『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第9章  戦闘再開  11

2007-12-19 08:17:56 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 オデッセウスとデオメデスは、暗闇の中を忍んで、トラキア軍の野営陣に近づいて行く、見張りの者の有無を確かめた。トラキア軍も大胆である、見張りも立てずに寝ている、全く無防備な野営陣であった。二人は、陣中に入っていく、王レソスが近衛の将に囲まれて寝ている。二人に気付かない、剣を抜いた。叫び声をたてないように気配りをして、またたく間に12人の近衛の将の命を奪った。王レソスは、戦車の脇だ。二人は、瞬時に息の根を止めた。王の戦車の馬は、見事な白馬である。静かにつなぎ紐を解き、二人は、馬上の人となるや、自陣目指して疾駆した。野営陣を襲ってあげた戦果は大きかった。

第9章  戦闘再開  10 

2007-12-18 09:44:29 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『おい、名は何と言う。』 『俺の名か。ドローンだ。』
 『暗闇の中、何処へ行こうとしている。』
 『俺の行く先か、聞いてどうする。』
 『この真夜中に何処へ行って、何をしようというのだ。』
 『野暮用だ。いちいち、お前に言うことはないだろう。女のことだ、惚れた女がこの陣営に居るのだ。そこへ行って、用を済ませるだけだ。』
 『白状しろ。しないのなら、即、お前の命を絶つ!いいな。』 脅かされて、ドローンは怯んだ。
 『白状したら命を助けてくれるのか。』 『事の次第による。』
 三人は、二、三のやり取りをした。ドローンは、締め上げられて白状に及んだ。
 『俺は、ヘクトルの命令で、お前等の内情の偵察に来た。白状する。知っていることは、何でも言う。命だけは助けてくれ。お願いだ。身の代は、あとから届ける。お願いだ、助けてくれ。』
 オデッセウスは、にこやかに話しかけた。
 『よかろう。俺の質問に答えろ。お前の命をとったりはしない。安心しろ。トロイの陣地は、どうなっているか、俺に言え。』
 ドローンは、問われるままに、トロイ軍の事についてしゃべった。ドローンが、改めて命乞いをするところをオデッセウスは、ドローンの首を一刀のもとに斬りおとした。
 ドローンの話で敵情を知った二人は、再び、敵の陣営に向かった。ドローンの話に嘘はなかった。二人は、トロイ援軍のトラキア軍を襲うことにした。

第9章  戦闘再開  9

2007-12-17 07:56:18 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 デオメデスが声をひそめて話しかけた。
 『オデッセウスよ、おかしい。俺等は二人のはずだな。』
 『そうだ。』 その時、前方を黒い影が動いた。
 『あとを、つけろ。』
 『見失うなよ。』
 やりとりの言葉は短い。相手は、こちらに気付いてはいない。相手は、連合軍の陣営の方へ静かに歩を運んでいる。二人は、相手のまえうしろになるように位置を定めて、これを追った。
 『おさえろ!』
 二人は、同時に飛び掛って、これをおさえた。トロイ側の偵察者である。取調べに時間を掛けられない、訊問を開始した。
 『手っ取り早く、やってしまおう。』
 捕まったトロイの偵察者は、二人の会話に怯えた。

第9章  戦闘再開  8

2007-12-15 07:44:52 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 このとき、デオメデスの言った、アキレスの戦線復帰が、三日後に迫っていたのである。
 会議を終えて、アガメムノンは床に就いた。眠ろうとするのだが眠れない。昨日の負け戦さの何故が、敗れることの恐怖が、戦いのあれやこれやが頭を駆け巡った。添い寝の若い娘にも手を出す気にもならない。彼を、得体の知れない不安が襲っていた。胸騒ぎがする、眠ることをあきらめて、やおら身を起こした。床を離れたアガメムノンは、メネラオスを起こした。二人は、静かに歩を運び、陣中を巡り
、オデッセウス、デオメデスをはじめ主な将を集め、手短かに深夜の敵情偵察の件を謀った。オデッセウスとデオメデスが、籤を引き当て、深夜の敵情偵察に出た。
 空に月はない、星がひしめき合って輝いているが、地上は真っ暗闇である。敵情偵察には、うってつけの夜である。トロイ城壁のかがり火の光も此処へは届かない。昨夕、戦場に着いた援軍の陣営は、さほど遠くはない。トロイ城市と連合軍陣営の中間に位置していた。この地点では、夜明けからの戦いが思いやられる。
 アガメムノンの言うように、敵情を充分に把握しておくことが肝要であった。
 二人は、闇の中に忍び足で歩を進めた。

第9章  戦闘再開  7

2007-12-14 08:00:46 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アガメムノンと将たちは、オデッセウス達の帰りを待っていた。オデッセウスは、不調に終わった話し合いの始終を皆に伝えた。時は、深更に到っていた。この時代の深更は、現在時の夜9時ごろである。
 『アキレスのことは、ほっといて、うまい物を食べて、休もうではないか。運命がアキレスを駆り立てれば、我々が何もしないでも、奮い立って、出て来ますよ。アガメムノン統領、明朝は、貴方自身も、先陣を駆けて、全軍を叱咤激励していただきたい。いいですね!』 と、デオメデスが念を押した。
 一同、座を立ち、めいめいの陣営に退きあげていった。
 空には、星が降ってくるのではないかと思われるくらいに瞬いていた。

