新型コロナ「過去1千年なかった経験」と専門家
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「完全終息時期」を歴史から予測
新型ウイルスの猛威は過去の主な感染症と比べても群を抜いている。AERA2020年4月13日号では、新たな敵と人類の闘いがどのような展開をたどるのかを、歴史から読み解く。
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【図を見る】新型コロナウイルスはケタ違い? 判明した世界の感染者数はこちら
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「コホッ、コホッ」
スティーブン・ソダーバーグ監督の映画「コンテイジョン」(2011年)は、グウィネス・パルトロウ演じる女性がせき込むシーンで始まる。商用で香港を訪れた彼女が米国の自宅で謎の死を遂げたのと同じ頃、世界の大都市で次々と人が死亡。人々は誤情報に踊らされ、街では強奪が横行、世界は大混乱に陥る。原因は新型ウイルス──。
9年前の映画が今の世界を予見しているように見えるのは、人類がこれまでに幾度となく病原体との闘いを繰り返してきた経験があるからだ。東京医科大学病院の濱田篤郎教授(渡航医学)はこう指摘する。
「農耕社会が始まって何千年もの間、感染症は人類にとって大きな脅威になってきました。集団で生活することによって、空気感染や飛沫(ひまつ)感染が起きやすくなる上、動物を家畜にすることで動物の感染症がヒトの世界に入ってきたためです」
古くは2400年以上前、ギリシャでアテネとスパルタが争った「ペロポネソス戦争」のころに、アテネで多くの人々が亡くなる疫病が流行した。アテネの没落につながったとも言われるが、今も何の疫病だったのかは分かっていない。
医療ジャーナリスト、サンドラ・ヘンペル氏の『ビジュアル パンデミック・マップ』(日経ナショナルジオグラフィック社)によれば、記録に残る最初のペストの流行は、6世紀に現在のトルコ・イスタンブールで始まり、東ローマ帝国の皇帝の名から「ユスティニアヌスのペスト」と呼ばれるものだという。「世界の全人口の33~40%が死亡した」との記述もある。
そして、濱田教授が注目しているのは14世紀にヨーロッパなどで流行したペストだ。
「人類としては最も被害が大きく、本当に絶滅の危機に近いほどの死亡者が出たペストでした。ヨーロッパだけで3千万人くらいが亡くなっていると言われています」
この14世紀のペストについて、ニッセイ基礎研究所の篠原拓也・主席研究員はこう話す。
「ヨーロッパで当時暮らしていた1億人ほどのうち、大流行した数年間でそれほどたくさんの人が亡くなるわけです。町中に死体が捨てられて、触った人たちも次々に感染する。一般市民に情報も届きにくい時代で、死者数だけでなく、人心に恐怖を与えたという意味でも影響は相当なものがあったと考えられます」
「コホッ、コホッ」
スティーブン・ソダーバーグ監督の映画「コンテイジョン」(2011年)は、グウィネス・パルトロウ演じる女性がせき込むシーンで始まる。商用で香港を訪れた彼女が米国の自宅で謎の死を遂げたのと同じ頃、世界の大都市で次々と人が死亡。人々は誤情報に踊らされ、街では強奪が横行、世界は大混乱に陥る。原因は新型ウイルス──。
9年前の映画が今の世界を予見しているように見えるのは、人類がこれまでに幾度となく病原体との闘いを繰り返してきた経験があるからだ。東京医科大学病院の濱田篤郎教授(渡航医学)はこう指摘する。
「農耕社会が始まって何千年もの間、感染症は人類にとって大きな脅威になってきました。集団で生活することによって、空気感染や飛沫(ひまつ)感染が起きやすくなる上、動物を家畜にすることで動物の感染症がヒトの世界に入ってきたためです」
古くは2400年以上前、ギリシャでアテネとスパルタが争った「ペロポネソス戦争」のころに、アテネで多くの人々が亡くなる疫病が流行した。アテネの没落につながったとも言われるが、今も何の疫病だったのかは分かっていない。
医療ジャーナリスト、サンドラ・ヘンペル氏の『ビジュアル パンデミック・マップ』(日経ナショナルジオグラフィック社)によれば、記録に残る最初のペストの流行は、6世紀に現在のトルコ・イスタンブールで始まり、東ローマ帝国の皇帝の名から「ユスティニアヌスのペスト」と呼ばれるものだという。「世界の全人口の33~40%が死亡した」との記述もある。
そして、濱田教授が注目しているのは14世紀にヨーロッパなどで流行したペストだ。
「人類としては最も被害が大きく、本当に絶滅の危機に近いほどの死亡者が出たペストでした。ヨーロッパだけで3千万人くらいが亡くなっていると言われています」
この14世紀のペストについて、ニッセイ基礎研究所の篠原拓也・主席研究員はこう話す。
「ヨーロッパで当時暮らしていた1億人ほどのうち、大流行した数年間でそれほどたくさんの人が亡くなるわけです。町中に死体が捨てられて、触った人たちも次々に感染する。一般市民に情報も届きにくい時代で、死者数だけでなく、人心に恐怖を与えたという意味でも影響は相当なものがあったと考えられます」
