hinajiro なんちゃって Critic

本や映画について好きなように書いています。映画についてはネタばれ大いにありですのでご注意。本は洋書が中心です。

The White Tiger 読了

2010年09月27日 | 洋書
 The White Tiger 読み終わりました。
 実は読み始めたのは5月だったのですが、あまりに面白くてあちらこちら持ち歩いているうちに紛失。最近買いなおして一気に読み切ったのでした。

 低い身分で貧しい家庭出身、親に boy と呼ばれるだけで、名前すらつけてもらえなかった主人公。学校へ行って先生に初めて名前をつけてもらうのですが、それも「仕えるもの」という意味のもの。しばらくは生まれた町で身分相応の仕事をこなしていましたが、大きな町へ出て裕福な家の運転手になることに。
 そんな彼が主人を殺し、盗んだお金でビジネスを成功させるに至った過程を、中国の首相に宛てた書簡の中で明らかにする、という話。

 何が起こったか、が作品の中心ではなく、そこに至るまでの主人公の生活ぶり、心情の変化などを丁寧に書いたものです。次に何が起こるかワクワク、ドキドキというのとは違うけれど、どうしょうもなくグイグイと引っ張られる文体には驚きます。
 とても特徴的なのは主人公がものすごく観察力のある人物で、自分自身のことであるにも関わらず離れたところから客観視しているような思考をするところです。
 前半は彼の暮らしぶり、主人の家族の横暴ぶりが描かれており、我慢に我慢を重ねて、ついにキレてしまい殺人に手を染める過程が描かれているのかと思うのですが、不思議なことにそれもまた違うんですね。「その時」はフラリとやってくるのです。
 
 読者はフィクションではありますがインドの一面を知り、驚愕し、切なく思い、それでも明るく真っ直ぐに生きる主人公に安堵し、彼のユーモアのセンスに微笑み、血なまぐさい場面に眉間にしわを寄せ、お金を手に入れた主人公の変わりようを残念に思い、最後にしんみり・・・と、ここでまた一行面白い文があってプッと吹き出してしまうんですけど。
 読み終わった後に、色々な思いを抱くことでしょう。
 私の評価 迷うところなく 10 out of 10

 ちょっとインド人とカーストについての脱線話を。
 今でこそどこに住んでいるのかわからなくなるくらいインド人に囲まれて暮らしていますが、子供たちが就学する前はお付き合いしているインド人が二家族でした。とても対称的なP家とB家。
 P家はママは医者、祖父は法廷弁護士、パパは・・・開業準備中?
 話の流れで「医者か弁護士と結婚しなくても良かったの?」と訊ねたら、「Patel同士だったので祝福してもらえた」とのこと。名前やカーストって大事なんだなーと。
 一方、B家は掃除機も洗濯機もなく、教育もままならないビレッジ出身者(同じカースト)同士での結婚。そこの奥さんがこう言いました。

 「カーストは上下じゃないよ。貧富の違いでもない。ただグループが違うだけ」
 
 White Tiger の主人公を始め、登場人物はカーストは明らかに上下、貧富ととらえています。同じ低いカーストながらも、個人の下についてその差を思い知らされる毎日を過ごしている者とそうではない人たちの違いなのでしょうか。

 その友だちは、インドでは教科書を渡されただけで英語教育を受けたことがなかったけれど、とても頭のいい子で、こちらで英語を習ったらものすごい速さで上達していました。
 彼女のようにたくさんの賢い子が教育を受けられずにいるのかと思うと残念でなりません。だけど彼女と話していると、そういう風に考えること自体もなんだか違うのかな、という気もしてきました。
 
 今後読む予定のある方は、ぜひ私の持っているこの表紙の本を買ってみてください。
 The White Tiger タイトルも表紙のイラストもとても象徴的で素晴らしいです。
 一つだけ気になるのが裏表紙の内側。作者の顔写真がアップで載っているのがちょっと・・・上の部分がおでこまでで切れるくらいのどアップにした意味はなんだろう、って。

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