中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

社員99人以下の会社の人材育成に役立つ情報を発信しています。

第1,237話 研修においても心理的安全性を担保する

2024年10月23日 | 研修

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「発言を否定されないので、安心して発表することができました」

これは弊社が研修を担当させていただいた際、終了時の受講アンケートでいただくことの多い感想の一つです。

具体的には、研修の中で受講者に発言を促し答えてもらったり、発表してもらったりするような場面はたくさんあるのですが、その際の私からのフィードバックが否定的なものではなく、肯定的な表現だったことを評価してくれた感想のようです。

近年、アンケートで「発言を否定しない」ことに対する記述が増えたように感じます。こうした記述が増えた背景には、自身の発言に対して否定されることを過度に心配したり、発言後の周囲の反応に過敏になったりしていることがあるのかもしれません。

自身の発言を否定されるより肯定をしてもらった方が嬉しい気持ちになるというのは当然のように思えます。しかし、それがあまりに過剰になってしまうと発言することへの敷居があがってしまい、同時に窮屈な気持ちにもなってしまいます。

このように発言の結果に過度なほどに敏感になってしまうのは、SNSの普及などによる「情報の即時性」が影響しているのかもしれません。その結果、否定的な反応を恐れるあまり自分の意見を言えなかったり、自己表現が難しくなったりしているようにも思います。

これについて、先日ある企業の研修終了後の懇親会に参加する機会がありましたので、その際数人の受講者にその理由を尋ねてみたところ、次のように答えてくれました。「そもそも自分に対して自信がないため発言が否定されるようなことがあると、自分の価値や判断が否定されたように感じてしまうんです。少人数であればともかく、研修時に大勢の前で発言して、間違ったことを言ってしまったらどうしようと考えてしまいます。間違った発言をしたことで、周囲のメンバーから笑われてしまうのではないかと心配になるのです」とのことです。

これは「心理的安全性が欠如している状態」であると考えられます。以前、本ブログでも取り上げていますが、「心理的安全性」とは組織行動学を研究するハーバード・ビジネススクールのエイミー・C・エドモンドソン教授(Amy Claire Edmondson)が1999年に提唱した心理学用語で、「心理的安全性」を自身の考えや気持ちを安心して発言できる状態、つまり「チームのメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。

それは、チームの中で自分の意見を(仮にそれが的外れだったり、間違っていたりする意見であったとしても)臆することなく発信できる状態であり、心理的安全性が高くなれば、組織にとっても様々なプラスの要因が働くことになるのです。具体的には、コミュニケーションが活発になり、仕事の生産性が上がったりエンゲージメントが高くなったりすることなどが期待できるのです。

そして、私はこの心理的安全性は研修においても大変重要な要素であると考えています。それは、自身の考えや気持ちを安心して発言できる状態が担保されていないと、大勢の中で自分の考えを発言することに気後れしてしまうようになりがちです。そうなるとせっかくの研修で得られるはずの成果が減じてしまうことになりかねないからです。

こうしたこともあり、私は研修の冒頭には必ず主体的に発言していただくことを推奨しています。同時に、「こちらが行う質問に対して唯一絶対の答えがあるわけではありませんから、どういう発言であってもダメ出しをするようなことは決してしません」と伝えています。今後も担当させていただいた研修においては心理的安全性を担保していきたいと考えています。

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第1,227話 予定人数を採用することはゴールではなくスタートである

2024年08月07日 | 研修

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「41.5%」

これは、2024年新卒者の採用計画人数に対する実際の充足率です。(2023年「新卒者の採用・選考活動に関する調査」東京商工会議所)

近年、労働人口の減少に伴って採用活動の厳しさが増していることを、報道や企業の採用の担当者から耳にすることが増えてきています。実際に2025年4月入社の大卒求人倍率は1.75倍で、2024年卒の1.71倍から0.04ポイント上昇しているとのことです。小さな数字のようにも思えますが、この数値からは多くの企業において採用意欲が旺盛になっている結果若手の奪い合いとなり、予定通りの人数を採用できている企業がある一方で、中小を中心に希望人数を採用できていない企業があることがうかがえます。その結果、冒頭のように採用充足率が50%を切る結果になっているのだと思います。

