地球にあしあと

地球の色々なところに足跡をつけてきました。

カミーノにあしあと 12

2010年09月20日 | Weblog
【12日目】7/7(水) Grañon → Tosantos
7:40 アルベルゲで朝食を済ませ、出発。

出発時にスィナが紛失したらしいサングラスをキムが見つけて渡してくれた。
後日、キムから「実はあの時、スィナのサングラスを渡しておきながら、自分もまたサングラスをあのアルベルゲに忘れてしまって、途中の町で買った」と聞いた。

カミーノでは実に色々な物を紛失する。
私も一度帽子をどこかで落としてしまった時、慌てて来た道を戻ると、向こうからやってきたポーランド人チームが拾ってくれていたことがあった。
巡礼者同士、落し物を拾ったり拾われたり。


さて、今日はLa Rioja州を出てCastilla y León州へと入る。
他の巡礼者の話では、もうここら辺はメセタの走りだということ。
ブドウ畑は姿を消し、麦畑が続く。

歩き始めてすぐに出会った地元のファーマーのおじさんが “¡Buen Camino!”と両頬にキスをしてくれた
地元の人からはしょっちゅう声援は受けるが、キスまでしてくれるのは珍しい。



州境にてスウェーデン人のマリアと記念写真を撮る。
彼女は今日がカミーノ最終日。




いつも一緒のスィナとも。




マリアは歩くペースが遅いので、ここで一旦さよならをし、スィナと2人で先に行く。
あ~、誰かとお別れするのはつらいなあ。



しばらく行くとMP3プレーヤーで音楽を聴きながら歩いているフランス人巡礼者が、私にも音楽を聴かせてくれた。
なかなか年季が入ったMP3で、液晶部分を親指でしっかり押さえていないと音が止まってしまう代物だけど
なんだか壮大な音楽で、周りの景色が違って見える感じ。
が、ボリュームおっきすぎて耳が痛いし、その時は車も通るような道を歩いていたので、後ろから来た車の音とか聞こえなくて危険

音楽の次に、「いいものを聴かせてあげる」と言って聴かされたのは、ノートルダム寺院の鐘の音。
ああ、これも結構カミーノらしくて雰囲気あっていいかも
かなり長い間プレーヤーを借りて聴きながら歩いた。

なんでもこのフランス人の青年、「鐘が大好きで、鐘職人になりたいぐらい」だそうだ。
自らをベルフリークと呼ぶ。
日本には行ったことないけど、日本のお寺の鐘もかなり気になっている模様。
話してみるとかなりの不思議君だったけど、こういう出会いがなかなか面白い。
途中、小さな村の公園にあったブランコに乗ったりして、童心に帰ってなかなか楽しい日だった。



マリアとお別れしてさみしいなと思っていると、途中休憩のバルでまた再会したので、そこから先は一緒に歩く。
今日のマリアの予定は、Grañon から15kmほど先のBeloradoまで行き、そこからバスと列車を乗り継いで友達を訪ねるとのこと。

マリアと「カミーノって本当に景色が奇麗だし、すばらしいよね~」と語り合う。
するとマリアが「カミーノを歩いていると、まるでスペイン中の虫が観察できるみたいよね」と。
そう、その通り
カミーノを歩いていると、足元に日本のものより巨大で真っ黒なナメクジをはじめとして色んな虫に出会う。
「足元のアリの行列を踏まないように気をつけて歩いたりね~」
「たくさんの蝶々が舞っていて、パラダイスみたいだよね~」
と、考えていること、感じていることがみんな同じだと知って嬉しかった。


スィナはこの日、マリアからスウェーデンの歌を習っていた。
熱心に歌詞もノートに書いてもらっている。
私は歌詞を覚えることにはあまり興味なかったけど、ずっとスィナが練習しているのでメロディは覚えてしまった。
その日以降、カミーノを歩きながらふとその歌のメロディが浮かび、ハミングしながら歩くことがよくあった。
帰国した今もはっきりとメロディは覚えている。



Beloradoに到着。
最初に出てくる私営アルベルゲは設備が整っていそうな感じ。
バルと簡単な食料品店が併設されている。

いつもの通りコーラで乾杯
お腹も空いているので、バルのショーケースに並ぶタパスの中からおいしそうなものをいくつかピックアップして注文。

マリアはバスの出発までに数時間あるので、バルで時間をつぶすしかない。
しばらくはおしゃべりしていたけど、そのうち疲れが出たのかテーブルに突っ伏して眠り始めた。

スィナと私はまだ先へ進むけど、眠っているマリアを起こしたくないので、そっと3人分のお勘定を済ませ、紙ナプキンに書いたメッセージをそっと彼女のそばに置いてバルを立ち去った。
ナプキンに書いたメッセージは、スィナがマリアから習った歌の最後の一節。
「友と別れる時は、涙なしではいられない」

