ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」
指揮:クリスティアン・ティーレマン、合唱指揮:エバハルト・フリードリヒ、演出:ヤン・フィリップ・グローガー
フランツ・ヨーゼフ・ゼーリヒ(ダーラント)、リカルダ・メルベト(ゼンタ)、トミスラフ・ムジェク(エリック)、クリスタ・マイア(マリー)、ベンジャミン・ブランズ(かじ取り)、ヨン・サミュエル(オランダ人)
2013年7月25日 バイロイト 2013年8月 NHK BS Pre
「オランダ人」を映像で見たことは過去にあったような気もするが、どんなだったか記憶はない。今回はしっかり味わうことができた。
ワーグナー作品のなかではテーマを構成する要素がシンプルでわかりやすく、なにより3幕を2時間と少しで一気に上演してしまうのがいい。
荒海を乗りきるという野望と自信が神の怒り触れ、呪いをかけられてさまよう運命となったオランダ人、白馬の王子願望とその王子を助けることができるのは自分だけというこれまたありがちな娘、それをとりまく人たちは俗っぽく、特に金への執着が強い。
演出はこの構図を強調していて、娘ゼンタの父ダーラントは現代の経営者、かじ取りとともに三つ揃いのスーツ、多くの港町の男たちも同様な服装、経営する工場で作られるのは扇風機かなにかで、いたるところ段ボールの箱があり、これが主要舞台装置である。
テーマとその構成がシンプルでどの時代にも共通ということは観客もすぐ納得できるから、変なリアリズムよりはこの方が作品の核心にはいっていけるだろう、という現代風演出の受け取り方は、今回もできないわけではない。
もっとも、チケットは高価で入手困難、それでこれ?という感は、現実にそこにいた観客には残るだろう。
個人的には、少し進んでから違和感は少なくなった。ただ、二人以外の金亡者ぶりの強調は、ちょっとやりすぎで、もうわかってると言いたくなるところもあった。
歌手ではゼンタのリカルダ・メルベトが、存在感とオランダ人に対する思いの絶対性を納得させる歌唱だった。オランダ人のヨン・サミュエル、話の筋からしても受けの演技になるが、ちょうどいいバランスだろうか。
ティーレマンの指揮は的確。むしろ問題はオーケストラと合唱で、今の主要オペラハウスと比べると、やはり毎年臨時でメンバを集めるという形は限界があるのだろうか。たとえば最近ワーグナー上演が盛んなスカラ、メトロポリタンと比べると、おちる。特に合唱はこれがメトロポリタンだったらと思った。たとえば第3幕の前半、この船乗りたちの合唱は、オランダ人の運命と絶望をさらに強く説得させてくれるはずなのだが。