56. 使いきる。 (有元葉子著 2013年)
本書は、半分は写真で、文字数も少ない読みやすいというか見やすい本である。なおかつ住まいの整理術の話であるが、よく考えると、応用が利く考えであると思いましたので紹介いたします。大きな意味で、我々一人、一人の潜在する能力を使いきることは、国家とか、政治の目的でもあります。また、自分の現在の状況がどんなに困難な状況であっても、例えば、自分の手の指十本を使いきることがいかに難しく、自分の脳みそを使いきることが途方もなく、遥か彼方です。では、私と一緒に「使いきる」旅に出発です。
『 「掃除」は人まかせにできても、「片づけ」「整理整頓」は自分にしかできない。その人の生き方や考え方や生活習慣が大きく影響しますから、誰かに決めてもらうことじゃないんです。最初に”どんな家に自分が住みたいのか”イメージを持つと、今は散らかっているとしても、片づいたときの自分の暮らしをイメージすれば、何が必要で何がいらないかわかってくる。要は自分が何を好きなのか、どういう空間に住みたいか、です。
私はできるだけ、ものが外に出てないすっきりとした空間が好きです。スペースには限りがあるますから、できるだけ持たないようにする必要があります。いるもの・いらないものを見極めるとき、台所道具から器から洋服からすべて、私は考え方が一緒です。すごく単純。道具や器なら「使うか、使わないか」、服なら「着るか、着ないか」。現在から未来に向かって「使うもの」しか持ちません。
断捨離という言葉が一時期流行しました。あれは、いらないものを捨てると同時に、外から入ってくるものもなるべく減らして、ものに執着しないで身軽に快適に生きる―――ということだと思うのですが、私はそれとは少し考え方が違う。
靴を一足買ったら、きちんと手入れして(手入れをすること自体も楽しんで)、底が破れるまで履く。破れたら捨てる(捨てても惜しくないぐらい、使いきる)。衣類でも寝具でも台所道具でも何でも、』自分に合うものって、そんなに多くないです。その限られたものを最後までとことん使いきる。
自分自身も同じ。自分を使いきって、人生さよならするときは、笑って「はい、さようなら」って言いたいね、そう思っています。こんな考え方で、ものと付き合おうとすれば、……自然にものが淘汰されるはず。家の中が過剰なもので溢れることはないと思うのです。 』
『 実は、器の収納で一番大事なのは、「空き」を作ることなんです。限られたスペースにたくさん入れようとすると、どうしても器を高く積んでしまいがちですが、そうすると奥に何があるか見えなくなってしまいまい、いったん前の器を出して、奥を確認してから必要なものを取り出して……と面倒なことになる。結局、後ろにあるものは、使わなくなる。
つまり、持っているものを「使いきる」ことができないのです。器の数を減らしてでも、「空き」を作り出す――これがとても重要です。私自身も、「空き」の部分を含めて、戸棚に収まる量しか器は持たないようにしています。最近は新しい器は滅多なことでは買いませんが、もし増えたら、その分だけバザーに出すなどして処分します。
また、年に2回の「大片づけ」のときに、食器棚の点検もしています。今の自分はどの器をよく使うか。逆に最近使わなかった器に新しい魅力を感じて、食卓に新しい顔で登場させることも。循環させて、戸棚の中の空気の入れ替えをします。
人間は目も手も育ちますから、器や道具を使ううちに、しだいに「これは違うかな」というものが必ず出てくるです。そういうことに気がつくのも、「片づけ」や「整理整頓」の面白さです。 』
『 ものが外に出ていない我が家の、例外がかごです。スタジオも、自宅も、本当にかごだらけ。自然のものが好きですし、人の手でしっかり作られたものは、見た目もきれいで、使うごとに風合いが増して、長持ちしてくれるのがいいんです。
平べったいかごには葉を敷いておにぎりをのせたり、もちろん果物や野菜を入れたり。手つきのかごはものを入れるだけでなくて、買い物にも持って出かけます。たんなる飾りものということはなく、うちのかごは実によく働かされます。
収納にもかごが大活躍で、たとえば空き瓶はかごひとつにまとめています。ドレッシングやたれを作ったときなどに空き瓶は必ず必要ですが、とっておくものには厳しいルールがあり。ます。口径が広い寸胴型の使いやすいかたちであること。ウエストがくびれていたり、口が小さかったりするものは捨てます。それから、ふたの開閉がスムーズであること。シールがきれいに剥がれること。剥がしたあとがベタベタしているような瓶は、どんなおしゃれなデザインでも捨てます。
そうして選別した空き瓶は、煮沸消毒して、ふたと本体を別々にして、かごの中に入れておきます。瓶は重いので、頑丈な築地のかごに入れ、この中に隠れる量しか基本的には持ちません。そしてかごは自宅のキッチンの、目より上の位置の棚に置いています。
そう、置き場所も重要。私はオープンの棚が好きで、スタジオも自宅も、キッチンや洗面所の上のほうに棚をつけ、かごはこのオープン棚か、食器棚の上にのせます。目の高さより上なら、外からはかごしか見えないので生活感が出ません。 』
『 キッチンツールを引き出しにいれている家もおおいかもしれません。でも、空間というのは平面ではなく、縦に使ったほうがよい――というのが私の出した結論。でも大きな瓶に立てると倒れやすいですし、割れたら危険です。清潔なステンレス素材で大きな筒のようなものはないかしら……と、ずいぶん探したのですが、ありませんでした。
