『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  142

2019-10-16 07:02:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船団は、クレタ島を離脱して1時間余りが経過している。
 パリヌルスが太陽を仰ぎ見る、頃合いを計る、あとにしたニューキドニアの浜を振り返り見る、はるか後方に目にする。
 パリヌルスは、ギアスと目を合わせる、手で招く、指示する。
 『二番船に指示サインを送ってくれ。朝食の連絡だ。手のあいている者に朝食のパンを配らせてくれ、飲み物をつけてだ。飲み物の追加はなしだ、いいな。それから漕ぎかたの交替をやってくれ彼らへも朝食を渡してくれ』
 『判りました』
 指示サインが一番船から二番船に、二番船から三番船に、そして、四番船にと伝えられていく、こういった伝達手法は、船団の航海におけるシステムとして確立していたのである。
 船団はまだ風を得ていない、風を待っている、洋上走行を漕ぎかたの漕ぎにゆだねている。
 パリヌルスは、時折、進行方向を方角時板で確かめる、北西への進路を維持しているかと問われると自信のないところである。
 イリオネスが声をかけてくる。
 『パリヌルス、船は海洋の真ん中を進んでいる。沿岸に沿ってではない、頼りになる目標物のない海路だ。進行方向を間違えることなく進んでいるか?』
 『はい、そのつもりでいますが』
 『つもりか、少々頼りないな』
 パリヌルスは、方角時板の磁石鉄棒を手でつるし下げて、方角時板の方角指示線にあわせて進路方向の確認作業をして、チエック結果を報告する。
 スダヌスの書いてくれた航海図を信頼して、2時間の間に4回のペースで照合している、船団の先にたって、行く先を目指している船であることを自覚しての所作である。
 『これは、俺が一番船に乗って、この航海の責任担当としての役務と心得てやっている』
 陽は光をふりおろす、海を渡るソヨットした風、出航して1時間余りの時点、クレタ島から10キロ余りの沖の地点、風の力がたよりない、パリヌルスは考える、もう少し北上すれば風が来る、しかし、どこからの風かはわからない。
 考えている時間も船は進んでいる、彼の思考から抜け落ちている、とんだ誤算である、海はただのでっかい水だまりではない、潮流を考慮していなかったことである。
 『もうそろそろ来る』である船上にあって、風を感じる、空を仰ぐ、太陽の位置を見る、時を計る、クレタを離れて4時間余り経過している。
 ギアスを呼ぶ。
 『ギアス、来るものが来た!この風で帆張りをする。お前の考えは?』
 『南からの風です。少々東に寄っています。帆張りのタイミングともいえます。帆を張って様子を見ます』
 『よし!帆張りだ』
 ギアスが指示を叫ぶ、『全帆を張れっ!漕ぎかたは続行!』一番船の様子を見て、後続する3船も帆張りする、帆の風ハラミを確認する、船の加速が感じられる。
 『ギアス、昼食の時間だ。指示サインを送れ!一同にも昼食を頼む!』ギアスが手配する。昼食を終える頃には、風速、風力が強まっている。
 『パリヌルス隊長、この風!船は帆走でいけます』
 『よし!漕ぎかたをやめる』船団は快調といえる状態で航走する。
 パリヌルスは戸惑う、進行方向左手側にあるはずの小島が見えない、小島の海域に到達しているはずなのにである、あるはずの小島が見えない、右手方向に目を移す、遠方に小島を発見する。
 パリヌルスは、船と小島の離れている距離を目測で判断する、約20スタジオン(2キロ弱)と断を下す、彼は、どうしてと考える、結論する。
 『そうか、海はでっかい水だまりではない、海に流れがある。そうか、忘れていた』と納得した。
 スダヌスの航海図に目を落とす、『目指すは、キューテラ島の南西岸、このまま北西へ進めばそれでいい!』と決定する。
 イリオネスにその旨を報告して船を航走させる、航海は順調である、小島を過ぎて、5時間後、キューテラ島の南西岸のキシラの浜を目にする地点に到達する。
 太陽は、西の水平線上にある。航海が順調であったと感じる。アンラッキーと紙一重のラッキーを船上の者らと喜び合う。
 船団は、キシラ浜近くの洋上に停泊して一夜を過ごした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  141

