就活ウェブテストでは何みられてる? 配属先に影響も
エントリーシートや面接の陰に隠れておろそかにしがちなのがウェブテスト(適性検査)対策だろう。就活生の性格や能力などを企業が診断するのが目的だが、奇問や難問に直面する先輩たちも多かったようだ。どのように対策したらよいのか。就活探偵団が探った。
1月末、東京・お茶の水にあるオフィスビルの一角を訪れると、リクルートスーツを着た就活生が一人、また一人と出てきた。「途中から問題が難しくなってきて焦った」。その中の一人、金沢大学大学院1年の塚田学さん(仮名)は表情を曇らせながらこう語った。
ここは「SPI」という適性検査を受けるテストセンター。会議室のような場所にパソコンが備え付けてある。塚田さんのパソコン画面に出てきたのは「AさんやBさんらはそれぞれ次のように証言している。3人の人間関係について、必ずしも誤りと言えないものはどれか」。考えている間も制限時間を示すマークは刻一刻と動き、マウスを持つ手が震えた。
計算問題や文章の並べ替え問題を順調にこなせただけに悔しさがにじむ。「先輩から教えてもらった参考書を一周しましたが……。もう少し対策すればよかったかな」
社会人1年目の藤原浩介さん(仮名)は一昨年、ある大手IT(情報技術)企業の選考で受けたウェブテストが忘れられない。「入社後に活躍している私」というお題に合わせて、三角や丸、星などの図形を画面上に配し、イラストを完成させるという内容だった。「何を評価しているのか分からなかった」と話す。
■コンプライアンス意識も測る
このようなテストを提供する企業のホームページを見ると「コンプライアンス傾向」や「ストレス耐性」などを見ていることが分かった。テストを扱う販売代理店関係者に聞くと「能力検査とは違い、受検者が企業に与えるリスクなどをみているようだ」といった説明があった。従業員が不適切な動画を投稿する「バイトテロ」などが話題になるが、就活生のコンプライアンス意識を測るこういったテストは一定の需要があるそうだ。
ウェブテストは主に3~4月のエントリーシートの提出と同じ時期に面接前の予備選抜として実施されることが多い。私用のパソコンで受けられるものと企業指定のテストセンターで受けるものがある。
就活サイトを運営するワンキャリア(東京・渋谷)によると、対策本が販売されている主要なウェブテストは9種類。なかでもシェアの高い代表的なテストがリクルートマネジメントソリューションズ(MS、東京・品川)の「SPI」、日本エス・エイチ・エル(SHL)の「玉手箱」と「WebGAB」、ヒューマネージ(東京・千代田)の「TG―WEB」の4つだ。
一部で英語の問題があったり、難易度の差があったりはするが、設問はいずれも計算問題などで論理的思考力を測る能力検査と「外向的」「内向的」などの性格の傾向を測る性格検査の2種類からなる。学校で受けるような知識の確認や応用をみる学科試験とは異なり、受検者本人がこれまでの人生で積み重ねてきた論理的思考力や本来持つ性格の特徴をみているという。
導入は増加傾向
ウェブテストを導入する企業は増加傾向だ。リクルートMSによるとSPIの利用社数は増えており、2019年3月期は約1万3200社と過去最高だった。
背景には採用活動の通年化がある。インターンシップ(就業体験)経由の早期選考もあるため「学生によってエントリーの時期がバラバラになり選考期間が長引いている」(大手メーカーの採用担当)。多忙な人事担当者を補佐する目的で、ウェブテストを利用するケースが多いようだ。
マイナビの調査によると、3月に最も頭を悩ましている就職活動では「筆記試験やSPI対策」と答えた人は全体の12%を占めた。採用活動の前倒し傾向も反映してか、SPIの対策講座を提供する日建学院(東京・豊島)によると「ここ1~2年は10月から年末にかけて申し込みが増えている」という。
背景には採用活動の通年化がある。インターンシップ(就業体験)経由の早期選考もあるため「学生によってエントリーの時期がバラバラになり選考期間が長引いている」(大手メーカーの採用担当)。多忙な人事担当者を補佐する目的で、ウェブテストを利用するケースが多いようだ。
マイナビの調査によると、3月に最も頭を悩ましている就職活動では「筆記試験やSPI対策」と答えた人は全体の12%を占めた。採用活動の前倒し傾向も反映してか、SPIの対策講座を提供する日建学院(東京・豊島)によると「ここ1~2年は10月から年末にかけて申し込みが増えている」という。
ウェブテストでは通常、「何点取れば合格」というボーダーは開示されない。「ウェブテストに落ち続けて選考に進めない学生もいる」(就職情報大手ディスコの武井房子上席研究員)など対応に苦しむ学生もいるようだ。
では就活生は具体的にどのように臨めばよいのか。都内のある私大のキャリアセンター担当者に聞くと「学生には参考書を2回繰り返すことを薦めている」という。個人差はあるが、1日1時間問題を解いて、1カ月ほどかかるそうだ。
リクルートMSでSPIの開発を担当する園田友樹開発部長は「受検前に問題形式を把握しておくとよい」と助言する。パソコンの操作をはじめ、計算や文章読解といったパターンを知らないと、本来の能力を十分に発揮できないからだ。
リクルートMSでSPIの開発を担当する園田友樹開発部長は「受検前に問題形式を把握しておくとよい」と助言する。パソコンの操作をはじめ、計算や文章読解といったパターンを知らないと、本来の能力を十分に発揮できないからだ。
■対策本を解いても点数アップしない?
とはいえ、園田氏は「対策本をくりかえし解いても点数アップにはつながらない」と指摘する。過去に事前学習を実施した人と実施しなかった人で得点を比較したところ、両者の間で大きな差異はみられなかったという。勉強して点数が上がってしまわないように「対策本で既出のものは本番の問題から削除している」(園田氏)という。
ウェブテストの結果は入社選考で使われるだけではない。ある大手商社は採用時に社員が受検した「SPI」のデータを人工知能(AI)に学習させて、今後活躍する人材の予測に役立てている。入社9年目から15年目までが分析の対象だ。高い業績を残す「活躍人材」をあぶりだし、採用や配属、人材育成にいかす試みを進めている。
日本SHLの清田茂取締役は「入社時のテスト結果を社員の配属に活用する動きがここ2~3年で増えた」と明かす。テスト結果が入社後もついて回るならば、テストで「よい人物」を演じるのではなく、正直に受けておく方が巡り巡って自分のためになりそうだ。
(企業報道部 平岡大輝、橋本剛志)
[日経産業新聞 2020年2月5日付