鶴岡地区医師会だより

三原一郎目線で鶴岡地区医師会の活動を配信しています。

【山形】全国に誇れる医療情報ネットワークの利用率を上げたい‐三原一郎・鶴岡地区医師会理事に聞く◆Vol.3

2019-12-23 10:38:03 | 日記
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

##前文
鶴岡地区では約20年前から「Net4U」という医療情報ネットワークを導入し、病診連携や多職種連携を進ませるツールとして活用してきた。最近では山形県内の別のネットワークとも相互に連携し、二次医療圏をまたいで患者情報がどこでも確認できるようになっている。Net4Uをはじめとした医療情報の開示や今後の課題について、一般社団法人鶴岡地区医師会理事の三原一郎氏に話を聞いた。(2019年10月7日インタビュー、計3回連載の3回目)

##本文

――鶴岡地区では2000年から医療情報ネットワーク「Net4U」を運用していますが、現状の利用率などはいかがでしょうか。

Net4U(the New e-teamwork by 4Units)の新規登録患者数はのべ6万人で、毎月500人ペースで新規に登録され、毎年コンスタントに増えています。現在129の施設が参加しており、その内訳は病院が6、診療所が33、歯科が12、薬局が27、訪問看護・リハビリが8、訪問入浴が2、居宅介護支援事業所が25、地域包括支援センターが4、特養が3、老健が2、その他が7です。医療系と介護系にまんべんなく入ってもらっていますね。ただし地域のほとんどの施設が参加しているわけではなくて、介護系の参加率は比較的高いものの、診療所や調剤薬局は3割くらいで、歯科はもっと少ないです。まとめると、Net4Uは地域で普及していてバランスのとれた構成になっているのだけど、全部の施設で使われているわけではないという状況です。

職種の内訳を見ると、全体の35%を介護職が占め、次に看護師が33%、医師が15%で、そのほか薬剤師、歯科、リハビリの順で多いです。一般的にこういったネットワークでは医師や看護師の参加率が高いですが、介護職が一番多いというのは鶴岡地区ならではの特徴ですね。これは緩和ケアのプロジェクトの際に地域連携室が介護職に働きかけをして導入を促したという活動の成果だと思います。ユーザー数の推移を見ても介護職はずっと増え続けています。ただし、介護職は閲覧しているけれども書き込む数は少ないのです。最近フェイスシートやACPの項目を追加したので、今後は書き込みが増えてくるかもしれません。

現状、Net4Uを使って主に情報発信をしてくれているのは訪問看護師です。書き込み数も多いし、看護師は職種の特性として記録することに抵抗がないのだと思います。自分が得た情報をちゃんと伝えたいという想いがあるのでしょう。在宅医療における中心的な役割を担うのは訪問看護師なので、彼らが情報をしっかり発信してくれれば在宅医療のコミュニケーションツールとして十分成り立つとは思っています。

問題は医師です。業務の特性もあり、書き込みの絶対数で見れば医師が一番多いのですが、トレンドとしては医師の書き込み数は減ってきています。また医師が登録する患者数も減ってきていて、近年では看護師による登録に抜かれてしまっている状況です。つまり、医師のNet4U利用は限定的で、しかも利用する医師数が増えていないのです。医師にもっと使ってもらうための活動が必要です。


――医師のNet4U利用が下火になっている理由は何が考えられるのでしょうか。

Net4Uは構築から約20年経っていますので、昔から使っていたヘビーユーザーが引退したことが一つ。そして若い医師がNet4Uにあまり興味を示さないことも一つの理由です。コミュニケーション自体は電話などで取ることができますから。「わざわざ面倒くさいことをしなくてもいいんじゃないか」と考える人が多いのかもしれません。Net4Uでの密度の高いコミュニケーションを経験していないと、なかなかその意義を実感できないのかもしれません。こちらのPR不足もあると思います。こういったネットワークへの医師の参加率が低いことは当地区に限ったことではなく全国的な傾向ではありますが、まだまだ頑張らないといけないと思っています。

