ゴールデングローブ賞の話題は続く。
授賞式がひとつの番組としてぼくを魅せる要素はいくつかある。スターたちの存在、衣裳の華麗さ、演出の妙…、すべてが華やかで、あくまでうわべだけのものだとしても絢爛である。微熱も忘れ、うっとり見蕩れてしまうしかない。
プレゼンターとして驚くほどのビッグ・スターが登場したりと、その顔ぶれの豪華さもさりながら、彼らが客席で見せる表情に、演技以前の「素」を見つけたようで得した気分にさせられる。とにかく、次々と登壇するウィナー、プレゼンター、そして、豪勢な観客と、サプライズには事欠かない。
わけても受賞者たちのコメントは興味深く、それ自体、上質なエンターテインメントである。トークはウィットに富み、ユーモアにみちている。日本のテレビが喪失してしまった質を意識せざるを得ない。まず主催者に謝辞を述べ、次にスタッフを顕彰し、最後に家族に感謝するというパターンはお定まりだが、そこに個性があり、芸風がほの見える。それは役者だけに限らない。受けを狙うというより、人を楽しませる配慮を忘れないお国柄か。
夜、テレビをつけると決まってバラエティ番組なのだが、そこにある笑いとは明らかに異なる。ぼくたちは不幸である。頭のいい者しか入れない、立派な大学を出た者どもが制作してこのテイタラクだから、ぼくらの程度ってこんなものなのだろう。
さて、本題に入る。というのも、今回、最高に仰け反ったのが、「最優秀オリジナルソング賞」である。ノミネート作の中に見つけてしまった。
- “A Love That Will Never Grow Old”…『ブロークバック・マウンテン』…エミルー・ハリス
- “Travelin Thru”…『Transamerica/トランスアメリカ』…ドリー・パートン
これには盆と正月がいっぺんに来たようで、ジンと来た。コーエン兄弟の『オー! ブラザー』から、『コールド・マウンテン』へと続く系譜には、911以後、建国以来の「何か」を取り戻そうとする動きが感じられる。フォーク・ソング、マウンテン・ミュージック、ブルーグラス・ミュージックへの回帰…しばらくハリウッドから視線を反らせない。
さっそくiTunesでショップに飛びサンプル曲を聴いてみた。とりわけ、エミルーの“A Love That Will Never Grow Old”が素晴らしい。期待を裏切らない彼女ならではのグレート・ジョブである。エミルーといえば、ぼくにとって年越し儀式に欠かせないとても大切なアーティストである。さっそく150円也でダウンロードした。サントラ盤には、ウィリー・ネルソン、リンダ・ロンシュタットも入っている。賞の獲得は納得できる。
ぼくは判官びいきであるから、大枚1,500円をはたいてダウンロードしたのが、『Transamerica/トランスアメリカ』の方である。ニッティ・グリティ・ダート・バンドが2曲、そして以前来日したこともあるヘザー・マイルスなど注目だが、フラットマンドリンが印象的に奏でられるスコアがいくつかあった。また、HYMN(教会で歌われる)が目立つのも最近の傾向で、味わい深い。買ってよかったと後悔させない。
俄然、3月のアカデミー賞の発表が楽しみになって来る。『ウォーク・ザ・ライン 君につづく道』、『ブロークバック・マウンテン』、『Transamerica』の3本が、しかも複数の部門にノミネートされているとあっては、ビデオ撮りの準備にかからねばなるまい。
さて、こうなると映画も観てみたいところであるが、アン・リー監督とはいえ、『ブロークバック・マウンテン』はゲイのカウボーイ、『Transamerica』は性転換の話とあってはためらうものがある。誘えば、息子たちは引くだろうが、娘だったら面白がるかも知れない。このあたり不思議な父娘だと思う。