20世紀に入ると、最大で約5千万人が亡くなったとも推計されるスペインかぜが流行した。天然痘は1980年に撲滅されたが、その後も新たなウイルスの出現と、治療薬やワクチンの開発が繰り返されている。
ところが、濱田教授は今回の新型コロナウイルスは、これまでに経験した感染症とは違うと感じている。
「動物からヒトに感染した病原体があっという間にパンデミック(世界的な大流行)を起こすという経験は、少なく見積もってもこの1千年ほどはなかったのではないでしょうか」
濱田教授は、今回の感染拡大に至るまでに、「20世紀後半以降くすぶり続けていた状況」があったと受け止めている。
アフリカで70年代後半から広がったエボラ出血熱。マレーシアで98年以降に感染が見つかり、脳炎などの症状を引き起こしたニパウイルス感染症。02~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や、09年にパンデミックを引き起こした新型インフルエンザ。12年に中東で患者が初めて見つかり、韓国でも38人の死者を出した中東呼吸器症候群(MERS)──。
未知のウイルスが動物からヒトに感染して流行する。その背景には人口増加が関係していると、濱田教授はみている。
「特に第2次世界大戦後、人類がアジアやアフリカなど世界中の至るところで開発行為を進めました。これまで接することのなかった動物との接触を繰り返すことで、未知の病原体の感染が広がってきたと考えられます」
過去の感染症と人類との闘いから、今回の新型コロナウイルスの感染拡大はどのような見通しが立てられそうか。
前出の篠原氏は「日本は少なくとも、感染が広がる欧州と比べて国境管理がしやすい利点があります。衛生環境も比較的良く、健康保険の制度もしっかりしているため、すぐにパニックになる必要はないでしょう」。
ただし、今の段階でまだ安心できる要素があるのかどうかは分からない。濱田教授は、WHOが公表しているSARSの終息までにかかった時間と感染者数を表すグラフを示しながらこう話した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/5e/eb82bd9cb84c9b244a92cd3a3de330a9.png)
「グラフから読み取れる感染者の増え方は似ていても、感染者数の規模が全く違います。SARSはパンデミックにならず半年ほどで収まっていますが、今回はそうはいかないと考えられます。いったん終息することはありえますが、完全に終わるのはワクチンができるまで無理ではないでしょうか」
治療薬がないまま感染が広がるウイルスに、パニックはまだ続くかもしれない。まずは自らが感染しないこと。そして、感染してもうつさないこと。そんな行動が必要だ。(編集部・小田健司)
※AERA 2020年4月13日号
ところが、濱田教授は今回の新型コロナウイルスは、これまでに経験した感染症とは違うと感じている。
「動物からヒトに感染した病原体があっという間にパンデミック(世界的な大流行)を起こすという経験は、少なく見積もってもこの1千年ほどはなかったのではないでしょうか」
濱田教授は、今回の感染拡大に至るまでに、「20世紀後半以降くすぶり続けていた状況」があったと受け止めている。
アフリカで70年代後半から広がったエボラ出血熱。マレーシアで98年以降に感染が見つかり、脳炎などの症状を引き起こしたニパウイルス感染症。02~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や、09年にパンデミックを引き起こした新型インフルエンザ。12年に中東で患者が初めて見つかり、韓国でも38人の死者を出した中東呼吸器症候群(MERS)──。
未知のウイルスが動物からヒトに感染して流行する。その背景には人口増加が関係していると、濱田教授はみている。
「特に第2次世界大戦後、人類がアジアやアフリカなど世界中の至るところで開発行為を進めました。これまで接することのなかった動物との接触を繰り返すことで、未知の病原体の感染が広がってきたと考えられます」
過去の感染症と人類との闘いから、今回の新型コロナウイルスの感染拡大はどのような見通しが立てられそうか。
前出の篠原氏は「日本は少なくとも、感染が広がる欧州と比べて国境管理がしやすい利点があります。衛生環境も比較的良く、健康保険の制度もしっかりしているため、すぐにパニックになる必要はないでしょう」。
ただし、今の段階でまだ安心できる要素があるのかどうかは分からない。濱田教授は、WHOが公表しているSARSの終息までにかかった時間と感染者数を表すグラフを示しながらこう話した。
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「グラフから読み取れる感染者の増え方は似ていても、感染者数の規模が全く違います。SARSはパンデミックにならず半年ほどで収まっていますが、今回はそうはいかないと考えられます。いったん終息することはありえますが、完全に終わるのはワクチンができるまで無理ではないでしょうか」
治療薬がないまま感染が広がるウイルスに、パニックはまだ続くかもしれない。まずは自らが感染しないこと。そして、感染してもうつさないこと。そんな行動が必要だ。(編集部・小田健司)
※AERA 2020年4月13日号