こうした状況を受けて、それぞれの企業では採用に繋げるために初任給を引き上げたり、福利厚生制度を充実させたりするなど、様々な取り組みを行っているようです。

実際に、今春ある企業の新入社員研修を担当させていただいた際にも、受講者から「数社から内定を得たけれど、給与の高さでここに入社することに決めた」と話す人が複数いました。また、同様に中堅社員研修を担当させていただいた際にも、「こんなにもらってよいのか」と昇給額に驚いている声を聞いたこともあります。

給与を受け取る側の社員のからすれば、もちろん高い方が良いでしょうから嬉しい限りだと思います。しかし企業側の視点で考えると人材を採用するということはゴールではなく、人材を育成するスタートになるということですから、採用して諸制度を充実してそれで終わりということでないことは言うまでもありません。

では、採用した人をどのように育てていけばよいのか。せっかく予定数の人材を採用することができたとしても、その後にきちんと計画的に育成していかなければ、あっという間に当人のモチベーションが下がってしまい、退職してしまうということにもなりかねないのです。実際、厚労省の調査(令和5年10月20日)によると、新規就職者のうちの2020年3月卒業者の3年以内の離職率は新規高卒就職者37%、新規大卒就職者32.3%と、3年以内に3割強の人が退職しています。

退職理由を調べた調査は複数ありますが、近年注目されている理由の一つに、新人が「自己実現」を強く目指し、自らの成長にスピード感を求めたり、そのためのスキルの習得を急いだりするということがあります。そして、それが短期間で叶わないと他での実現を求めて退職につながってしまうのです。 

実際、私の知人の職場でも入社しても数年以内に退職して他へ移ってしまう例が珍しくなくなってきているそうです。そんなことになってしまっては採用の際やその後のせっかくの取組みも意味がないということにとどまらず、組織の将来にも少なからず影響を与えることになってしまいます。

私はこうした事態を防ぐためにも、組織として採用後の人材育成の充実を今まで以上にしっかり考えて進めていくことが重要になっていくと考えています。本人の希望を踏まえながら短期~長期など期間ごとの目標を定めるとともに、それに向けて具体的にどのように育成していくのか、その過程をはっきり示し本人と共有する。同時に育成の過程で本人が成長しているという実感を味わえるようにしていくことも大切なのではないでしょうか。

労働力が不足していることで事業が拡大できない、回らないという企業の話も最近は少なくなです。そのような事態を招かないために、せっかく採用した人を丁寧に育てていくことが大切だと改めて考えています。

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第1,223話 研修中の休憩は何回、そして何分あるとよいのか

2024年07月10日 | 研修

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「休憩時間の回数を増やしてほしい」、「休憩は10分では短い。電話対応したいので30分にして欲しい」

研修が終わりアンケートを撮った際に、このように書かれることが時々あります。

研修の際の休憩は何回程度が、また1回あたりどれくらいの時間が適切なのか。これは私が研修業界に身を置くようになった30数年前から定期的に話題になってきていることの一つです。

これについては、研修のテーマや時間、研修の進め方は講義中心なのかディスカッションやロールプレイングなどを採り入れるのかなどによって変わってくることから、唯一絶対の正解というものはないと私は考えています。

勤務時間中の昼休みは、労働基準法の定めもあって通常は1時間とることが大多数でしょうが、研修での休憩については、どのように考えればよいのでしょうか。

これにはいろいろな考え方があり、前述のように一概には言えないとは思います。まず休憩を入れる目的を考えてみると、お手洗いなどの用足しのためや、集中力を維持するためなどと言われています。

それでは、人間の集中力が続くのはどれくらいの時間なのでしょうか。集中力が高い人とそうでない人とでは違いがあるかとは思いますが、これを考える際の参考になるのが、ボブ・パイク氏が提唱する「90/20/8の法則」です。

