メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

松本竣介 創造の原点

2016-12-03 16:20:16 | 美術
松本竣介 創造の原点
神奈川県立近代美術館鎌倉別館 2016年10月8日(土)-12月25日(日)
鎌倉の近代美術館は今年の1月に本館であった鎌倉館が閉館となり、主体は少し前にできた葉山館になった。実は鎌倉別館も閉館となったのかと思ったら、そうではないのだがこの12月で改装のため一時休館になるらしく再開は未定。実は別館に行ったのは初めて。
 
この節目に開催されたのがこの展覧会で、松本竣介のかなり多くの作品が所蔵されており、人の縁もあることから企画されたようだ。
画家の名前を知ったのはわずか20年前、このブログで何度も出てくる洲之内徹「気まぐれ美術館」からで、さいわいにも東京国立近代美術館などにいくつかの作品があり、1998年には没後50年展を練馬区立美術館で見ることができたし、2012年には生誕100年記念展をまさに葉山館で見た。
 
今回展示されいたものは何度目かではあるのだが、このくらいの規模だとゆったりをした気分で見ることが出来るから、行った価値はある。たとえば10代の学生風ののデッサンをじっくり見ると、やはり絵がうまい人だったんだと思う。
  
絵の対象はやはり建物や街が多く、そこではあまり人間は描かれない。戦中の作品も多いのだが、そして画家本人はいろいろ語りたかったらしいのだが、絵にそれを描こうということは見えなくて、あくまで描いたものだけ、それを見る人がどうみるか、そこでしかないという画家であった。「建物」(1935)は松本の作品としては色が多く、その音というかリズムというか、そういうもので立体的になっている。またやはり「Y市の橋」シリーズは、画家が続けて何度も取り上げたということが、今回はなんとなくわかった。画面構成の面からすると完璧なのである。
 
所蔵品の中で最も有名なのは「立てる像」(1942)、松本の絵の中で一番大きいのではないだろうか。これ、私はあんまり好きでなく、松本の絵の中で偉そうというか、何かに対峙して強さを見せているのがこの人の作品の中では異質に見えた。ただ今回こうして程よい規模の展覧会の中で見ると、戦時下にやはり何か示さなければならない、それは体制側であれそれに対抗する画家たちに対してであれ、「私」というものを示さなければ、という思いで描いたのか、と思った。それがこれであれば、「ここに立っている像は私、どう見られてもかまわない、隠れはしない」という感がある。依然として好きではないが、画家がこれを描かなければならなかったということは理解できたように思う。
 
「背景の建物などはそれまでもよく取り上げられたもの、その前に特になにか話そうということもなく素のまま立っている、これが画家の私」



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