【質問】
一人っ子はわがままになる?[教えて!親野先生]
うちの子は一人っ子です。一人っ子は家で甘やかされているので自己中心的でわがままだとか、がまんしてきょうだいで分け合うことがないので人と分け合うことを知らない、などという話をよく聞かされます。一人っ子を育てるにはどんなことに気をつけたら良いでしょうか? (北海ママ さん:年長女子)
親野先生からのアドバイス
北海ママさん、拝読いたしました。 一人っ子に対する偏見がいまだに根強くあるのには驚かされます。 そういう話を聞かされる度に、一人っ子をお持ちの親御さんたちは不安な気持ちになることでしょう。 私は担任として600人以上の子どもたちを教えてきましたが、一人っ子は自己中心的でわがままだと感じたことはただの一度もありません。 また、ほかの先生たちからそういう話を聞いたこともないと思います。つい最近現場のベテランの先生たちとの会合があったので、5、6人に聞いてみましたが、そう感じているという人は一人もいませんでした。 地域・職場・親戚など、あなたの周りにも自己中心的でわがままな人は何人かいると思いますが、そういう人は一人っ子が多いですか? 私はそんなことはないと思います。 私は「一人っ子は自己中心的でわがまま」などという事実はまったくないと思います。これは、子育てや教育の世界によくある集団的勘違いのひとつに過ぎないと思います。
一人っ子について、世間でよく言われるのは次のようなことです。
(1) 一人っ子は子どものころきょうだいで物を取り合ったり分け合ったりする必要がなく、すべて自分の物になる。だから、分け合ったり自分が一歩引いて譲ったりする経験ができない。それで、大人になってからも分け合うという発想ができない。
(2) 一人っ子は親にも祖父母にも甘やかされて、何でも本人の思い通りになることが多い。だから、世の中が自分を中心に回っているように思い、自己中心的でわがままになる。
(3) きょうだいがいれば、自己主張したりけんかしたり、あるいは妥協したり仲直りしたりという経験ができる。それによって人間関係の調整力が育つが、一人っ子にはそれがない。だから、大人になって社会に出てからも激しい競争社会で生き残れない。 これらは一見理論的に見えます。 でも、人間というものはそんなに単純なものではないと思います。
まず(1)についてです。 きょうだいの中で取り合いを経験していれば、たしかに分け合うことの大切さを学ぶかもしれません。でも、逆に、まず我先に自分の物を取るという意識が育つ可能性もないとは言えません。 一人っ子はいつも満たされているので、そもそも我先に自分の物を取るという発想がありません。だから、友達と自然に分け合ったり譲ったりできるようになるということもあるのではないでしょうか。
次に(2)についてです。 これも昔からよく言われる紋切り型の話ですが、そんなに単純なものではないと思います。 なぜなら、人間というものは、自分の心が満たされて初めてほかの人のことを思いやることができるからです。一人っ子で親や家族の愛情をたっぷり受けて育てば心が満たされます。それで、かえって人のことを思いやる余裕が出るのです。
次に(3)についてです。 今は3歳くらいから保育園や幼稚園に行くことが多いと思います。ですから、きょうだいがいなくても、そういう場で人間関係の経験をすることができるわけです。 このようなわけですから、「一人っ子だから……」と悩む必要はありません。親が「一人っ子にはマイナス点がある」と思い込んでいると、それが実際マイナスに働いてしまうことがあり得ます。 たとえば、親が「一人っ子はわがままになる」と思い込んでいると、絶対そうならないようにということで「わがまま言うんじゃありません」と叱ることが増えます。 すると、子どもは愛情不足を感じるようになり、心が満たされなくなります。そういう状態では、友達を思いやることなどとてもできません。かえってわがままになるというものです。
ところで、先ほど「きょうだいが多いと、まず我先に自分の物を取るという意識が育つ可能性もないとは言えません」と書きましたが、これも誤解しないでほしいと思います。 必ずそうなるというわけではありませんし、「きょうだいが多いと思いやりが育たない」などと言いたいわけでもありません。 要はそんなに単純なものではないということです。
一人っ子だからわがままになるとか、ならないとか……。 きょうだいが多いからわがままになるとか、ならないとか……。 そういうことで、即決まるものではないということを言いたいのです。 どんな環境も一長一短であり、完璧な環境などあり得ません。 その環境の長所を活かしつつ、同時に短所に気をつけ、必要ならばそれを補うということで良いと思います。 もし、一人っ子で人間関係を学ぶ機会が少なく、それによって友達力が弱くなりそうだと思うならそれを補う工夫もあって良いと思います。たとえば、いとこ同士で集まる機会を増やすとか、近所やママ友達の子どもとの関係を濃くするなどです。
きょうだいを育てる場合は、一人ひとりが本当に親の愛情を実感できるようにしてあげることが極めて大切です。 きょうだいの場合、甘えるのが上手な子と下手な子がいます。 叱られることが多い子と少ない子がいます。 親との相性もあります。 あるいは、親が勝手に「この子は大丈夫」と判断して言葉をかけたり手をかけたりする回数が少なくなっている子もいます。
きょうだいの中には、人知れずさみしい思いをしている子がけっこういるものです。こういうことは絶対ないようにしてあげてください。これが、きょうだいを育てる場合の最大の留意点です。
一人っ子の子育てでもきょうだいの子育てでも、基本は同じです。自分が親や家族に愛されていると実感できるようにしてあげることが大切なのです。 これには、常に心を配ってあげてください。 ただ、親が愛情のつもりで行っている言動が、子どもにとってはその正反対のものにしか映っていないということも本当によくあることです。ですから、子どもの立場に立って振り返ってみることが大切です。 私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。 少しでもご参考になれば幸いです。 皆さんに幸多かれとお祈り申し上げます。
プロフィール
親野智可等
教育評論家。23年間の教員生活のなかで、親が子どもに与える影響力の大きさを痛感。その経験をメールマガジンなど、メディアで発表。全国の小学校や、幼稚園・保育園などからの講演に引っ張りだこの日々。