――2010年代に入ってからNet4Uを全面改訂したそうですね。

 そうです。地域医療のニーズに合わせて、病診連携から多職種連携をメインに改訂を行いました。Net4Uが始まった2000年は病診連携に注目が集まっていた時代で、それを目指して開発されたのですが、例えば、病院に紹介するときにNet4Uを使っても病院の先生方がほとんど見てくれないという状況が続いていました。

 Net4Uの構築からちょうど10年が経ったころに「これはなかなか厳しいね」という話になって、これからは在宅医療、多職種連携の時代だということで「医療と介護を繋ぐヘルスケア・ソーシャル・ネットワーク」として、ゼロから新しく作り直してもらいました。なぜかというと、旧Net4Uは経産省の事業で構築したシステムだったのですが、運用していくうちに業者が手を引いてしまっていたのです。サーバーは動いてはいるけれども、壊れたらおしまいという状況でしたので、リプレースが喫緊の課題でした。そこで、当地区医師会のITパートナーでもある㈱ストローハットという小さな会社に開発を依頼し、あらたにシステムを開発してもらいました。

――Net4Uは酒田の「ちょうかいネット」ともリンクし、庄内医療圏全体で情報連携ができるようになったそうですね。

山形県には4つの医療圏ごとに独立した医療情報ネットワークがあります(庄内;ちょうかいネット、最上;もがみネット、置賜;おきねっと、村山;べにばなネット)。それらのネットワークはID-Linkやhuman-bridgeという仕組みで動いています。基本的な機能は、病院の電子カルテを診療所や他の病院から閲覧できるようにしたものです。医療圏毎に協定を結び、医療圏を越えても連携も2019年5月から動き始めました。県内一円でどこからでも患者さんのデータが見られるという、全国的にも珍しい取り組みです。

ちょうかいネットのメリットとして、例えば荘内病院から日本海総合病院に急患を送る場合、患者の到着前にCTなどの画像や検査データを確認し、準備しておくことができます。また、開業医が紹介した患者について、病院で行われた検査や処方の情報に加え、主治医がどのように考えたのかという所見情報も閲覧することができます。逆に病院から退院して地域に戻るケースでは、入院時の情報は、開業医のみならず訪問看護師や介護職にとっても重要です。退院時カンファレンスを開くまでもない患者は多くいますが、いちいち病院に問い合わせなくても見れば分かるというメリットがあります。

――それは非常に有益ですね。何か課題はあるのでしょうか。

利用している医療機関がまだ多くないことと、病院が看護サマリの情報を開示しなくなったことが問題です。実は最近、介護施設が病院の看護サマリを見て入所させるかどうかの判断に使っていたという事例があり、病院側が「それはけしからん」ということで開示をしないことになってしまいました。確かに患者さんの同意を取る前のフライング行為なのでこれは問題です。一方で、医療と介護の連携の面からは、看護サマリが見られない状況というのは時代に逆行しています。医師会としては開示を再開する方向でお願いをするとともに、介護施設に対しては運用ルールをきちんと確認するよう指導しています。

――最後に、今後の医療情報の共有などについて先生の考えをお聞かせください。

医療情報というのは相互にやり取りすることができてこそ、医療の質や安全性を高めるための有効活用ができるのです。ですから、医療機関がもっと積極的にNet4Uやちょうかいネットなどの情報システムを使って欲しいですね。Net4Uが当初目指したのは「1地域/1患者/1カルテ」、つまり個人の情報をずっと一貫した情報として相互に活用し、より質の高い安全な医療を目指すという構想なのです。そのためにまずは医療者の意識を上げなければいけないと思います。また、市民にも医療に関する情報は、共有・活用した方が実は安心・安全な繋がることを理解して欲しいです。ただでさえ日本の医療界はIT化がとても遅れていて、いまだに紙とFAXが幅を利かせていますからね。