2019-10-15 14:08:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 軍船の浜に集った彼らは建国の地の探索のアエネアス船団の出航、その壮途を見送る、その興奮を抱いて朝行事をすませる。
 ドックスは、浜に立ってその風景を眺める、そして、考える。
 『この俺に彼らを統べる、率いる、ポリスを建設する、その力があるであろうか?』と考える。
 『まあ~、成り行きをみよう。今日一日をその思案に充当する』と独りごちて、ドックスの頭脳がその思案メニューを考える。
 彼は、統率の力学を考える、彼は、船棟梁としての自信とプライドがある。ものづくり思考でもってこのワークをやろうと考えている。うまくいくだろうか、大いなる懸念にとらわれている。
 この問題が惹起する、アエネアスより言い渡される、クラウド状態の中に身をおいて考えていたのである。雲の中の遊泳、しくじれば落下『イカロスの翼』のたぐいではないかと独りごちる。
 数人の者がドックスを目指して歩んでくる、ドックスが身構える。
 先頭にいるのは、セレストスである、一同と顔を合わせる、セレストスについてきたのは、ダッカス、ジッタ、クリテス、そして、リナウスである。
 セレストスがドックスに声をかける。
 『ドックス棟梁、今日ですが、このニューキドニアのこれからを話し合って、私らが担当する役務を明確にして体制を整るようにしていただければ幸いです。私の業務のキドニア行きは代理の者が行くことになっています。会所のほうに私らの朝食を準備させています。朝食を食べながら話し合えればと考えています』
 『おう、了解した。会所でそのあたりの事を話し合おう』
 ドックスらが会所へと歩を運ぶ、準備されている朝食のパンを一同に手渡す、杯にはぶどう酒のハチミツ割りを注ぐ、誰かが朝食を誉める。
 『おう、これはうまい!』一同がこの言葉にうなずき、パンを口にほうばりながら話し合う、セレストスが口を開く。
 『話してもいいかな、俺の想いをーーー』と言いながら一同の顔を見る、目が合う、ダッカスが口を開く。
 『おう、セレストス言ってみてくれ』
 『我らがこれから建設するのは、小さいといえどもポリスだ。一つの集団であり、民族の結合体としてどのように動いていくかを明確にして、一歩一歩、地歩を固めていくべきじゃないかと考えているだが』
 『おう、そうだな。それにはアエネアス統領から言い渡されたように、ドックス棟梁を盟主として体制をつくる。それが順当であると、俺は考えてている』
 ダッカスが手を上げる。
 『セレストスの言った考えに俺は大賛成だ』
 リナウスとジッタがダッカスの賛意に同調する。クリてスも笑みをたたえてうなずく、一同を見てダッカスが意見を述べる。
 『おう、一同!ドックス棟梁にどう呼びかけるかを決めたらどうだ。統領もチョットナ、盟主ともな、何かいい呼びかけ方がないかな?ポリスの首長である、親しみやすい呼びかけだ』
 『我々がドックス棟梁に呼びかけやすい呼び方だ。考えようではないか』
 『おう、それがいい。今日の業務がある。朝の打ち合わせをやらなきゃいけない。今日の午後半ばぐらいから会議をやらないか』
 『おう、それがいい。ここに集まって会議を開く!決まりだ。ドックス棟梁いかがですか?』
 『おう、それはいい。我々がこれからやらなければならないこと、いろいろと打ち合わせ事項もある。正式に第一回目の会議を開く。今ここにいる一同集まってほしい』
 『了解しました』
 一同が声をそろえてうなずく、ドックスは、半歩を踏み出したと実感した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  140

2019-10-14 16:56:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 建国の地の探索にともに旅立つ一同に向かって起つアエネアス、全員のまなざしがアエネアスに注がれている、その目に目線を合わせる。
 『おう、諸君!』と呼びかける、『おうっ!』と一同から声があがる。
 『建国の地の探索に旅立つ日が来た。我々は旅立つ!太陽が昇る、大日輪とともに広い海洋を西に向かう!全員で目指す建国の地に立とう!』
 一同を見廻す、目線が絡む、アエネアスが雄叫ぶ。
 『おうっ!』一同から『おうっ!』と返る。
 『おうっ!おうっ!』アエネアスが叫ぶ。
 『おうっ!おうっ!』一段と大声で雄叫ぶ、朝のしじまを震わす。
 イリオネスが大声をもって、この時とばかりに命令を下す。
 『一同!乗船!』
 『位置に就け!』
