『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第4章  怒るアキレス  5

2007-09-18 07:09:06 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 クリュセスは、外衣を身にまとい憂いを湛えて、連合軍の幕舎をあとにした。
 波打ち寄せる海辺を、外衣のすそを早春の冷たい風になぶらせながら、歩んできた道をひきかえした。クリュセスの目は、怨念に燃えていた。
 海辺を離れ、小高い丘にたどり着いた。
 新しく芽吹いた草の緑が、二月の陽光に輝いていた。そこには、祈りの場にふさわしい張りつめた気があった。
 クリュセスは、ひざまずいた。そして、祈った。自分の祈りが、怨念が、あの男の心情を打ち砕き、愛娘を膝を屈して、我が手に返すことを祈った。

第4章  怒るアキレス  4

2007-09-17 08:33:21 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アガメムノンは、懇願する神官クリュセスの申し入れを聞いたが、心は拒否の念が占めていた。彼は、顔面に朱を注いで、神官のクリュセスに暴言を浴びせた。
 『老いぼれめ!この幕舎に、二度と来るな!神笏も神の御印もへったるけもないわ。そのようなもの役に立つと思うのか!馬鹿者め。俺はだな、あの娘を手放すと思うな。判ったか。何も言わずに出て行け!とっとと消えうせろ!』と怒鳴りつけて、追い出してしまった。
 老いた神官クリュセスは、アガメムノンを恐れた。その動作と言葉に恐れ従った。この屈辱に耐えた。胸にこみ上げてくる娘への熱い思いと、この屈辱を噛みしめた。

第4章  怒るアキレス  3

2007-09-15 09:22:06 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アガメムノンは、ホメロスと会見の後、取り巻きと戦況を話し合った。
 衛兵に付き添われて入ってきたのは、クリュセスと名のるアポロ神殿の神官であった。クリュセイスの父は、クリュセス。ちょっとまぎらわしい。カタカナで書くと娘の場合<イ>の字が一字多いのである。娘プリセイスの父は、プリセスとなる。
 アポロ神殿の神官クリュセスは、血を吐く思いで訴えた。
 『偉大なる統領のアガメムノン様。お願いがあって、貴方様を訪ねてまいりました。貴方様の軍団が先日の戦いで、戦利として私の大切な愛娘を連れ去りました。その娘が統領のアガメムノン様に上納されたクリュセイスなのです。何卒、その娘を返していただけないでしょうか。身の代としての贈り物を携えてきております。どうか、これを受け取って、娘を返してください。お願い申し上げます。神アポロの威光を畏みてお願い申し上げます。どうか、どうか、この願いをお聞き届け下さい。お願い申し上げます。』父クリュセスは、這いつくばって懇願した。

第4章  怒るアキレス  2

2007-09-14 08:01:55 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 その時、幕舎にクレタ島の領主のイドメネスが入ってきた。ホメロスは驚いた。
 『おう!ホメロス、どうした。元気そうではないか。』
 『ああっ!イドメネス様、お久しぶりです。王もこちらで、、、。』
 『いかにも、ホメロスこそ、何用だ。』
 『アガメムノン様に申し上げました。戦争を見せていただきたいと。』
 『お~お、そうか。許しをもらったのか。』
 『え~え、お許しをいただきました。何卒、よろしくお願い申し上げます。』
 『ここに何日ぐらいいるのか。よかったら俺の幕舎にとまれ。』
 『二ヶ月足らずくらいの予定なのですが。お願いできますか。』
 『判った。いいだろう。』
 イドメネスは、朝の打ち合わせを終えて、ホメロスを伴って、自陣に向かった。

第4章  怒るアキレス  1

2007-09-13 08:42:26 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 トロイ城市と連合軍の間の戦野では、各所で小競り合いが展開されている。
 アガメムノンの幕営に客人が訪れた。トロイの地からは遠くはないキオス島からの客人である。彼は、キオス島の王家に仕えているホメロス(初代)である。英雄たちの生き様を叙事詩として、劇的な語り口で詠う吟詠詩人なのである。
 アガメムノンは、会見に及んだ。ホメロスは希望を伝えた。
 『この戦争で活躍している英雄たちのことを物語として、後世に伝えていきたい。私が仕えている王も、この戦争の様相を話として聞きたいと申しております。貴方様の軍団の邪魔にならないように努めます。戦争の模様を見せてていただくわけには行かないでしょうか。謹んでお願い申し上げます。』
 『ホメロスとやら、その件は判った。了承しよう。まとまったところで、この幕営でも、二、三度、吟詠して欲しいが。ネストル、メネラオス、皆も、いいな。』

