※朝井リョウ(1989年岐阜県生まれ。2009年「桐島、部活やめるって」で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年「何者」で第148回直木賞、14年「世界地図の下書」で第29回坪田譲治文学賞を受賞。他に「チア男子!!」「星やどりの声」「もういちど生まれる」「少女は卒業しない」「スペードの3」など)
●問題作であり、傑作でもある
あってはならない感情なんて、この世にない。それはつまり、いてはいけない人間なんて、この世にいないということだ――共感を呼ぶ傑作か? 目を背けたくなる問題作か? 絶望から始まる痛快。あなたの想像力の外側を行く、作家生活10周年記念、気迫の書下ろし長篇小説。というのが、出版社の謳い文句。
『多様性を認めると言っても、結局、それはマイノリティの中のマジョリティにしか当てはまらない。想像しうる”自分と違う”にしか向けられていない言葉。想像を絶するほど理解しがたい、直視できないほど嫌悪感を抱き距離を置きたいと感じるものには、しっかり蓋をする。だから、おめでたい顔で「みんな違ってみんないい」なんて両手を広げられても、困るんです。ほっといてほしいんです』
冒頭にあるこの言葉が全てを言い表している。認められる多様性と、話しても全く理解されないので話すことさえ諦めた多様性の中のオンリーワン。多数派が正しいのか? 「あり得ない」と認められないものは異常なのか? 登場人物が互いに絡み合うようになった終盤は一気にページが進んだ。
「ひとりの異性に何十年も性的に興奮し続けることは、誰かにこうして取り調べられることがないくらい自然なことなんですか」。最後に出てくる言葉が強烈だ。よくここまで書けたと思う。問題作であり、傑作でもある。
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