 『おうっ!』
 総員が船に向けて走る、海を走る、船に乗る、位置に就く、櫂座に就いた者らが櫂に手をかける、出航体制が整う、船長、副船長が体制を確かめる。
 アエネアスとイリオネスがハシケでくる、座乗する船に乗る。
 船上の者らが東の水平線に目を凝らす、陽の出が近い。
 軍団長のイリオネスが緊張を高めている。
 水平線を破った太陽の第一射が帆柱の先に届く。
 パリヌルスが声をあげる。
 『漕ぎかた!構え!』
 イリオネスの檄が飛ぶ、『出航!』
 パリヌルスの指示が飛ぶ、『漕ぎかたはじめ!』
 大日輪が壮途に就く彼らの背を押す。
 櫂が海面を泡だてる、凪いでいる海を船が割り始める。
 静かであった浜に突如、大喊声が轟く、喊声が船を押す、船上の者らが手を振る、浜の者らが手を振る、一行の壮途を送る。
 一番船が行く、二番船が続く、三番船が行く、最後に四番船が小船を曳いて行く。
 二本帆柱に改造された4隻の軍船が列をなして海上を往く、白く航跡を引いて遠ざかる、浜の一同が壮途に就いた軍船が小島を過ぎて船影が見えなくなるまで見送る。
 一番船上のパリヌルスがイリオネスに話しかける。
 『軍団長、この木板を見る限り、目指す方角は北西方向です』と言って方角時板の磁石鉄棒で方角を決める、進路を正確に定めて船を進める。
 追随する3船が一番船の航跡を追って進路を定めて航走した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  139

2019-10-14 06:58:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 閾下の意識がアエネアスを揺さぶり起こす。
 『おいっ!アエネアス、起きろ!旅立ちの刻だ、起きろ!起きるのだ、行け!』
 目を覚ます、真っ暗闇である、起きあがる。
 整えていた旅装を小脇に抱え持つ、寝ているアカてスを起こす。
 『アカテス、俺はいく!頃合いをみて父とユールスを連れて軍船の浜へ来てくれ。待っている』
 『判りました。朝行事をする余裕をみて浜へ行きます』
 アエネアスが浜に着く、天空を仰ぎ見る、星がきらめいている、海に目をやる、水平線方向に目を移す、水平線が見えない、抱え持つ旅装を砂上に置く、海に身を浸す、出航のことを考える。
 早番の兵卒が浜にかがり火を燃やす、大勢が姿を見せる、一斉に朝行事する。
 パリヌルス、オキテスの声がする、かがり火の先にイリオネスの姿が浮かぶ。
 水平線が目に見えてくる。薄明(航海薄明)がおとずれる、水平線と空の区切りがおぼろげに見える。
 浜の各所で朝の挨拶が交わされている、暗闇であった浜が明るんでくる。
 アレテスが一団を率いて姿を見せる、アレテスの後を継ぐジッタの姿も見える、彼らは大量の塩干魚を持ってきている。
 オロンテスがパン工房の者ら全員に焼きあげたパンを袋詰めにして持って浜に来ている、セレストスの声が飛ぶ、今日一日に食すパンを各船あてに配っていく、都合二日分のパンを四番船に荷積みする。
 イリオネスがアエネアスの許に来る。
 『統領、おはようございます。いい朝です。航海に最適となる日になります』
 『おう、おはよう、いい朝だ!急変さえしなければ、いい航海の一日となる』
 『荷積み業務がもう終わります。一同を集めます。父上、ユールス、アカテスの三人は、四番船に乗りました』
 『おう、世話かけたな、ありがとう』
 『統領の乗船は、二番船としています。私は一番船に乗り組みます』
 『俺が乗るのは、二番船だな。了解!』
 『これが決定した副船長役務担当です』
 副船長役務担当者の名前を書いた木板を手渡す。
 『全員を集合させます』
 『おう、やってくれ!』
 イリオネスが各船の荷役作業の完了を確認を終える、一同を集める、整列させる。アエネアスが隊列の前面に立つ、イリオネスが並んで立つ。
 ドックスが一団を引き連れてくる、隊列の背後に一同を囲んで立つ、ジッタとその連中も立ち並ぶ、リナウスの顔が見える、セレストスが荷積みの業務を終えて、一同に並んで立つ。
 イリオネスがアエネアスに報告する。
 『統領、建国の地の探索に旅立つ一行、373名揃いました。副船長役務担当の4名に下命します』
 イリオネスが隊列を整えている一同に身体を向ける、声をかける。
