『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  147

2013-11-15 07:48:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは場についた。オキテスの言葉もあり彼らの目つきは真剣みを帯びてきていた。
 『諸君っ、日夜活動、ご苦労。先ほどもオキテスの言葉にあったが、これまで会議と言いながら、物事を『なあ~なあ~』の話し合い決めてきた。これからは会議と銘うってやる以上、議題を設定して話し合いを一歩深めて論議を尽くし、決定事項の重さを高めていこう。では、軍団長、会議を開いてくれ』
 『今の統領の言葉を受けて会議を開く。ここで一言、言っておきたいことは、無理な言葉選びをせずに日常使っている言葉で話を進めてもらいたいことだ。空から降る雨が岩に当たり、岩肌を濡らし、岩肌を通し、岩に浸み込んでいくように議題の趣旨が人々に理解され行われていく。私は、そのように考えている。では、今日の会議の議題を提示する』
 イリオネスは、そのように告げながら、持っていた木板を一同に見せた。一番上には『築砦の事』と書いてあり、次に『各役務担当の事』と書かれていた。イリオネスが口を開いた。
 『諸君、まず、築砦の事から討議に入りたいが、いいかな』
 これを受けてオキテスが発言した。
 『私が考えるに『築砦の事』は、我々にとって非常に大きい議題です。まず、『各役務担当の事』から討議を行い、その事情を収集して『築砦の事』の討議に及んでいけばいいのではないかと考えますが、、、』
 『ほっほう、オキテス、君の言うことに一理がある。一同どうだ?』
 『私は、そのほうがいいと思います』
 パリヌルスが同調した。
 『了解、『各役務担当の事』から討議に入る。一番最初は誰からだ』
 『オロンテスが担当している部署からということを三人で決めています。いいでしょうか』
 『いいだろう』
 イリオネスは、オロンテスに発言を促した。
 オロンテスは、このたびの燃料にする薪不足を訴えた際における、薪収拾の礼を述べた。続けて、日常の給食事情の状態を話し、築砦時において考慮すべき点について説明した。
 それは構想ではなく、実情の改善であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  146

2013-11-14 07:58:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らが予定した午前中に行っておくべき作業が終わった。リナウスが報告する。
 『隊長、作業を終えました。ですが、四か所の不具合が三船にわたってあります。修復には、構造、状態に精通した者の技術を必要とします。昼めしを終えたらその者たちをここに残して、全員、撃剣の訓練をやります。以上です』
 『判った。オキテスも俺も、午後は統領の宿舎において会議をやっている。急用があれば、そこへ連絡してくれ』
 『判りました。では、昼食にかかります』
 作業を終えた者たちは、6~7人でたむろするグループ、20人余りが円座でと思い思いのカタチでの昼食風景である。
 パリヌルスもオキテスもその中に加わり、ワイワイ、ガヤガヤで昼食を共にした。
 各船の船長が彼らに午後の予定を伝えている。二人はその光景を見つめていた。
 『パリヌルス、行こう。もう、そろそろ時間だ』
 二人は会議の場へと向かった。二人は、話を交わしながら歩んでいく。
 統領の宿舎の前には三人が立っている。オロンテスはもう来ている、近づいていく二人、三人が二人に気づく、彼らは手を上げた。集まった五人、彼らの結束はしっかり固い、連携もいい状態で維持されていた。
 統領から声がかかる。
 『お~っ、ご両人!ご苦労。お前ら二人、なかなか忙しそうだな』
 イリオネスも声をかけてくる。
 『おう、ご苦労。お前ら大層ないでたちだな』
 集まった五人のうち、アヱネアスを除いた四人は、大き目の木板を小脇に抱えていた。イリオネスの声かけにオキテスが答えた。
 『いやいや、これまでの会議は、打ち合わせ、話し合いでした。これからの会議は、会議です。議題に重みがあります。会議で物事を決めていく、会議に参加する者は、重く丁寧に議題を扱っていかねばならないと考えての私どもの姿勢です』
 『お~っ、そうか。お前の言うとおりだ。軍団長、会議の場を決めてくれ』
 『判りました』
 イリオネスは、周囲を見回して、林間に会議の場を設定した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  145

