週末は、台風直撃の中、兵庫医科大学で行われた慢性疾患重症化予防学会の夏季セミナーに参加してきました。以前、医師会勉強会でもお呼びしたことがある平井愛山先生(元東金病院院長、現千葉県循環器病センター)からシンポジウム「ICTを活用した地域ぐるみの慢性疾患重症化予防」のシンポジストを依頼されたことによります。
http://jmap.or.jp/seminar/246
●企画シンポジウム-2 午後2時~午後3時30分
『ICTを活用した地域ぐるみの慢性疾患重症化予防の取り組み』
座長 香川大学医学部附属病院 教授 村尾 孝児
・ICTを活用した医療・介護連携/ 名古屋大学 教授 水野 正明 先生
・とねっとで高齢化する地域を支える/ 東埼玉総合病院 中野 智紀 先生
・鶴岡地区における脳卒中重症化予防の取り組み/ 鶴岡医師会 会長 三原 一郎 先生
平井先生は、先日も鶴岡で講演頂きましたが、疾病管理MAP(疾患データベース)を活用した糖尿病の重症化予防に情熱的に取り組んでいる高名な先生です。
先生の活動の背景にあるのは、糖尿病患者の4%(人工透析中の患者)に糖尿病関連医療費の40%が投入され、糖尿病性腎症が原因で、毎年16000人が新規に人口透析導入となり800億円の医療費が増加している現実です。医療経済的にも糖尿病腎症による新規透析患者数を減らすことが国の最優先課題とされています。
透析予防指導管理導入の指標は、腎症Ⅱ期 :アルブミン尿、蛋白尿の増加、腎症Ⅲ期以降 eGFRの低下とのことで、リスクのある患者には、早期に多職種協働による糖尿病透析予防指導管理(とくに減塩と血圧管理)を徹底することで、成果をあげています。
重症化予防指導のポイントは以下とのことでした。
・医師主導からコメディカル主導のチーム医療へ
・個別疾病管理から集団(地域)疾病管理へ
・疾病管理MAPを用いた全体の見える化と層別化
・HbA1cの指導から減塩・血圧の指導へ
・長時間少数の指導に加えて、短時間多数回の指導を
・指導介入アウトカムの見える化と患者・家族共有
ランチョンセミナー
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久山町研究から見た慢性疾患の重症化予防
九州大学医学研究附属総合コホートセンター
二宮 利治 先生
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精度の高いコホート研究で、いろいろなことが分かってきているようです。
65歳以上の人が、死ぬまでに認知症になる確率は50%は、衝撃的なデータでした。
脳卒中、虚血性心疾患、認知症の予防は、結局は運動、食事、禁煙なんですね。
以下、講義メモ
久山町:
人口8400人程度で、都市化は進んでいないものの、人口の減少少ない、
全国のモデル的な地域。
久山町研究:
53年前から、保健師と九州大学が主に関わった前向きコホート研究
検診率 80%
追跡率 99%以上(追跡できていないのは二人のみ)
剖検率 75%
高血圧症:
近年、降圧薬服用者が増加し、血圧コントロールが進んだことから
160 から 140 まで下がった
喫煙率:
80% から 47% へ
代謝性疾患:増えている
3人に一人が肥満
糖代謝異常が増えている 54%
(女性では減少の兆し)
糖負荷試験による診断で → 糖尿病増えている
とくに、高齢者の糖尿病が増加
虚血性心疾患:
血圧コントロールの徹底で脳卒中が半減したが、一方、虚血性心疾患が増加
脳梗塞、虚血性心疾患の危険因子として糖尿病が増加
メタボリック+糖尿病・高血圧 →脳梗塞、虚血性心疾患のリスクをあげる
認知症 断面調査と追跡調査
精神科受診を含む正確な診断に基づいている
国の予測よりはるかに多い、
高齢者の5-6人に一人が認知症
認知症の45%がアルツハイマ病で、急速に増加
75歳以上から急速増加し、単なる高齢化では説明できない
推計では、2040年で1000万人に(国の予想を上回る)
60歳以上の人が、死ぬまでに認知症に罹患する確率は50%
(国民に与える衝撃が強すぎるため、論文化を躊躇していた)
認知症の予防
アルツハイマー病に血圧は関連ない
脳血管性認知症では血圧が関連 とくに中年期でのコントロールが大事
喫煙者はアルツハイマー病の発症率が高い
耐糖能レベル と アルツハイマー病とに相関性がある
糖尿病は、認知症の発症リスク (脳血管性だけでなくアルツハイマー病も)
糖負荷試験をしないと発症リスクはわからない(HbA1cではだめ)
アルツハイマ病の確定診断医には病理所見が不可欠だが、
剖検で、糖尿病関連因子と認知症との関連が示された
運動習慣は、リスクの減少
アルツハイマー病発症リスクを40%下げる
認知症発症リスクを下げる食事パターン
大豆、野菜、海藻類、魚、(日本食に近い)
一方で、少ないほうがいいもの → お米、お酒、
ひさやま方式
住民を中心に、開業医、大学、町役場が協力
久山町生活習慣病予防対策推進協議会
久山健康づくり委員会 メンバー17名でより具体的な検討
PDCAサイクルを回す、大学の役割は CとA
「健康みらい予報」を活用した保健指導
検診結果、喫煙、運動習慣などを総合的に分析し 発症リスクを提示するソフトを開発、このソフトを利用することでよりリアルな保健指導を実施している。
評価
短期:行動変容、
中期:糖尿病発症率、有病率の減少
長期:糖尿病の合併症の発症率減少、健康寿命の延伸、医療費の伸びの抑制