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オリンピックメダルのオークションから考えたこと 

2021-09-14 19:26:41 | 日記
人事・労務の荒木です。

私は毎朝、NHKラジオニュースを聞きながら台所仕事をしています。先日の深読みコーナーでは、メダルの値段、というトピックが扱われて、私は料理をしながら興味深く聞いていました。

先日閉幕した東京オリンピック。女子やり投げで銀メダルを獲得したポーランドのマリア・アンドレイチク選手がメダルをオークションに出品し、ポーランドのコンビニストアチェーンのジャプカ社が12万5,000ドルで落札した、というニュースが話題になっているそうです。

ここまでの情報を聞いた時点での、瞬発的に私の心の中での反応はこうでした。「そこに市場があるのなら、個人はどんなふうに利用してもいいと思う。動機がどうあれ、個人の自由な経済活動は “見えざる手”に導かれて結果的には一定の調和をもたらす、って、アダム・スミスも言っているし。」



と、そこにバスケ部の部活に出かける高校生の次男が起きてきたので、さっそく投げかけてみました。「オリンピック選手が銀メダルをオークションに出したんだって。どう思う?」

彼の即座の反応は、「えーっ⁉ あり得ない!そのために辛い思いをしながら努力してきたのに、その象徴のメダルを手放すなんて考えられないし、第一、売るという発想が僕には断じて無い!」でした。

「でも、銀メダル自体は単なる物質で、それが手元になくたって、銀メダルをとったという事実は変わらないんじゃない?」と、私。

「いやいやいや。僕はスポーツをやっているからかもしれないけれど、メダルは思いが詰まったロマンで、かけがえないもの。プライスレス! 売るなんて絶対にあり得ない。お母さんは真剣にスポーツをやったことがない文科系だから分からないんだよ。」
・・・なるほど、思いが詰まったロマンですか。だとしても、ロマンの市場があるのなら、私はそこでロマンを売ってもいいと思いますけれどね、買う人がいるのならば。

こんな会話をしながら再びラジオの音声の続きに集中すると、生後8か月の先天的な心臓疾患のある男の子(アンドレイチク選手と面識はなかったが、ネットで男の子の両親の嘆願を読んだ)の手術費用を捻出したいという決意が出品の動機であること、手術には38万3,000ドルが必要で、その半分は既に集まっていたことが分かってきました。実はアンドレイチク選手自身、3年前に悪性腫瘍の骨肉腫との苦しい闘病を乗り越え、回復し、この東京オリンピックで銀メダルを手にした選手なのです。

ああ、そんな利他的な動機があったんだ、と知れば、“メダルを売る行為”に対する心象は随分と変わってきますが、もとより「動機がどうあれ」という前提を持っているので私の結論は変わりません。

一方の息子は、「手術費のために・・・。そんな動機があったのか。うーん。」と、実に人間らしく逡巡し始めています。

このニュースの顛末としては、ジャプカ社の落札で調達した資金によって、男の子にはアメリカで手術を受けられる見通しが立ち、またジャプカ社は落札後、美しく気高い行動に感動した、というメッセージと共にアンドレイチク選手に銀メダルを返還しました。

アンドレイチク選手の高潔な振る舞いは多くの感動を呼んでいるし、またジャプカ社の対応には称賛の声が寄せられているようです。

ラジオのリスナーの皆さんからも、関係者の素敵な振る舞いに賞賛を寄せる声が続々と届いているようでした。一点、メダルは選手一人でとったものではなくて支える人達みんなでとったものなので、メダルを売却すること自体に対して批判される可能性があることについての覚悟は必要だ、という意見があり、これは鋭い視点だと思いました。

さて、私は、このトピックをふと耳にした時の、自分の瞬発的な反応が淡々としたものであったことをとても面白く感じています。同じ場面に遭遇した時の、私ではない人(今回は高校生の息子)の人間味溢れる即座の反応を観察したことも、私の反応を相対化するにはちょうどよかったと思います。

私の人間味の薄い反応について、後から言い訳のように理屈をつけるとすれば、それはアダム・スミスの『道徳感情論』に因ります。アダム・スミスは『国富論』に先立ち『道徳感情論』の中で、個々人が自由に活動した結果、それでもなお社会がそれなりに秩序だったものになるのだとすれば、そういった秩序を生み出すことができる人間の本性とは一体何であるのか、について論じています。そして人間はどんなに利己的であったとしても、その本性には他人の不幸に関心を寄せ、他人の幸福を自分にとって必要なものと感じる原理があるとして、その一つに人間の共感する能力を挙げています。共感の能力は、今度は自分が他人から共感を得るためには何が必要か、という考えを自分自身に対して促します。こうして人間は、他人からの共感を得るために自分自身の中に“公平な観察者”という基準を形成し、“公平な観察者”から自分の感情や行為が責められないように努力するという、優れた能力を持っていると考えるのです。

だから悪人ばかりではない世の中で、個々人は自分の心に従って自由に動けばよいのです。多様な個人の利己心に基づく自由な競争が、計画されたものではないのに、社会全体で見たときには一つの調和を生み出すのです。

つまり私は、性善説に立ち、そして多様性のある人間の自由な行動の帰結を信じているのです。



最後にメダルのオークションのニュースをもうひとつ。先の東京オリンピックでベラルーシ代表として陸上女子100メートル予選に出場したクリスツィナ・ツィマノウスカヤ選手については、ルカシェンコ政権による弾圧を恐れてポーランドに亡命したことがニュースになりましたが、彼女は亡命先のポーランドで、2019年に獲得した欧州競技大会での銀メダルをオークションに出品したようです。2万1,000ドルで落札されました。出品の動機は、自分と同じように当局から圧力を受けている母国のスポーツ選手を支援する資金に充てたい、と考えたからだそうです。

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