2013-11-13 07:36:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『昼めしの頃となったな』とつぶやきながら、オキテスはパリヌルスに話かけた。
 『なあ~、パリヌルス、軍事の事だが、お前、どのように考えている?俺の考えでは、今、我々の有している勢力、兵数、交戦技術力、そして、兵器の優劣。それらを考慮するとだな、このクレタにおいて我々の力を上回る力を持った軍団が存在するのかが問題なのだ』
 『それについては調べてみなければわからない、我々民族の安泰が維持できるか否かがかかっている問題だ。どうする?オキテス、調査する者を出すかだ。この島における軍事バランスを考えてみる必要があるな』
 『俺の考えでは『人こそ砦』であると考えている。築砦はそこに生計を営む者たちに不安を与えないというスタンスで思考して、簡素なものでもいいのではないかと考えている』
 『そうだな、お前いいことを言う。『人こそ砦』それがいい。その考えを基本において、砦を考える、砦を築く、その線でいこう』
 二人は話しながら、浜へと歩を運んだ。
 パリヌルスら二人が浜について、作業の風景を眺めた。
 『お~お、一同、励んでいる、いる。なあ~、オキテス、俺は、このような者どもの姿を目にするのがたまらなく好きなのだ』
 『そうだな、お前の言うとおりだ。俺も大好きだ』
 パリヌルスは、作業を監督しているリナウスを呼んだ。
 『おっ、リナウス、作業の進捗状況は?』
 『順調に進んできています。もう終了段階に来ています。ギアスは、島のほうへ昼めしを届けに行っています』
 『そうか、それならそれでいい。俺が行くべきところなのだが、今日はいけない。それは仕方がない。昼めしは皆と一緒にと考えている、オキテス、お前の都合は、、、、』
 『おう、俺ははじめっから、そのつもりでここにいる。役務の事があるが、俺たち全員が一心同体だと心が決まっている』
 『おっ!、そうか。作業が終われば皆と一緒に昼めしといこう』
 リナウスが作業終了の点検に回っている、入念であった。
 『帆柱の不具合の修理はうまくいったか』
 『いい具合に修復しています』
 『よしっ、判った。お前のところ作業完了。ご苦労であった』
 リナウスは、次の作業グループのところへと足を向けていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  144

2013-11-12 07:59:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『なあ~、パリヌルス。出るを制するに困るくらいの入りがあればいいと考えている。このクレタは造船の盛んなところであったらしい。今は往時の隆盛さはないが船は造られている。造船の盛んな地は、このクレタの東地区であったらしい。東地区の森には、造船に使える木材が少なくなってきているらしい事情があるといっていた。木を切り倒すばかりで造林をしなかったらしい、いやいや、教訓とすべきことである』
 『お前と俺とは、入るを計画をすることに注力しようではないか』
 『それはいいことだ。課題は小島をどう使うかだな。これを二番目の議題にしよう』
 『ここまでの討議を終えたら、一番の重要議題である築砦の討議に入らなければならない』
 『判った。討議する議題の順番が決まったな』
 『オロンテスの方で何がある?』
 『今、あなた方の意向が判りました。私の担当している役務の方の課題を一番に討議する。うれしいことです。昼めしまで少々時間があります、係りの者が焼いたパンをつまみましょう』
 『ほっほう、試しに焼いたパンか』
 『え~え、ユールスの間食にと思って焼いたパンです』
 オロンテスはここで話に間をとって話を継いだ。
 『ユールスは、午後からの撃剣の訓練に参加するようなことを言っていました。お~っ、来ました来ました、このパンです、いかがです』
 焼きあがったパンは通常の食事に給されるパンと違い、やや小ぶりである。パンを二つに割って二人で口にした。二人の口から感嘆の言葉がほとばしった。
 『これは香ばしい!何という旨さだ!まさに感動ものだ』
 パン生地にアーモンドを粗目に砕き、混ぜて焼き上げたパンである。羊肉も細かくきざみいれて、軽めの塩味で整えられていた。
 『旨い!オロンテス。実に旨い!』
 『オロンテス、このようなパンは、ユールスの分だけにしておけよ。全体の食事に給することはダメだ』
 『そのようにしますかな』
 二人は、オロンテスの顔を見ながら舌鼓みを打った。
 『パリヌルス、もう少しで昼めしの時間となる。戻ろうか』
 『そう、しよう』と答えて二人は腰をあげた。
 今日の空は、薄い雲がかかっている、陽はぼうっとウス雲の上で照っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  143