 『おう、諸君!おはよう、いい朝だ!空に一片の雲もない、いい日和となる、建国の地の探索の出航に際して君らに告げる。船長役を務めるのは、一番船がパリヌルス隊長、二番船がオキテス隊長、三番船がアレテス隊長、そして、四番船がオロンテス隊長である。次に副船長役を担当する4名は、一番船はギアス、二番船はゴッカス、三番船はカイクス、四番船はカジタス、以上である』
 空の星が眠りについていく。
 アエネアスが一同に向かって起った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  138

2019-10-12 06:29:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜の各部署を廻り終えたアエネアスは、この地における俺の仕事を終えたと心にとめる。
 彼は、波打ち際に立つ、今日を終えようとしている太陽に目を移す、海を茜色に照らしている、朝には心に迎え、夕べには別れを告げる、クレタの地でともに過ごした太陽である。
 いま、アエネアスはこのかけがえのない太陽を感謝の念を込めて見送る。
 『君がいてくれてクレタの地で生きて来れた。ありがとう。明朝、クレタから旅立つ!明日、朝、君とともに この海を西に向けてわたっていく。君に願う!You raise me up!不屈のスピリッツを胸に抱き、未知の海を行く、我とともに行こう!』
 傍らにいるイリオネスが声をかける。
 『統領、今、何か言われましたね?』
 『何かを耳にしたかな?』
 『You raise me up!てなんですか?』
 『あ~あ、それか!それは太陽と俺の絆だ。心に太陽なのだ』
 『そうですか。クレタの地で想い存分に生きた。私も統領との絆で考えるところを十二分やりました。ありがとうございました。再び、明日からです。共に生きていきたいと心しています』
 『おう、君がいなければ、俺の明日がない、心底からの想いだ!そばにいてくれ、心の中にいつもいてほしい。You raise me up !の君だ』
 二人は、ジイ~ッと見つめ合う、目線が交錯して結ばれる。
 水平線下に沈んだ太陽を残心で見送る。
 『統領、行きますか』とイリオネスが声をかけて宿舎への道を歩みはじめる、木々の葉ずれを鳴らす風が二人の背中を押す、宿舎に着く。
 『統領、ご苦労でした』
 『おう、軍団長、ごくろうだった』
 二人は日ごろの挨拶言葉で別れる、宿舎にに入るアエネアス、父アンキセスら三人が待っている、アンキセスがあらたまった口調で声をかける。
 『アエネアス、ごくろうであった。クレタでの用件を終えたのか?』
 『はい、終えました。皆もごくろうであった。父上、明朝、陽の出の刻にクレタを出航して西に向かいます。よろしいですね!』
 父アンキセスとアエネアスが目を合わせる。
 『ユールス、明日は旅立ちの日だ、行こう!アカテス、明日、建国の地の探索にクレタの地を離れる。陽の出の刻に出航する。父とユールスをよろしく頼む』
 『判りました。その日がついにきましたか、心得、充分にできています』
 一同が夕食のテーブルを囲む、交わす言葉は多くない、アンキセスがアエネアスに言葉をかける。
 『息よ!道は、見えているのか?』
 『おぼろに見えています』
 『そうか、お前を待望の地に導く者が必ずいる。不安は捨てろ!捨てるのだ!』
 『父よ、貴方はうれしいことを言ってくれますな。ハッハハ!笑う門出に導く者が来ますかな』
 食事を終えて床に就く、アエネアスに眠りが来ない、湧出する想いを二項対立思考でクリアする。
 突然訪れる眠気、目を閉じる、深い眠りの淵に落ちた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  137

2019-10-11 06:36:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスがクレタを出航して2日間の航海についての詳しい説明を終える。
 『一同!俺の話をよく聞いてくれた。話はスダヌスが語ってくれたことをそのまま君らに伝えた。彼が描いてくれた航路の図と彼の説明に何となく食い違いがあるように感じられるところがある。そこは細心の注意を怠ることなく海を渡っていくよろしく頼む。特に一番船に乗って先導するパリヌルス、心してその役務を遂行してくれ』と言って、航路を描いた木板をパリヌルスに手渡す。
 『解りました。言われたことに充分に心的配慮を配り航海に努めます』
 アエネアスの航海要領の話が終わる。イリオネスが話を継ぐ。
 『ここまで話したことについて質問があるかな?』
 オロンテスが手を上げる。
 『おう、オロンテス、何だ?』