ボブ・パイク氏は、ボブ・パイクグループ創設者・元会長で「参加者主体」の研修手法についての著作があります。(中村文子、ボブ・パイク著「2021年」『オンライン研修ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター)。この書籍によると、人が集中をキープして話を聞ける時間は90分、記憶をしながら話を聞ける時間は20分、さらに人が受け身の状態で興味を持って話を聞ける時間は8分とのことです。これに基づけば、研修では長くても90分以内に1回は休憩を入れた方が良いということになります。

振り返れば、私が小学生の時の授業時間は1科目40分でした。中学・高校は50分、大学では90分でした。さらに、社会人大学院に至っては、一コマの授業は180分でした。今にしてみれば随分と長時間でしたから、どれくらい集中できていたのかと考えると自信はありません。

また、同時通訳などは15分程度が限界だそうですし、自治体での研修で手話通訳者がつく時にも、3人位の方が約15分ごとに交替されています。このあたりの時間も、ボブ・パイク氏の説にかなっているように思えます。

以上のことから考えると、研修の途中で入れる休憩は60分から90分に1回くらいの頻度が適切だと考えます。次に1回あたりの休憩時間は、全体のプログラムとのバランスなどによって決めるのが良いと思いますが、通常は10分もあれば用足しやリフレッシュするには十分なはずです。そもそも研修の休憩時間には、営業職の人などが顧客への連絡をするというようなことは想定されていないのです。

そうは言っても、では営業職の人などの研修中の顧客への連絡はどうすればよいのか。その対応についての考え方もいろいろあるかと思います。しかし研修中に顧客へ急いで連絡をしなければならないような状況ができるだけ起こらないように、事前に顧客と段取りしておく、また職場の人にフォローを依頼していく等の対応をしておくことに尽きるのではないでしょうか。

年に何日もないせっかくの研修です。事前準備を十分にして、集中して研修に臨んでいただきたいと考えています。

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第1,219話 研修の成果はどれくらいあるのか

2024年06月12日 | 研修

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「研修効果はもちろんあるほうが良いけれど、研修を1回やったからって、そんなにすぐ効果は出ないでしょう」

これは弊社が研修を担当させていただいている、ある企業の経営者A氏から言われた言葉です。

一般的には、経営者や研修部門の担当者も研修を行ったらすぐに効果が出ることを期待する人が多いです。研修の前と後で社員にどれくらいの変化があったか、どれくらい成長し、それが会社の売り上げや利益にどれくらい影響するのか、という点にのみ関心を持つ人が圧倒的に多い中で、この経営者はそういう意味では特別な人と言えるのかもしれません。

研修の成果はどれくらいあるのか、これは古くて新しい議論です。私が人材育成の仕事を始めた32年前には既に議論されていましたし、それ以降もずっと繰り返し議論されてきているものの、その答えはいまだに明確にはなっていないように思います。

しかしながら、できる限り研修の成果が発揮されるように発注者側(研修担当者)と研修を担う講師で議論を重ね、事前課題や事後課題を行ったりと、手を変え品を変え様々な工夫を重ねながら現在に至っているのです。

一方、私がこれまでに担当させていただいた企業の中には、たった一回の研修で社員が「変わらなかった」と言って、導入したばかりの研修を単年度で止めてしまったところもありました。一度の研修で「社員が見違えるように変わる」ことを期待したくなるという気持ちはわからなくはないのですが、特定の知識やテクニックなどを伝授するというようなケースを除けば、研修にはそこまでの即効性はないのも現実なのです。もし劇的な変化があったという場合には、その研修の中身はまさに劇薬のようなものかもしれませんし、そこで得られた効果も長続きが期待できるようなものではないのではないかと想像します。

多くの研修では、受講者自身が様々な気づきを得ること、自らが成長するきっかけとなることなどを目的に、そのためのものの見方や考え方、取り組み方などを学ぶことが一般的です。

まず、講師の講義や演習に複数人で取り組む中での受講者同士の意見交換や議論を通じ、異なる視点や経験に触れることによって、たくさんの気づきを得ることができるのです。そして、互いに触発したりされたりすることで学びあう場となり、それらを通じて自身を成長させるきっかけとなるのです。 

