『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  123

2011-07-14 06:23:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アンテウスは、『さあ~、今日の最終便だ。気を締めて行こう』 と自分自身に声をかけた。そのときであった。
 『台車で使用できないものがあります』 と矢つぎばやに各隊から告げてきた。
 彼は、『なにつ!』 大声をあげて絶句した。
 各隊から告げてきた台車の数は、アミクス隊が2台、リナウス隊が2台、アバス隊が1台であった。
 『この期に及んで、使用できない台車だと。ふざけるんじゃない!』
 彼は、歯ぎしりして思案した。その時、アレテスから、用材の残数とその運搬について打ち合わせをやろうと連絡を受けた。アンテウスは、その連絡に応じた。
 『アンテウス、お前、何で落ち込んでいるんだ』
 『あ~あ、俺か、この期に及んで使用できない台車が出たのだ。それも5台もだ。俺は、いま、思案の真っ最中だ』
 『それは困った事態だな、それでどうするのだ。う~ん、台車5台が使用できないとはな。台車数と運搬数の兼ね合いで用材13本が残ることになっていた。そこに台車5台が使用不可となると、残る用材の本数が18本となる。台車の総台数はどれだけになる』
 『17台だ。1台不足する。この問題の対処は俺の責任だ。俺に任せておいてくれ、心配は無用だ。用材の残数が18本だな、判った。明日の午前中には、用材の運搬は完了させる。オロンテス棟梁に、そのように君から報告を入れておいてほしい』
 『判った。伝える』
 アレテスは承諾した。

第3章  踏み出す  122

2011-07-13 07:29:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは現場を見回った。建造にたずさわる者たちが担当部署についているかを自分の目をもって確かめた。
 舟艇の部材を用材から切り出し、粗い仕上げをする部署が活気づいていた。リュウクス、セレストス、カイクスが仕事の流れに目を配っていた。
 組み立て場が、まだ完成に至っていない。ここではオキテスが陣頭に起って差配していた。彼は図面と首っ引きでアレテスと他の二人に指示を出していた。
 オロンテスの手配りに手落ちはないようである。
 部材の設計図は、判りやすく線引きしてあり、組み立て場についても、しっかりした図面が書かれていた。
 全く不安がなかった。
 オロンテスの手元には舟艇建造の工程表、進捗予定表もしっかり整えられており、総てが万全と言えた。
 何時、如何なることが起きても、彼は対処できる自信を持って、仕事と対峙していた。プロジェクトチームの面々にも絶大の信頼をおいていたのである。
 パリヌルスもオロンテスの管理、差配に充分な信頼を寄せていた。彼らは強固な信頼の絆で事に当たっていた。
 この日、アンテウスは思いもよらぬアクシデントに見舞われていた。
 今日、三回目の荷積みをやろうとしたときに発覚した。台車5台が使用できないとの報告を受けた。

第3章  踏み出す  121

2011-07-12 07:18:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『諸君っ!おはよう。舟艇建造の総指揮を執っているパリヌルスだ。君たちが知っているように、先日の交易で相手の希望するところにより舟艇三隻を受注した。交易人テカリオンは、十一月の中旬には、二回目の交易にこの浜に来る。それまでに受注した舟艇三隻を建造しなければならない。そのようなわけで、段取りをつけて、用材を伐りだし、その用材の運搬を今日の夕刻までに終わる予定となっている。また、今日からは砦の浜において、オロンテス、オキテス、カイクス、私の4人が指揮、監督して舟艇の建造の業務に当たる。第一の仕事は、設計した舟艇の部材の切り出し及び切削加工、第二の仕事は、それらの部材を組み合わせ、組み立てて、舟艇に仕上げる。その仕事を今日より開始する。そのようなわけだ。それで諸君たちに頼んでおきたいことは、この仕事にたずさわっている者たちの要望によって、諸君たちの力を借りることもあると思う、そのときはよろしく頼みたい。以上である、皆、よろしく頼む』
 広場はどよめいた。パリヌルスはこれだけのことを一気に話し終えた。変って、イリオネスが締めくくりの言葉を言って集会を終えた。
 オロンテスは、舟艇建造のスタッフを集めて打ち合わせを行った。スタッフ各自の役務の説明に始まり、建造にたずさわる総ての者が有為に機能しなければ『いい舟艇』の建造という大事を完成させることが出来ないと一同を戒めた。
 このあとアエネアスもイリオネスも舟艇建造の場に臨み、略式ながらも仕事始めの儀式を行い、舟艇建造の完工を祈りあげた。
 舟艇建造にたずさわる者たちの心が引き締められた。