 2019年6月18日の深夜に起きた山形県沖地震は、大々的に報道されましたが、実際には鶴岡市内ではほとんど被害はありませんでした。今後、震災が起こった時にNet4Uが活用できるかというと、現時点ではあまり期待できそうもありません。Net4Uにあるデータは、一部また限られた情報に過ぎないからです。一方で、ちょうかいネットは電子カルテそのものの閲覧ですので、活用できるのではないかと思います。

医療情報がバラバラに点在し、統合されていないというのが日本の医療情報の最大の欠点です。せめて処方薬のデータだけでも地域の中でどこからでもアクセスできるような仕組みがあれば。そうすれば、重複した薬を処方しようとしたときにアラートを出すなどのシステムにも使え、ポリファーマシーや残薬の問題も解決でき、ひいては医療費の削減にもなります。また、情報もなく救急搬送された事例でも、内服している薬が分かるだけでも現場ではかなり助かります。個人情報の壁はありますが、国民のコンセンサスを得て実現できないものでしょうか。そういった議論が始まってくれればと切に願っています。

◆三原一郎(みはら・いちろう)氏
東京慈恵会医科大学を1976年に卒業し、同大の皮膚科に入局。1979~81年にニューヨーク大学に留学し、皮膚病理学の研鑚を積む。帰国後は東京慈恵会医科大学附属病院での勤務を経て、1993年に郷里の山形県鶴岡市で三原皮膚科を開業。1996年に鶴岡地区医師会理事、同情報システム委員長に就任。その後、山形県医師会常任理事、日本医師会のIT関連の委員会委員等を経て、2012年度に鶴岡地区医師会会長に就任。現在は鶴岡地区医師会の理事を務める。

【取材・文・撮影=伝わるメディカル 田中留奈】

https://www.m3.com/news/kisokoza/712911


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荘内病院の明日を考える会

2019-12-21 10:47:37 | 日記


瀬尾医療連携事務所主催
 荘内病院の明日を考える会

鈴木院長からのレクチャー
 荘内病院:512床 (現在の病床利用率 80%程度)
 庄内プロジェクで在宅緩和ケアが普及、在宅看取りが5%から15%へ
 医師数は70名程度、自治体病院平均より20-30名少ない
 研修医は、直近2年は、定員5名に対し4名確保している。
 病院満足度は全国平均を下回る
 看護師の離職率は低い
 地域へ出向いて市民と病院職員(主に研修医)との交流会を実施(出前講座)
 南庄内の病院間での連携強化
 高度先進医療はいらない。エクセレントな病院 心のこもった医療を提供できる病院を目指す
 
 課題、
 安心して医療を受けられる体制があるのか
 接遇が悪いという批判 (職員それぞれへの浸透はまだ)
  
院長への質問
 緩和ケアでの病院医師の往診は
  病院としてはやっていないが、必要に応じて看護師が在宅へ訪問している
 
 売店がコンビニになったが、WiFiが届かない

<魅力的な荘内病院になるために、必要なこと、出来ること・やりたいことをテーマとして
6グループに分かれてグループディスカッション>

・究極の医療連携
 南庄内の医師が自由に交流できる環境へ
 多くの鶴岡市民が日本海病院へ通院している現状で荘内病院で鶴岡市民全体を診ることは不可能
 →日本海との連携~統合、あるいは地域医療推進法人への参画を模索すべき
 2つの病院を統合し、庄内の中央に(アクセスのよい庄内空港近く)に中核となる病院を新設するもの案
 空港に近いことを活用し、医師の流通促進、医療ツーリズムへの発展も期待

・オープンな場の創出
 医師不足なら患者を減らす、そのためには予防トレーニング、メディカルフィットネス
 市民の健康維持は医療費削減にも寄与、
 まちの保健室、コミュニティの場
 移動保健室、産直に集まる市民の健康相談など