冒頭でご紹介したA氏は、「研修は繰り返しやらなければ意味がない」とおっしゃっています。「1日や2日話を聞いたり、演習を行ったりするだけではだめで、やり続けることだ。コストはかかるけれど、社員を育てないで会社の成長があるわけがない。だから研修はやる。そうすることが社員へのメッセージになる。うちは教育を大切にし、やり続ける会社だ。それを受け入れられないのであれば、辞めてもらって構わない」とまでおっしゃっています。

これだけのことを社員に言い続けるA氏のような覚悟を持っている方がどれくらいいらっしゃるのかはわかりませんが、研修はやり続けることが大切だという言葉を担当させていただく者として改めてしっかり受け止めさせていただくとともに、そうした企業の研修を担当させていただく機会に恵まれることに感謝し、誠心誠意務めたいと考えています。

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第1,210話 新人を希望する部署に配属することは離職防止に有効か

2024年04月03日 | 研修

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新年度が始まり、各地で企業等の入社式が行われました。私は毎年それぞれのトップが訓示の中でどのような話をするのかを楽しみにしているのですが、今回報道されたトップの言葉は「チャレンジ・挑戦してほしい」、「失敗や変化を恐れずに」、「明るく前向きに」などが多かったと感じています。これらの言葉は取り立てて目新しさはないものの、とても大切なことでありますので、しっかり新入社員に届いて今後の指針の一つとなるとよいと考えています。

また、今年は久しぶりに入社式を対面で行った企業が多かったようですが、これまでとは違い様々な部分で変化が見られたところもありました。たとえば、入社式に臨む新入社員の服装について、それぞれの個性を表現できるようにとスーツやネクタイの着用が義務でなくなり、カジュアルな服装を認める企業がこれまで以上に見られました。

また、労働人口の減少が始まり採用活動に苦労している企業が多くなってきているためか、新入社員の定着を重要視してこれまで以上に様々な配慮をしようとする企業が増えたことも、大きく異なるところだと思います。実際、企業新卒内定状況調査によると、今春卒業の採用充足率は75.8%であり、これは2016年卒以降で初めて8割を下回り過去最低になったとのことです。そのように考えると、せっかく採用した人が退職してしまうことがないように様々な工夫をすることは大切です。具体的には、初任給を上げる、全員を希望する部署に配属する、直属の上司に申告せずに今後希望する部署へ異動希望を出すことができる等々の対応を新たに始めているとのことです。

しかし、このような企業の対応については否定するものではもちろんありませんが、一方で全員を希望する部署に配属するということは、必ずしもその新入社員の成長を促すものにはならないとも考えます。入社前には想像すらしていなかった仕事を担当したり、本人が希望していなかった部署に配属されるなどしたことで、思いがけず本人も気づいていなかった能力が発揮されたり、結果的に新たなスキルを身に付けることができたなど、当人の成長につながるといった例も少なくないと思います。

また、仮に希望した部署に配属されたとしても、そこで上司や先輩社員が新人を丁寧に育成しようとしなければ、目に見える成長にはつながらないことが考えられますし、最悪は離職につながってしまうこともあり得ます。

今後、新入社員が定着し、しっかり成長していってもらうためにも、企業全体としても、また受け入れる側の部署でも、長期視点でじっくりと新入社員の育成に向き合ってほしいと思います。

また、新入社員にとっては希望しない部署に配属されるということは、ある意味で挑戦的な状況だと思うことがあるかもしれません。しかし、そんな状況の中でも前向きな姿勢と柔軟性を持って仕事に取り組むことで、必ず成長の機会につなげることができます。

今後私も新入社員への研修をとおして、そのことを丁寧にお伝えしていきたいと考えています。

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第1,207話 『大丈夫です』が多用されているのはなぜか

2024年03月13日 | 研修

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「大丈夫です」

これは弊社が担当させていただいた研修の中で、受講者に「何か質問はありますか」と声をかけた際に返されることが多くなった言葉です。また、同様にコンビニなどで買い物をした際にも、店の人から「袋は大丈夫ですか?」と聞かれることも多くなったと感じています。

