前略、ハイドン先生

没後200年を迎えたハイドン先生にお便りしています。
皆様からのお便り、コメントもお待ちしています。
(一服ざる)

『ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー』 (東京オペラシティ ARTGALLERY)

2011-05-22 01:06:16 | 美術関係
東京オペラシティアートギャラリー
『ホンマタカシ ニュー・ドキュメンタリー』展を観てきました。

写真および写真をもとにしたシルクスクリーンが中心で、ドローイング、映像作品もありました。


会場入口から続く「Tokyo and My Daughter」や「Windows」といった作品は
私には正直、単なるポートレイトや風景写真にしか観えず、何かを感じ取ることはありませんでした。

ただ「写真の意味」を説明する余計なキャプションがない分、そこから先は各自の自由です。


「Trails」という作品は、知床で鹿狩りに随行して撮影したとされています。
真っ白な雪の上に、赤い「液体」が枯れ枝などとともに写っています。

普通に考えれば撃たれた鹿の「血」ですが、絵の具を「血」らしく垂らしたようにも観えます。
(「Trailsのためのドローイング」という絵も一緒に展示されています)
大きいサイズの写真を1点ずつ配置したり、小さいサイズをいくつも並べたりと
レイアウトも含めて不思議な印象をもたらす"謎めいた"作品でした。




出口前に「Short Hope(ポートレイトとして)」という映像作品がありました。
年老いた男性がマッチで煙草に火を点ける姿が、焦点を変えて撮られています。
(写っている男性はホンマが敬愛している写真家・中平卓馬という方だそうです)

短い映像ですが見入ってしまいました。

映像の"意味づけ"は作者にとっていろいろあるのかもしれませんが、
私は単純に"その映像"(マッチで煙草に火を点ける姿)がカッコいいと感じました。


もしかしたら男性と女性、または喫煙者と非喫煙者とでは感想が違うかもしれません。

2009年の時点で厚生労働省の調査によると喫煙率は23.4%だそうです。四人に一人以下です。
私(一服ざる)は名前の通り、その少数派に含まれます。

普段はライターですが、マッチを擦るという行為、マッチで煙草に火を点けるという行為が好きですし、
その姿を(映像作品の中で)見るのも好きです。
時代に逆行するような発言で恐縮ですが。


「写真」はまだまだ観るときの"勘所"がわかりませんが、
タイトルに「ドキュメンタリー」とついた作品展にしては、観る側の"自由度"の高い
展覧会だったと思います。


<追記>
上層階で開催されていた
『収蔵品展037 李禹煥と韓国の作家たち』と『projectN45 クサナギシンペイ』も面白かったです。

李仁鉉「月夜23」「月夜24」という作品はリトグラフで乳白色の和紙に黒色で月を表したものですが、
23よりも24の方が微妙に濃い色で表現されています。
恐らくは月齢に合わせて1~30?まで徐々に黒くなっていく連作なのではと思われます。
絵の具ではなくリトグラフで作られたところが興味深いです。
是非、全作観てみたいと思わせる作品でした。

エルガー 交響曲第3番 (N響定期公演)

2011-05-15 12:05:12 | NHK交響楽団
N響定期公演に行ってきました。

曲目は

  ウォルトン チェロ協奏曲
  エルガー 交響曲第3番(ペイン補筆完成版)

  指揮:尾高忠明
  チェロ:スティーヴン・イッサーリス

BBCウェールズ交響楽団の首席指揮者を務めた経験もあり、
イギリス音楽を得意とする尾高さんらしいプログラムです。

渋いというか、マイナーというか・・・。


イギリスの作曲家というと、昨年聴いたブリテンの他、
ホルスト、ヴォーン・ウィリアムズ、ディーリアスなどが思い出されますが、
どれも聴きやすいというか、素朴、わかり易い、といったイメージです。
(ヘンデル大先生はドイツからの帰化なので除きます)

ウォルトンは昔、CDですが戴冠式行進曲や交響曲第1番を聴いたことがあります。
あんまりよく覚えていませんが、面白かった(わかり易かった)記憶が・・・。


ですが、1956年に作られたチェロ協奏曲は大分印象が違いました。
なんとも"捉えどころ"のない曲、といっては失礼かもしれませんが。

現代曲というような"難解さ"とまではいかず、
かといって親しみ易い、明快な旋律が登場するでもなく、
緊張感や静謐さ、というものでもない。

終楽章(第3楽章)は変奏曲ですが、
第2、第4変奏はカデンツァのようなチェロ独奏、対して第3変奏はオーケストラのみ。
何かよく"変奏"がわかりません。

曲冒頭と最後に出てくるヴィブラフォンが幻想的な雰囲気を醸し出しましが、
全体としては(繰り返しになりますが)なんとも"捉えどころ"がない・・・。


エルガーの交響曲第3番は1932年に作曲が開始されましたが、
翌年にはエルガーは病床につき、1934年に亡くなった時に残されたのは127枚のスケッチのみ。
それをイギリスの作曲家ペインが1997年に補筆完成させました。

遺稿による作曲の進み具合からすると第2楽章以外は
「遺稿の断片と他のエルガー作品流用によるペインの創作」とするのが正しいそうですが、
結構演奏される機会が多いようです。