第3章  踏み出す  120

2011-07-11 07:09:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝めしを終えて、しばしのときを憩っている砦の者たちに招集が伝えられた。久しぶりに告げられた全員招集であった。西門前の広場に砦の者たちが集まってくる。彼らは、いま、砦の浜で何が行われようとしているかについて、おおよそのことは知っているようであった。全員が集まったときを見計らって、イリオネスが集合した者たちに向かって声を上げた。
 『お~お、諸君!おはよう。今日、ここに集まってもらったのは、伝えておきたいことがあるからである。では、統領お願いします』
 『諸君!おはよう。そして、日々の業務、大変にご苦労である。ここに感謝の気持ちをを伝える。皆っ!ありがとう!ところで、いま、砦の浜では、舟艇の建造が始まろうとしている。知っている者もいると思う。これからも、諸君たちが、この仕事の一部を担当することも起きると思う。そのときは、君らの力を貸してもらいたい。舟艇建造の総指揮は、パリヌルスがやっている。そして、オロンテス、オキテス他、多数の者たちが建造の仕事にたずさわっている。詳しい説明は、これから、パリヌルスが君たちに話す、パリヌルス、説明を頼む』
 パリヌルスが広場にしつらえた壇の上に立った。

第3章  踏み出す  119

2011-07-08 07:05:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 いま、舟艇建造のプロジェクトは、パリヌルスを軸にして機能し、動いていた。スタッフ一同が縄張りのなかほどに集まり、朝の打ち合わせを始めた。一方、仕事にたづさわる大勢の者たちは縄張りをぐるりと取り巻いていた。
 『諸君っ!おはよう。昨日は大変にご苦労であった。今朝の気分はどうだ?』 で始め、打ち合わせを終えた。
 パリヌルスの頭の中は、アサイチでイリオネスと打ち合わせた砦の者たちへの説明に考えをシフトしていた。
 オロンテスはというと、多忙を極めていた。彼は伐りだした用材の総数を集計したうえ、アレテスら三人の隊長連に指示を出した。
 『アレテス、そして、二人とも、いいか。今日の午後なのだが、各隊7,8人を連れて各々の伐りだし場へ出向いてくれ。今日、三回の運搬を終えたところで伐採した用材が13本残る勘定になる。判るな。もしもだ、三回の運搬で台車が破損して予定どうりの本数が運搬できなかったことを想定に入れて、13本プラスアルファの用材が残る。その用材の運搬について、別働隊のアンテウスと打ち合わせてほしいのだ。明日もう一回、運搬の仕事をしてもらうように打ち合わせてほしいのだ。これには、彼に現場を見せて打ち合わせることが大切なのだ。判ったか。アレテス、いいな。やってくれ』
 『了解しました』
 『ところで、君たち判っていると思うが、今日より舟艇建造の仕事に取り掛かる。仕事の進め具合については、リュウクスとセレストス、そして、パリヌルス、オキテス、カイクスの三人も加わって打ち合わせをやる。そのときがくれば声をかける、そのつもりでいてくれ、以上だ』
 アレテスら三人は、緊張してオロンテスの指示を受けた。

第3章  踏み出す  118

2011-07-07 07:42:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 運搬別働隊を送り出したプロジェクトチームの面々は、舟艇建造の浜へと歩を運んだ。
 縄張りの近辺には、一群のひとだかりがしている。その中にアエネアスとイリオネスの姿も見えた。パリヌルスとオキテスは足を早めた。
 『あっ!統領、おはようございます。目にとまりましたか、これが舟艇建造の現場です。いかがですか』
 『ご両人、おはよう。日々の作業、ご苦労さん』
 『はやいですね。イリオネス、今日も日和がいいようです』
 『そうか、いよいよ始まるのか』 とアエネアス。
 『はい、そうです。用材の伐りだし、運搬が昨日に続いて今日で終わります。今日が舟艇建造の第一日目です。オロンテスの監督のもと舟艇の部材の切り出しから始まります』
 『パリヌルスにオキテス、お~っ、オロンテスも来たではないか』
 『あっ、統領、おはようございます』
 プロジェクトチームの一同が、アエネアスとイリオネスを真ん中に座をつくった。
 『諸君、いま、イリオネスと話していたのだが、砦の者たちを集めて、浜において今日から始める舟艇建造のことを伝えようと思っている。それでいいか』
 『よろしいです。もう、正式に発表のときです』
 イリオネスが、この話を受け止めて、
 『パリヌルス、段取りは俺がする。舟艇建造の話はお前がやれ』
 『判りました』 と答えて、パリヌルスは今日の予定に組み入れた。

第3章  踏み出す  117

2011-07-06 06:42:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスはアエネアスに声をかけた。
 『統領、今日でも砦の者たちに、我々が今、何をしようとしているかを伝えなければいけないですね』
 『うん、そうだな。イリオネス、そうしよう。そのように取り計らってくれ』
 『判りました』
 この時間、西門前の広場では、もう朝めしでにぎわっていた。プロジェクトチームの面々も顔をそろえていた。朝めしをにぎわせている者たちの大半は運搬別働隊の者たちである。アンテウスはその真ん中に立って、大声で一同に話をしていた。
 『お前たち!判ったな。俺が話したように今日の日程をすすめる。いいな』
 力をこめて話を締めくくった。初秋の朝の冷気が気を引き締めた。
 『おうっ!』『おうっ!』 一同は返事を返した。
 そのあと、彼らは、わいわいがやがやと朝めしをもっぱらにする風景であった。
 アンテウスは、三人の隊長を呼び寄せて、事細かに今日の予定を言い渡した 運搬別働隊は北門前に隊列を整えた。
 『出発っ!』 アンテウスが叫び、隊列が動き始めた。
 今日の一番隊はアバス隊である。しっかり足取りで台車を転がしながら歩を運び始めた。二番隊、三番隊と続いた。プロジェクトチームの面々は、森へ向かう彼らを見送った。
 隊列は土ほこりを舞い上げる、その中を朝の光が貫いていた。

