※桜木紫乃(1965年北海道釧路市生まれ。高校卒業後、裁判所でタイピストとして勤めたが、24歳で結婚して退職し専業主婦に。2児を出産直後に小説を書き始め、42歳になる年に『氷平線』で単行本デビュー。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。趣味はストリップ鑑賞)
●奥ゆかしく、上品な性表現
湿原を背に建つ北国のラブホテルを舞台に、客、経営者家族、従業員らの人間模様を描く7つの短編の連作集。『小説すばる』掲載に加筆・修正のうえ書き下ろしを加えて単行本化。第149回直木賞。
読みながらどこかで聞いたことのある話だなぁと思っていたら、映画化された作品を見ていた。20年11月公開。武正晴監督で、波瑠が主演を務め、松山ケンイチ、安田顕が共演。ただ、ストーリーは一部を除いてほぼ忘れていたが、予告編を見直すと蘇ってきた。映画はひとつの話として作られていたが、原作は時系列が逆転し、廃墟となったホテルから始まり、1作ごとに時間軸が戻っていき、最後はラブホテル誕生のエピソードで終わるという、なかなか斬新な展開。どうしても逆にもう一度読みたくなってしまう。
舞台がラブホテルなので性表現は避けて通れない。淡々と書かれているのだが、なんとも奥ゆかしく、上品で非常に魅惑的だ。男の女の性愛の切なさを巧みに表していると思う。泣けるというほどではないが、共感できることが多く、あっという間に読めた。「『新官能派』として性愛文学の代表作家」という評価もあるが、まさにその通りだろう。
モデルとなったのは実在のラブホテルで、桜木さんの父親がかつて経営していた施設の名前をとったという。ホテル内に住まいもあって、学校から帰ると毎日手伝いをしていただけあって、さすがにホテル内のことは詳しい。朝日新聞デジタルの「telling,」でのインタビューが面白過ぎて、他の作品も読みたくなった。「小説『ホテルローヤル』は虚構を描いた物語です。私が経験したことをそのまま書いているわけではありませんが、経験が書かせる一行もあったのではと思っています」。
まったく関係ないのだが、甲州街道の相模湖沿いに「ホテル・ローヤル」(相模湖ローヤル)があった。大昔(学生時代だったかな?)の深夜には東京12チャンネル(現テレビ東京)でテレビCMも流れていたが、いつの間にか廃業し、現在は廃墟となっている。ちょうど短いトンネルの迂回路にあり、以前は行けたような気がするのだが、いつの頃からか全く入れなくなっている。自転車で通るたび、なんとなく寂しい気持ちになる。
現在は廃墟となっている相模湖沿いの「ホテル・ローヤル」(相模湖ローヤル)。この作品とは全く関係ありません
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