平成28年度 日本医師会医療情報システム協議会報告
鶴岡地区医師会理事 三原一郎
2月11・12日、日本医師会館で開催された、日本医師会医療情報システム協議会に土田会長他4名で参加してきました。冒頭の日医IT戦略セッションでは、日本医師会のIT戦略として、医師資格証の普及、お薬手帳の電子化、かかりつけ医連携手帳、個人情報保護に係る改正個人情報保護法の整備・医療等IDの創設、ビックデータの構築と利活用、日本医師会ORCA管理機構株式会社の創設、医療等分野専用ネットワークなどが挙げられ、地道に活動が続けられているようですが、世の中の急速なIT化に比べると、遅々として進まない感は否めません。
さて、今回の協議会の目玉は事例報告セッションでした。全国から公募した14の事例が報告されましたが、内容的には玉石混淆であり、参考になる事例は少なかったように感じました。当地区からは「Note4U」の報告をしてきましたので、その抜粋を書き留めておきます。
「患者・家族参加型システムNote4Uの運用と課題」
Net4Uの歴史と運用実績
まずは、簡単にNet4Uの歴史について述べます。Net4Uは2000年の経済産業省の事業おいて開発された地域電子カルテですが、2012年にはストローハット社の開発により、「医療と介護を繋ぐヘルスケア・ソーシャル・ネットワークNet4U」としておもに在宅医療における医療・介護連携を目指したシステムとして全面改訂されました。その後、ID-Linkへの対応、今日のテーマである患者・家族参加型システム「Note4U」、また地域連携パスとの連携機能などを順次追加し、現在に至っています。現在、鶴岡以外では富山県、宮崎県、新潟県、長野県など全国の6地域、800程度の施設に導入されています。さらに、Net4UはID-Linkのような広域ネットワーク、地域連携パス、ORCA,訪問看護業務支援システム、Note4Uなどと柔軟にシステム連携を行っています。鶴岡地区の参加施設数は107であり、近年、介護系施設が増えています。一方で、診療所の参加が増えないという課題も抱えていますが、2017年1月末現在での登録患者数は5万人を超え、毎月400人前後の登録があり、順調に運用されています。
Note4Uとは(図1参照)
さて、本題である、患者・家族参加型システムNote4Uについて解説します。在宅医療においては、患者さんと接する時間が多い家族への支援はとても重要となります。そこで、患者・家族がサービス提供側である医療や介護と繋がる仕組みとしてNote4Uが開発されました。Net4Uは医療・介護従事者のための患者情報共有ツールという位置づけあり、セキュアなネットワーク上で機能しています。一方、Note4Uは一般的なインターネット回線を利用し、Net4Uとは別ネットワークで機能します。このNet4UとNote4Uをデータ連携させることで、患者・家族側はNet4Uの検査結果、処方内容を閲覧でき、見守り情報機能を使うことで患者さんの状況を医療者側へ伝えることができます。また、連絡ノート機能を利用することで相互のコミュニケーションが可能となります。なお、Note4Uは操作がより簡便なスマートフォンやタブレットの利用をおもに想定しており、写真の添付や音声入力にも対応しています。
Note4Uの活用事例(図2参照)
Note4Uはおもに在宅医療における家族支援が目的であり、対象が高齢者であることが多く、なかなか実用には至っていませんでした。しかし、最近は活用事例も蓄積されつつあり、ここでは先日経験した事例を紹介します。患者さんは、Stege4の前立腺がんで、多発性の骨転移があり、認知症にも罹患しています。3年前に急性期病院を退院し、以後、在宅療養中ですが、退院直後からNet4Uが多職種連携に導入されていました。徐々に病状が悪化し、抑うつ傾向が顕著となり、家族の精神的ストレスも増大するなかNote4Uが導入されました。導入後は、介護に当たっている妻、長女、また、米国在住の長男が、Note4Uを介して、在宅主治医、訪問看護師、中核病院の緩和ケアチーム、ケアマネジャーなどと病状を共有したり、想いを伝え合うことで、患者側からは「とても勇気づけられた」という言葉も聞かれました。また、米国に在住している長男は、当初帰らないと言っていましたが、2回も帰国し、献身的に介護をしていました。結局、患者さんは病院で亡くなりましたが、Note4Uは家族にとって、また医療側にとっても、想いを共有するという意味で大きな役割を果たしたようです。
まとめ
・在宅医療においては、患者のみならず、家族支援が不可欠である。
・患者・家族支援ツールとして、「Net4U」とシステム連携する「Note4U」を開発した。
・運用例はまだ少ないが、在宅医療における患者・家族支援ツールとしての有用事例が蓄積されている。
・一方で、どんな情報を伝えるべきか、患者・家族の心情に十分な配慮が必要である。
・いずれにしろ、Note4Uを活用するには、サービス提供側と患者・家族とのゴールを共有した信頼関係が前提となる。
さいごに
Note4Uの有用性については、まだまだ検証が必要と考えていますが、本来あるべき患者・家族主体の医療に貢献できるのではとの感触を得ています。今後とも、事例を蓄積し、報告していきたいと思っています。