2013-11-11 07:15:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス、オロンテスのところでやらないか』
 『それはいい。あいつの担当は、的がしぼられてていい。俺たちの担当している業務は、軍事に交易、そして、建設、海事と広範囲にわたっている。人事を優先して考えなければならない面もある。お前が責任担当で俺がサブ、俺が責任担当でお前がサブを務めてくれる。オロンテスが責任担当でお前と俺がサブをやる。まあ~、そのような感じだな』
 二人はオロンテスのいるところへと足を向けた。
 『おう、皆、ご苦労。いつもいつも、旨いパンをありがとうな。オロンテスはいるか、呼んできてくれるか』
 用件を受けた者がオロンテスを呼びに行ってくれた。間をおかずオロンテスが姿を見せる。
 『おっ!ご両人』
 『おう、オロンテス、どのような調子だ、計画立案の件、うまくまとまったか』
 『今やっているところだ。計画立案の思考真っ最中というところだ』
 『ご両人は、どんな具合です?』
 『おう、俺たちか、俺たちはだな、そのようなもの、とっくのとうに出来上がっている』
 『本当か?』
 オロンテスは訝った目つきで二人の目と目を合わせた。
 『それは嘘だ。簡単にできるわけがないだろう。高い次元の計画をつくろうと思うが、季節が冬に向かっている。そこは現実的に考えているといったところだ。我々はクレタに来たばかりだ、まだ日が浅い。クレタについてよく知っているかといえば、そうではない。俺はオキテスも同じだと思う。俺は、第一次、第二次、第三次と段階を踏んで、充実を図っていけばいいのではないかと考えている。オロンテスが担当している領域はそのような事の運びではいけない事情がある。俺たち、二人ともそれは充分に理解している』
 『それは、ありがたい。財務の事もある、事を運ぶのに出来るだけ深く考えて、慎重に事を処理している。今、現在は心配の要素が少ないが、春先から夏にかけて小さな齟齬が大事に至ることも考えておかなければならない』
 『そうか、パリヌルス、今日の議題、討議の第一番はオロンテス担当の領域からということでどうだ』
 『お前の言うとおりだ、そのようにしよう』
 『討議の順番をしっかりとしておこう』
 『判った』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  142

2013-11-08 07:47:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『各船の船長に伝えることはだな、小隊長の役務をこなすことのできる者を各船あたり6名くらいを選んで広場に集まれと伝えるのだ』
 指示を受けた二人は、手分けして伝達に走った。
 『パリヌルス、どのような具合だ?会議の前に俺たち三人ちょっと話し合っておかないか』
 『そうだな、それがいい。でないと、互いの考えが堂々巡りして前へ進まない。判った』
 『ところで、お前、考えをまとめたのか』
 『方向だけは何とか決めた。担当している役務から逸脱しないようにまとめている。それを木板に書きとめておこうと思っている』
 『そうか、それはいい方法だな。俺もお前に倣ってその要領でまとめようか』
 二人が話し合っている間に40名余りの者たちが集まっていた。
 『諸君!集まってくれたか。今日の作業、予定を言い渡す』
 パリヌルスは、彼らに今日の予定を言い渡した。
 『リナウス、ギアス、リュウクス、アンテウス、以上だ。お前ら四人しっかり監督してやってくれ。判ったな。尚、撃剣の訓練は、闘う相手の打ち込みに対して、どのように対応するかに重点を置いてやるのだ。これからのちも2対1闘法を重視して敵に当たる。いいな』
 『判りました。それからですが、短い槍の使い方についてもやっておこうと思っていますが、、、』
 『それはいい、思いつくままやれ』
 そのあとも、二、三の質問のやり取りがあって指示を終えた。
 『オキテス、行こう。二人きりになって検討項目について考えようではないか』
 『そうだな、お前も俺も考えの行く着く先の結論はよく似ている。二人の考えが重複しないように検討項目を選んで対処しようではないか』
 『判った。我々が前へ一歩踏み出す時が来たな』
 『オロンテスに聞いてみないと判らないが、クレタというところは、エノスに比べて草丈の低いところだな、あれでは牛が草を食べにくそうだ』
 『そうか、お前、なかなかの観察だな。俺はそれには気が付いていない』
 クレタ島は、牧牛ではなく、牧羊の島となったのはテラ島の大爆発による降灰により火山灰の島であり草丈が低く牛の放牧条件に適しているとは言えなくなったからである。現在ではクレタで造られるチーズは羊乳のチーズなのである。
 『それから、クレタは島であるだけに水源地から海に至る川の長さが短い、スカマンドロスやシモエースとはちょっと違う』
 スカマンドロス、シモエースは、トロイ地方に流れている河川の名称である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  141