第3章  戦端を開く  18

2007-09-12 08:41:02 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 両軍とも、戦いに疲弊していた。何とも癒えない疲れが充満して、好戦的であるはずのギリシアポリス連合軍の軍団内部に厭戦的な空気が色濃く漂っていた。
 だが、食糧事情は別である。
 一月下旬。冬晴れの寒い日である。空は青く澄んで高かった。
 今度の襲撃は、トロイ近郊の町である。アキレスとデオメデスの軍団が中心となって、この町を襲撃した。兵士たちは、獰猛さをむき出して略奪を行った。この襲撃で、アキレスは、美しい乙女を二人、戦利として連れ帰った。一人は、アポロ神殿の神官の娘クリュセイスであり、この娘が戦利品として、アガメムノンにわたされた。アガメムノンは、軍団の統領として、常に、略奪品の中の最高のものを戦利として受け取っていたのである。もう一人は、プリセイスという名の娘で、襲撃成功の功績によって、アキレスのものとなった。
 そして、それから10日後の二月一日、ポリス連合軍の幕営本部に二人の訪問者が訪れた。

第3章  戦端を開く  17

2007-09-11 08:28:11 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 トロイ城市の城壁は、巧緻に、その上、堅固に構築されている。まさに攻めがたく出来ている。ポリス連合軍は、この城市を攻め落とす智恵が浮かばなかったのである。また、この城壁の外周には、トロイに対する援軍が幕営している。そのような状態も影響して、ポリス連合軍は、攻城及び篭城に対する諸作戦が実行できなかった。
 両軍は、そのような情況にあり、一進一退を繰り返し、決定的な勝利を収めることが出来ないでいた。戦いは10年目を迎えようとしている。
 戦いも長期間に及び、トロイ軍及びトロイ援軍の戦死者数も多く、戦場離脱者の数も目立ち、軍団の損傷が大きく、9年間の間に参加した兵数の6割は、いろいろな形でトロイから去っていた。連合軍の方も3割以上の兵数が失われていた。

第3章  戦端を開く  16

2007-09-10 08:35:24 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ヘクトルは、ポリス連合軍に対抗する、自軍の軍団の規模について、再考した。主だった将帥は、40人を超え、兵数も13万人を超えるのだが、近隣諸国からの援軍である。故に、眼前にいない、それが、心の落ち着きを失わせていた。眼前に幕営しているのは、5割強ぐらいと思われる。
 戦闘は、平地における衝突、果し合いであり、一人一殺でいけば、兵数の多い方が勝利するという公式で思考されていたようである。
 トロイ軍のストロングポイントは、堅固に出来た城壁、城郭を利しての守城戦の能力が優れていた。ウイークポイントは、年老いた王、年老いた側近、重臣等の抑制意向に推され、ヘクトルの連合軍に猛攻撃を加えるといった戦闘思考の発現の自由が抑制されていた。

第3章  戦端を開く  15

2007-09-07 10:06:02 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ポリス連合軍にとって、故国を遠く離れて、異国の戦野で戦っている。日々消費する食糧は大変な量である。兵士10万人と一口で言うが、人口10万余人の都市ひとつが、戦野に展開しているのである。連合軍の軍団は、トロイ近隣の、また、沿岸沿いの諸国を襲撃して、家畜、農産物等を奪って消費した。略奪した馬は、軍の使役に使い、娘たちを奪い奴隷とし、欲望を満たすために、これを凌辱したのである。
 アキレスの軍団は、コロナイの領主キュクノスが率いる軍団とヒサルリクの丘の麓の戦野で衝突した。キュクノスは、勇敢に戦ったが、アキレスの敵ではなく、戦場の露と消えた。コロナイの軍団の兵士たちは、戦意を失い、四散霧消していった。アキレスは、その勢いでコロナイ領に攻め込み、これを制圧して、その余力で隣国も攻め滅ぼし、膨大な量の食糧、家畜を奪い、莫大な財宝を戦利品として収奪した。