このように「大丈夫」という言葉は様々な意味や場面で使われることが多いのですが、改めてその意味を調べてみると、「①立派な男子。 ②しっかりしているさま。 ごく堅固なさま ③間違いなく。たしかに。(広辞苑)」とあります。

もちろん、私自身もたとえば体調が良くなさそうな人には「大丈夫?」と声をかけたりするなど日常的に使っています。一方で何でもかんでも「大丈夫」で済ませてしまうかのような、最近の使い方には少々違和感を持っています。

そこで先日、若手社員の研修を担当させていただいた際に、休憩時間に数人の受講者にこの点について質問してみました。彼らの返答によると、「大丈夫」は返答する際も、質問する際も、とても便利な言葉だそうで、人を気遣う際など様々な場面で応用しやすい言葉とのことです。それに対して、冒頭の例のように「質問はありますか?」への返答として「ありません」と答えるのは相手への気遣いが足りない表現だと感じてしまう。同様に「袋はよろしいですか?」と質問するのではなく、「大丈夫ですか?」と質問してしまうのも、自然な表現だと感じるとのことでした。

この話を聞いて思い出したのが、最近はメールやSNSなどの文言の末尾に句点「。」がついていると、威圧的・冷たいと感じ怒っているように感じることがあるという話で、これを「マルハラ」(マルハラスメント)と言うのだそうです。

私の年代は文章の終わりに句点を付けることには何の違和感もなく、むしろ「。」がないと落ち着かない、文字どおり締まりがないように感じられるのですが、最近の若い人たちは逆に感じているということなのです。このように、句読点一つの使い方をとっても年代によってこのように違いがあるものであり、これらは今後も時代とともに移り変わっていくものなのかもしれません。 

この点については、弊社が行う研修の主要なテーマの一つである「コミュニケーション」についても、同じことが言えるのではないかと思っています。コミュニケーションは仕事の場面に限らず、人と人が意思疎通を図るために欠かすことができない、日常的に行っているものではありますが、同時に人と人が行うものである以上、「大丈夫」や「。」の例と同様に、使う言葉や表現ぶりについての理解が年代によって違いが生じてくるのかもしれません。今後時代が進んでいけばコミュニケーションそのものの在り方も変わっていくのかもしれません。

とはいっても、コミュニケーションの中で互いの解釈や理解に齟齬が生じないように、押さえるべきポイントはきちんと押さえていかなければいけないのは当然です。同時に、それでも様々な齟齬が生じてしまうケースは決して少なくないなど、私自身も未だに「コミュニケーション」は難しいものだと思うことが多々あります。

今回、「大丈夫」という言葉から言葉の持つ意味合いの深さとともに、改めてコミュニケーションの難しさにも思い至ったわけですが、研修の際には押さえるべきポイントはきちんと押さえていく。しかし同時に、相手や時代に合わせて変えていくべきところは柔軟に変えていくこともまた大事であると感じました。

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第1,203話 外国人労働者からの「刺激」

2024年02月14日 | 研修

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「会社にいるインド人の社員はとても仕事ができる」、「部下の一人はベトナム人だ」など、近年外国人労働者の話を耳にすることが多くなったと感じます。私自身、この1か月間だけでも担当させていただいた企業の研修の受講者の中に、中国人と韓国人の社員が出席していました。

厚生労働省のデータによると、令和4年の外国人労働者数は182万人で、過去最高を更新したとのことです。この数字からも、外国人労働者の存在が身近になったと感じるのは当然のことと言えそうです。ちなみに、国籍別ではベトナムが最も多く46万人で全体の 25.4%。次いで中国 、フィリピンの順とのことです。