2013-11-07 08:25:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、統領の宿舎を辞して自分の宿舎に歩を運んだ。
 風はなかった、思わず空を仰ぐ、月はない、満天の星は淡い光を降るように投げ落としていた。北に輝く『荷車』(大熊座の七ッ星)を認めて目線を天頂に移し、南の天空の大星座をみとめて、目を向かう先に移した。
 イリオネスの宿舎には、70人余りが寝起きしている。ぼそぼそ雑談の声が耳に届く、ごそごそやっている者、往復高いびきで眠っている者、さまざまの寝風景である。暗闇である、目にはつかない、彼は、きめられている寝所に足探りでたどりつき身を横たえた。まぶたを閉じる、眠りが来ない、考えを巡らせた、そのようにしている間に眠りが彼を誘いに来た。深い眠りの世界で夢を見た。風雨の強い嵐の海に翻弄される船、『おれには、明日がある。お前らにも明日がある。海に呑まれてはならん』と乗り組みの者たちを叱咤激励していた。目を覚ますことはなかった。
 
 朝が来た。イリオネスは、常日頃より早めに朝行事に出向いた。パリヌルスら三人の来たるを浜で待った。朝食後に打ち合わせをやることを伝えることであった。緊張の為せることであった。
 『おう、おはよう。朝めしを終えたら打ち合わせだ。いいな。俺の宿舎の前でやる』
 彼らはうなずいて、思案しながら朝行事を終えて引きあげていった。
 打ち合わせ時となる、三人は、イリオネスの宿舎の前に集まった。彼はまだ宿舎の中にいる、パンを口に運びながら『今日』を考えている。最後のひとかけらを口に入れて咀嚼しながら腰を上げた。宿舎の戸口に立つ、三人の姿を目に入れた。
 『おう、お前ら、早いではないか。よしっ、打ち合わせ開始だ』と言いながら、打ち合わせにふさわしい場を決めて四人は座した。彼は三人と目を合わせて口を開いた。
 『まず、昨日のことを報告してくれ』
 パリヌルスから順に答えていく。
 『つぎは、今日の予定は?』
 パリヌルスが答える。
 『今日の予定は、午前中は、船の点検と整備です。午後は全員、撃剣の訓練です。オキテス、そのように予定を立てているのだが、君のほうはどうだ』
 『俺は、それでいい』
 『判った。ところで懸案の計画の討議の事だが、昼めしを終えたら間をおかず始める、いいな』
 『いいでしょう。判りました』
 三人は同時に首肯して打ち合わせを終えた。オロンテスは持ち場に帰り、パリヌルスとオキテスは、従卒二人を呼び寄せて小隊長格の者の召集を指示した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  140

2013-11-06 07:38:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『統領、充分に納得しました。この件は、統領と私のみの知る胸の内ということでよろしいですな』
 『おう、それでいい。他言してはならない二人だけの胸の内だ。心して事に当たってくれ。これは、二人だけが知る一国の秘事だ。他に知られてはならないと心得てくれ』
 『判りました。出来上がった計画案は一晩寝かせる、翌日再び俎上に載せて、討議の上まとめあげる。それでいけないときは、もう一晩寝かせて、再度、討議の上決定する。そのように図ります』
 『それでいい。その段取りで計画をまとめあげる。計画ができ次第、一瀉千里で事を進める、この季節だ、遅速のはいかん』
 『判りました』
 立案、計画決定の会議を二人が練った段取りで進めることにした。明日を控えての二人の打合せは終わった。
 『軍団長、夕めしがとどいている、どうだ一緒に食べないか』
 『いいですね。喜んで一緒にいただきます』
 『息子のユールスも一緒だ、いいな』
 三人での食事となった。彼らの食事は極めて簡素だといっていい、食事は、パンと一采といったところである。であるだけに今日の主食のパンは、オロンテス独特の工夫がなされていた。大き目の羊肉を一塩で味付けして焼き、くるみこんで焼き上げたパンであった。そのように工夫されて焼き上げたパンが毎食かというとそうではなかった。一週間21度余りの食回数に対して2度くらいの頻度と言っていい。しかし、オロンテスには、心優しく、細かく気を配るところがあり、ユールス用のパンだけは別に焼いていた。
 『おいっ、ユールス、今日のお前のパンはどんなだ?ちょっと見せてみろ』
 『はい』と答えてパンを父のアヱネアスに手渡した。アヱネアスは、パンの一部をむしりとり、イリオネスと一口づつほおばった。
 『ほっほう、これはこれはなかなかにいけますな。旨いですな』
 『今日のパンは一風、変わっている。なかなかだ。いい味、いい匂いだ』と言って首を傾げ、言葉を継いだ。
 『フルーツ風味だな。スダヌスの贈り物の中に何か果物があったのかな』
 雑談を交わしながら三人で味わった夕食であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  139