本当にうるっと来たけど、マリアとはまた会えますように。



Beloradoを出てRio Tirónを渡ろうとした時、イタリア人のキアラ、デンマーク人のピーター、そしてノリコさんの3人に遭遇。
彼らに誘われ、しばし川で遊んで行くことにした。

早朝にアルベルゲを出発し、一目散に次の目的地へ行く巡礼者は多いけど、私とスィナの巡礼はかなり寄り道も休憩も多くてゆっくり。

荷物を下ろし、靴を脱いで川に足を浸けてみると、めちゃくちゃ冷たい!
なんかもう、私は水が冷た過ぎて足が痛くて長くつけてられなかったけど、ノリコさんはじめ他のみんなは割と平気そうに長時間足を浸けている。
う~ん、私ってヤワなのか?

ピーターが足のマメを冷やしていたので、「私の足の裏はマメがなくて奇麗だよ~ん」と見せてあげると、称賛された。
そしてスィナが「カミーノ上で最も美しい足」と評してくれた。



今日は川で寄り道もしたので、ちょっと遅めの17:00頃にTosantosへ到着。
ここにはアルベルゲが1軒のみ。
そしてここも昨日に引き続きCasa Parroquial=教会系の運営。




アルベルゲ前の犬は、巡礼者が連れて歩いている犬。
確かキラとか言う名前の人懐っこい犬だったが、なにせ汚いのでなでなですると手が真っ黒に…。
ノミとかも移るんじゃないか…?



アルベルゲの前にはバルが1軒あるのみで、そこではディナーをやっていないので、自動的にアルベルゲでみんなで食事ということになる。
おしゃべり好きのスィナもさすがに2日連続Parroquialは嫌みたいだったけど、他にオプションがないので仕方がない。


宿代は寄付ベースだったので、翌朝出発前に食事込みで10ユーロ払った。
昨日のGrañonのアルベルゲには15ユーロ払った。
5ユーロの差はワインが出たか出ないか…


昨日と同じく床に直接マットを敷いて寝るタイプのアルベルゲ。
ノリコさんやピーターは先にもう到着していた。

アルベルゲのすぐそばの丘の上に教会があるらしく、Parroquial系のアルベルゲの常として、そこで夕食前に集いをやるから希望者は参加するようにとのこと。
急いでシャワーと洗濯を済ませ、集合。

地元の教会守みたいなおばさんに連れられ、丘を上る。
長距離歩いた後にまた上り坂って…


そこは丘の上の岩に洞窟のように掘られた小さな教会で、とても素晴らしかった。
写真撮影は禁止。
いつもにも増して神聖な場所という気がする。

そこでおばさんから教会の歴史やら何やら説明を受けるが、オールスペイン語なのでぼんやりとしか分からない。
さらには、また巡礼者の母国語でお祈りの言葉を言うようにとの指示が回ってきた。

スィナに「ど、どうしよう!お祈りとか分かんないし」と言うと、カトリック教徒のはずのスィナも「私も何言っていいか分からないけど、オランダ語で何か言うから。あなたは日本語で言えば他の誰も分からないから大丈夫よ!」とのこと。

英語ネイティブは英語で、フランス語ネイティブはフランス語で、ドイツ語ネイティブはドイツ語でそれぞれお祈りの言葉を言い、スィナはオランダ語、私は日本語で何か言っといた。

そのあとおばさんの指示で女性が一人、後ろの席でクラリネットを奏ではじめた。
岩の洞窟にある教会で、クラリネットの調べを聞く、なんとも幻想的なひととき。



一通り儀式が終わり、最後に教会内のノートに記帳する。
いつもながら日本語で感想を書いて教会の外に出ると、先に記帳を終えて外に出ていたスィナが泣いていた。

「今日は母の命日で、母はマリア様を深く信仰していた」と、泣きながら話すスィナ。
そうか、今日は特別な日だったんだね。
特別な日に特別な出来事があって、きっと偶然じゃないんだね。
と、スィナの背中をさすって慰める。

スィナがしばらく泣いているので、「今日は日本では七夕という日なんだよ」と七夕の話をしてあげる。
なんとなく、ちょっとでもお母さんの命日の慰めになればと思って。


アルベルゲに戻るとさっき教会でクラリネットを吹いていた子が、アメリカ人のキムと一緒に座っていた。
どうやら地元の人ではなく、巡礼者だったらしい。
イタリア人のジーナ。
オーケストラに所属しているプロのクラリネット奏者だとか。
クラリネットをリュックに入れて巡礼してるなんて驚き。

キムはいつも早朝に出発し、午前中には次の目的地に到着している。
でもこんなTosantosみたいな何もないところに午前中に到着してしまっても、やることなくて暇じゃないのかな?


