医師会勉強会 第111回
妊娠・授乳中の薬の使い方
国立成育医療研究センター
周産期・母性診療センター(母性内科)
(妊娠と薬情報センター)
主任副センター長 村島 温子 先生
慢性疾患(膠原病など)疾患管理のために必要な薬剤を中止してしまう。
薬のために妊娠を延期してしまう。
人工中絶をしてしまう。
など、正しい情報がないまま、妊娠希望、妊娠中の女性が不利益を受けているという現実がある。
妊娠希望の女性、妊娠中の女性であっても、適切な治療を受けられるようにする!
■総論1:リスク評価
サリドマイドによるアザラシ肢症で、薬の胎児に対する催奇形性~毒性がクローズアップされることになった。
安全性は、安全性と危険性で、評価する。
評価レベルには、動物実験、 症例、 疫学的研究がある。
動物実験をヒトへ適応することは難しい
ヒトで催奇形性がある薬剤の97%がいずれかの動物実験で催奇形性が認められれた。
ヒトで催奇形性のない薬剤の72%がいずれかの動物実験で催奇形性が認められれた。
*疫学研究で安全性が証明されたとしても、添付文書の記載が変わらることはない
FDA分類には問題点あり、分類から記述式へ移行している
厚労省(安全対策課):添付文書の妊婦の項のあり方を検討している SEA-U分類
現実的ではないため → 産婦人科診療ガイドラインへ(お墨付き的位置づけ)
妊娠と薬情報センター
全国からの症例を収集し、疫学的研究を行っている。→添付文書へ反映。
■総論2:臨床現場での考え方
受精時期はall or none
催奇形性は、概ね妊娠12週まで
それ以降は、胎児毒性が問題になる
・催奇形性薬剤
サリドマイド、ビタミンA誘導体、クマリン誘導体、抗てんかん薬・・・
胎児毒性のリスクのある薬剤
NSAIDs
ACE阻害剤
AⅡ拮抗薬
アルコール
タバコ
過剰なヨード
妊娠中の薬剤の使用方針
必須でない薬剤、代替薬があるば場合は、添付文書優先
禁忌であるが必須な薬剤は、エビデンスに基づいて判断する(妊娠と薬情報センターの利用)
■妊娠と薬(各論)
精神科関連
SSRI :問題ないと思われるが、パキシルはレキサプロに変えた方が良い
ベンゾジアゾピン、抗不安薬 :使っても問題ない
新生児薬物離脱症候群:小児科医が理解していればそれ程問題にならない
胃腸薬
サイトテック:禁忌
H1受容体拮抗薬(第二世代抗ヒスタミン薬)
セルテクトは禁忌
クラリチン、ジルテック、アレグラ、ザイザルは、まずは問題ない。
妊婦禁忌の抗アレルギー薬
アタラックスP,セルテクト、リザベン、アレギサール
・抗菌剤
キノロン系はあえて使わない方が良い、
・抗ヘルペス薬
ゾビラックス、バルトレックス、ファムビル、問題ない、むしろ積極的に使うべき
・ステロイド(催奇形性)
奇形性全体のリスクは上昇させない
口唇口蓋裂の数倍増えるという疫学研究がある
妊婦への安易な投与には、注意が必要、
・NSAIDs
催奇形性は否定的
妊娠後期の連用はしない!
ケトプロフェン(モーラステープ)は、妊娠後期は禁忌に
妊娠後期の鎮痛剤としてはアセトアミノフェンが優先される
・降圧剤
Ca拮抗薬は、妊娠初期は禁忌、催奇形性の報告はない、
ACE-1、ARB、DRI。:禁忌
・糖尿病
禁忌薬は多いが、催奇形性の最大のリスク因子は血糖コントロール不良であることに留意する
■妊婦に薬を投与する場合の考え方
医学的に必要か
添付文書で
有益性投与 →リスクを否定できそうか? YES→投与できる NO→投与しない
禁忌 →リスクを否定できそうか? YES→ IC上で使用可(流産、奇形の自然発生率を説明する) NO→投与しない
■授乳と薬に関する基本的考え方
母乳のメリットを考えて判断するべき
ダメな薬剤は、放射線物質、抗がん剤などで、ほとんどの薬は問題ない
注射薬は、消化管で吸収されないため乳児には影響しない
妊娠・授乳中の薬剤使用に関する主な情報源