「我等の生涯の最良の年」(The Best Years Of Our Lives、1946年、米、170分)
監督:ウイリアム・ワイラー、原作:マッキンレー・カンター
フレデリック・マーチ、マーナ・ロイ、テレサ・ライト、ダナ・アンドリュース、ヴァージニア・メイヨ、ハロルド・ラッセル
第2次世界大戦が終り、米国中部の町に帰る三人が軍用機で知り合う。アル・ステファンソン(フレデリック・マーチ)は中年の銀行づとめで子供も大きくこの戦争で徴集にあったのだろう階級は軍曹、フレッド・デリー(ダナ・アンドリュース)は職業経験はほとんどないままに結婚早々で航空兵になったが軍功で大尉、ホーマー・パリッシュ(ハロルド・ラッセル)は空母の中で働いている時に撃沈され両手は義手になっている。
戦争前の経験と記憶、戦争の記憶とプライドなどから、周りの人たちが全般に暖かく迎えても、彼らはなかなかすぐには適応できない。フレッドの妻はナイトクラブに出ていて、これは最初から難しそう。
ここから後は、なにか戦後日本に入ってきたTVホームドラマを彷彿とさせる雰囲気で、ゆったりと時間をかけて丁寧に描いているとはいえ、インパクトは弱い。TVドラマに感心していたころ見ていたら、アメリカ映画の懐の深さに感心したかもしれないが、それも今となっては、やはり余力を持って戦争し、戦勝国となったところの物語、という感はぬぐえない。ここにはアプレ・ゲールという雰囲気はない。
中では、妻とうまくいかないフレッドに傾いていくアルの長女ペギー(テレサ・ライト)の描きかたが、映画としてこちらを引き込む要素になっている。
映像では、軍用機からの眺めが随分低高度を飛んでいるなと思わせるところ、フレッドがジャンクになった爆撃機のコクピットから外を眺めているのを機外正面から撮ったショット、特に4発のプロペラがもがれた機体などが、印象的だ。
原題で「The Best Years」とあるのを「最良の年」としたのはどうか。年となるとこの帰ってきた年しか想像されないが、原題どおり複数として最良の歳月、日々とでもすれば、なかなか適応できない三人にとっては、戦前であったり、戦中であったり、たとえそれがノスタルジーであったとしても、いろいろと考えることが出来る。それともこの予定調和的な脚本にふさわしく結末の年でいいとしたのだろうか。
中で復員兵にからむ男が、ナチや日本をたたかなければ彼らが共産主義をつぶしてくれたのに、という場面がある。もうこの時期には別の敵がいたということだ。
三人がよく集まるクラブではオーナー自らピアノを弾き、これがうまい。どうも普通の俳優ではないなと思ったら、「スターダスト」などの作曲家ホーギー・カーマイケルだった。