蹴りたい背中: 綿矢りさ 著 河出文庫(初出 2003年)
このところ続けて読んでいる綿矢りさ、最新の「嫌いなら呼ぶなよ」がはじめてで、次にデビュー作の「インストール」、そして一番話題となったこの「蹴りたい背中」(芥川賞受賞)である。
主人公は女子高校生はつ実、彼女の視点で書かれている。そして相手となるのが同級の男子にな川、あとははつ実を少し理解してくれる絹代、ほとんどこの3人で進んでいく。
クラスが編成され、グループ分けに意志を示さなかった二人、はつ実がにな川を注視すると何か雑誌を見つめていて、それは女子向けで、その中のある女性モデルに関心が向いている、それはそのモデルのなにからなにまでで、はつ実は気味悪いと思いながら無視はできず、次第に興味を増していき、相手のなにやら変な家庭、家にまでついていき、彼の好きなモデル、今でいえば「推し」の世界を体験していく。すでに20年ちかく前に書かれた作品だが、この「推し」の強烈さ、描写の見事なこと。
彼女は一度そのモデルの撮影に偶然出会っただけなのだが、彼にとってはそれはたいへんな事なのである。
この家で彼女を無視してモデルのラジオ放送だけに注意がいっている彼、そして終盤、モデルのライブで極端な行動に出て失敗してしまう彼、その背中を蹴る、微妙な蹴り方だが、それが読むものにこんなに受け取らせるとは。
青春、人生を描くと、一般化できる断片や言葉で作られることがほとんどで、それはその作品から離れて語ることも出来るが、なにか抽象化された人生論、文学論、哲学論になりやすい。
この作品はまったくそうではない。そうではないのだが、生きるということは、こういう当人にとってだけかもしれない細かいことが中心にあるのだろう。そういうことがわかってくる。それは綿矢りさの卓抜な文章力を示すものである。
このところ続けて読んでいる綿矢りさ、最新の「嫌いなら呼ぶなよ」がはじめてで、次にデビュー作の「インストール」、そして一番話題となったこの「蹴りたい背中」(芥川賞受賞)である。
主人公は女子高校生はつ実、彼女の視点で書かれている。そして相手となるのが同級の男子にな川、あとははつ実を少し理解してくれる絹代、ほとんどこの3人で進んでいく。
クラスが編成され、グループ分けに意志を示さなかった二人、はつ実がにな川を注視すると何か雑誌を見つめていて、それは女子向けで、その中のある女性モデルに関心が向いている、それはそのモデルのなにからなにまでで、はつ実は気味悪いと思いながら無視はできず、次第に興味を増していき、相手のなにやら変な家庭、家にまでついていき、彼の好きなモデル、今でいえば「推し」の世界を体験していく。すでに20年ちかく前に書かれた作品だが、この「推し」の強烈さ、描写の見事なこと。
彼女は一度そのモデルの撮影に偶然出会っただけなのだが、彼にとってはそれはたいへんな事なのである。
この家で彼女を無視してモデルのラジオ放送だけに注意がいっている彼、そして終盤、モデルのライブで極端な行動に出て失敗してしまう彼、その背中を蹴る、微妙な蹴り方だが、それが読むものにこんなに受け取らせるとは。
青春、人生を描くと、一般化できる断片や言葉で作られることがほとんどで、それはその作品から離れて語ることも出来るが、なにか抽象化された人生論、文学論、哲学論になりやすい。
この作品はまったくそうではない。そうではないのだが、生きるということは、こういう当人にとってだけかもしれない細かいことが中心にあるのだろう。そういうことがわかってくる。それは綿矢りさの卓抜な文章力を示すものである。