 『この航海に際して、軍船が改造されていると聞いた。どのように改造したのかを聞きたい』
 『おう、パリヌルス、オロンテスの質問に答えてくれ』
 『はい、解りました』パリヌルスが立ちあがる。
 『このたびの航海に使役する軍船は、トロイ時代に建造した軍船である。ゆえに一般的な軍船構造で建造されている。そのようなわけで走行安定性に少々の難があります。どのよう難かと言うと操船時において、船が横方向にスベル兆候があります。それを抑えるために、櫂舵構造をやめて我らが戦闘艇に採用している舵構造としたこと。そのうえで船体底部に施している衝角構造体の改良をしたというわけです。これによって海上の走行安定性が向上しています。試験走行で確認しています。また、これまでの一本帆柱構造を二本帆柱構造とすることにより、帆柱が従来の一本帆柱より低くなり、船体のブレを少なくし、展帆面積を広くして、帆張り航走を向上させています。なお、4枚帆にすることにより、風対応の合理性を図っています。以上が改造した諸点です。改造については、エーゲ海と地中海なる海は、海の大きさが違う、海が大きければ、その深さも違う、海が違えばその海が発現する海洋状況も違うであろうことを想像して改造してあります。そのような海に対応できる船体構造の強化、走行の安定性を考えて改造し、これ以上はないという次元で改造しました。以上です』
 『おう、オロンテス、パリヌルスの詳しい説明、納得したかな』
 『質問に対して、詳しく説明してくれました。よく理解しました』
 『ほかに質問は?』
 『ありません!』と返事が返ってくる。
 『次に君らに伝えておくことは、統領の父君であるアンキセス殿、そして、息子のユールス、二人に付き添いのアカテスの三人は四番船に乗船する。それから最終の荷積みの件だが、荷積みしたい荷がここにあるこれだ。この打ち合わせを終えたら持ち運び、四番船に積む。統領も俺もその作業を共にする、大切なものであるだけにな、判ったな。伝えなければならんことがいっぱいあるな、各船に乗り込む船長の役務担当については、明朝、出航の時に伝える』
 一同に話し終えてイリオネスはアエネアスに体を向ける。
 『統領、何かありますか?』
 『おう、あるある!つめのひと言を一同に言っておきたい』
 アエネアスが立ちあがる、姿勢を改める、一同と目を合わせる。
 『おう、諸君!明朝、このクレタから、建国の地の探索に旅立つ!我々の不屈のスピリッツで目標を達成する!いいな!』
 『オウ、オウツ!』
 一同の喊声がイリオネスの宿舎を震わせる、一同が力を込めて手を打つ、拍手をもって打ち合わせを終える。
 イリオネスが一同に声をかける。
 『おう、これで打ち合わせを終わる。明朝は星が天空にある間に軍船の浜に集合!朝の荷積みをする。以上だ!では、荷積みする荷を渡す、統領と俺とは、ドックスとの引継ぎの業務を終えて軍船の浜に行く、待っていてくれ。積み込み作業は一緒にやる』
 アエネアスがドックスに引き継ぐ資産を渡す、受け取るドックス。イリオネスがドックスに告げる。
 『ドックス、いいかな、この宿舎とだな、統領の宿舎を引き継ぐ受け取ってくれ』
 『はい、統領から受領した資産、引き継ぎを言い渡された2件の宿舎を受け取りました』
 『よろしく頼む』
 『解りました』
 イリオネスの宿舎における業務を終えたアエネアスとイリオネスは、軍船の浜へ積み込む荷を携えて向かう、待機していた一同と積み込み作業を終える。
 『統領、終業の頃合いまでに少々時間があります。どうされますか?』
 『巡回する!』アエネアスに連れ立ってイリオネスが巡回に同道する。建造の場の者らと顔を合わせる、リナウスの武闘訓練場に足を運ぶ、パン工房の者らとも顔を合わせる。
 浜に降りる、パリヌルスにハシケを漕がせて小島の連中とも顔を合わせる、明日の別れを告げる。
 浜に戻って今日の業務を終えた。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  136

2019-10-10 05:58:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 心に押し寄せた耐えがたい感傷を追いやって、イリオネスは姿勢を改める、話し始める。
 『一同、今日はごくろうであった。出航の準備も整った、明朝、太陽が東の水平線を破って昇る、その刻に我らは、このクレタを離れる、そして、建国の地の探索の壮途に就く。我々が未知の海洋を旅する。如何なる困難が降りかかろうとも、また行く手をさえぎる事態が発生しようとも、それら一切を駆逐して目的を達成する!いいな!』