さて、この外国人労働者に関して、私が過去に担当させていただいた研修には、先述の中国人と韓国人以外にもインド人、アメリカ人、ブラジル人、インドネシア人、マレーシア人の社員が出席していましたが、いずれの方も実に前向きな姿勢で取り組んでおり、さすがその企業が採用しただけのことはあるなと思わせるような人ばかりでした。たとえば、ある中国人の若手の受講者は、私が受講者全員に対して質問を投げかけた際には真っ先に挙手し、所属している企業の理念や売上数字などを明確に答えてくれました。また韓国人の受講者は管理職として部下の育成に取り組んでいる様子や、評価の難しさを感じていることなどについて熱心に話してくれました。そして、彼らに共通している点として、単に日本語を話せるというだけでなく、きちんとした文章を書くこともできるということもあると思っています。

昨今、日本人の若手は主体性や外向性が低下している人が増えてきているのではないかと言われることが多いように感じていますが、そうした中で何事にも前向きに取り組んでいる彼らの姿勢は実に頼もしく、ある意味眩しいような存在だとも感じられます。同時にこのままの状態が続くと、やがては日本人社員の存在感がどんどん薄れていってしまうではないかという危機感すら覚えてしまいます。

既に日本では人口減少が始まり、それに伴い労働人口も減り始めています。そうすると、ますます頼りにしていかなければならないのが、先述のような技術や知識を持つ外国人労働者です。即戦力として活躍してくれる彼ら外国人労働者をいかに獲得し、しっかり育てていけるかが企業のこれからの成長の鍵を握っていることは間違いないように思えます。

このように外国人労働者がますます増えていく中では、我々も彼らの積極的な姿勢を真摯に学んでいく必要があります。同時に文化的背景の違う人たちと一緒に働くうえでは、それぞれの文化や習慣などをはじめコンテクストの違いをきちんと理解していないと、コミュニケーションをはじめ様々な問題が生じてしまいかねないことが懸念されます。

これまでもそれぞれの企業では様々に取り組んできていると思いますが、今後はますますその必要性・重要性が増していくことになりそうです。

我が国の企業や労働者を取り巻く環境は日々大きく変化し続けていますが、そうした中で外国人労働者達から様々な「刺激」を前向きに活かして、我々自身もさらに成長していくことの重要性を、彼らの姿勢から感じています。

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第1,193話 「組織市民行動」をとるためには

2023年11月29日 | 研修

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「何かお手伝いをすることはありますか」

ある土曜日の昼下がりに自宅近くの通りを歩いていたところ、顎と手から血を流して仰向けに横たわっている男性がいました。男性の隣には携帯電話で消防に連絡をしているご夫婦がいたのですが、たまたま傍を通りかかった私も素通りをすることができずに、「どうしたのですか」と声をかけたのでした。そのご夫婦から聞いたところでは、前を歩いていた男性が突然躓いて倒れ、顎と手にすり傷を負い立ち上がることができなくなってしまったので、救急車の手配をしたところとのことでした。事情を聞いた私は、男性の頭の下に彼のカバンを枕代わりに添える程度のことしかできなかったのですが、そのままその場を立ち去ることはできませんでした。

先述の通り、この日は土曜日の昼下がりで、また駅に通じる道でもあることから、多くの人が現場の前を通ったのですが、驚いた(そして嬉しい)ことに通りかかった人の大半が声をかけてくれたのでした。具体的には「救急車は呼びましたか?」、「お手伝いできることはありますか?」、「この先の病院にこれから行くのですが、受付の人に伝えましょうか」、「病院まで一緒に運びましょうか」、さらには「私は看護師です」と脈を測ってくれる人もいました。その後、救急車の音が近づいてくると、一方通行の道路だったために迷わないように救急隊に道案内をしてくれる人もいたのです。最終的に救急隊に「第一発見者と救急車を呼んだ人以外は解散してください。」と言われ、お互い特に挨拶などをすることもなく、そのままその場を後にしたのでした。

この出来事には全体で10名ほどがかかわっていたと思いますが、他の誰かの指示で動いたのではなく、皆がそれぞれできることを見つけて自主的に動いたという点で、客観的に見ても素晴らしい連携プレーでした。

