※小川哲(1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年「ユートロニカのこちら側」で第3回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞しデビュー。17年「ゲームの王国」で第38回日本SF大賞、第31回山本周五郎賞を受賞。19年「嘘と正典」で第162回直木賞候補。22年「地図と拳」で第13回山田風太郎賞、第168回直木賞を受賞)
●面白過ぎて、いや凄すぎる
青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、ロレックス・デイトナを巻く漫画家……。著者自身を彷彿とさせる小説家の「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する連作短篇集。2019年から22年に小説新潮に掲載された短編5作(「プロローグ」「三月十日」「小説家の鏡」「気味が手にするはずだった黄金について」「受賞エッセイ」)に書き下ろしの1作(「偽物」)を加えた。
図書館の貸し出し予約をした時はどういう内容か分かっているのだけど、延々と待っているうちにすっかり忘れ、何の予備知識もないまま読み始めた。「プロローグ」は哲学的で今ひとつ理解しずらく、これがこのまま続くとしんどいなと思ったが、それは全くの杞憂。それどころか面白過ぎて、いや凄すぎてあっという間に小川哲ワールドに引きずり込まれた。読みやすい文章にも好感。「プロローグ」はこの作品のプロローグではなく、小説家としてのプロローグだったんだね。
私小説のようにみえて、そこから妄想を膨らませ、エッセイのようにみえてどうもそうではない。巧いなぁ。やっぱり小説家は才能がなきゃできないよ。読み終わるのが残念で、もっともっと読みたかった。こんな気持ちはこれまで感じたことがない。何度も言うけど、凄すぎる。
「受賞エッセイ」の「どちらの小川さまですか?」には笑った。「偽物」にあった野球の不可解だというネーミング、「ストライク」「ボール」「アウト」。長年野球をやり「ショート」を守ったこともあり、野球関連の仕事もしてきたが、そんなこと考えたこともなかった。
ちなみに「三月十日」。まだ会社員だったので普通に仕事をしていたのは間違いない。その週末にブルベを控えていたので自転車通勤もしていない。特に何もない平凡な1日だったはず。11日は会社から自宅までの40キロを歩いて帰ったが、気になったのは週末のブルベが開催されるかどうかということ。スノボ旅行を案じる彼らと変わりなかったね。もちろんブルベは中止になった。
|Trackback()
|
|