 場の一同が賛意を声を出して答える。
 イリオネスが場を見まわす、一同の意志を確かめる、鋭い目線で目を合わせる。
 『この壮途である建国の地の探索では、我らは不明の海洋を渡っていく、目標地点は、へスペリアなる地である。この地に到る地図なるものはない。目標とする何物も存在しない航海で海洋を渡っていく、向かう先に何があるかも全く不明なのである。陸地の沿岸に沿って、ひたすら西への航海を続ける。気候の変化、予期しない風、荒れる海、こういった状況であろうとも海路を行く、航海を続ける。また、停泊の地において、干戈を交える事態が発生するやもしれない、いかなる事態に遭遇するやもしれない、これらをしりぞけて目的に向かって進む、本望を達成する。いいな!』
 イリオネスが力説する、これを聞く一同は、意志をイリオネスの言葉と語調に合わせて高めていく。イリオネスが一泊の間をとって話を継ぐ。
 『この壮途に使用する軍船は4隻、そのすべての軍船を、渡り行く海洋を想定して、いかなる状況にも対応できるように改造している。気候の変化、荒れる海等、それら危難に対処し危難を退けてくれ。いいな!』
 一同と目を合わせて話を一段落させる、一同は、納得を言葉にして返す、うなずいて、イリオネスの目を見つめ返す。
 アエネアスがイリオネスに代わって話し始める。
 『おう、一同、ごくろう!君らの作業遂行に感謝している。軍団長の話の太要を理解してくれたな。先日、スダヌス浜頭が浜に来てくれた。その時、誰にも知られることなく、二人きりで航海の話合いをした。クレタを出航して、ギリシア本土の南西岸に到達するところまでの航路についての情報を得ている。それについて話をするから聞いてくれ』
 ここまで話して一同と目を合わせる、彼は穏やかな口調で話す。航海の見通しに迷いのない話しぶりである。
 『この航海は大切なわが民族のための航海である。故に安全航海で海路行くように努めたいのが俺の想いである。我らが目指すへスペリアへの地図なるものがない航海でもある。そのようなわけで行く先々において、次に目指すところの情報を獲得しながら、航海を続けなければならないことが一つ、二つ目は、ムリのない沿岸航法で航海を続ける。とにかく西へと方向を定めて海洋を行く。ところでだ』
 アエネアスが一泊の間をとって、一同と顔を合わせる。
 『出航して2日間でギリシア南部の西岸に到達して、沿岸に沿って北上するまでの航路、航程の詳細をスダヌスが話してくれた。それについて話しておく。この航程は日足の短い時節であれば3日の航程だが、今の時節なれば無理をすれば2日で航海できるそうだ。第一日目は、ギリシア本土の南部西岸に着くまでの中間地点にキューテラなる島があるそうである。これを目指す。この島の南部西岸のキシラの浜を目指して行く。それには出航して北西に向かっていく、道中には無人の小島が一つあるだけだそうだ。スダヌスの言うのでは、この時節なれば朝 陽の出の刻に出航して順調な航海であれば日没後、遅くとも宵のとばりの降りる頃には着くであろうと言っている。そこでは出来るだけ岸に近寄って海上で停泊して、明朝は空に星の残っている頃合いにキューテラを離れて北西に出航されたらいいと言っている。出航したら北西に向かって船団を進めれば、夕刻近くには、ギリシア本土の陸地が見えてくるそうだ。我々にとっては初めての航路であり定かではない。さらに航走して、本土の南西の岸に近づけば、目にする陸地には海に面して築城された城が見える、それを目にして、沿岸に沿って北上すれば半刻余りでピユロスなるところに着くといっている。その頃といえば真っ暗闇であるゆえに海上で停泊して、浜を訪ねるのは夜が明けてからにしようと考えている。スダヌスの配慮でピユロスのスケタルという浜頭あての紹介の木板を預かっている。たずねようと考えている。ここで次の目指す地点の情報を得ようと考えている。このピユロスなるところはは、我らがトロイの戦役で干戈を交えたネストルという大将の領国であるそうだ。以上だ。出航して2日間我らがいく航程である』
 スダヌスは、土地の浜頭への紹介の木板、それに加えて2日間の航路も描いた木板をアエネアスに渡していた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  135