・イベント系:病院の機能を拡大
 待ち時間を楽しく過ごすための企画 → 健康情報、本、漫画の充実 (3病院で回してはどうか)
 食堂をメニューを変え、もっと楽しめる食堂へ、
 市民の交流の場、傾聴カフェ、

・広報
 病院の強み、良いイメージの広報
 SNS, YouTube などのインターネットメディアの活用
 市民向けのオープンホスピタルの開催

・つるおか健康塾
 病院と地域との隔たり 連携不足がある
 繋がりたい、お互いを知りたい
 日南塾みたいな企画、
  市民サポーターズの育成
  対象、中高校生 年6回のレクチャー、最後はお祭り的イベント
  事務局:地域包括ケア推進室


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ほたる多職種研修会「南庄内・たべるを支援し隊の取り組みを知り、活用しよう」

2019-12-17 09:52:36 | 日記
ほたる多職種研修会
 南庄内・たべるを支援し隊の取り組みを知り、活用しよう

日時:12月16日 19:00~20:30
場所:にこふる
参加者:ST、ケアマネ、歯科医師、歯科衛生士、管理栄養士、介護福祉士、行政、医師など80名

多職種により構成される食支援チーム(地域NST)、南庄内・たべるを支援し隊の概要とその利用法を知ってもらうための会をほたる多職種研修会として開催しました。
リーダである田口氏の総論のあと2事例が報告され、次いで、たべるを支援し隊への依頼方法の説明がありました。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

講演
 「南庄内・たべるを支援し隊の取り組みを知り、活用しよう」

南庄内・たべるを支援し隊 協立リハ病院 田口 充




事例1
 86歳、男性、
 アルツハイマー型認知症、陳旧性脳梗塞、持続性心房細動
 口にためて飲み込めない、入れ歯が合っていない、水ものみにく

事例2
 70代、男性
 156㎝、48K,独歩で自立
 食欲低下、味覚低下、咬みずらさ、嚥下障害、不安定な食事量、活動量の低下、義歯の不適合

事例紹介では、事例検討会さながらに各職種から専門職ならではのコメントが語られ、食支援は多職種の視点があってこそ可能であることを実感した。

支援し隊には、介護職を含め在宅に関わる多くのひとたちにスキルを広げる、さらには支援し隊自体が事例を通してレベルアップすることも期待され、今後、楽しみな活動と期待している。

まだ、始まったばかりのチャレンジであり、課題も山積しているが、是非とも継続していきたいいものである。

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【山形】地域医療連携室が躍動するも、課題は「医師の意識改革」‐三原一郎・鶴岡地区医師会理事に聞く◆Vol.2

2019-12-16 10:46:34 | 日記
##前文
山形県鶴岡地区では、比較的スムーズに地域包括ケアシステムが構築できたという。その背景には10年前から地域の多職種で取り組んできた各種プロジェクトの積み重ねがある。地域医療連携室の取り組みやこれまでのプロジェクトを振り返るとともに、今後の課題について、一般社団法人鶴岡地区医師会理事の三原一郎氏に話を聞いた。(2019年10月7日インタビュー、計3回連載の2回目)


##本文
――鶴岡地区における地域包括ケアシステムの構築はどのくらい進んでいますか。

全国的にみればかなり進んでいる方だと思います。鶴岡地区では以前から医療情報ネットワーク「Net4U」や緩和ケア普及のための「庄内プロジェクト」、地域連携パスの運用など、さまざまな取り組みを行ってきました。その延長線上に地域包括ケアシステムがあるので、うまく構築が進んだのだと思います。

地域包括ケアシステムに関する具体的な取り組みを担っているのは、鶴岡地区医師会地域医療連携室「ほたる」です。10年程前から地域の課題に網羅的に取り組んでおり、システム的にも内容的にも先を行っていると思っています。「ほたる」の職員は3人で、1人は社会福祉士で2人は事務員です。予算の関係で余裕のある人員ではありませんが、月に数回のペースで市民や多職種向けのイベントなどを企画するなど数多くの活動を行っています。