それで、ステンレス製品のメーカーと台所用品を共同開発することになったときに、「こういうものが欲しい」と訴えてツールスタンドを作りました。
底に重りが入っているので倒れにくく、ステンレス製だから見た目もすっきりとしています。
箸やナイフ&フォークも、このツールスタンドの小さいサイズに立てて収納しています。ふだんは戸棚の中に入れてますが、使うときはスタンドごとテーブルの上に運べてラクだし、食卓の上にでも嫌いじゃない見た目も気に入っています。 』
『 むやみやたらと、ものを持たないためには、素材を限定するのもひとつの手かもしれません。たとえば私は洋服は、コットン、シルク、カシミア、上質なウールのものを選びます。家に中になるべくプラスティック製品を入れない、というのも我が家のルール。
道具はステンレスや銅などの金属か、竹や木などの天然素材のものを選びます。手触りの良いことはもちろん、それが目に入ったときにも”気持ちいい景色”であることが大事なんです。 』
『 仕事柄もあって、うちには郵便物がよく届きます。とりあえず置く場所がどこにもありませんので、その場で封を切って、すぐに中身を確かめることになります。いらないものは即捨てますが、問題はとっておくものです。ファイルにきちんと納めるべき書類と、そこまでいかないけけれど、あとで目を通してから捨てようとか、期間限定でとっておきたいとか、そんな書類もあります。
そのために、棚に高さ4cmの「ちっちゃな指定席」を作っています。ものをとっておく場所が小さいほど、ものはよく「動く」。これも、ためない暮らし、風通しのよい暮らしの大事な法則です。
家が狭いから、好きな空間じゃないから、時間がないから今はできない。でも、できるようになったらやろう……という考えだと、いつまでたっても快適な暮らしは手に入りません。誰だって同じだと思うのです。自分が本当に望んだ通りの住空間が与えられているわけではない。
でも、それでも、今あるこの空間を自分なりに精一杯美しく使っていると、よりよい空間が次に待っている――。これね、本当なんです。ちょっと不思議な話だけれど、そういう経験をしてきて、私自身がびっくりしているのです。
別にそれを望んでやっていたわけじゃないんです。ただ、一生懸命暮らしてきたんですね、私はどの年代もどの時代も。狭い空間だったり、たとえ気に入っていない環境だったとしても、そこに住んでいる時は、自分なりに美しさや快適さを追求する。
その空間を充分に使いきる。するとなぜか自然に、次に良いものが待っている。 』
『 台所仕事の始まりはいつも、ものが何も出ていない状態です。ゴミもありません、前日のうちにまとめて、建物のゴミ置き場へ運んでしまっています。水切りかごの中にも何もない状態です。愛用の水きりかごは、私がメーカーと共同開発したラバーゼのもので、洗ったものの水が自然にシンクに流れるように、傾斜つきのトレイが下にセットされています。
「さあ、料理をしよう」という一日の始まりに、前の日の”仕事”が残っていると、新しい気持ちで取りかかることができません。ですから一日の終わりにはとにかく、全部きれいに片づけて、外に何も出ていない状態にしておく。そして、まっさらな気持ちで翌日は台所に立つ――。家事の「流れ」をつくるうえで、これがとても大事なのです。「滞らせないこと」です。
空間は立体的なものです。人が立ち働き、ものが動く、それが空間です。だから、たくさんのものに空間が占領されて、動くためのスペースがない――なんていうのは本末転倒です。
台所仕事には、スムーズな流れを作るために、「台」が多いに越したことはありません。冷蔵庫も、通過点で、ものが動くための空間です。冷蔵庫の中も、戸棚の中も、テーブルの上も、台所の台も、「空き」を作っておく、それがどれほど家事をスムーズにしてくれることか。空間はものを「納める」ためだけでなく、ものが「動く」ためにある。
調理に入るとき、私はそのときに使う食材をすべて、パットに並べておきます。「見える」状態にして、目で「見る」ことで、頭の中は整理されます。食材を並べてみると、料理をする手がスムーズに動くから本当に不思議です。料理の手があいたら、洗っておく、こうしたシステムの流れができると、テーブルにつくときには、片づいています。
自分の頭で考え、自分でできることは自分でする。道具も、食材も、自分の住まいも、自分自身も使いきる。 』
著者が言う、かごを使うは、私には、知識の収納に於いても、個々の情報を大きな分類で、かごの中に入れ、かごとかごの間のネットワークを構成することで、整理され活用されるように思います。さらには私たちが生活することは、食事をして、考え、仕事する……という流れを作ることは、福岡伸一が言う「生命とは動的平衡にある流れである」に通じるのかもしれません。
そこで、著者が言うように、自分自身を使いきるためには、この世界をよく観察し、自分の頭で考える。考えるとき、思考媒体として、言語、文字、数式、楽譜、設計図、フローチャート、絵コンテ、KJ法、パート図、食材、物語、道具、楽器、芸術品、地図、ルール、法則、定義、貸借対照表などの、自分が得意とするもので考える。
その時、著者が食材をすべてパットを上に「見える」状態にしたように、そのテーマについての発生する「問」を紙の上に書き出し、その活動空間と活動要素を分析し、マイルズストーン(第一手から、イイシャンテン(完成の一つ前))を明示し、必要とされる点、問題点を、手と頭を使って、すべて「見える」状態にし、私も自分の頭で(わるいが大切な頭で)考え、自分自身を使いきりたいと思います。(第57回)