これはまさに、組織で言うところの「組織市民行動」だったのではないかと思います。組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior)とは、アメリカ インディアナ大学のデニス・オーガン教授によって提唱された概念で、従業員が与えられた役割のみを遂行するのではなく、自分の職務の範囲外の仕事をする行動のことです。報酬などの見返りを求めることなく自発的に他者を支援する行動で、組織を支える重要なものです。

今回、たまたま通りかかった人達によってこうした「組織市民行動」的な動きが生じたのは偶然の出来事だったのかもしれません。しかし同様に企業などにおいても職場で困っている人がいたら役割如何にかかわらず助けたり、声をかけたり、休んでいる人の仕事をフォローしたりするなどの行動をとることができれば、組織の力がさらに大きく強くなれるのは間違いないのではないかと感じました。

しかし、ただ単に何もせずに待っているだけでは、なかなかこうした行動には至らないでしょうし、組織に定着することもないと思います。従業員が「組織市民行動」をとりやすくするためには、その意義を理解してもらうとともに積極的に働きかけていくこと、さらにはそうした行動がきちんと評価されるなどの組織としての取組みが必要でしょう。その結果として組織の風土として根付かせることができるのだと思います。

今回、私は冒頭の出来事から組織的市民行動のことを思い出したわけですが、組織で仕事をするということはメンバーの合計人数の力ではなく、人数の合計値に+アルファをもたらすこと、それこそが組織で仕事をする意味なのだと、今回の経験をとおして改めて感じたのでした。

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第1,190話 体験することの意味とは?

2023年11月08日 | 研修

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「オン コロコロ センダリマトウギソワカ」

これは、先日訪れた奈良の薬師寺での見学ツアーに参加した際に、案内の僧侶から聞いた真言(呪文)です。おおよその意味は、「帰依し奉る、病魔を除きたまえ払いたまえ、センダリやマトーギの福の神を動かしたまえ、薬師仏よ」といったものとのことです。

このツアーでは僧侶の案内により、はじめに東塔・西塔を見学したのですが、その次の金堂の薬師三尊の説明では薬師如来を医者に、左脇侍の日光菩薩を日勤の看護師に、右脇侍の月光菩薩を夜勤の看護師に例えて、とてもわかり易い解説をしてくれました。その後、僧侶に続き参加者全員で冒頭の「オン コロコロ・・・」を唱えるように言われ、薬師三尊を前にツアーに参加していた40~50名全員で合唱したのです。私をはじめ多くの人は初めての体験だったようでしたが、全員で真剣かつ楽しく真言を唱えたのでした。私自身は過去に薬師三尊を見学したことは何度かあったのですが、ガイドブックや解説を読むだけでなく、今回のように仏像を前に皆で大きな声で真言を唱えるという体験により、これまでになく薬師三尊への理解が深まり、何となく身近に感じられました。同時に、これにより僧侶や他の参加者との一体感を得ることもでき、とても印象深く記憶に残るような時間になりました。

さて、最近では日本を訪れる外国人旅行者の数がコロナ前に戻りつつあるとのことです。日本に複数回訪れる人も多いようで、一通り名所旧跡をめぐり終えた後は、次の段階とし様々な体験を通じて楽しんでいるという話を聞くことも増えてきています。たとえば、そば打ちをしたり茶室でお茶をたてたり、着物を着て散策をしたりするなど、日本人の私ですらまだしたことがないようなことまで、遠く外国から来た人達が体験しているのです。見たり聞いたりするだけでなく、実際に体験してみることを通して日本の文化に触れ、その良さを彼らは実感しているのだと思います。

これらの例からもわかるように、「体験する」ことは大切なものだと改めて思うのですが、このことは私が日々担当している研修においても言えることなのです。一般的に、研修の進め方としては、まず講師が話をする講義時間があり、その後に受講者が演習を通して理解を深めていく演習時間があります。現在でも1~2時間程度と短時間の講演では、講師が一方的に話すだけのものもありますが、それ以上の時間をかけて行う研修では講義と演習を繰り返して進めていくのが今の主流の進め方ではないかと思っています。実際に私が担当している研修でも、講義のときにはあまり関心を示していなかった受講者が、演習に入った途端に生き生きとした表情になって、積極的に参加していたというような例は枚挙にいとまがありません。

