ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」
指揮:アントニオ・パッパーノ、演出:ペーター・シュタイン
ヨナス・カウフマン(ドン・カルロ)、トマス・ハンプソン(ロドリーゴ)、マッティ・サルミネン(フィリッポ2世)、エリック・ハーフヴァーソン(大審問官)、ロバート・ロイド(修道士)、アニヤ・ハルテロス(エリザベッタ)、エカテリーナ・セメンチェク(エボリ公女)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 2013年8月16日 ザルツブルク祝祭歌劇場 2013年9月 NHKBS
ヴェルディとしてはきわめて充実していた時期の音楽だとは思うが、この脚本の違和感については前にメトロポリタンの公演で書いたところと変わっていない。今回もその時と同じ5幕版、つまり受け狙いのフォンテンブロー出会いの場面が入ったものである。
それでも、個々の歌唱中心に聴いていると、これは今日もっとも楽しめるものかもしれない。なにしろカルロはヨナス・カウフマン、歌舞伎ではないが、登場すれば「よう、まってました」である。
カルロはこの人にあっているし、ハンプソンのロドリーゴとの相性もいい。欲を言えば後者が少し理性的で落ち着きすぎたところがあり、前半ではもう少し直情的な面があるとさらによかったが。
サルミネンの「ひとり静かに眠ろう」は聴かせる。もっともここがこのオペラではあのカルロとロドリーゴの2重唱以上によくできたところだろう。これも欲を言えば声がもう少し暗いともっとよかった。
女声二人は役の性格にうまくはまっていたと思う。実を言えば、話としてはこの二人と王の三人のドラマが一番おもしろいところというのは皮肉。
演出は舞台装置とともに、ドラマ、音楽に入っていきやすいもので、余計な背景もなく、衣装も現代ではないものの各役の性格を表現しているほかはシンプル。
装置は舞台奥が明るいような、影絵というか逆光をうまく使ったもので、これはもう30年以上前になるだろうか、あのジョルジョ・ストレーラーが「シモン・ボッカネグラ」などで使った方法の流れをくむものだろう。ただ、奥のスクリーンに背面からいろんなものを投影できるから、ここでも効果を狙って炎が出てきたりするのは、あのスカラの「指輪」でもあったが、ちょっと見飽きた感がある。
パッパーノの指揮はダイナミックで流れも勢いがあってよかった。もっとウィーンフィルであれば、場面によってはもっと濃淡を強調した味付けをやっても、オーケストラとしては面白い結果になっただろう。