聴いた印象はというと、こちらも"捉えどころ"がないというか・・・。
各楽章ごとの"風景"の違いはありますが、一つの楽章の中でのメリハリがなく、
始まったら最後まで同じような調子で進んでいきます。
第3楽章アダージョ・ソレンネでは、久々に睡魔に襲われました。


ところで・・・
長年、N響を聴いていて今回のような演奏会(曲)の時、思うことがあります。
(何か傍証があるわけでもなく、またうまく言葉で表現できないのですが)
それは「こういう曲をN響は実に"上手"に演奏するなあ」ということです。

まあ、滅多に聴かない(聴こうと思わない)曲なので、他の演奏と比較のしようがないのですが・・・。

それ故、私はULTRAVOXを神の如く愛するのである~『RAGE IN EDEN』~

2011-05-13 00:25:19 | ULTRAVOX
クラシック音楽のCDの中で自分にとっての究極の一枚は、以前にも書きましたが
ホルヘ・ボレットが演奏する、フランクの「前奏曲、コラールとフーガ」です。

では、クラシック音楽以外ではというと
ULTRAVOXの『RAGE IN EDEN』(邦題:エデンの嵐/1981年)というアルバムになります。
ボレットのフランク同様、究極の一枚です。

それには理由があります。


当時、私は「アール・デコ」という美術様式を知り、すぐにその魅力の虜になりました。
ですから『RAGE IN EDEN』を買ってそのアルバムジャケットを観た時、
これはアール・デコの影響を受けているなあ、と感じました。



これです。
『RETURN TO EDEN』のCD&DVDもタイトルを変えただけで同じデザインです。


収録されている曲は9曲ですが、あるテーマのもと驚くほどの統一感があります。
勿論、どんなミュージシャンもアルバムを制作する際には
多かれ少なかれ何らかのテーマ、コンセプトがあるとは思いますが、それとは次元が異なります。
全体が一つの物語を形作るような・・・。

それを示すかのように、全ての曲がフェードアウトで終わり次の曲へと続きます。

一箇所だけ"例外"があります。3曲目のタイトル曲「Rage in Eden」です。
ただ、これには"仕掛け"があります。
徐々に音がモノラルになり、ラジオのチューニングが合わないような雑音が混入してきて
「カチッ」とスイッチを切るように曲が終わります。

そして次の曲「I Remember(Death in the Afternoon)」は
「We turned the dial, We heard the news~」という歌詞で始まります。

この心憎いほどの演出。ちゃんと「物語」は続いています。


曲調と歌詞からは、1920~30年代のヨーロッパのイメージが想起されます。
そのイメージは、後に観たPVの登場人物の衣装やセットに
そしてフロントを務めるミッジ・ユーロの「オールバックの髪型に口髭」
というスタイルにも表われています。

いつしか『RAGE IN EDEN』というアルバムは、その全てにおいて
<音楽によってアール・デコの美学を表現したのではないか>
と感じるようになりました。


『RAGE IN EDEN』が発売された時
このジャケットデザインに関して「盗作疑惑」が持ち上がっている
との情報を友人から聞きました。
当時はその真偽のほどや、どんな絵に類似しているのかなど確かめる術もなく
またあまり詮索する気もありませんでした。

現在、『RETURN TO EDEN』のジャケットにも同じデザインが使われていますので
もし「盗作騒動」が本当だったとしても、良い方向で解決したのでしょう。


ただ、元になった絵はおそらくアール・デコの時代のポスターなどではないか
と思っていましたが、後になってその「元絵」と思しきものを見つけました。

アール・デコを代表するポスター画家、カッサンドルの「パリの祭典」という絵です。




この絵を観たときに、『RAGE IN EDEN』が
<音楽によってアール・デコの美学を表現したのではないか>
という仮定は自分の中で確信に変わりました。

実際、メンバーが何を表現しようとしたのかわかりませんし
このアルバムについて何か発言しているのかも知りません。
でもそれは、私にとってどうでもいいことです。
私の「確信」が、私にとっては「絶対」なのですから。

第2期1stアルバム『VIENNA』には、第1期(ジョン・フォックス時代)の影響が色濃く残っています。
それに比べて『RAGE IN EDEN』は、ULTRAVOX独特の幻想的な面や暗翳と
ミッジ・ユーロのいい意味でのポップさやファッショナブルさ、ダンディズムが
絶妙なバランスでブレンドされています。


アール・デコの美学を音楽で表現した唯一のアルバム・・・

完璧です。



<余談>
第2期でフロントを務めたミッジ・ユーロという人をご存じない方も多いと思いますが
有名ミュージシャン達によるチャリティーソングの先駆けとなった
バンド・エイド(Band Aid)の「Do They Know It's Christmas?」の作曲・プロデュースを行ったお人です。

ULTRAVOX時代は「オールバックの髪型に口髭」というスタイルからか
「クラーク・ゲーブルばりの・・・」といわれたダンディな方でした。


現在(『RETURN TO EDEN』)ではスキンヘッドになっていましたが、それでもカッコいい。
「ユル・ブリンナーばりの・・・」といったところでしょうか。