2013-11-05 08:08:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは集落を一巡した。ところによっては念を入れて観察した。彼は大きめの木板に丹念に書き込んでいった。誰が見ても集落の様子が一目でわかるように詳しく書き入れるべきことを記入していった。それによって集落の状況を正確に把握した。彼はアヱネアスの宿舎を訪ね報告した。
 『統領、集落を見て回っている途中でオキテスとオロンテスに会い、簡単に話しました。今日の作業は、大体満足のいく状態で事が終わっています』
 『おっ!そうか。彼ら、明日の会議についてどのように言っている?』
 『はあ~、そのことですが、会議の開始は昼めしのあとと打ち合わせしています。真剣に考えているようです』
 『彼らは、どのように計画を練り上げているかな?気になるところだ』
 『それは判りません。統領と私に課せられていることは、彼らの構想をどのようにして築砦の構想に織り込んでいくかが課題です。我々の持っている力、要するに財政力、技術力に照らし合わせて、構想の実現を図る。構想、そして、計画立案の断捨離、作業の巧拙が結果を左右するといっていいと考えています。力量と構想のバランスです。築砦と城市を如何なる状態で仕上げるか、それを出来るか、否か、を検討しつくして、実現の可、不可を決定したい、そのように考えています』
 『そうだな、お前の言うとおりだ、判った。そのように討議を進める。軍団長、討議を尽くし、実現可能構想計画をまとめあげる。財政に照らし合わせて、計画の断捨離、取捨選択を行い、第一次はここまで、第二次はこれという具合に構築計画の段取りを決めて事業を進めていく』
 アヱネアスは、息を継いだ。
 『この事業を行う上で、お前に託しておきたい一事がある。それは我々にとっての大事な一事なのだ。心してお前の胸にしまっておいてもらいたい。それは『築いたこの砦を事の次第によって、いつ捨ててもかまわない』ということを念頭に置いて築砦の事業を進めてほしいということだ。クレタとはどんなところか?まだ、我々の考えが及んでいない領域がある。国家千年の計画を立てることのできる土地なのか、それが判っていないということなのだ』
 アヱネアスは、極めて慎重であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  138

2013-11-04 08:32:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らはそのような時代の中でクレタ島の西部地区で北に小島を控えた地点を建国の地とした。それが正答であったか、どうかは歴史が証明するところである。
 イリオネスは、統領の側近としての位置にあり、一族を統括し、軍事面の才を発揮して戦闘集団としての軍団を統べていた。彼は透徹した目で一族に起きる事象、また、起きるであろう事象を考える、見ることにより全てを宰領した。彼は、経理の才もあり、財政面の総括をも担当していた。彼が手腕を揮うにあたり、パリヌルス、オキテス、オロンテスらの果たす役割も大きくかかわり、充分と思える成果をあげたといっていい、失敗事象を最小限に抑えることに腐心できた。このヨーロッパの青銅器時代、いわゆる古代において、たぐいまれなる才力の持ち主たちに恵まれていた集団と言っていい。集団を運営していくには為政者一人の才や力に頼らず、人智、集団の持てる力で運営にあたった。為政者は自分の欲する成果に力の及ばないと察すると奇跡として、その成果を望んだ。彼らは、それを自分の運力と判断した節がある。彼らは、事の成り行き、成果は。運のなせる業ではなく、人智力が技を為すという想いであった。人間が個である場合、運力は必要不可欠の要素であるかもしれないが、集団は、集団の長の運力ではなく、その集団を支える人間力によって集団が目的を達成していくようになる。アヱネアスは、そのことを充分に理解して、己を支えてくれる、自分の統べる集団、者たちを大切にすることを当然であると心得ていた。
 
 太陽がが西空を染める。今日一日、彼らは山野に海に作業に努めた。作業終了の時を迎えていた。各部署では作業の終了が告げられ、今日一日の労がねぎらわれていた。オキテスとオロンテスは小山のごとく集積された薪の山を満足げに見つめてうなづきあっていた。
 『オロンテス、これでどうだ』
 『いやあ~、大変でしたな。これで十分です、これだけあれば当分は燃料に事欠くことはありません。ありがとうございました』
 『オロンテス、礼には及ばん。俺たちは、当然やるべきをやったまでだ』
 彼ら二人と、作業に従事した者たちも満足げに薪の山を見上げていた。
 パリヌルスは、細かく作業の指示をして、浜に杭を打ち込んだり、揚陸している各船の整備、揚陸状態の整理をして作業を終えた。彼も作業終了を告げ一同の労をねぎらって、これからの役務の指示を終えた。
 彼は多忙でもある。このあとギアスの舟艇でアレテスのいる小島へと向かった。