があるわけでもありません。

このような編曲版を、オリジナルに対する冒涜、あるいは「ゲテモノ」と
嫌う人も多いかもしれません。


ただ、私は聴いていて涙が溢れてきました。

「なんと美しく愛に満ちた演奏(編曲)だろう」と。


編曲版を創って演奏する人たちは、おそらくその曲を誰よりも愛しているのでしょう。
この曲への、そしてバッハに対するブゾーニの愛と尊敬とが満ち溢れています。
(そして、塚谷水無子さんのバッハ、ブゾーニに対する愛と尊敬も)


「アリア・ダ・カーポ。ラルガメンテ(アリア)。
 ・・・ゴルトベルクとの別れを惜しむかのように拡大されたコーダ・・・」
(ブックレットより)

ダ・カーポ・アリアの最後。美しく切なく悲しげで・・・感動的です。
まさに別れを惜しむように、ゆっくりと、静かに繰り返される・・・


シトコヴェツキー版を初めて聴いた時と同じような感動を覚えました。

『ゴルトベルク変奏曲』まさに無限の可能性を秘めた曲です。


そしてこのCD、私にとっては繰り返し、繰り返し聴く「愛聴盤」になりそうです。



CDのブックレットには、曲の解説だけでなく、作曲家・演奏家ブゾーニについても
塚谷水無子さん自身によって詳しく書かれており、大変ためになります。

バッハのオルガン曲をピアノで再現するために最低音域を広げたピアノの開発を
ベーゼンドルファーに依頼したのが、他ならぬブゾーニだそうです。

この演奏でもベーゼンドルファーの「Model 225」という92鍵のピアノが使われています。



(追記 2018/08/13)

CDの帯にはこのように書かれています。

「ブゾーニはバッハの作品にいったいどんな魔法をかけたのだろう?」

まさに私はブゾーニと塚谷さんの魔法にかかってしまったみたいです。