例えば、年に2回「医療と介護の連携研修会」を実施しています。毎回200人を超える多職種が集まり、さまざまなテーマで事例報告、講義、グループワークなどを行っています。こうして10年以上かけて醸成した「顔の見える関係」が医療と介護の間にできていて、今や好き勝手にいろんなことを言える雰囲気があるので、参加してみると面白いと感じます。他にも、歯科や薬剤師、訪問看護師、ケアマネジャーなど多職種での意見交換会をやったり、難しい話は一切せずにただ酒を飲むという、飲みニケーションの場(名称:ふらっと会)を企画したりしています。

ただ、こういった場への医師の参加が少ないのが課題です。200人集まる連携研修会でも、せいぜい医師は10人くらいしか出席しません。どの地域でも同じような状況と聞きますが、医師はこのような多職種の会にはなかなか参加してくれません。ません。グループワークも嫌いな先生が多い印象ですね。

――では次に緩和ケア普及のための「庄内プロジェクト」について概要を教えてください。

庄内プロジェクトは、がんの末期患者を在宅で看取ることを主たる目的として2008年から3年間実施されました。当初、4つの柱(ワーキンググループ)を立ち上げました。(1)医療者教育(緩和ケアの技術・知識の向上)、(2)地域連携(地域緩和ケアのコーディネーション・多職種連携の促進)、(3)市民啓発(がん患者・家族・住民への情報提供)、(4)専門緩和ケア(サポートセンター緩和ケア専門家による診療・ケアの提供)――。これらの柱に応じた研究会や症例検討会を定期的に実施しました。

プロジェクト以前は、鶴岡市民のほとんどが荘内病院でがん治療を受け、最後は荘内病院で亡くなっていました。つまり「在宅で看取る」という文化は、ほとんどなかったと言ってもよいと思います。それ故に「緩和ケアが普及していない地域」として選ばれたという経緯があります。プロジェクト実施後は、在宅看取りは倍増しましたし、その質も大幅に向上したと思います。その意味で、庄内プロジェクトは大成功したと評価しています。

末期がん患者さんを在宅で看るためには、在宅主治医のみならず、訪問看護師、薬剤師、療法士、ケアマネジャーなど多職種と、さらには病院の緩和ケアチームとの連携が不可欠です。当地域では、多職種チームによる在宅医療を実践してきており、この活動の積み重ねが現在の地域包括ケアシステムの構築につながっていると思います。

当プロジェクトの基本的なコンセプトは「十分な緩和ケアのもとでの在宅看取りの普及」ですが、そのためには診療所の医師(特に内科)に末期がん患者さんを受け入れもらう必要があります。しかし、がん末期の患者を受け入れてくれている医療機関は限られており、10施設もないぐらいです。もう少し緩和ケアに参入できる医師を増やしたいのですが、在宅での看取りというのは、どうしても医師に肉体的にも身体的にも負荷がかかってしまいます。時間的にも拘束されてしまうので、あまりやりたくない気持ちは分かりますけどね。訪問看護師などの他職種やITネットワークなどでサポートをすることはもちろん、医師会としては「医師の意識改革」にも取り組んでいきたいところです。

――庄内南部地域連携パスについてもお聞かせください。

 鶴岡地区で地域連携パスを導入した最大の目的は、「地域の疾患データベース」を構築し、それを分析することでデータに基づいたより質の高い地域医療を目指すことでした。現在、大腿骨近位部骨折、脳卒中、糖尿病、心筋梗塞、5大がん、認知症のパスを運用していますが、大腿骨骨折、脳卒中、心筋梗塞については地域での発症患者を全例登録しkデータベース化しています。これは、ほとんどの患者が荘内病院に搬送されてくることで可能になりました。登録後はパス内容に沿って在宅に至るまで継続してフォローしています。このような全例登録は、他の地域ではやられていない思います。

