東京都現代美術館で『靉嘔(AY-O)ふたたび虹のかなたに』を観てきました。
靉嘔さんは1931年、茨城県出身の日本の美術家です。
タイトル通り、虹色で描かれた作品が中心です。
背景から人物から、輪郭線を廃し、七色のグラデーションで表現されます。
最初に観たときは「虹そのものが芸術だ」と感じました。
しかし虹色で埋めつくされた絵を何枚も何枚も観ているうちに、次第に"苦痛"を感じてきました。
色が人の気分や精神に影響を与えることはよく知られています。
例えば、床・天井・壁が全て赤色の部屋に入れられると、イライラして攻撃的になったり、
逆に青色の部屋では心が落ち着いたり・・・。
同じ温度設定でも、赤(暖色系)の色の方が暖かく感じるとか・・・。
七色同時に、しかも大量に見続けたせいか、かなりの疲労感を覚えました。
作者は描いていて、精神に変調を来さなかったのでしょうか?
やはり「虹」は微かに、そしてごく稀にしか見られないからこそ美しいのでしょう。
初期の作品には、顔のない人形のような、オレンジ色の人物が描かれています。
一見すると、キース・ヘリングの絵に登場する人を彷彿とさせますが(年代的には靉嘔が先)、
大きく異なるのはキースの平面に対し、遠近感を強調していることです。
『田園』という作品は、腕を組み力強く行進する人々の姿が迫ってきます。
とても印象的な絵なのですが、後期になるとその絵までが虹色に・・・。
なんだか少し哀れな感じすらしました。
もっとも心惹かれたのは『風神雷神について』という作品です。
左右二枚ずつ四枚の襖に、箒やスコップ(だったと思います)など様々なものが
カラフルなスプレーで型抜きされています。
そこには最早、風袋を持つ風神の姿や天鼓を持つ雷神の姿はありません。
でも左右四枚という形式と『風神雷神図屏風』を知っている私たちは、
その絵に何がしかの意味を見出そうとします。
俵屋宗達に始まり、尾形光琳、酒井抱一と続く琳派の系譜と『風神雷神図屏風』。
(ちなみに私はやはり宗達の「風神雷神」が一番好きです)
靉嘔の『風神雷神について』は、その延長線上にあるわけではありませんが、
胸騒ぐものを感じずにいられませんでした。
(絵の裏面には黒のスプレーで描かれたもう一つの『風神雷神について』がありました)
同時開催していた企画展『田中敦子 - アート・オブ・コネクティング』や常設展も面白かったです。
常設展では、以前にも紹介した
中村宏さんの作品が観られました。
一つ目のセーラー服の少女たち・・・一見してわかりました。やっぱり凄い!