12月7日付 毎日新聞コラム「発信箱」 「第一級」の資格 元村有希子
建築を志す学生が必ず学ぶ逸話がある。ニューヨーク・マンハッタンのシティコープビルを設計したルメジャーという建築学者の話だ。59階建て、ガラス張りのモダンな建物は78年5月に完成した。ところが、ある大学生の指摘をきっかけに致命的な欠陥が見つかる。横風の影響の考慮を誤り、「16年に一度程度の強いハリケーンでビルが倒れる」ことが分かったのだ。確認の2日後、彼は施主のシティバンクに真実を伝えた。補強工事の方針は即日決まった。万一に備えて周辺住民の避難計画が立てられ、市当局も支援した。工事は2ヶ月で終わり、「700年に一度のハリケーンでも壊れない」強度が確認された。捨て身の告白はむしろ彼の評価を上げたという。出来過ぎの感もあるが、実話である。列島を揺るがす耐震データ偽造問題の全関係者に読ませたい。責任転嫁で時間ばかりが過ぎていく。少なくとも、姉歯建築士はこの話を知っているはずだ。難しい1級建築士の資格を取ったのだから。しかしこの資格は更新の必要がない。1級建築士は31万いる。人口あたりの人数では英国の4倍、フランスの5倍、米国の7倍。この状態では「質より量」と見られても仕方ない。建築家の安藤忠雄氏は自著「連戦連敗」(東京大学出版会)で、負け続けながらもコンペに挑み、技術と経済性を両立しながら創造するだいご味をこう語る。「ぎりぎりの緊張状態にあってこそ、創造力は発揮される」勝負の場面の行動が一流と三流を分ける、と言ってしまえば身もフタもないが。(科学環境部)
いかがでしょうか。
建築を志す学生が必ず学ぶ逸話がある。ニューヨーク・マンハッタンのシティコープビルを設計したルメジャーという建築学者の話だ。59階建て、ガラス張りのモダンな建物は78年5月に完成した。ところが、ある大学生の指摘をきっかけに致命的な欠陥が見つかる。横風の影響の考慮を誤り、「16年に一度程度の強いハリケーンでビルが倒れる」ことが分かったのだ。確認の2日後、彼は施主のシティバンクに真実を伝えた。補強工事の方針は即日決まった。万一に備えて周辺住民の避難計画が立てられ、市当局も支援した。工事は2ヶ月で終わり、「700年に一度のハリケーンでも壊れない」強度が確認された。捨て身の告白はむしろ彼の評価を上げたという。出来過ぎの感もあるが、実話である。列島を揺るがす耐震データ偽造問題の全関係者に読ませたい。責任転嫁で時間ばかりが過ぎていく。少なくとも、姉歯建築士はこの話を知っているはずだ。難しい1級建築士の資格を取ったのだから。しかしこの資格は更新の必要がない。1級建築士は31万いる。人口あたりの人数では英国の4倍、フランスの5倍、米国の7倍。この状態では「質より量」と見られても仕方ない。建築家の安藤忠雄氏は自著「連戦連敗」(東京大学出版会)で、負け続けながらもコンペに挑み、技術と経済性を両立しながら創造するだいご味をこう語る。「ぎりぎりの緊張状態にあってこそ、創造力は発揮される」勝負の場面の行動が一流と三流を分ける、と言ってしまえば身もフタもないが。(科学環境部)
いかがでしょうか。