2019-10-09 10:07:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、出航準備の完了確認を終える、作業の責任担当をした三人を呼び寄せる。
 『おう、ごくろうであったな。念押しの必要はないな』
 『はい、ありません』
 『よしっ!統領と俺は、先に行って待っている。俺の宿舎だぞ!オキテス頼みだ、ドックスを連れてきてほしい』
 『はい、解りました』
 アエネアスとイリオネスは、歩を自分の宿舎に向けて浜を去っていく。
 三人は念のための最終チエックをする、一同に明朝の件を伝える、後事を作業遂行のチーフを務めた者らに指示をして軍船の浜をあとにする。
 オキテスだけが建造の場にドックスを呼びに行く、ドックスに事情を伝えて同道させる、二人は歩きながら話を交わす、考えられるこれからのこと、数々の思い出話、語ることが多すぎる、ドックスが気にかけている事情について、オキテスのアドバイスを聞く。
 『解りました。状況を見て、その手を打ちます。ありがとうございます』
 二人は、少々遅れたがイリオネスの宿舎の戸口に立つ、声をかけて中に入る、イリオネスが二人をむかえてくれる。
 『オキテス、待っていたぞ。おう、ドックス、来てくれたか、ありがとう。これから、航海の話をする、聞いていてくれればいい、それを終えて、統領がドックス、お前に最後の引継ぎをする。受け取ってくれ』
 『解りました。クレタに戻られるのはいつ頃ですかな?』
 『それを聞かれると、自信を持って答えられない、早ければ1年後、だいたい3年、いや、4年後までにはクレタに戻りたいと考えている。よろしく頼む』
 『大いなる目標の達成と航海の無事を心を込めて祈ります』
 『おう、ありがとう!ドックス!その言葉をかけてくれたのが、ドックス、お前が第一番目だ!感謝!感謝だ!』
 その言葉をアエネアスにつなぐ、アエネアスがドックスに手をさしのべる、その手をシッカリと力を込めて握るドックス。
 ドックスの目には、涙が浮かんでいる、ジイ~ッとアエネアスの目を見る、アエネアスの目も潤む、アエネアスがドックスの肩を抱く、力を込めて引き寄せる。
 この光景を目にする周りの者らの胸が震える、場が動く、アエネアスに代わってイリオネスがドックスの肩を抱く、オキテスがかわる、パリヌルスが目をぬぐいながらドックスの肩を抱く、オロンテスが胸を震わせて目を合わせる、ドックスの肩を力イッパイに抱く、アレテスが一同にならってドックスの肩を抱く。
 彼らは感傷の極みの一時を終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  134

2019-10-08 06:13:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 三人が明朝の出航準備作業に向かう、軍船の浜には大勢といえる者らが集まっている。
 三人を囲んで円陣を組む、会所から軍船の浜に到る道中で三人は作業段取りを話し合ってきている。
 パリヌルスがアレテスに用員を割り当て軍船の整備を指示する。
 パリヌルスとおkテスは残った大勢を連れて、刀槍類、武具等を収納している建屋に向かう、収納している戦闘用具等は使用する機会がなくとも手入れされている。
 『おう、パリヌルス、武具類の手入れが行き届いているな』
 『そんなこと当たり前だろうが、いつ何があろうとも使えるようになっている。常に備えよだ』と話し合いながら、作業指示をする。
 
 会所に残ったアエネアスとイリオネス、こちらも明日の出航に際しての準備作業を考えている。
 『統領、行きましょう、私の宿舎へ。運び出す我らが保有している資産の荷づくりです』
 『おう、了解!』二人は立ちあがる、イリオネスの宿舎へと向かう。
 歩きながらイリオネスがアエネアスに話す。
 『ドックスに引き継ぐ資産の件もあります。宿舎とともに彼に引き渡す心算でいます』
 『そうか、それがいい。ところで、俺の宿舎だが、誰に引き継ごうかな?』
 『それはドックスに一任でいいのではないですか』
 『そうだな』
 イリオネスの宿舎に着く、アエネアスは状態を見て驚く。
 『おう、軍団長、こんなにあるのか』
 『そうです。トロイを出る時、持ちだした金は、デロスのアポロンの神殿、クレタのゼウスの神殿に詣でたときに使った分が減っていますが、船舶の売りで稼いだ銀貨の量が増えています。これからの旅でどれだけの支出があるか判りません。心しています』
 『そうだな、解った。イリオネス、言ってくれ、作業を進める』