ディナーはオスピタレロ達が作ってくれたものを全員で頂く。
昨日ノリコさんとあまり話ができなかったので、今日は目の前の席だったので話してみる。

するとノリコさんは西洋人の言動について色々と質問してきた。
「なんで西洋人って話の中に擬音語とか擬態語とか多いんですかね?」
「なんでリアクションがあんなに子どもっぽくて、オーバーなんですかね?」

う~ん、彼らはそういう文化で育ってるからさ

逆に周りの人からノリコさんは「なんでいつもニヤニヤ笑ってんの?」と聞かれたらしい。
典型的な日本人のリアクションしてるもんね、ノリコさん


私も西洋人には慣れているとはいえ、ちょっと気になっていたことを口にしてみる。
「実はさあ、スィナが結構差別的な発言とかするんだよね。あれってヨーロッパ的にはOKなのかな?」

そう、スィナは例えば筋肉痛や足の故障でヨタヨタ歩いてる人を見ると、「ここはまるで老人ホームね」と茶化して言ったり、杖をついて歩いている老人や足の不自由な人を見て「私たちもきっとあんな風になっちゃうわよね」と笑ったり、なんか配慮がない発言をするよな~と、実はすごく気になっていた。
しかも “crippled”と言う単語を使うので、余計に心にざらりとした不快感が残る。
個人的なものなのかな~?
オランダ人特有のものなのかな~?


それはさておき、食事の前にオスピタレロの一人がみんなにウェルカムの挨拶をし、そしておもむろに巡礼歌「ウルトレーヤ」のサビの部分を歌い始めた。
私はこの歌を知っていて歌詞も持っているので「あ、巡礼中にウルトレーヤを聞けてラッキー」と思い、ふと歌っているオスピタレロを見上げると、何やら見覚えのある顔。

あ!!!
巡礼前に友の会会員のNさんが教えてくれたYou Tubeに出てたのと同じ人だ!
どうやらこのアルベルゲに泊まった巡礼者の誰かが、ウルトレーヤを歌う彼の姿をビデオ撮影し、それをYou Tubeに乗っけたものらしい。
ビデオとほぼ同じアングルで見上げて初めて同じ人だと気付いた。

なんという偶然
帰ってNさんにも報告しなければ。

そのオスピタレロには、食後に話しかけようかと思っていたけど、食後はどこかへ姿をくらましてしまっていたので、話せなかった。
その場で「あ!You Tubeの人!」とか言わなかったのは、本人が自分の映像がYou Tubeで流れているのを知っているのかどうか分からなかったから。
もしかして勝手に投稿されてて不快に思うかもしれないし。



食後、国道を挟んだ向かいのバルへ。
今日はワールドカップ、スペイン対ドイツで盛り上がっている。
また、Pamplonaの牛追い祭りのニュースも気になるところ。

テレビの前は満席だったので、テラスからちょこちょこ店内のテレビを気にしつつドリンクを飲む。

デンマーク人のピーターが、私が持ってる地図本をいたく気に入り、ISBN番号をメモっていた。
Nさんに教えてもらって購入したこの地図、他の巡礼者からもかなり人気で、巡礼中何度も「これいいね!どこで買ったの?」と聞かれた。
多くの巡礼者は分厚くて重いガイドブックを持ってきていたので、薄くて軽くて、それでも必要最低限の情報が載っているこの本は超人気

スィナがオランダから持ってきたガイドブックも相当重い。
しかも地図部分は全く活用していない。
スィナは私と一緒に歩きはじめてからすっかり私に頼るようになっており、その日歩く予定距離や目的地すら把握していない状態。
休憩時などに他の巡礼者から「今日はどこまで行くの?」と聞かれると、必ず「ねえ、ユウコ、今日はどこまで?」と振ってくる。
教えてあげた地名はその場限りでスィナの右耳から左耳へと消えていくので、1日に何度もこのような会話が繰り返される

そして宿泊地に到着して、シャワーも洗濯も終わった頃にようやくスィナが分厚いガイドブックを取り出し、「今日通ってきた村にはこんな歴史があるんだって」と事後情報をくれる。
もういいんですけど


しばらくピーターと話していると、バルの中にいたキムも出てきて参加。
フロリダ出身のキムは学校の先生をしていたけど、自分がやりたい仕事ではなかったので仕事を辞めてカミーノに出発したとのこと。
夢はニュージーランドにペンションを買い、アルベルゲのようなB&Bを経営することらしい。
もうある程度計画は具体化してきているらしく、カミーノが終わった後はドイツに住んでいる両親を訪問し、そのあとフロリダには帰らずニュージーランドに行く予定。

一見、具体的な夢を持っていて順調そうに聞こえるキムが実は一番心に問題を抱えていたことが後で分かる。
キム曰く「もう30歳を過ぎたのに結婚もしてないし、これからどうしようか考えたくて」ということでカミーノを歩いているらしい。
スウェーデン人のマリアも似たようなこと言ってたし、国が変わっても30代女子の悩みは共通のようだ。





本日の歩行距離:約23km
本日の歩数:34,620歩