第3章  踏み出す  116

2011-07-05 07:05:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 用材伐りだしの仕事を終えたアレテスたちも浜に帰ってきた。今日の仕事を終えた者たち全員が舟艇建造の浜に顔をそろえた。互いにに交わす言葉で、宵の深まりゆく浜がにぎわった。
 『アレテス、ギアス、アカテス、皆ご苦労であった。今日はこれで終わりだ。さあ~、皆、汗を流して休もう』
 オロンテスが三人に言い渡した。続いて、パリヌルスがみんなに声をかけた。
 『おうっ!諸君!今日は大変ご苦労であった。打ち合わせは、明朝早く、この場で行う、今日はこれで終わる。充分に身体を休めてくれ。以上だ』
 『おうっ!』『ご苦労、ご苦労』『おうっ!』 互いに言葉を交わしながら、汗流しに海辺に歩を運んでいった。総勢250人余りの者たちが胸まで海水に浸し、海を泡立たせた。宵の夕色が濃紺の夜色に変わりつつあった。

 朝の第一光が砦の浜にとどいた。太陽が秋色になりつつあった。軽い微風が陸から海に渡っていく。陽の出前から、朝の水浴びをやってきた者たち、その中に風景の一変した砦の浜に目を見張る者が少なからずいた。アエネアスもいれば、イリオネスもいた。プロジェクトチームの者たちは、今日はまだ、姿を見せてはいなかった。
 縄張りされた風景、山と詰まれた舟艇建造の用材、その情景を朝の挨拶を交わしながら見つめていた。

第3章  踏み出す  115

2011-07-04 07:07:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 戦火で燃え上がっているトロイ城市を見つめて、『ここを去ろう』 と決めた瞬間から、今日までの4ヶ月をなつかしむ表情で話した。オロンテスは目頭が熱くなるのを覚えた。
 『オロンテス、お前うまく言うな、俺は同感だ。オキテス、お前はどうだ』
 『俺か、俺もそのように感じている。俺は、大きな流れの中を俺は、俺の分を守って生きているという感じだな。うまくはいえない』
 そこへアンテウスが姿を見せた。彼はオロンテスに報告した。
 『棟梁、用材を所定の場所におろし終えました。皆さん、おそろいで』
 『おう、アンテウスか、ご苦労、ご苦労!お前たちは、明日の朝は、早く森へ向かうのか』
 『はい、その予定です。時間的に余裕を持って仕事をはこびたい、そのように思っています。2回目の運搬に森へ向かうとき、道に不具合の箇所に気づいたら、手直ししながら森に向かいたいと思っています。修復の必要がなければ、それに越したことがないのですが』
 『おっ!そうか、判った。とにかく、充分な気配りで仕事を終えろ、安全第一を忘れるでないぞ』
 『判りました。私たちは、今日はこれであがります』
 彼らのやりとりを周囲で見聞きしていた者たちは、彼らに今日の労をねぎらう言葉をかけた。
 『アンテウス、ご苦労であった。明日から、仕事は新しい局面に入る、申し伝えておく、いいな』

第3章  踏み出す  114

2011-07-01 08:17:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 長い隊列の彼らの最後尾が浜に着いたころの空からは、すでに太陽はその姿を消していた。宵明かりの浜には、舟艇建造にたづさわる者たちが縄張りを囲んで話し合っていた。
 『お~お、オロンテス、戻ってきたか、ご苦労さん』
 パリヌルスは駆け寄ってオロンテスの肩を、ヒッシと抱きしめた。オキテス、カイクス、リュウクス、セレストスほか、舟艇建造のプロジエクトチームの面々が彼を迎えた。
 パリヌルスたちが知恵をしぼった舟艇建造のラインがその工程に基づいて、整然と縄張りされていた。
 『オロンテス、用材伐りだしのほうの仕事はうまくいったか』
 パリヌルスが訊ねた。オロンテスは答えた。
 『アレテスが、もう、皆を引き連れて砦への道中にあると思う。彼の持ってくる報せを聞いて答えるわけだが、まあ、予定したとおり、予定数の伐りだしは終わっている。まずまずの筈だ』
 『そうか、それはよかった。もう、事がなったようなものだな』
 『俺は、用材の伐りだしの作業を見ながらつらつらと考えた。とにかく、何があっても最初の仕事をいいカタチで終えなければいけないと強く思った。しかしだな、パリヌルスにオキテス、そうは思わないか。俺たち、このエノスの浜に来て、何となく感じていることは、俺たち皆、底知れぬラッキーに恵まれているように感じている。明日を信じて懸命に生きる。それを身体全体で感じて動いているように思われてならない。お前たちはどうだ』
 オロンテスは、自分の思っている使命感について語った。