司会 非常に多岐にわたる問題提起を頂戴した。次に、ちょうかいネットの現状、地域医療機関との連携の現状がどうなっているのか。これからどういう方向で動いていくのか
司会 では三原先生、鶴岡地区のほうでは「地域医療連携室ほたる」もやっているようだが。
三原 在宅医療連携拠点事業というは、在宅医療に係る多職種の充実を図るべく、多職種間のコーディネート役としての拠点を地域に置き、多職種協働による在宅医療の支援体制の構築などを目的とした始まった国の事業。この事業の背景には、在宅医療を推進する上で、医療と看護の連携がうまくいっていないということがある。地域のコーディネート機能は、本来であれば地域包括支援センターが役割を担うべきなのだが、地域包括支援センターは、介護寄りの組織でなかなか医療との連携ができていないという背景もある。
鶴岡地区医師会は、3年前の事業開始初年度に全国10のモデル地区の一つに選ばれた。この事業は、医師会、在宅療養支援病院、訪問看護ステーション、行政など多様な組織に拠点を置き、どれだけの成果があるのかを調査研究する目的であった。翌年には、全国で105か所に展開し、各県に最低1つの拠点が設置されている。山形県では鶴岡地区医師会に一か所だけあるが、将来的には、二次医療圏に1つぐらいを設置する構想のようである。
しかし、この事業は、民主党の仕訳作業での指摘もあり、2年間で終了した。その後は、国から県へ事業が移行し、多くの県では、県の事業として継続されている。一方、山形県では、在宅医療連携拠点事業に対する認識が低く、当県には在宅医療連携拠点事業は存在しない。当地区医師会では、地域医療連携室「ほたる」と名称を変え、医師会の一つの部署として、現在4人体制でして活動している。
先般、国の議論のなかで、在宅医療連携拠点事業は在宅医療支援事業として制度化し、今後は市町村が地域包括支援センターや地区医師会へ委託することにすべきとのこと。2015年度からは、鶴岡市が鶴岡地区医師会に委託するかたちで、在宅医療連携拠点事業を継続するという流れになるのではないかと思っている。
Net4Uは、地域電子カルテとしては草分け的な存在。2000年の経産省の補助金事業で開発したシステムだが、当時開発されたシステムのほとんどがとん挫した。現在も稼働しているのは鶴岡のNet4Uだけだと思っている。13年間地域で使い続けた中で、もっとも利用価値が高いのは在宅医療の分野だ。病診連携という医師同士の連携よりも、むしろ、医師と訪問看護師、ケアマネジャーなど、多職種連携の中で有用性を発揮している。
とくに有用なのは在宅緩和ケア。がんの末期の患者さんが病院から在宅療養に移った後は、在宅主治医、訪問看護師、薬剤師、理学療法士など、さまざまな職種が患者さんに関わるが、それぞれが違う組織に属していることが多く、顔を合わせる機会が少ない。そのような多職種の情報共有、コミュニケーションツールとして威力を発揮している。
なかんずく有用なのは、病院の緩和ケア専門医のNet4Uへの参加。がん末期では、麻薬の使い方とか輸液の量とか、緩和ケアに慣れていない一般のかかりつけ医には判断が難しいことも多々あるが、Net4Uを介して、病院の緩和ケア専門医からリアルタイムにさまざまなアドバイスをもらえることは在宅主治医や訪問看護師の安心感につながっている。
さらにNet4Uは、ちょうかいネットとも繋がっており、病院の治療内容や検査結果もNet4Uを介して閲覧できる。地域の全ての医療機関がNet4Uに参加すれば、患者さんの情報を病院から施設まで網羅できる仕組みはすでに出来上がっている。あとはそれをどうやって普及するかという時代に入ってきた。
司会 普及させる上での課題は何か。
三原 まずは、コスト。仕組みを運用する資金を誰が負担するかが最大の課題。幸い鶴岡の場合、医師会に経済的基盤があるので、ある程度の費用を負担できている。しかし、収入のない医師会では難しい。医療情報ネットワークのようなある種の公共インフラにかかる費用を誰が負担するのかというのは、普及に際しての大きな課題と思っている。
三原 急性期から回復期という流れの中で、地域連携パスの話をしたい。鶴岡では2006年から地域連携パスを導入した。最初のきっかけは、荘内病院では、大腿骨骨折の患者の手術数が多く、これ以上増えたらパンクするかもしれないという危機感から、鶴岡地区に2つあるリハビリテーション病院にパス化を呼び掛けたことに始まる。パス化することで、転院がスムーズになり、荘内病院の在院日数は4週から2週間へと半減した。
続いて取り組んだのが脳卒中。多くの寝たきりの患者の原因になっている脳卒中対策は、地域での大きなテーマ。脳卒中患者は、急性期の治療を経て、回復期病院でしっかりとリハを受け、社会へ復帰するというコースをとることが多いが、この流れの中で、必要な診療情報を共有し、切れ目のない医療を継続することが求められており、そこに地域連携パスの必要性がある。当地区ではさらにパスをIT化、疾患データベースを構築することで、再発、日常生活機能低下を予防する疾病管理に取り組んでいる。
データ分析の例として、2010年1月から2年間に登録された1041名の脳卒中患者のうち、維持期へ移行した症例742名を、維持期パス移行群(742名)と非移行群(306名)とで比較した。データを分析した結果、維持期パス参加群においては、再発率の低下と再発までの期間の長期化がみられ、さらに再発の危険因子として心房細動が有意に高いという結果が得られた。このような成果は、IT化された地域連携パスの運用で初めて明らかできたことであり、地域のなかでのIT化、情報ネットワーク化を進めることが、疾病管理を通して、地域の医療の質の向上に寄与できることを示したという意味でも価値があると考えている。