第9章  戦闘再開  6

2007-12-13 08:23:52 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『ところで、オデッセウス。この俺に用があるのではないのか。』
 『アキレス。よくぞ、聞いてくれた。今、連合軍は、大変な局面をむかえて苦戦している。判るか。お前がいないことも関係がある。何としても、この苦境を乗り越えるために、アキレス、お前の力が欲しいのだ。お前が手を引いてから、トロイ軍が日に日に勢いづいてきているのだ。ヘクトルが暴れまわり、奴等の奮戦に、我が軍の将兵たちが、いたく悩んでいるのだ。アキレス、ここらで怒りを解いて、戦場に出てくれないか。お前の力を必要としているのだ。判ってくれ。アガメムノンも、あの事件を深く後悔している。心を尽くして、償いをして詫びたいとも言っている。何とか怒りを解いて、戦いに起ちあがってくれ。頼む!ポイニクス、アイアース、そして、この俺の三人、アガメムノンと全将兵の頼みだ。』 とオデッセウスは、話を締めくくった。
 アキレスは、首を横に振った。
 『オデッセウス。この俺を説き伏せようと思ってくれるな。アガメムノンの詫びも聞きたくない、償いも望んでいない。君からの、この申し入れについての答えは、NOだ!オデッセウス、判ってくれ。』 アキレスは、断った。

第9章  戦闘再開  5

2007-12-12 09:25:07 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスの陣営幕舎の戸口に立ったオデッセウスは、そこにいる番兵を無視して大声で呼びかけた。
 『お~い、アキレス!いるか。俺だ。入るぞ、いいな。』
 それはオデッセウスの声であった。
 アキレスは、あの疫病事件以来、このかた、オデッセウスやアイアースに会っていない、戦場にいる彼等を遠くに望見した日は、幾日かあった。膝をあわせて話し合うのは、半月ぶりではなかろうか、耳にする声が懐かしかった。
 『お~お、御歴々、どうした。中に入って、おちついてくれ。』
 オデッセウスたち一行は、言われるままに中に入って腰を落ち着けた。アキレスの傍らには、幼いときからの友パトロクロスもいる。アキレスは、小者に言いつけて、酒食の膳を整えさせ、かっての戦場の友とくつろぎのときを過ごすことにした。座に着いた彼等は、神に感謝をすませ、親しく肉を焼き、美酒を飲み、友諠を尽くして話をはずませた。やがて、酒食に飽きる頃になり、アキレスは、オデッセウスに声をかけた。

第9章  戦闘再開  4

2007-12-11 08:08:24 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『アガメムノン!我等、連合軍が勝てなくなったのは、いつからだと思う。貴方がアキレスの戦利を奪い取ってからではないか。貴方のおごりが彼を辱め彼の怒りをかった、その上、もろもろの正しきもないがしろにした。私たちも理をもって、貴方を諌めたが、貴方はそれも聞き入れず、今、このざまを招いている。先ず、アキレスの怒りを解くことを考えるべきである。と私は思う。お判りいただけるかな。アガメムノン。』
 アガメムノンは、ネストルの弁に答えた。
 『お~お。ネストル。よく言ってくれた。俺の過ちを正しく言ってくれた、ありがとう。礼を言う。この大軍団の統領として、思ってはならないこと、してはならないことをした。ここに諸君に深く詫びる。俺は浅はかであった。申し訳なかった。アキレスにも深く詫びる。ネストル。アキレスに詫びる手筈を願いたい。頼めるかな。』
 ネストルは、この件を承諾し、手筈をすぐに整えた。
 話のうまい老将ポイニクス、オデッセウス、アイアースは、伝令役に二人の兵を連れて、アキレスの陣営に向かった。

第9章  戦闘再開  3

2007-12-10 07:21:47 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『諸君!今日は大変だったな。トロイにやられた。ここまでやられるとは思っても見なかった。敗れることが恐ろしい。このような恐怖を感じたことは、此の戦争を始めてから、はじめてのことだ。俺の胸のうちの思いが粉々になった。連合軍を率いる将たる諸君、我々の軍事に利があるのだろうか。戦いを始めて、今日までに、多くの軍勢を失った。戦力の復勢が出来るのか、出来ないのか。統領として非常に憂慮している。我等、連合軍に誉なく、トロイを落城させることができず、故国に逃げ帰る。今、ここに策はあるのか。諸君に聞きたい。トロイを打ち砕く策はあるか。示して欲しい。』
 デオメデスが発言した。
 『天も意地が悪い。天は、貴方に二物を与えなかった。ギリシア一国をまとめる知恵を与えたが、勇気と言う徳を貴方に与えなかった。帰国を願うのなら、速やかに、此の地を立ち去られよ。この私は、我が友ステネロスと共に、トロイが落ちるまで戦い続けて、このトロイを必ず落とす。』
 これを受けて、老将ネストルは静かに言った。

第9章  戦闘再開  2

2007-12-08 08:08:44 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アガメムノンは、今日の戦闘を振り返って考えていた。トロイ軍に押されて、押されて、昨日築いた防衛柵の近くまで後退したのである。彼は、払いのけても、払いのけても、まとわりついて、頭の中を通り過ぎていく、万に一つの敗北と言う名の恐怖があることであった。それでも、直ちに連合軍の統領である自分を取り戻すのである。
 アガメムノンは、主だった将を幕舎に招集して、会議を開く手筈を整えた。
 議題は、今日の作戦展開の反省と全軍の強固な意志統一、手落ちのない作戦計画の共有と実行、そして、トロイを壊滅するための戦略とその体制を整えることで、自分自身の弱気を払拭したかった。
 主だった将たちが座に着き、会議が開かれた。開口一番、アガメムノンは、恥も外聞も無く、統領の立場を忘れたように本音を話した。