『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  570

2015-07-17 10:35:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 クレタ海を駆け巡る風<シロッコ>、浜辺で行う作業は気持ちいい。芽ぶき萌える山野草、若葉の香り、花盛るアーモンド、春、まっただ中の季節である。
 パリヌルスは、ドックスの取り仕切る新艇建造の場を見廻った。瞬時まどろむ。まぶたに浮かぶ風景、風をはらみ波を割って駆ける新艇、艇上にはテカリオンがおり、スダヌスが操舵する、イリオネスが何事かを吠えている、見知らぬ者たちが漕ぎ座にいる、ふりかかる飛沫、情景が去来して消えていく。
 声が聞こえる、俺を呼んでいる。
 『パリヌルス隊長、ここでしたか』
 ギアスが来た。
 『お~お、ギアス、帰って来たか。今日のキドニアはどうであった?変わったことはなかったか。新しい話題、ニュース、噂でもいい。あったら聞かせろ。世の中の移り変わり、それを知らないと、世の中と歩調を合わせて進んでいけない。例えばだな、俺たちが先をいっていると思っているが、あに計らんや、とんでもない時代おくれであったとか。また、世の中が必要としていること、ようするに時代のニーズだ。あまりに先に行ってもどうにもならんことがあるが』
 ギアスが耳を傾けている。
 『なあ~ギアス、俺が今言ったこと愚痴に聞こえるか?』
 『いえ、その様なことはありません。正当な理論を話し言葉で言われたことだと聞きとめましたが』
 『お前、うまいこと言うな。まあ~、そこに座れ』
 二人は砂の上に腰を下ろした。
 『今、ここで、お前と話したいことが二つある。まず一つ目だ。明日にでもと言いたいが、その様なわけにもいかん。明後日から、キドニア行きには、ヘルメス艇を使え』
 『そんな、いいのですか?』
 『明日、話し合って、そのようにしておく』
 『判りました。ありがとうございます』
 『ところでギアス、今日、キドニアで、どのように過ごした?』
 『私ですか、今日の私は、オロンテス隊長に従って、パン売り場に立ちました』
 『ほう、それは結構であったな。いいことだ。人と接することはいいことだ。他人の話が耳に入ってくる。耳に入ってくる話、聞き捨てに出来る話しもあれば、聞き捨てに出来ない話もある、そこなのだ』
 『そうですね』
 『今日、、お前が聞いた話で聞き捨てに出来ない話を俺に語って聞かせろ。俺はそれを聞きたくて、お前を呼んだのだ。考えてみろ、今、集落以外の人に接しているのは、オロンテス隊長と集散所で売り場に立っている者たちとギアスお前だ』
 『言われてみればそうです』