『トロイからの落人』 FUJITIVES FROM TROY 第７章 築砦 571

　今度、手がける新艇のトレードに関してパリヌルスは、情報の収集と発信、それらの操作の必要を感じた。パリヌルスが、この時代、『情報』という言葉でこの案件事態を把握したか、しなかったかは定かではない。だが、『噂』という情報を入手、発信することに気づき、それを心がけ、事態に対処しようと心に決めた。世情にそのうわさがないのであればそのうわさを発信しようと考えた。
　『ところでどうだ、ギアス。今日耳にしたことで、俺に聞かせる話はないか？』
　『そうですねーーー』
　彼は首を傾げた。
　『今日、スダヌスがパンの売り場に姿を見せました。オロンテス隊長に問いかけた話は、新艇建造の話でした。もうひとつは、広場で耳にした話です。近頃、変わった形の帆を上げて海上を行く船を見かけたという話でした』
　『ほう、そうか。それは面白い』
　『それから、スダヌスが近近中にこちらへ来ると話していました。申し上げることはそれくらいですが』
　『そうか、ありがとう。それだけ聞けば十分だ。明後日からキドニア行きに備えてヘルメス艇を整備しろ！キドニア行きにヘルメスを使用する予定でいる。以上だ』
　『では、私はいきます』
　『おう、ありがとう。また、何かを耳にしたときは話してくれ』
　ギアスとの話を終えてパリヌルスは、はっと感じた。
　『オロンテスに新艇の建造状況を正確に伝えておかねばならんな。明日、オキテスと話し合う時、同席させる。これは１０日後を待ってはおれん。即、やっておかないといけない』
　ギアスと別れたパリヌルスは、オキテスの姿を探した。
　『おっ、居た居た。お～い、オキテス、聴いてくれ。明日の話し合いにだな、オロンテスも同席させる。それでいいな』
　『おう、承知した。俺は手が離せん、お前から伝えてくれ』
　『おう、了解！』
　パリヌルスは浜辺にオロンテスの姿を探した。浜にはオロンテスはいない。彼はパンの製造工房へと足を向けた。
　『おう、オロンテス、ご苦労！急ぎの用件がある』
　『おう、何だ？』
　『新艇のトレードの件についてだ。１０日後に話し合うことになった。その事前協議を明日、昼めしのあとに君とオキテス、そして、俺の三人でやる。明日のキドニア行きは交替して、ここにいてくれ』
　『判った。俺からも伝えておきた件がある。ちょうどいい機会だ。了解した。それから、スダヌスが近近中にこちらに来るといっている』
　『山行から帰って、久々の来訪か。それから、明後日からキドニア行きにヘルメスを使えばどうかも考えている。その件も案件意図に基づいて、明日話し合いたい。いいな』
　『了解した。新艇完成までに三カ月、考えてみれば、緊急案件だな、判った』