メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

P.D.ジェイムズ 「わが職業は死」

2017-05-15 20:58:49 | 本と雑誌
わが職業は死 (Death of an Expert Witness)
P.D.ジェイムズ 青木久惠 訳 ハヤカワ・ミステリ文庫
 
昨年、「女には向かない職業」を読んで、この作者のものをほかにも読んでみようと思ってきた。ただ翻訳物は絶版になるのが早く、同じ早川書房でも文庫は長く在庫になることが少ないし、昔ながらのハヤカワ・ミステリそうあの新書版を少し大きくしたような二段組みはある程度入手可能なのだが、文字が小さく、この年齢では敬遠することになる。
 
さて本作は、上記に登場した若い女探偵コーデリアは出てこないが、彼女と浅からぬ因縁がある名警視長ダルグリッシュは出てきていて、捜査側では主人公である。
 
イングランドの田舎町、ここにある警察の鑑識というか科学捜査の研究所、そしてここに関係ある所員の家族をはじめとする人々、これらが登場人物である。ある部門の長で生物捜査の権威が研究室で死体で発見される。この人は優秀だが偏屈でもあり、あまり好かれていない。新任の所長、そのほかの研究員、秘書、受付、警備員など、狭い世界で舞台劇のように、複雑にからまった関係、人間模様が次第に明らかになってくる。そしてこの人たち、どの人にも癖があり、読んでいて好感が持てるとは言い難い人たちである。
 
ダルグリッシュはそういう人たちに対し我慢強く聴き取りを続け、事件を解きほぐしていく、というかこの町の人間関係全体を解きほぐしていく。例によって丁寧に叙述されているのだが、これ誰だっけという疑問を、訳書冒頭の登場人物一覧を何度も見つつ、解きほぐしながら読み進むことになった。
 
前にも書いたが、それでも個々の人間の叙述は見事で、それは、乱暴な言い方だが、イギリスにおける300年(?)の女性小説家の伝統何だろうか。
ただ作者の思い入れが強い捜査側の人間はダルグリッシュだけで、この人は抑制的な性格が強いから、彼が活躍する面白さは、少なくとも本作では、控えめである。
 
ダルグリッシュとコーデリアの共演はもう一作あるようだから、楽しみにしている。

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