モーツアルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」
指揮:ナタリー・シュトゥツマン、演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ
ペーター・マッティ(ドン・ジョヴァンニ)、フェデリカ・ロンバルディ(ドンナ・アンナ)、ベン・ブリス(ドン・オッターヴィオ)、アナ・マリア・マルティネス(ドンナ・エルヴィーラ)、アダム・プラヘトカ(レポレルロ)、イン・ファン(ツェルリーナ)、アルフレッド・ウォーカー(マゼット)、アレクサンダー・ツィムバリュク(騎士長)
2023年5月20日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 WOWOW
久しぶりに観るドン・ジョヴァンニ、モーツアルトのオペラでは一番好きで、何度でも観たいと思うのは今はこれだけである。
まずは演出から言わなければならないのだろうが、ここはなんと言ってもシュトゥツマンの指揮でついにメトに登場かと、これは喜んだ。10年近く前に水戸芸術館で指揮した映像をを見てこれは期待できると思ったが、間違っていなかった。
第一幕、つぎからつぎへと女性を翻弄していくがさてこれから何かというところ、少しもたるみなく一気に進んでいく。この作品だからどこか暗さがという解釈もあるだろうが、こういう快調な進め方がむしろその後ろになる何かと連想させることもあるから、これはこれでいい。
この歌劇、もう19世紀に入ったかと思わせる。もうすぐにヴェルディ。
歌手たちもこの進行にフィットしている。ジョヴァンニ、レポレルロのやりとりは明快、レポレルロの姿が立派すぎるかなと思うが、暗い所で入れ替わりというところもあるからこれは何とも。
演出、舞台美術、これは現代の見え方、演出のホーヴェが言っていたようにこの作品のもともとの題は「罰せられた放蕩者ドン・ジョヴァンニ」だし、今のジェンダーなどの論調からすればこれは入りやすいのだが、本当はモーツアルトのこの作品、そこから中へ、裏へと入っていくところが醍醐味というものだろう。
三人の女、一番庶民的なツェルリーナは婚約者を愛しているがジョヴァンニの誘いにためらいながらもやはり上級の生活、性的魅力に抵抗しきれない。過去に何度か愛されたドンナ・エルヴィーラは最後まで迷いに迷う、ここらは聴く人によって人間の様相をいろいろ感じ取るところもあるだろう。長い間、この役が一番「語られること」が多かったか。例えばシュヴァルツコップフ。二人ともなかなかいい演技、歌唱だった。
今回のドンナ・アンナ、セクシーな美貌だし歌唱もすぐれていた。ただ私からすれば、演出でこの役が一番難しいというか興味あるところなのだが、今回ドンジョヴァンニは彼女から見てにくい復讐の的というところにとどまった。
冒頭、ドンナ・アンナの部屋からドン・ジョヴァンニが逃げてくるくだり、アンナはかろうじて逃げおおせた(と言う)が、そのあとジョヴァンニに手向かった父親(騎士長)が殺される。この場面とその後の彼女の心の動き、いくつか解釈があり、演出・演技でほのめかすしかないのかもしれないが、今回は表面的だったと私には思えた。
ドンナ・アンナは否定しているが、おそらくジョヴァンニに凌辱されており、その後父親が殺されたことによってファザコンから脱した、と解釈してもその後の展開に無理はない。フェデリカ・ロンバルディはそういう演出でも見事に演じられるだろう。
指揮:ナタリー・シュトゥツマン、演出:イヴォ・ヴァン・ホーヴェ
ペーター・マッティ(ドン・ジョヴァンニ)、フェデリカ・ロンバルディ(ドンナ・アンナ)、ベン・ブリス(ドン・オッターヴィオ)、アナ・マリア・マルティネス(ドンナ・エルヴィーラ)、アダム・プラヘトカ(レポレルロ)、イン・ファン(ツェルリーナ)、アルフレッド・ウォーカー(マゼット)、アレクサンダー・ツィムバリュク(騎士長)
2023年5月20日 ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場 WOWOW
久しぶりに観るドン・ジョヴァンニ、モーツアルトのオペラでは一番好きで、何度でも観たいと思うのは今はこれだけである。
まずは演出から言わなければならないのだろうが、ここはなんと言ってもシュトゥツマンの指揮でついにメトに登場かと、これは喜んだ。10年近く前に水戸芸術館で指揮した映像をを見てこれは期待できると思ったが、間違っていなかった。
第一幕、つぎからつぎへと女性を翻弄していくがさてこれから何かというところ、少しもたるみなく一気に進んでいく。この作品だからどこか暗さがという解釈もあるだろうが、こういう快調な進め方がむしろその後ろになる何かと連想させることもあるから、これはこれでいい。
この歌劇、もう19世紀に入ったかと思わせる。もうすぐにヴェルディ。
歌手たちもこの進行にフィットしている。ジョヴァンニ、レポレルロのやりとりは明快、レポレルロの姿が立派すぎるかなと思うが、暗い所で入れ替わりというところもあるからこれは何とも。
演出、舞台美術、これは現代の見え方、演出のホーヴェが言っていたようにこの作品のもともとの題は「罰せられた放蕩者ドン・ジョヴァンニ」だし、今のジェンダーなどの論調からすればこれは入りやすいのだが、本当はモーツアルトのこの作品、そこから中へ、裏へと入っていくところが醍醐味というものだろう。
三人の女、一番庶民的なツェルリーナは婚約者を愛しているがジョヴァンニの誘いにためらいながらもやはり上級の生活、性的魅力に抵抗しきれない。過去に何度か愛されたドンナ・エルヴィーラは最後まで迷いに迷う、ここらは聴く人によって人間の様相をいろいろ感じ取るところもあるだろう。長い間、この役が一番「語られること」が多かったか。例えばシュヴァルツコップフ。二人ともなかなかいい演技、歌唱だった。
今回のドンナ・アンナ、セクシーな美貌だし歌唱もすぐれていた。ただ私からすれば、演出でこの役が一番難しいというか興味あるところなのだが、今回ドンジョヴァンニは彼女から見てにくい復讐の的というところにとどまった。
冒頭、ドンナ・アンナの部屋からドン・ジョヴァンニが逃げてくるくだり、アンナはかろうじて逃げおおせた(と言う)が、そのあとジョヴァンニに手向かった父親(騎士長)が殺される。この場面とその後の彼女の心の動き、いくつか解釈があり、演出・演技でほのめかすしかないのかもしれないが、今回は表面的だったと私には思えた。
ドンナ・アンナは否定しているが、おそらくジョヴァンニに凌辱されており、その後父親が殺されたことによってファザコンから脱した、と解釈してもその後の展開に無理はない。フェデリカ・ロンバルディはそういう演出でも見事に演じられるだろう。