それを証明するように、研修終了時に記入してもらうアンケートでは「講義と演習の配分がちょうどよかった、演習を通じて理解が深まった」といった記述が毎回相当数あるのです。

そして、この「体験する」ことは日々の仕事の中でも重要な意味を持っています。仕事の中で得た様々な知識を、さらに深く理解して身に付けるためにも、またそのことによって自分に自信をつけてもらうためにも、実際に体験してもらうことがとても大切なのだと改めて思っています。

(冒頭の写真はWikipediaより)

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第1,184話 研修中に顧客から入ったトラブルは誰が対応するのか

2023年09月27日 | 研修

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「すみません。トラブル対応しなければならないので、ちょっと失礼します」

先日、弊社が担当させていただいた、ある企業の中堅社員を対象にした研修の最中に、受講者のAさんがトラブル対応のために、このように私に声をかけて度々席を外していました。

その研修は2日間のプログラムでしたが、1日目の午前中に顧客からクレームの連絡が入り、その後Aさんは研修時だけでなく、夜に行われた懇親会の時間まで、たびたび対応に追われることになってしまったのでした。

それでは、Aさんはどのようなトラブルに対応しなければならなかったのでしょうか?Aさんおよび研修のご担当者から話を聞いたところ、今回のトラブルはこちら側に非があるというより、顧客の勘違いと考えられることが原因により生じたものであったため対応が難しく、Aさんは上司への報告や相談に加え、関係各位へも連絡や相談をしなければならなくなったのだそうです。

私がAさんには会うのは、2か月前に続き今回で2回目でしたが、Aさんの研修への取組み姿勢は非常に前向きであり、熱心な姿勢だと感じていました。そのようなAさんがトラブル対応をせざるを得ず、その結果何度も席を外して対応しなければならないことで、結果的に研修に集中することができなかったことは、本人もとても残念だったのではないかと感じました。そして同時に思ったのは、階層別研修を受講する機会は数年に一回程度と限られたものであるため、万が一トラブルが生じた際の対応は研修受講者本人ではなく別の人がすることができないものなのだろうかということです。

これについては、様々な考え方があると思いますし、必ずしも正解があるものでもないと思います。しかし、これまで私が様々な企業の研修を担当させていただいてきてあらためて思うのは、研修は仕事の一環として行われるものであり、多くの場合、階層別研修は年度初めには実施されることが決定しています。そうであるならば、受講者が集中して研修に取り組むことができるように、上司は周囲のメンバーとともに受講者の仕事のフォローができるように体制を整えておくことが大切なのではないかということです。

そして、このことは何も研修に限った話ではありません。現在、企業などでは社員に一定以上の有給休暇を取得させることが義務付けられていますし、男性の育休の取得にも目標が掲げられるなど、社員が仕事を離れることはたくさんあるわけです。そのようなときに、何らかのトラブルが発生した場合に主担当である人が全て対応をしなければならないとなると、おちおち有給休暇や育児休暇をとることができなくなってしまいかねませんし、研修にも参加しづらくなってしまいます。

もちろん、組織によっては主担当と副担当をあらかじめ決めてあり、主担当が対応できないときには副担当が対応するということになっています。しかし、私の経験から考えても実際には大半の組織ではそれぞれが自分の仕事で手一杯で、他者が担当している仕事の状況を詳しく把握できているというケースはあまりないようです。ある程度の余裕をもった社員配置ができるのであれば、こうした問題は生じないと思いますが、そこまでの余裕があるところは多くないというのが実際のところではないでしょうか。

そうした中で社員が安心して休暇を取得できるようにしていくためには、まずは主担当がいないときに周囲がどのように対応するかについて改めて確認し、メンバーそれぞれがきちんと認識しておくことからはじめることが必要なのではないかと考えています。そうすれば少なくともいざ事が起こった時にも慌てず、全ての対応を不在の人間がしなければならなくなるような事態を少しでも避けることができるのではないかと考えています。

皆さんの組織では、そのような体制は整っていますか?

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