「さらば愛しき女よ」 (Farewell MY Lovely 、レイモンド・チャンドラー、清水俊二 訳) (ハヤカワ文庫)
先日見た映画(ビデオ)「さらば愛しき女よ」(1975)の原作である。あまりにも有名で、若いころ一冊持っていたとは思うのだが、こうして読んでみると最後までは読んでなかったかもしれない。
いくら名作とはいえ、ある程度原作に沿って作られた映画を先に見ていることの利点はある。謎解きの面白さという作品ではないから、1940年代前半ロサンゼルスの風俗について感覚をつかんでおいたことによって、むしろチャンドラーの話の展開、翻訳ではあるけれどその語り口を味わうことができた。
話をコンパクトにまとめた映画が原作と異なるのはしょうがないが、それほどではない。まず、主人公マーロウのちょっとした話し相手、相棒が原作では元署長の娘、映画ではキオスクの男であること。
そしてこの「愛しき」というところが映画だとマーロウが金持の夫人に対して持つ感情と取れるのだが、原作を読むと、それが出所した大男、そして今の年老いた夫、その二人の夫人に対する思いであるとことが、わかってくる。
おそらく後者のようなところを描いているのが、チャンドラーのファンが今でも多いばかりでなく、文学として評価され、研究者も多い所以なのだろう。
そのあたりになると、原文で読めば、さらに味わいは深くなるのだろうか。翻訳は古いが、それほど違和感はない。
世間に流布しているハード・ボイルド マーロウのイメージは、ちょっと類型化しすぎているようだ。読んでみれば、さらに渋い。