 パスの運用でみえてくるものがたくさんあります。例えば脳卒中では、その発生率や、どのくらいの人が急性期病院で亡くなり、どのぐらいの人が回復期病院へ転院し、その後どのくらいの人が自宅や施設へ戻っているのか、発症のリスク因子や再発の頻度、…等々、地域の実状を反映したリアルなデータが把握できるのです。

脳卒中パスの究極の目標は、パスの運用によって再発を予防しや寝たきり防ぐことです。そのために血圧やADLを定期的に測定しデータを取っているのですが、残念ながらパスの運用が再発やADL低下に有用である、というデータを出すまでには至っていません。さらなるデータの蓄積で、パスの運用が再発予防に寄与できることを示すことができればと期待しています。また、ADL低下予防については地域での介護職など関りが重要になるのですが、現時点ではパスに介護職が参加していないことが課題となっています。維持期パスに介護職も参加した体制づくりが必要だと思っています。


◆三原一郎(みはら・いちろう)氏
東京慈恵会医科大学を1976年に卒業し、同大の皮膚科に入局。1979~81年にニューヨーク大学に留学し、皮膚病理学の研鑚を積む。帰国後は東京慈恵会医科大学附属病院での勤務を経て、1993年に郷里の山形県鶴岡市で三原皮膚科を開業。1996年に鶴岡地区医師会理事、同情報システム委員長に就任。その後、山形県医師会常任理事、日本医師会のIT関連の委員会委員等を経て、2012年度に鶴岡地区医師会会長に就任。現在は鶴岡地区医師会の理事を務める。

【取材・文・撮影=伝わるメディカル 田中留奈】

https://www.m3.com/news/kisokoza/712910



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【山形】鶴岡と酒田で崩れた医療バランスを立て直すには‐三原一郎・鶴岡地区医師会理事に聞く◆Vol.1

2019-12-09 10:43:16 | 日記
【山形】鶴岡と酒田で崩れた医療バランスを立て直すには‐三原一郎・鶴岡地区医師会理事に聞く◆Vol.1


##前文
山形県庄内医療圏は、南の鶴岡市と北の酒田市と周辺の3町により構成されている。地域の基幹病院として、鶴岡市には鶴岡市立荘内病院が、酒田市には日本海総合病院がある。この両病院の棲み分けをはじめ、庄内医療圏における地域医療の課題や地域包括ケアシステムの構築状況などについて、一般社団法人鶴岡地区医師会理事の三原一郎氏に話を聞いた。(2019年10月7日インタビュー、計3回連載の1回目)

##本文
――山形県の庄内医療圏について、地域医療の現状や課題をお聞かせください。

 近年、鶴岡と酒田における医療リソースや機能の「バランス」が崩れてきたことが課題だと考えています。鶴岡市の人口は約13万人、酒田市は約10万人と、周辺町村を加えると規模はだいたい同じですが、鶴岡は城下町、酒田は商業の町ということもあり、文化が違いからくるライバル関係が多少なりとも根底にあると思っています。そのような関係のなか鶴岡には市立荘内病院があり、酒田には酒田市民病院があって、以前はそれぞれで医療が完結していました。

しかし2008年――医師不足や地域医療崩壊が声高に叫ばれていた時期に、酒田市民病院と山形県立日本海病院が合併して日本海総合病院ができました。当時、市立病院と県立病院が合併するのは珍しいことで、全国的にも注目されましたが、酒田に大きな病院ができたことをきっかけに、庄内医療圏の医療提供のバランスが崩れてきたのです。

医師数で比較すると、酒田の日本海総合病院には約140人、鶴岡の荘内病院には約70人と、倍の開きがあります。現在では鶴岡の患者の約2~割(推測)が酒田へ通院するようになりました。かつて鶴岡と酒田それぞれで完結していた医療のバランスが崩れてきた、というのはこういう意味です。庄内医療圏全体で地域医療を考えていかなければならない時代になってきました。