 イリオネスが指示する、二人の共同作業がはかどり、荷づくり作業が終わる、二人は会所に戻る。
 イリオネスは、休むことなく軍船の浜へ歩を運ぶ、軍船の作業の進捗を確かめる、300人に及ぶ人員が取り組んでいる作業である、彼は状況を見届ける。
 『おう、パリヌルス、今日の午後の航海の詳細打ち合わせだが、頃合いになったらお前らを呼びに来る。それまでに作業を完了するのだ』
 『解りました』
 昼を終える、軍船の浜にパン工房から荷が届く、オロンテスも姿を見せる、四番船に積み込む、四番船は、軍船を交易船構造に改造している船である。
 パリヌルスとオキテスが各船を見て廻る、作業の完了を確認する。
 アエネアスとイリオネスが姿を見せる、パリヌルスが出航準備作業の完了を報告する、イリオネスが見て廻る、完了を確認する。
 作業に従事した全員を集合させる、イリオネスが出航について一同に告げる、明朝の集合の頃合いを伝える。
 『一同、判ったな。以上だ』
 『おうっ!』と一同から返事が返った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  133

2019-10-07 06:00:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝が明ける、朝行事の浜は、にぎわっている、昨夕の夕食会の興奮が、まだ一同の体の中にあるのではないかと思われる賑わいである。
 アエネアスとイリオネスは、ドックスの求心力のある風景を目にする。責任担当の役務についていると思われる者がドックスと朝の挨拶を交わし、何事かを打ち合わせて、歩みさる風景を目にする。
 二人はうなずき交わす。
 『こうして目にする感じでは、安心ですな。統領の政策が効を奏しています。このようであれば、我々は、安心して壮途に就けます』
 『軍団長、お前の政策運営のうまさが、いい結果を招いている』
 浜の風景を目にして話し合っている二人の許にパリヌルス、オキテス、オロンテスの三人が来る、少々遅れてアレテスが来る。
 『申し訳ありません。遅くなって』
 『お~お、アレテスが来たか、出航が明朝だ!会所で朝食を食べながら打ち合わせをやる!始計第一だ』
 六人が歩き始める、イリオネスが歩きながら四人に声をかける。
 『ところでお前ら、この浜を離れる者らの事、キチット出来ているのか?』
 『はい、出来ています』四人の返事が返る、イリオネスに安堵の表情が浮かぶ。
 会所におちつく、アエネアスから声がかかる。
 『おう、一同ごくろう。明朝、このクレタを離れる。結果ははっきりとわかっている、俺は、一同とともに建国の地に立っている。不明なのは明日だ、その日、その日を必ずクリアしていく、建国の地に立つまではだな!たとえ如何なることがあろうともだ』
 『今日の予定は、明朝の出航の準備を整える。それと航海に関する詳しい打ち合わせだ。この打ち合わせは午後半ばから俺の宿舎でやる』
 『判りました』
 『今、ここでは、出航準備の件を打ち合わせる。軍船の整備、出航について我々が装備しなければならないものの積み込みだ。航海に関する船具は不備のないように心を配って積み込む、また途上において、交戦止むなき事態があるであろう、それに備えて、武具について入念に整えて積載する。パリヌルス、オキテス、アレテスの三人で整えて積み込んでくれ』
 『了解しました』
 『航海初期段階における食糧計画をオロンテスに依頼してある。オロンテス聞かせてくれ』
 『はい、解りました』
 オロンテスが携えてきた木板を前にして口を開く。
 『焼き上げたパンは三日分、堅パンはだいたい5日分くらい、停泊地でパンを焼く小麦粉を10日分を荷として持参したいと考えています。また、停泊地でパンを焼く道具類も準備しています。これらをパン工房の者らが軍船の浜に運びます。四番船に積み込んでいただきたいのです。なお焼いたパン三日分は出航当日に積み込むよう手配しています。都合上、一番船から四番船までの乗船人員の人数を午後の打ち合わせ時に伝えてもらいたい』
 『心得た。伝える』とパリヌルスが答える。
 『計画は以上の通りだ。そこで四番船の積載量についてだが、四番船の乗船人員について考慮して各船の乗船人員を考えてくれ。以上だ』
 一同が顔を合わせる。
 『航海に就いての詳しい打ち合わせは午後半ばからだ。まだ君らには言ってない積み荷の件がある、それについてはその時に打ち合わせる。以上』
 彼らは朝食を終える、オロンテスはパン工房へ、パリヌルスら三人は軍船の浜へ歩を向けた。