――庄内医療圏の今後の地域医療のあり方について、どのようにお考えでしょうか。

 個人的な考えとしては、荘内病院と日本海総合病院との役割分担についての議論をすべきではないかと思います。その背景にあるのは、やはり人口減少です。鶴岡市の人口は2008年には14万896人いましたが、10年後の2018年には12万7736人となっており、毎年1300人ずつのペースで減っています。酒田市も同様です。人口が減るということは、患者数も減るということですよね。

 今後の患者減を考えれば、いずれは急性期医療をどこかに集約しないければならないかもしれません。ただ、急性期をすべて酒田の日本海総合病院に移してしまうと、庄内地域の南側に住んでいる人にとっては、アクセスに支障を生じます。心筋梗塞や脳卒中など急を要する疾患への対応が間に合わなくなってしまうかもしれません。ですから荘内病院に急性期機能の一部を残すという考え方もあるでしょう。また、日本海総合病院と荘内病院を統合し庄内の中心地に移転するという構想もあり得ます。

――日本海総合病院といえば、地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」がありますが、そことの連携はいかがでしょうか。

今のところ、日本海ヘルスケアネットは酒田市およびその周辺地域に限定しており、荘内病院を含む南庄内(鶴岡)地域は参加していません。両病院の統合はハードルが高いかもしれませんが、鶴岡地域も日本海ヘルスケアネットに参加し、お互いに医師を融通するとか、機能分担を模索するというのも今後の在り方だと思っています。

元来、荘内病院は外科系とくに消化器外科や小児科に強みをもつ病院で、庄内医療圏のなかでもこの分野では中核を担う存在です。一方で、常勤医を欠く呼吸器内科や心臓血管外科など荘内病院で対応するのが難しい疾患もあり、荘内病院だけで急性期医療を完結するのは難しい状況にあります。荘内病院にも日本海総合病院にもそれぞれ得意分野はありますが、どうやってお互いの強みを活かしながら共存していくかというのが今後の課題です。

機能の集約という文脈において荘内病院が危惧しているのは、慢性期病院になってしまうことなのだと思いますが、それを回避するためにも、将来を見据えたお互いの話し合い場が必要ではないかと思っています。


――庄内医療圏の救急医療についてはどうでしょうか。

現状で、救急医療において困っているという話は聞きません。救急隊は基本的に鶴岡の人は荘内病院、酒田の人は日本海総合病院に搬送しています。何か特殊な事情があった場合はそれに応じた病院に振り分けられます。

ただ、将来的に急性期医療が日本海総合病院に移行したとして、その後の鶴岡地区の救急体制を考えると、やはり緊急性の高い患者については、鶴岡市民のためにも荘内病院に対応できる機能を残すことが望まれます。

これらの将来設計についてはまだ何も議論されておらず、今後お互いが歩み寄り検討していくべき課題だと思います。また市立である荘内病院を鶴岡市民はどう考えているのか、どう活用していきたいのかを改めて問うていくとともに、市民が荘内病院をバックアップする体制も整える必要があるかもしれません。

◆三原一郎(みはら・いちろう)氏
東京慈恵会医科大学を1976年に卒業し、同大の皮膚科に入局。1979~81年にニューヨーク大学に留学し、皮膚病理学の研鑚を積む。帰国後は東京慈恵会医科大学附属病院での勤務を経て、1993年に郷里の山形県鶴岡市で三原皮膚科を開業。1996年に鶴岡地区医師会理事、同情報システム委員長に就任。その後、山形県医師会常任理事、日本医師会のIT関連の委員会委員等を経て、2012年度に鶴岡地区医師会会長に就任。現在は鶴岡地区医師会の理事を務める。

【取材・文・撮影=伝わるメディカル 田中留奈】

https://www.m3.com/news/kisokoza/712909



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